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【この記事の3行まとめ】 EQ検査とは、感情を情報として認識し、行動に活かす力(EQ)を測定する検査です。EQ検査は「EQ診断」「EQテスト」とも呼ばれます。 MBTI・ストレングスファインダー・モチベーション検査との最大の違いは、「変わらない特性を知る」のではなく「後天的に開発できる力の現在地を測る」前提に立つことです。 Potage では、EQ検査のひとつであり、性格特性とEQをセットで測定できる「EQPI®」及び「Potage EQ 64TYPES」を用いて、ビジネスパーソンのEQ開発からチームでの活用までを支援しています。 【目次】 EQ検査とは EQとEQPIの違い EQ検査と主要アセスメント3種の違い 目的別の選び方:個人・組織・マネージャー PotageのEQPI検査の特徴 組織全体でEQを取り入れると、何が変わるか よくある質問 まとめ:検査選びは「何を変えたいか」から EQ検査とは  EQ検査とは、EQ(感情知能)を測定する検査です。EQとは、自分や相手の感情を「情報」として読み取り、状況に応じた行動につなげていく力のことです。なお、EQ検査は「EQ診断」「EQテスト」と呼ばれることもあります。呼び方の違いで、指すものはほぼ同じです。本記事では「EQ検査」に表記を統一してご説明します。  ここでひとつ、よくある誤解に触れておきたいと思います。EQは「感情を表に出さないようにする技術」ではありません。焦りや不安、苛立ちといった感情をなかったことにするのではなく、サインとして受け取り、行動を選び直す。そのための力がEQです。  そしてEQには、もうひとつ大切な性質があります。IQと違い、訓練や経験によって後天的に伸ばせると考えられていることです。この「変えられる」という性質が、本記事でご紹介する他のアセスメントとの違いを考えるうえでの軸になります。EQそのものの成り立ちや、EQが高い人に見られる特徴について詳しくは「EQが高い人の特徴とは」をご覧ください。 EQとEQPI®の違い  EQとEQPI®は、よく混同されますが、指しているものが異なります。EQは、感情を認識し活用する「能力」の概念です。EQ検査は、そのEQを測定する検査の総称です。日本で受けられるEQ検査にも複数の種類があり、検査ごとに設計思想が異なります。  EQPIは、そのEQ検査のひとつです(正式表記はEQPI®)。EQに加えて性格特性(パーソナリティ)をセットで測定できる点が、他のEQ検査にはない特徴です。Potageでは、このEQPIを用いた診断と、アナリストによる個別フィードバックを提供しています。 用語 意味 EQ 感情を情報として認識し、行動に活かす「能力」の概念 EQ検査 EQを測定する検査の総称。複数の検査が存在する EQPI® EQ検査のひとつ。性格特性とEQをセットで測定できる。Potageでは、診断に加えてフィードバックも提供 ※「EQ診断」「EQテスト」も、同じEQ検査を指す呼び名です。本記事では「EQ検査」に統一しています。 EQ検査と主要アセスメント3種の違い  「自分やチームを知るための検査」には、EQ検査のほかにも、MBTI、ストレングスファインダー、モチベーション検査などがあります。どれかが優れていてどれかが劣っている、という話ではありません。それぞれ測るものと目的が違うのです。ここでは、Potageが扱うEQPI®を中心に、EQ検査の特徴を整理します。(※EQ検査には複数の種類があり、測定領域や設計思想は提供元によって異なります。)まず全体を表で整理します。 観点 EQ検査(EQPI®) MBTI ストレングスファインダー モチベーション検査 測るもの 感情を認識し活用する力+性格特性 ものの見方・判断の好み(認知スタイル) 思考・感情・行動の資質(強みの源泉) 何によって動機づけられるか(動機の源泉) 前提 後天的に開発できる タイプは生来の指向 資質は変わりにくい 動機の傾向は比較的安定 結果の形 スコア・波形(程度の可視化) 16タイプへの分類 34資質の順位 動機因子の強弱 再受検 変わることが前提のため、再受検で変化を捉えられる タイプは基本的には不変。変化を測るのではなく、成熟の指針として用いる 資質は安定するとの研究を公表。基本的に再受験は不要との立場 節目での再測定が一般的 チームでの使い方 強み・弱み両方の開示から補完関係をつくる 互いの違いの理解に活用 強みの自己開示と活用 配置・任せ方の参考 検査を選ぶときの実務的な観点でも、あわせて整理しておきます。(受験形態・設問数・受験時間は各社公式サイトより。モチベーション検査は提供元により異なります) 観点 EQ検査(EQPI®) MBTI ストレングスファインダー モチベーション検査 目的 EQと性格特性を把握し、人材育成・EQ開発につなげる 自己理解の促進(タイプ論による気づき) 生まれ持った強み・才能の発見と活用 動機の傾向の把握 測定領域 性格特性・行動特性・EQ(動機も内包) ものの見方・判断の好み 才能・資質 動機 受験形態 Web(PC・スマホ・タブレット)、選択式 Web等(有資格者発行のIDで受検)。原則、対面フィードバックが前提 Web(書籍やアプリ等のアクセスコードが必要) 提供元により異なる(多くはWeb) 設問数 受験時間 約20〜25分(設問数は非公開) 93問・約20分(回答時間。別途フィードバック) 177問・約30〜40分(各設問20秒) 提供元により異なる 向いている用途 チーム・組織の関係づくり、管理職のEQ開発、現状把握 個人の自己理解、相互理解の入口 個人の強みの言語化・活用 任せ方・動機づけの参考 MBTIとEQ検査の違い  MBTIは「ものの見方や判断の好み」を知る検査で、EQ検査は「感情を扱う力の現在地」を測る検査です。  MBTIは、ユングの心理学的タイプ論をもとに開発された検査で、「ものの見方(感覚・直観)」「判断のしかた(思考・感情)」「興味関心の方向(外向・内向)」「外界への接し方(判断的態度・知覚的態度)」の4指標から、性格を16タイプに分類してとらえます。注目したいのは、MBTIを運営する一般社団法人日本MBTI協会自身が、タイプ分類や性格診断そのものを目的とせず、自分の心を理解するための「きっかけ」「座標軸」として用いることを最大の目的に位置づけている点です(出典:一般社団法人日本MBTI協会 公式サイト)。  つまりMBTIは、自己理解の入口としてとても丁寧に設計された検査だと言えます。一方で、タイプは「生まれ持った指向」を表すもので、スコアの高低や変化を測る検査ではありません。「では、ここからどう伸ばしていくか」という開発の設計図が必要になったとき、後天的な変化を測定できるEQ検査が役割を引き継ぐ。そんな関係でとらえると分かりやすいのではないでしょうか。 ストレングスファインダーとEQ検査の違い  ストレングスファインダー(クリフトンストレングス)は「生まれ持った強みを見つける」検査で、EQ検査は「後天的に強みを伸ばす」ための検査です。  ストレングスファインダーは、Gallup社が提供する検査で、34の資質の順位によって、その人の才能の源泉を可視化します。前提にあるのは、資質は人生の早い段階で形づくられ、大きくは変わらないという考え方です。実際にGallupは、資質は長期にわたり安定するという研究結果を示しており、基本的に再受験は不要との立場です。初回と2回目の結果の相関は0.73、つまり順位の多少の入れ替わりはあっても全体はほぼ変わらない、という水準が公表されています(出典:Gallup公式サイト「Should I Retake CliftonStrengths?」)。これは検査として一貫した、誠実な設計だと思います。変わらないものを測るのだから、繰り返し受ける必要はない。その通りです。  EQ検査は、ちょうど反対側の前提に立ちます。EQは後天的に変化し、開発できる。変わることが前提なので、もう一度受けたときには、前回からの違いが「変化」という意味のある情報になります。生まれ持った資質を「見つける」のがストレングスファインダー、感情を扱う力を「育てる」のがEQ検査。どちらを選ぶかは、いま知りたいのが「資質」なのか「変化」なのかで決まります。  チームで使う場合には、もうひとつ視点があります。ストレングスファインダーは強みの自己開示を起点にする設計ですが、日本では「私はこれが強いです」と表明することに、ためらいを感じる方が少なくありません。強みだけの共有は「自分はこれが得意」という意見同士の並列に留まりやすく、補い合いの構図には発展しにくい側面があります。この点は、のちほど「目的別の選び方」で詳しくご紹介します。 モチベーション検査とEQ検査の違い  モチベーション検査は「なぜ動くか(動機の源泉)」を測り、EQ検査は「感情をどう扱い、行動につなげているか」を測ります。  モチベーション系の検査の多くは、心理学者デイビッド・マクレランドが提唱した欲求理論を理論的な基盤としています。人の動機を達成動機・権力動機・親和動機の3つ、のちに回避動機を加えた4つの因子に分け、その人が何によって動機づけられるのかを可視化する考え方です(出典:D.C.マクレランド『モチベーション』生産性出版)。  動機が分かると、仕事の任せ方や声のかけ方のヒントが得られます。ただ、動機が教えてくれるのは、行動の出発点までです。プレッシャーのかかる場面で感情が混乱し、反射的に反応してしまう状態は、動機を知るだけでは解消されません。感情というエネルギーを情報として読み取り、行動の選び方につなげていく。その力を測るのがEQ検査です。  なおEQPIは、この動機の測定を検査の中に内包しています。仕事への動機を測定する項目が組み込まれており、何が動機となり、どのように感情が動き、どのような行動をとる特性があるのか。その一連のつながりを1回の検査でとらえられます。 目的別の選び方:個人・組織・マネージャー それぞれの検査の違いを踏まえて、「誰が・何のために受けるか」の3つの場面で整理します。 目的 適した検査 理由 個人の自己理解 MBTI・ストレングスファインダーも有効。変化を追うならEQPI タイプや資質の把握は入口として手軽。自分の特性を開発していきたいなら、変化を測定できる検査が必要になる 組織・チームで使う EQPI 強みと弱みの両方が可視化され、補完関係(助け合いの構図)を設計できる。再受検により施策の効果測定もできる マネージャーの立場 EQPI メンバーの動機と、感情の扱い方・行動の特性が同時に見え、1on1や役割分担の設計に直結する 個人の自己理解が目的の場合  自分を知る入口としては、どの検査にもそれぞれの良さがあります。タイプで自分をとらえたいならMBTI、才能の源泉を知りたいならストレングスファインダーが、長く使われてきた実績のある選択肢です。  一歩進んで「知った先で、自分の特性を開発していきたい」と感じたら、変化を測定できる検査の出番です。EQPIは、EQが変わることを前提にした検査です。だからこそ再受検にも意味があり、半年前の自分と今の自分を、同じものさしで比べることができます。 組織・チームで使うことが目的の場合  チームで検査を使う目的は、一人ひとりの結果を知ること自体ではなく、メンバー同士が互いを知り合い、関係性が動き出すことにあるはずです。  このとき効いてくるのが、強みと弱みの「両方」が見えるという性質です。日本では、強みの表明は控えめでも、弱みについては案外、口を開いてくれる方が多いものです。謙虚さを大切にする文化では、弱みからの自己開示のほうが場が動きやすいのです。「私はここが苦手」「ならそこは私が得意です」という会話が始まると、チームはパズルのように補完関係を組み立てられるようになります。強みだけが並んでいる状態では、誰が何を必要としているのかが見えません。弱みが開示されて初めて、チームの凸と凹の両方がそろい、誰の強みをどこで生かせばよいかが具体的に決められるようになるからです。  強み・弱みの両方が見えることで、違いを矯正するのではなく、違うまま噛み合う関係をつくっていく。この考え方を、Potageでは「組織調律」と呼んでいます。詳しくは「組織調律とは」をご覧ください。 マネージャーの立場で使う場合  マネージャーにとって検査の価値は、メンバーへの関わり方が具体的に変わるかどうかで決まります。  EQPIでは、メンバーが物事を何からどう捉える傾向があるのか、感じた感情をどのように扱うのか、そしてその結果がどのような行動に出やすいのか、という一連の傾向が見えます。たとえば、不安を内に抱え込みやすいメンバーと、考えるより先に動いて問題を解決しようとするメンバーでは、同じ仕事でも関わり方が変わってきます。1on1でどう関わるか、誰と誰を組ませるか、どこにボトルネックが生まれやすいか。そうした日々の判断の解像度が上がるのです。  さらに、再受検で変化を追えるため、一人ひとりの変化はもちろん、チームとして噛み合う形で全体を育成できているかを確かめながら進められます。「研修をやったが、変わったのかどうか分からない」という状態から抜け出せることは、マネジメントにとって小さくない意味を持つのではないでしょうか。 PotageのEQPI検査の特徴  ここからは、Potageが提供しているEQPI検査について、その構造と使い方をご紹介します。 3つの層で、人を立体的にとらえる EQPIの検査結果は、大きく3つの層で構成されています。 基本性格特性(Big5):自分の性質の核となる部分。変わりにくい土台です ビジネス行動特性:自分が理想とする働き方像の投影です EQマネジメント力:自分や相手の感情を認識し、状況に応じたふるまいにつなげる力 。「自分理解・他者理解・自分活用・関係構築」の4つの構成と、それを支える12の発揮行動(自分認識、共感、平静、気配りなど)で測定されます。ここが後天的に開発できる領域です  「変わりにくい土台」と「変えられる行動」を分けて見られることが、この構造の意味です。性格は変えなくていい。変えられるのは、感情の扱い方と行動のほうです。この区別がつくと、自分やメンバーの課題を「性格の問題」として抱え込まずに済むようになります。 性格特性とEQをセットで測定できる  性格特性とEQをセットで測定できるのは、国内のEQ検査の中でもEQPIだけです。  この組み合わせには、実務上の大きな意味があります。同じ「共感のスコアが低め」という結果でも、性格特性とあわせて読むことで、「もともと他者への関心が内向きなタイプなのか」「本来は関心が高いのに、いまの環境で発揮できていないのか」の区別がつくからです。打ち手はまったく変わってきます。  また、EQの12発揮行動は波形(凸凹)で示されるため、強いところと弱いところの「つながり」まで読み取れます。順位やタイプのラベルではなく、その人の状態の全体像が見えるのです。 再受検で「変化」を捉えられる  EQPIは、EQが後天的に変わることを前提にした検査です。だからこそ、再受検によって変化を捉えることができます。  変化を捉えられること自体は、EQ検査に共通する性質です。EQPIに固有なのは、性格特性という「変わりにくい土台」とあわせて変化を読めることです。再受検の結果を比べたとき、「何が変わって、何が変わっていないのか」を区別して捉えられます。変わっていない部分は性格として受け入れ、変わった部分はEQの発揮行動として次に生かす。この読み分けができるのは、性格特性とEQをセットで測定しているからです。  先ほどご紹介したとおり、ストレングスファインダーは資質の安定性を前提に、基本的に再受験は不要との立場です。変わらない資質を測る検査だからです。EQPIは反対に、変わることを前提にした検査です。半年後、1年後に再受検すると、たとえば「平静が上がった」「気配りが下がっている」といった変化が波形の比較で見えてきます。  変化が見えるということは、取り組みの効果が確かめられるということです。個人にとっては成長の実感に、組織にとっては施策の効果測定になります。たとえば、EQ開発のプログラムに取り組んだあと、その効果を確かめるために改めて受けてみる。そうした使い方も効果的です。 Potage EQ 64TYPES:あなたがどういう人かを、一言で  PotageがEQPIをベースに開発した独自分析手法「Potage EQ 64TYPES(64タイプス)」は、EQPIの検査結果の詳細分析と共に、分析データを基にした「あなたはどういう人か」を一言で表す64のキャラクター分類を解説する検査です。  仕組みはこうです。EQPIが測定する3つの特性、基本性格特性・ビジネス行動特性・EQを、それぞれ4つのグループに分類します。その組み合わせ、4×4×4の64パターンが、その人のキャラクターを表します。Potageがこれまでに実施してきた約800件の検査データをもとに、似た傾向を持つ人たちを整理し、64のパターンとして言語化したものです。  なぜ「一言」が必要だったのか。EQPIのレポートは情報量が豊富で、一人ひとりに寄り添った精度の高さを評価いただいてきました。一方で、「私って、一言で言うとどんな人なんですか?」という質問には、答えにくい検査でもあったのです。手っ取り早く自分を知りたい。そして、知った自分を誰かに伝えたい。64TYPESは、そのニーズに応えるための入口です。  タイプには、それぞれ名前がついています。たとえば「落ち着きのある司令塔」「チームの感情に寄り添う潤滑油」「我が道で輝くスター」。読んだ瞬間に、その人の持ち味と、チームの中での立ち位置がイメージできる名前になっています。  受検すると、自分のタイプ名と、その人らしさを表す説明文が示されます。一言のラベルだけで終わらず、なぜそのタイプなのかが言葉で添えられるので、自分でも納得しやすく、人にも伝えやすい形になっています。  そして、64TYPESのタイプは固定されたものではありません。EQは変化していくため、再受検するとタイプが変わることもあります。変わること自体が、自分の歩みの記録になります。  一言で言い表せることには、チームでの価値もあります。「この人はこういう人」という情報をメンバー同士で交換し合えると、相互理解が深まりやすくなるからです。64TYPESで伝え合い、詳細なレポートで深く知る。2つの粒度を行き来できることが、EQPIの新しい特徴です。 チームでの使い方:弱みから始まる助け合い  EQPIはもともと、チームビルディングでの使いやすさを念頭に設計されています。  チームでEQPIを受検すると、メンバー同士で強み・弱みを共有するワークができます。「私はここが弱いんです」という開示が受け止められる体験は、それ自体が心理的安全性の土台になります。そして弱みと強みが出そろうと、「ここは助け合えますね」という視点が自然に生まれてきます。  診断は、関係性が動き出すための入口です。結果を配って終わりにしない。そこからの対話までを含めて、Potageは設計しています。 同じEQPIでも、活用の仕方で価値が変わります  EQPIという検査自体は、Potage以外の事業者も扱っています。検査結果そのものは同じでも、その結果をどう読み解き、どのように対話や組織づくりにつなげるかによって、得られる価値は変わります。  Potageの独自性は、3つあります。1つめは、EQPIにPotage独自のメソッドであるPotage EQ 64TYPESを組み合わせていること。検査結果を「一言で伝え合える」形にして、チームの相互理解まで届けます。2つめは、約800件の検査データの分析に裏打ちされた、フィードバックの精度。3つめは、診断で終わらせず、チームでの対話と関係づくりまでも設計できることです。  検査の結果は、出した時点では数値とラベルの集まりです。それを組織で実際に起きていることに結びつけて読み解けるかどうかは、これまでどれだけの人に向き合ってきたかに左右されます。AIによって分析の精度そのものは上がっていく時代ですが、何を読み解くかという視点と、さまざまな現場で蓄積してきた知見は、そこに効いてきます。  検査を「渡す」のではなく、組織が変わるところまで「伴走する」。同じEQPIでも、ここに違いが生まれます。 観点 EQPIだけの場合 Potage EQ 64TYPES レポートの内容 各指標のレポートのみ 過去の検査データ分析に基づいた各指標の詳細レポートに加え、Potage EQ 64TYPESで「あなた」を一言で言語化 フィードバック 提供者によって差がある 約800件の分析に裏打ちされた、アナリストによる個別フィードバック チームでの活用 各メンバーの自己理解と共有が中心 対話促進・関係づくりまで設計し、変化をモニタリングしながら改善できる 組織全体でEQを取り入れると、何が変わるか  個人の診断で終わらせず、組織全体でEQを取り入れたとき、何が起きるのでしょうか。フルリモートでウェディング事業を展開するココスタイル株式会社様の事例をご紹介します。  同社では、リモート環境で互いの状況が見えにくく、小さな遠慮や我慢が積み重なりやすいという構造的な課題がありました。EQPIで一人ひとりの特性を可視化することから始め、対話型ワークショップで価値観を共有し、マネージャー層のEQ開発プログラムへ。取り組みを重ねた結果、社内アンケートで「意見や感情を安心して共有できる」と答えたメンバーは92%に達しました。    EQPIで「個を知る」、対話で「価値観を共有する」、EQ開発で「自律したマネジメントを育てる」。この流れが連動したとき、検査は単なるアセスメントではなく、組織の土台づくりのプロセスになります。  検査は、組織を変えるための入口にすぎません。Potageが大切にしているのは、結果をお渡しして終わりにせず、その先のゴールに向けて一緒に考えていくことです。現状をデータで可視化し、どこから整えればよいかを一緒に読み解き、対話と関係づくりまで伴走する。検査の提供者ではなく、組織が目指すゴールをともに追いかけるパートナーでありたいと考えています。  ココスタイル社事例の詳しい経緯は、導入事例「心理的安全性が92%へ向上」をご覧ください。 よくある質問 Q. EQとEQPIは何が違いますか? A. EQは感情を扱う「能力」の概念で、EQPIはそのEQを測定する「検査」のひとつです。EQPIは性格特性とEQをセットで測定できる点が特徴で、PotageはこのEQPIを用いた診断とフィードバックを提供しています。 Q. EQ診断・EQテストとEQ検査は違うものですか? A. 呼び方の違いで、指すものはほぼ同じです。「診断」「テスト」と呼ばれる場合も、感情を扱う力(EQ)の現在地を測る点は共通します。本記事ではEQ検査に表記を統一しています。 Q. EQ検査はどれがおすすめですか? A. チームや組織で活かすことまで考えるなら、性格特性とEQをセットで測定できるEQPIをおすすめします。日本で受けられるEQ検査は1つではなく、検査ごとに設計思想が異なります。 比較する際は、以下の3点で見比べてみてください。 EQ単体を測るのか、性格特性とあわせて測るのか 個人の開発向けか、チームでの活用まで設計されているか  結果がスコアの一覧で出るのか、強み・弱みのつながりまで読める形で出るのか Q. MBTIやストレングスファインダーと、EQ検査は何が違いますか? A. 最大の違いは、「変わらない特性を知る検査」か「変えられる力を測る検査」かです。MBTIやストレングスファインダーは生来の指向や資質の理解を目的とするのに対し、EQ検査は後天的に開発できるEQの現在地を測定します。 Q. EQは後から鍛えられますか? A. はい、EQは後天的に開発できると考えられています。EQPIはこの「変わる」ことを前提にした検査であるため、再受検にも意味があります。自分の感情と向き合うことで一人ひとりが変化していき、その変化を再受検で捉えて、次の取り組みに生かしていきます。 Q. EQが低いと、マネージャーに向いていないのでしょうか? A. いいえ、EQのスコアは適性ではなく「現在の状態」を表すものです。置かれた環境によって、誰でもスコアは変動します。向き不向きを判定するためではなく、いまの状態を知り、整えていくために使うのがEQ検査です。 Q. エンゲージメントサーベイの結果は出たものの、打ち手が分からないときは? A. サーベイが示すのは組織の「状態」です。EQを重ねて見ると、その背景にある原因仮説や、どこから整えればよいかの打ち手が見えやすくなります。なぜなら、エンゲージメントの数値は、一人ひとりが物事をどう捉え、感情をどう扱い、どう行動しているかの積み重ねの結果だからです。EQのレベルまで分解すると、どこで関係性が滞っているのか、何から整えればよいのかが見えてきます。状態を示す数値を、原因と打ち手まで読み解く。ここに、現場で積み重ねてきた分析の経験を活かしています。 Q. チームビルディング施策をしても変わらないのは、なぜですか? A. 施策が、チームの「雰囲気」に働きかけて終わっていることが多いからです。重たい雰囲気や遠慮は、それ自体が問題の正体ではなく、役割分担の歪みや期待値のズレといった関係性の構造から生まれてくる「結果」です。結果である雰囲気だけを変えようとしても、構造が同じままなら、しばらくすると元に戻ります。先に整えるのは、関係性の構造のほうです。Potageではこのアプローチを「組織調律」と呼んでいます。 Q. EQPIの受検にはどのくらい時間がかかりますか? A. 所要時間は15〜20分程度です。受検後は、アナリストによる個別フィードバックを通じて、結果を実際の場面に結びつけて理解を深めます。 まとめ:検査選びは「何を変えたいか」から  MBTI、ストレングスファインダー、モチベーション検査、そしてEQ検査。それぞれに固有の目的があり、優劣の話ではありません。選ぶ基準はシンプルです。確かめたいのは、生まれ持った「変わらないもの」でしょうか。それとも、これから育てていく「変わっていくもの」でしょうか。  チームや組織の関係性を動かしたい。メンバーの状態を知り、整えていきたい。そう感じているなら、性格特性とEQをセットで測定でき、変化を捉えられるEQPIが力になれるはずです。  状態を数値で確かめるだけでなく、その奥にある関係性まで読み解けること。そこにEQ検査の価値があり、これまで現場で重ねてきた分析の蓄積が、その読み解きを支えています。  まずは事例で、組織にEQを取り入れたときに何が起きるのかをご覧ください。ご自身の状態を知ることから始めたい方には、EQPI診断のご案内をしています。(EQ診断のご案内は、Potage公式LINEで行っています。) ※EQPI®は株式会社EQの登録商標です。 
著者:河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) 参考記事: 一般社団法人日本MBTI協会「MBTIとは」https://www.mbti.or.jp/what/ ほか(参照:2026-06-07):MBTIの定義・目的に関する記述 Gallup「Should I Retake CliftonStrengths?」https://www.gallup.com/cliftonstrengths/en/690980/should-i-retake-cliftonstrengths.aspx および Gallupヘルプセンター「When should I retake the CliftonStrengths assessment?」https://support.gallup.com/hc/en-us/articles/360051192533(いずれも参照:2026-06-07):資質の安定性(相関0.73)と再受験に関するGallupの見解 デイビッド・C・マクレランド『モチベーション:「達成・パワー・親和・回避」動機の理論と実際』(梅津祐良・薗部明史・横山哲夫訳、生産性出版、2005年):欲求理論(達成・権力・親和の3動機、のちに回避動機を加えた4動機説)に関する記述

2026年11月1日

最終更新日:

EQ検査・MBTI・ストレングスファインダーの違いと選び方|チームで活かすならどれ?

チームのために受けるなら、どの検査が適しているのでしょうか。EQ検査と主要アセスメント3種の違いを、目的別に整理しました。

河原あずさ(Potage代表)

【この記事の3行まとめ】 組織開発やチームビルディングがうまくいかない原因は、メンバーの能力不足ではなく、「翻訳不足」か「関わりの過剰」にあることが少なくありません。 いま必要なのは、組織を「開発」して理想形に作り変えることではなく、ズレを整えて「調律」することです。違いを矯正せず、違うまま噛み合える状態に戻していきます。 組織調律は、EQ(感情知能)を軸にした実務的なアプローチであり、エンゲージメントを無理なく高めるための新しい組織観です。 【目次】 施策はやっているのに、なぜか噛み合わない 組織調律とは なぜ「開発」ではなく「調律」なのか 組織開発との違い 組織がズレる2つの方向 組織調律で何が変わるのか 組織調律をどう実装するか よくある質問 施策はやっているのに、なぜか噛み合わない 組織づくりの現場に入ると、よく出会う光景があります。 経営層は「方針はちゃんと伝えた」と思っている。現場は「上が何を考えているか見えない」と感じている。あいだに立つ中間管理職は、その両方から引っ張られて消耗している。それぞれが悪意なく、むしろ誠実に動いているのに、なぜか噛み合いません。 心理的安全性もエンゲージメントも、言葉としては社内に浸透した。1on1もワークショップもやっている。それでも現場は楽にならない。そんな手応えのなさを感じているなら、それはあなたのチームの力不足のせいではないかもしれません。 問題は「空気」ではなく、もっと具体的なところにあります。 Potageは、コミュニティづくりの現場で人と人の関係性に向き合うなかから、この「組織調律」という考え方にたどり着きました。 組織調律とは 組織調律とは、メンバー一人ひとりの違いとズレを前提に、人と人、部署と部署のあいだの関係性を、EQ(感情知能)と対話を使って整え、「違うまま噛み合える状態」をつくるアプローチです。 組織のズレには、2つの方向があります。ひとつは「足りない」側で、同じ言葉が通じ合わない翻訳不足の状態です。もうひとつは「過剰」な側で、関わりすぎ、気づかいすぎによる疲弊です。組織調律は、そのどちらにも関係性の張力を取り戻し、ちょうどよく響く状態へ戻していきます。 言い換えると、組織の不和の正体は、空気ではありません。多くの場合、それは「翻訳不足」か「関わりの過剰」です。 なぜ「開発」ではなく「調律」なのか 「開発」という言葉には、足りないものを足して理想形に作り変える、というニュアンスがあります。組織調律は、それとは少し立ち位置が違います。 私たちが大切にしているのは、人や組織を正しい形へ矯正することではなく、その人や組織が無理なく響ける状態を取り戻すことです。「変える」というより「戻す」「ほぐす」に近い営みだと考えています。 そして「戻す」と言っても、正しい音を私たちが知っているわけではありません。本来こうあるべきだと決めつけた瞬間に、それは教育や矯正に変わってしまいます。組織調律が見ているのは「本来の姿」ではなく、「いまの響き方と、もう少し心地よく響きそうな状態とのギャップ」のほうです。完成された設計者ではなく、響きを聴き続け、少しずつ整え続ける伴走者でありたいと思っています。 組織開発との違い 観点 組織開発 組織調律 前提 理想形へ近づける 違い・ズレを前提に整える 向き 足りないものを足す ズレを戻す・ほぐす 関わり方 仕組み・施策を増やす 量より質、余白と張力を設計する ゴール 統一・一体感 違うまま噛み合う、適度な張力 中心にある力 制度・プロセスの設計 EQ(感情を情報として扱う力) 組織開発を否定したいわけではありません。制度や仕組みの設計が効く場面は確かにあります。ただ、施策をいくら足してもズレが解けないとき、足りないのは新しい施策ではなく、関係性を整える視点のほうではないでしょうか。 組織がズレる2つの方向 組織のズレは、正反対の2つの方向から起きます。どちらか一方だけを見ても、現場は楽になりません。 足りない側:翻訳不足(バベル状態) 同じ日本語を話し、同じ会議に出ているのに、見えている景色がまるで違う。私たちはこの状態を「バベル状態」と呼んでいます。次のような兆候が当てはまるなら、翻訳不足が起きているサインかもしれません。 会議のあとに認識がズレる/同じ会議に出たのに、人によって受け取った内容や次の行動がバラバラになる 言葉の意味が人によって違う/同じ言葉でも、部署や役職、世代によって解釈が違い、噛み合わない 1on1が管理や「報告」になっている/本音の対話ではなく、進捗確認や課題の棚卸しで終わってしまう 心理的安全性がぬるま湯化している/「波風を立てないこと」が優先され、本音や違和感を出しにくい空気がある 中間管理職だけが疲弊している/上からの期待と現場の板挟みで、中間管理職に負荷が集中し、余裕がなくなっている 優秀な人材ほど辞めていく/挑戦したり、意見を言う人から先に去っていき、組織に活気がなくなっている 部署やチーム間の対立が増えている/「うちは違う」「あちらが悪い」と責任の押しつけ合いが起き、協力より分断が目立つ 変化・新しい取り組みがなかなか進まない/現場の納得感が得られず、新しい施策が机上の空論で終わってしまう 「なんとなくモヤモヤしている人」が多い/はっきりした不満は言えないが、違和感やモヤモヤを抱えた人が増えている 組織の方向性に一体感がない/ビジョンや方針はあるが、「自分ごと」として捉えられておらず、温度差がある 過剰な側:関わりすぎ(野暮化) もうひとつは、関わりが足りないのではなく、過剰なために起きる疲弊です。「ちゃんと寄り添わなきゃ」「ちゃんと反応しなきゃ」という善意が積み重なると、関係性はかえって息苦しくなります。次のような状態です。 通知が鳴り止まず、休日も仕事のことが頭から離れない 返信が遅いと不誠実とされる空気がある 1on1のたびに細かい指導が積み上がっていく 評価の仕組みが、いつのまにか監視のように働いている 会議では本音が出ず、廊下や雑談でだけ本音が出る エンゲージメントが上がらない組織で起きているのは、関わりの不足ではなく、関わりの過剰なことが少なくありません。 組織調律で何が変わるのか 組織調律が向かう先は、抽象的な「良い雰囲気」ではありません。具体的には、エンゲージメントを無理なく高め、現場の消耗を減らすことです。 とりわけ鍵になるのが中間管理職です。中間管理職のエンゲージメントが下がると、組織全体のエンゲージメントも連動して下がっていきます。だからこそ私たちは、まずマネージャーの状態を整えることから始め、そこから組織全体の調律へ広げていく順序を大切にしています。整えるべきは、頑張りの量ではなく、関係性の張力のほうです。 組織調律をどう実装するか 組織調律は、精神論ではなく実務として進めます。流れはおおむね次の通りです。 はじめに、EQアセスメント「Potage EQ 64TYPES」で、メンバー一人ひとりの感じ方や強み、消耗しやすい状況を「説明できる情報」として可視化します。違いが見えるようになると、勘と空気で動くしかなかった状態から抜け出せます。 次に、対話型ワークショップとリフレクションの設計を通じて、見えた違いを関係性のなかで扱えるようにしていきます。アセスメントとワークショップはあくまで入口です。そこで得たデータをもとに組織構造を捉え直し、少しずつチューニングしていくところに本質があります。 よくある質問 Q. 組織調律とは何ですか?  A. 違いやズレを前提に、関係性の状態を整えるアプローチです。組織開発が「理想形へ変える」発想を含むのに対し、組織調律は「違うまま噛み合える状態」をつくることを重視します。 Q.「組織開発」と「組織調律」はどう違うのですか?  A. 組織開発は足りないものを足して作り変える発想が強く、組織調律はズレを戻し、ほぐして整える発想です。前者は統一を、後者は適度な張力を目指します。 Q. なぜエンゲージメントが上がらないのですか?  A. 関わりが足りないのではなく、過剰なことが少なくありません。即レスや過剰なフィードバックが余白を奪い、組織を過緊張にしているためです。 Q. EQ(感情知能)と共感力はどう違うのですか?  A. EQは「感情を情報として扱う力」です。共感に飲み込まれず、自分と相手を観察し、適切な距離で関係性を整える力を指します。 Q. どんな組織に向いていますか?  A. 施策はやっているのに噛み合わない、心理的安全性がぬるま湯化している、中間管理職に負荷が集中している、そんな組織に向いています。 さらに読む この考え方をもっと知るには 組織調律が現場でどう機能したのかは、導入事例でご覧いただけます。 EQ診断のご案内は、Potage公式LINEで行っています。 取材記事:UNITE(Unipos株式会社運営):マネージャーに必要なのはスキルより“EQ”。サバイブモードから抜け出す組織づくり 著者:河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) 参考記事:組織開発もチームビルディングもうまくいかない本当の理由──「同じ言葉なのに通じない"バベル状態"」を解く【ズレたチームを"ほぐす"組織調律論①】

2026年10月15日

最終更新日:

組織調律とは? 組織開発・チームビルディングがうまくいかない理由と、ズレを整える考え方

組織開発やチームビルディングがうまくいかない原因は、能力不足ではなく「翻訳不足」かもしれません。違いを前提に関係性を整える「組織調律」の定義、組織開発との違い、EQでの実装までを解説します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  部下がAIでつくった資料に間違いや読みにくさが増えているのは、部下の後ろにAIという「部下」が何人もいて、確かめるべき量が一気に増えたからかもしれません。AIを使うときのチェックをルールとして言葉にし、資料の枚数と「決めてほしいこと・判断材料」を先にそろえる。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに、その進め方をまとめます。 【目次】 1. 部下の後ろに、AIという「部下」が増えている 2. AIを使うときのチェックを、ルールとして言葉にする 3. 枚数を先に決めると、大事なポイントが返ってくる 4. 「決めてほしいこと」と判断材料を出してもらう 5. 盛りだくさんの資料は、通るかどうかの不安の表れかもしれない 6. AIでつくった資料にも、考えた跡を残す 7. まとめ 8. よくある質問(Q&A)   導入  AIで資料をつくること自体は、もう珍しいことではなくなりました。ただ、受け取る側に回ると、明らかに間違った内容が入っていたり、「これは誰が読むのだろう」と感じる資料が届いたりする。気づけば自分で手を入れて直している。かといって、部下に不満をそのまま伝えるのもためらわれる。     こうしたやりとりが繰り返されると、届く資料のどこを信じてよいのかが分からなくなっていきます。効率が上がるはずのAIが、かえって上司の手間を増やしている。そう感じている経営者や管理職の方は少なくないのではないでしょうか。     この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、中小企業の経営者のリスナーさんから寄せられた「資料をAIでつくってそのまま持ってくる部下が増えた。間違った内容や、誰が読むのかという資料もあり、自分で直すこともあるが、不満を言うこともできず悶々としている」というご相談に答えました。   部下の後ろに、AIという「部下」が増えている  金氏がまず示したのは、部下の方が、さらにAIという部下をたくさん使っている状態になっているという見立てでした。AIを人とみなすならば、経営者の方がマネジメントしなければならない総量は、本人が抱えたつもりもないうちに増えている、ということになります。     金氏は量の変化をこう説明しています。以前であれば、部下が1週間に10個のアウトプットを出し、それが5人いれば、50個を見ればどうにかなった。ところがAIを使えば、1日に10個から20個のアウトプットを出そうと思えば出せてしまう。確かめるべき量が、何倍にも膨らんでいるわけです。そしてAIの進展が早すぎるために、組織の構造や体制を変えるスピードが追いついていない会社がほとんどではないか、と金氏は語ります。     一方で、資料を出す部下の側は、自分がAIをマネジメントしているという感覚を持ちにくい。最後は上司にチェックしてもらえば大丈夫だ、と受け止めていることもあるかもしれません。河原あずさは、これをAIを使うほど、AIそのもののマネジメントのコストが上乗せされていく構造だと受け取りました。部下の側がAIという部下を持っている感覚で品質を見ていかないと、判断する立場の人の負荷は上がる一方になっていく。     判断する立場の人に負荷が集まる状態については、関連記事「管理職のストレスと限界サイン」も参考にしてみてください。   AIを使うときのチェックを、ルールとして言葉にする  そのうえで金氏は、今回のご相談は実はとても解決しやすいほうだと話しました。相談者が経営者であり、社内のルールをつくれる立場にあるからです。     金氏がすすめるのは、AIを活用する場合に必ず入れるチェックを、ルールとして明文化することです。よい資料が上がってくるかどうかを部下一人ひとりの力量に任せていると、どうしてもばらつきが出てしまう。だからこそ、部下の皆さんが共通して必ず確かめる点を、言葉にして示しておく。     河原あずさはこれを、チェックの役割は資料を出す本人が持つ、と明言することだとまとめています。AIでつくった資料を確かめるのは人間の責任の部分であり、そこをはっきりさせておかないと、上司の側が確認を抱え込み続けることになりそうです。   枚数を先に決めると、大事なポイントが返ってくる  では、自分も知らない情報がいつの間にか資料に入り込んでくる状況で、チェックをどう実装すればよいのか。河原あずさの質問に、金氏はまずAIの性質から話しました。少し伝えただけなのに、頼んでいないところまで調べたり、資料に落としたりする。河原あずさも「頼んでいない枝葉をつけてくることがある」と応じています。     金氏によれば、これが負担になる理由ははっきりしています。人間が一度に認知できる量には限りがある。脳の仕組みは変わっていないし、外付けの装置があるわけでもありません。     そこで金氏自身がよくやっているのが、AIに「何枚までのPDFにしてください」と枚数を指定する方法です。そうすると、一番大事なポイントが返ってきやすくなる。これを部下にも共有して、上に上げるときは何枚までのPDFにする、と決めておくと、上司はかなり楽になる、と金氏は語ります。     河原あずさは、報告の様式を決めることも同じ効果があると重ねました。金氏も、これは人に対してやることとあまり変わらないと言います。まず決めた形で受け取り、それでよいと判断できたら、そのとき初めて詳しい資料を出してもらえばいい。   「決めてほしいこと」と判断材料を出してもらう  河原あずさは、自身も中小企業の経営者の一人として、資料を受け取る側の実感を話しました。一見まとまっているように見えるのに、読み終えて「自分は何を決めればよいのか」が分からない。よく見ると、判断の材料もあまり入っていない。そうした資料に出会うことがあるといいます。     そこで河原あずさが挙げたのが、決めてほしいことと、その判断材料をいくつか必ず出してください、とルールにすることでした。金氏も、それだけで全然変わってくると同意しています。     金氏はさらに、仕事は分量ではないという点を添えました。大学のレポートで「何千字書いてください」と言われ、字数を埋めるために、なくてもよい一文を入れてみたこともあったかもしれない、と振り返りながら、長く書けばよいわけではないと言います。大事なのは、読む立場の人がどう受け取るかを考えて構成することです。   盛りだくさんの資料は、通るかどうかの不安の表れかもしれない  河原あずさは、プレゼン資料づくりでよく伝えていることを紹介しました。伝えたいことを最初に出し、基本的には一枚のスライドで言いたいことを言い切る。けれど人は不安なので、いろいろ載せたくなる。     河原あずさはこれを「盛り盛り海鮮丼」と呼んでいます。エビもマグロもサーモンも載っているけれど、どれもこの土地で獲れるものではない。この土地ではアジが一番おいしいのなら、アジの刺身丼をどんと出してほしい。何でも盛り込めてしまう時代だからこそ、本当に伝えたいことを出していくことが大事になる、という話です。     金氏は、盛りだくさんの資料の背景にある部下の気持ちに目を向けました。部下も盛りたくて盛っているわけではなく、通るかどうか分からないから、AIがたくさん出してくれたものをそのまま渡している可能性がある。だから上司の側から「まずは1枚でいいよ。こちらも読むのが大変だから」と伝える。1枚で分からなければ、上司が「分からない」と言えばいいだけです。そう伝えることで、お互いが楽になるのではないか、と金氏は語りました。     河原あずさの言葉でいえば、上司の好物が分からないから、エビもカニもマグロもウニも入れてしまう。刺身ひとつに、わさび醤油をかけて持ってきてくれればいいと言っておけば、そういう資料が届くようになっていく。   AIでつくった資料にも、考えた跡を残す  ここまでの話を受けて、河原あずさは想像で仕事をしないことの大切さを挙げました。自分が求めているものを相手に伝える。部下の側も、想像上の相手のニーズに向けて資料をつくらない。AIとうまく仕事をしていくためには、人同士のコミュニケーションで何を握るかが、一番最初に大事になる。     金氏も、相手を尊重することができていれば、AIがつくったか自分がつくったかは関係ないと話しています。相手にとって一番価値のあるポイントを先に伝える資料にする。それだけでも全然変わるのではないか、という考えです。     ナビゲーターの黄瀬真理は、ひとつ前の回で話題になったアウトプットとアウトカムの話につなげて振り返りました。アウトプットをつくることは、ある意味簡単になった。けれど、それをそのまま持っていくと、本人の思考が入りにくいのではないか。手で書くしかないときは、うまい資料でなくても必ず考えるので、そこに思考と意見が入る。AIで出したものをそのまま横流しするならば、意見は薄くなる。受け取る人が本当に求めているのは、その「意見」なのかもしれません。当たるか分からなくても、相手のことを思って自分の考えをぶつけてみる。そうした部分こそが、これから求められていくのではないか、と語っています。     金氏は放送の最後に、AIとの適切な距離の置き方は、組織単位でも自分単位でも大事になる、と締めくくりました。部下が持ってくる資料に悶々としたときは、部下を責める前に、チームとしてAIとどう付き合うかを決めていないことに目を向けてみる。枚数や「決めてほしいこと」をそろえることは、その最初の一歩になりそうです。   まとめ 部下の資料が増えたのは、部下の後ろにAIという「部下」が増え、確かめるべき量が何倍にもなったから  AIを使うときに必ず入れるチェックを、ルールとして明文化する。確かめる役割は資料を出す本人が持つことを互いに認識する 一つのアイディアとしては、AIにも部下にも、資料の枚数を先に指定することも有効。一番大事なポイントが返ってきやすくなる 「決めてほしいこと」と判断材料を必ず出してもらう。仕事は分量ではない 盛りだくさんの資料は、通るかどうかの不安の表れかもしれない。「まずは1枚でいい」と上司から伝える AIでつくった資料にも、本人の考えを添える。人同士で何を握るかが最初に大事になる   よくある質問(Q&A) Q1. 部下がAIでつくった資料に間違いが多いとき、どうすればよいですか? A. 部下一人ひとりの力量に任せるのではなく、AIを使うときに必ず入れるチェックをルールとして明文化するのがおすすめです。AIでつくった資料を確かめるのは人間の責任の部分であり、その役割は資料を出す本人が持つ、とはっきりさせておくことで、上司が確認を抱え込み続ける状態を避けやすくなります。     Q2. 部下がAIでつくった資料が長すぎて読みきれません。どう伝えればよいですか? A. 資料の枚数を先に決めて伝える方法があります。AIは少し頼んだだけでも、頼んでいない範囲まで調べて長い資料を返してくることがあります。「何枚までのPDFにする」と指定すると、一番大事なポイントが返ってきやすくなります。部下には「まずは1枚でいい」と伝え、必要になったときに詳しい資料を出してもらえば十分です。     Q3. 資料を受け取っても、何を判断すればよいのか分かりません。 A. 「決めてほしいこと」と、その判断材料をいくつか必ず出してもらうことを、報告のルールにしてみてください。一見まとまっているように見える資料でも、何を決めればよいのかが書かれていないことがあります。報告の様式を決めておくことで、上司と部下の双方が楽になります。   ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。  放送タイトル(stand.fm):【AI時代、全員が管理職に!?】チームの仕事を増やさない働き方      「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。    Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。AIを使った働き方のなかで、チームのコミュニケーションを見直したい方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年10月26日

最終更新日:

AI時代の部下マネジメント。枚数と「決めてほしいこと」を先にそろえる

AIで資料をつくる部下が増え、間違いや読み手のいない資料に悶々とする経営者の方へ。心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが、枚数の指定や「決めてほしいこと」を先に出してもらうルールなど、上司と部下の双方が楽になる受け取り方を話しました。

河原あずさと36.5編集部

【この記事の3行まとめ】 「みんな自分で考えて動いて」と言ってみたものの、チームが動かない。そんな経験はないでしょうか。 マネジメントは管理職一人の仕事ではなく、チームで成果を上げる営みそのもの。だから全員で担える、と小田木さんは言います。 NOKIOO・小田木朝子さんと河原あずさの対談の前半から、全員マネジメントと手放しマネジメントが重なるところを探ります。 【目次】 全員でマネジメントするのか、マネジメントを手放すのか マネジメントは、管理職の仕事だと思っていた 「自分で考えて動いて」の前に、握っておくこと マネジメントの語源は「馬」。鞭で走らせる時代から、人馬一体へ いい騎手は、馬の邪魔をしない 走り方は、管理職が決めつけるものではない  メンバーに「もっと自分で考えて動いてほしい」と伝えた。言ったときは手応えがあったのに、しばらく経つと、動いているのは結局自分だけ。会議では指示を待つ顔が並び、気づけば今日も、チームの誰よりも自分が多くの仕事を抱えている。そんな状態に心当たりがあるかもしれません。  この記事は、人材開発・組織開発を手がけるNOKIOO取締役の小田木朝子さんと河原あずさの対談をもとにして作成しています。月1回ペースで続いてきたコラボの4回目、今回のテーマは「マネジメント」です。小田木さんが掲げる「全員マネジメント」と、Potageが提案している「手放しマネジメント」を持ち寄りました。対談は前半と後半に分かれていて、この記事は前半(あずさんのチャンネル)をもとにしています(音声でも聴けます)。 前半(あずさんのチャンネル。この記事のもとにした放送回) 後半(小田木さんのチャンネル「明日の景色を変える仕事サプリ」) 全員でマネジメントするのか、マネジメントを手放すのか  今回のテーマを持ち込んだのはあずさんです。NOKIOOの「全員マネジメント」と、Potageの「手放しマネジメント」。言葉だけを並べると、全員で担うのか、手放すのか、反対のことを言っているようにも見えます。  小田木さんは、話し始める前にこう言いました。  話す前からこの予感しかしないんですけど、掘っていったり解いていくと、すごく重なりの大きいことを、それぞれの表現やコンセプトで言ってるんじゃないかなって。  対談は、この予感を確かめる形で進みました。まずは「全員マネジメント」とは何かから始まります。 マネジメントは、管理職の仕事だと思っていた  「全員マネジメント」はNOKIOOの造語です。小田木さんは、言葉の説明から入るのではなく、「マネジメント」という言葉の受け取られ方を先に挙げました。  マネジメントって、結構ふんわりしたビッグワードじゃないですか。私もその考え方に取られてたんですけど、マネジメントは管理職のお仕事、マネジメントは誰がやるの、管理職です、みたいな。こういう構図って、暗黙の前提として広がってるなって思うんです。  けれど本来、マネジメントは管理職の仕事そのものではなく、チームで成果を上げる営み全般を指す言葉だと小田木さんは言います。誰がやるかではなく、何をする営みなのか。そう捉え直すと、管理職が一人でやらなければならないという前提はなくなります。管理職がリーダーとして引っ張る形はあるにしても、チームの成果が一番大きくなるのは、全員が参画しているときではないか。これが「全員」と呼ぶ出発点だそうです。  Potageの「手放しマネジメント」も、入り口は同じところにあります。「マネジメントは管理職の仕事」という前提は、管理職の側には「自分がやらねば」という荷物として残ります。その荷物を抱え続けると、管理職がチームの出入り口をふさいでしまう。全員で担うことと、一人で抱え込まないことは、同じ前提をほどく話なのかもしれません。 「自分で考えて動いて」の前に、握っておくこと  では、全員でマネジメントするとは、具体的に何をすることなのでしょうか。小田木さんは、マネジメントは概念ではなく実践そのものだと言います。  たとえばチームの成果を大きくしようとしたとき、まず必要なのは「そもそも、うちの成果とは何か」を全員が同じ解像度で握ることです。ある人は売上だと思い、ある人は別の何かだと思っている。これではチームの成果は大きくなりようがありません。共通のゴールが描けたら、次はどの道で行くのか。その道で進むために、自分はどこに力を注ぐのか。一つずつ握っていくと、全員の力の向きがそろっていきます。  ここであずさんが「結構、自律してみんなが考えて動くところがポイントになりますか」と聞くと、小田木さんはこう返しました。  自律して動くことも大事だし、自律の前提に、みんなが同じ絵を見るみたいなことも大事だし。とにかく「みんな自分で考えて動いて」っていうメッセージって、いいようで難しいじゃないですか。聞こえはいいし、なんとなく真っ直ぐなことを言ったように聞こえるんだけども、自律して動いたことがチームの成果につながっている状態を機能させるには、その前に必要なことがあるんじゃないかなって。  「自分で考えて動いて」という掛け声そのものではなく、その前に何が握れているか。対談でほどけたのは、この順序でした。 声だけの自律:「自分で考えて動いて」と伝えるだけで、何に向かって動くのかは一人ひとりに任されている状態 握ったうえでの自律:チームの成果とは何か、どの道で行くか、自分はどこに力を注ぐかを全員で握ったうえで、それぞれが動いている状態  握るところまでできると、どういう自律が発揮されるといいのか、リーダーとメンバーがそれぞれどんな役割を担うのかが、具体的な話として対話できるようになります。 マネジメントの語源は「馬」。鞭で走らせる時代から、人馬一体へ  対談の後半で、あずさんが「マネジメント」の語源を持ち出しました。気になった単語の由来を調べるのが癖だそうで、マネージはもともと馬の調教を表す言葉だったといいます。手綱を握って、暴れる馬をなだめ、ゴールまで連れて行く。そこから転じて、不確かなものをコントロールするという意味になったそうです。  ここから、あずさんはこれまでのマネジメントの誤解をこう言い表しました。マネージャーが騎手で、部下が馬。手綱を強く握り、時々鞭を打ち、数字を持ってこいと人参をぶら下げる。そういう時代もあったかもしれません。けれど今の時代、馬にあたるのは部下ではなく、状況そのものではないか。不確実な社会環境や、答えの見えない新しい事業。コントロールの効かない難題を、みんなでどう手なずけて、進みたい方向へ向かわせるのか。それが今のマネジメントではないか、という見立てです。  この話を受けて、小田木さんが思い出したのは、テレビのドキュメンタリーで見たある名馬の話でした。恵まれた血統で生まれたわけではなく、生まれつき脚に障害もあった。その馬の可能性を信じて調教した人がいて、名騎手が乗り、その馬の強みが引き出されて、黄金時代につながっていった。  鞭で打って、手綱で引っ張って、人参をぶら下げて走らせるっていう成果の上げ方とは、全く違う世界観ですよね。本当に馬をどう捉えるかとか、どういう走り方を自分たちは望むのかみたいな。  馬が本来持つ力、癖や個性も含めて発揮されたときに、結果がついてくる・・・話はそのままチームの話に戻ります。 いい騎手は、馬の邪魔をしない  あずさんが続けて挙げたのは、競馬の世界を描いた漫画で読んだ一節でした。いい騎手は、馬の邪魔をしない。勝てない騎手は強くコントロールしようとして、本来止めてはいけないところで手綱を引いてしまう。馬が走りたくないときに無理をさせてしまう。  一方で、人馬一体と言われる状態は、馬の気持ちを理解して、その馬が気持ちよく走れる状態を整えていくことで生まれます。騎手が乗っているという感覚すら薄れて、馬の体と一つになる。そういうときに、馬は力を出せるのではないか。あずさんはこれを、相手にとって心地いい環境を整えることと重ねました。  小田木さんは、この話をこう受け取りました。  いろんな走らせ方というか、走り方があるけれども、どうやって力を引き出すのかとか、どうやってスピードを出していくのかで、ともすればその関与の仕方が、力を奪ったりスピードを奪ったりしているかもしれないっていう。  良かれと思った関わり方が、メンバーの力を奪っているかもしれない。手放しマネジメントで言う「関心は持ちながら、干渉しすぎない」は、この距離感のことです。  あずさんはもう一つ、例を足しました。先行して逃げ切る馬だと思っていたのに勝てず、試しに後ろから差す走り方に変えたら勝てる。そういうことも、きっとあるはずです。走り方の特性を、本人も周りも含めてみんなで理解し合う。全員マネジメントで大事にされているのは、そういうことなのだろうと、あずさんは受け取ったそうです。 走り方は、管理職が決めつけるものではない  対談の終わりに、小田木さんは馬の例えをもう一歩進めました。管理職が騎手で、部下が馬、という構図はもう当てはまらない。今は管理職も、ゴールに向かって騎乗しながら、馬としても一緒に走っている。  俺らどう走る?、みたいなところを、暗黙でもなく、管理職が決めつけるでもなく、対話できるとか、選んでいけるとか、試行錯誤しながらより良い走り方を見つけていけるみたいなことが、これからのマネジメントの出発点になるかもなと。  速さだけが成果ではないかもしれない。走る意味やレースに出る意味、どのレースを選ぶのかも、その対話に含まれてくる。小田木さんの「なぜ我々は走るのか」という一言を、あずさんは「哲学ですね」と受けました。  全員マネジメントは、全員が手綱を持つ話。手放しマネジメントは、管理職が一人で手綱を握りしめない話。言葉は違っても、どちらも「共通のゴールを全員で握る」ところから始まります。対談の前半で見えてきたのは、小田木さんの予感どおり、重なりの大きさでした。この続きとして、後半の対談(小田木さんのチャンネル)では、手放しマネジメントとは何か、管理職が抱え込まないために何をするのかを語っています。  ぜひ、こちらから聴いてみてくださいね! 小田木さんの発信・株式会社NOKIOOについて Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」では、仕事・キャリア・人生に効く音声を毎日配信中。 後半の放送は以下からお聴きいただけます。 【対談レポート】「全員マネジメント」と「手放しマネジメント」、行き着く先は同じだった―走り出す前の初期設計(Potage・河原あずささん対談) Potageからのご案内 PotageはEQ(感情知能)診断とワークショップを通じて、「感情を扱えるチーム」づくりを支援しています。管理職の抱え込みをほどく「手放しマネジメント」の考え方と始め方は、こちらの記事でご紹介しています。 対談の出演者 小田木朝子さん(株式会社NOKIOO取締役) 「全員マネジメント」を掲げ、人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOOの取締役。Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」パーソナリティ。 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) EQ(感情知能)と組織調律を軸に、メンバーが本音を交わせるチームづくり・組織づくりを支援。Voicy「コミュニティ思考AtoZ」パーソナリティ。

2026年10月22日

最終更新日:

「自分で考えて動いて」では、チームは動かない。全員マネジメントと手放しマネジメントが重なるところ/NOKIOO・小田木朝子さんと考える、チームで成果を上げる営みの出発点

「自分で考えて動いて」と言ってもチームが動かない。その前に何を共有しておくか、全員マネジメントと手放しマネジメントの重なりから、NOKIOO・小田木朝子さんとの対談で探ります。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  アウトカム思考とは、資料や成果物といったアウトプットの先に、相手のどんな行動の変化を起こしたいかを見て仕事を組み立てる考え方です。部下の意見を聞くほど決められなくなる調整型の管理職は、チームで何を起こしたいかを先に言葉にすることで、調整の意味合いが変わるかもしれません。その土台には心理的安全性があります。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。 目次 1. 寄り添い型の管理職が「決められない」のは、珍しいことではない 2. 心理的安全性を意識するほど、板挟みになりやすい 3. アウトカム思考とは。アウトプットの先に起きる行動の変化を見る 4. 相談に乗ることは手段。どう変わったら解決するかを見定める 5. アウトカム型の指示は、「どう動いてほしいか」から始まる 6. 判断を任せられるかどうかは、心理的安全性が土台になる 7. AIでアウトプットが簡単に作れる時代だからこそ 8. 調整の力は、チームのゴールを話し合うために使える 9. まとめ 10. よくある質問(Q&A)   導入  部下からの相談には、しっかり寄り添いたい。けれど「○○さんはどう思う?」と聞き返すばかりで、なかなか物事が前に進まない。自分で決めてしまうのが怖くて、はっきり決められない。     チームの声を大切にしてきた人ほど、管理職になってから「決める」ことの重さに戸惑うのかもしれません。意見を聞くことと、決めることのあいだで、どう振る舞えばいいのか。     この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、大手企業の新任管理職のリスナーさんから寄せられた「調整型で、決めるのが苦手です。どうしたら上手に意思決定できるようになりますか」というご相談に答えました。 寄り添い型の管理職が「決められない」のは、珍しいことではない  河原あずさは、ご相談を受けて、自身が行っているEQPIの検査データに触れました。そのデータからは、マネージャーの3分の1ほどが、寄り添い型・共感型の人材であることがなんとなく見えているといいます。調整が得意で管理職に上がったものの、上に行ったら意思決定が苦手になる。日本企業によくあるケースなのかもしれない、というのが河原あずさの見方です。     金氏も、そういうケースはとても多いのではないかと応じました。ご相談の悩みは、ひとりの管理職の性格の問題というより、多くの組織で起きていることとして捉えられそうです。   心理的安全性を意識するほど、板挟みになりやすい  金氏は、ここに意外な要因を挙げています。「心理的安全性」という言葉が、かえって邪魔をしている可能性もあるというのです。心理的に安全な場にしなければ、と考えるあまり、これは少し違うのではと感じる部下の意見まで、意思決定に反映させなければと思ってしまう。そういう方が多い印象だといいます。     いろいろな意見を聞き、ノーとは言わず、できるだけ民主的に進めて、上は調整をしていればいい。河原あずさは、それ自体は一見すると悪いことではないように聞こえる、と前置きしたうえで、チームとして成果を出す観点ではどうなのかを金氏に尋ねました。   金氏の答えは、意見を聞くこと自体はとてもいいことだというものでした。ただ、会社には上から課された目標や数字がある場合が多い。部下には負わせたくないけれど、自分も達成しなければならない。その間で、管理職やリーダー自身が板挟みになって悩んでしまうことがよくあるのではないか、と金氏は見ています。河原あずさも「優しいマネージャーの方ほど挟まれますよね」と受けました。     板挟みのなかで消耗しやすい管理職の状況については、関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。   アウトカム思考とは。アウトプットの先に起きる行動の変化を見る  では、どうすればいいのか。金氏はまず、チームで何を達成したいのかが決まっていくことが必要だと言います。そのうえで伝えることが多いのが、「アウトカム思考」という考え方です。ここでの「思考」は、考えるという意味よりも、ある方向を志して向かっていく、というニュアンスに近いそうです。     金氏の説明によれば、普段つくり上げるもの、たとえば資料が「アウトプット」です。一方で「アウトカム」は、その先に何が起きるか、人にどういう行動の変化が起きるかを指します。     金氏が挙げたのは、パンケーキのたとえでした。朝ごはんにパンケーキを作るなら、卵を割り、粉を混ぜ、フライパンで焼いて、パンケーキというアウトプットができたら終わりです。けれどお店でパンケーキを出すなら、作ったところはゴールではないはずです。食べた人が「美味しい、また来よう」と思い、リピートして行列ができる。食べてくれた人の行動が変わるところまでがアウトカムで、その先に売上のようなビジネス上の効果がある。アウトカムを意識してアウトプットを作っていこう、というのがアウトカム思考だといいます。     河原あずさは、先の先を見るということだと受け取り、カーネギーの『人を動かす』を引き合いに出しました。何を動かしていくのか、という話だというわけです。     金氏は、この考え方を深めていくと、チームのなかでの会話が変わると言います。「お客さんにこう思ってもらえるものを作りたいから、みんなでこうやっていこう」という視点で皆で話せるか。目の前のTODOではなく、判断のよりどころをもとに対話するということかもしれません。   相談に乗ることは手段。どう変わったら解決するかを見定める  河原あずさは、これを調整型の管理職の悩みに引きつけて言い直しています。調整は、目の前をどうにかすることになりやすい。部下から相談を受けると、この人の相談事をどうにかしなければ、という気持ちになる。けれど、相談に乗ることは、あくまで手段です。     こういう課題があるなら、何がどう変わればこの状況は解決するのか。そこを見定めながら、次の一手を考える。金氏も、その通りだと応じました。  金氏はスポーツのたとえも挙げています。成功するかどうかとは別に、この試合で何を表現したいのかが分かる指示を監督が出せると、結果にもつながりやすくなる、というのが金氏の見方です。   アウトカム型の指示は、「どう動いてほしいか」から始まる  調整型のマネージャーが、アウトカム思考を身につけるには何から始めればいいのか。金氏は、アウトカムとアウトプットの違いをきちんと理解すること、そして、アウトカム型とアウトプット型の指示の出し方の違いを知ることから始めるのが大事だと答えました。     アウトプット型の指示は分かりやすいものです。この資料を、いつまでに出してほしい。一方でアウトカム型では、資料の中身よりも、受け取った相手の行動が変わればいい。極端に言えば、これまでやっていたかもしれない資料作成がまったくゴールではなくなる可能性もある。     河原あずさは、目的に照らしてステップを考えれば、要らないステップは自分の裁量で外すこともできると受けました。金氏も、大変そうなことを言っているようで、ちゃんと頭を使えば、実は仕事の時間が少なくて済む可能性もあると話しています。   判断を任せられるかどうかは、心理的安全性が土台になる  ナビゲーターの黄瀬真理は、ここで率直な疑問を投げかけました。アウトプットなら、何をいつまでに出すかで管理しやすい。けれどアウトカムは、相手の変化という見えないものを扱うので、指示の出し方も、同じアウトカムを見るためのコミュニケーションも増えて、かえって難しくなるのではないか。     金氏は、こう説明しています。たとえば隣の部署に動いてもらいたいとき。これまでなら資料をひとつ作って、それを通す、という流れになりやすい。けれど相手の部署に納得してもらうには、キーマンに一言話が通っていればいいのか、資料が届けばいいのか、どちらもあり得る。その判断を部下に任せられる状況が作れているかどうかが前提になる、というのです。そして金氏は、その前提として心理的安全性が担保されていることが、とても大事だと話しました。     金氏は、言葉を選ばずに言えばと断ったうえで、世の中の書類の多くは、作らなければいけないから作っているかもしれないとも語っています。もしかしたら、形式に沿って何枚も作るより、二人が話し合った内容が一文、記録として残ればいい場合も多いのではないか。部署同士が相談し合える関係であれば、「お客さんのために、社内のためにやったほうがいい」と思えることを、一緒にやろうと言える。その関係を作れるかどうかの肝は、まず心理的安全性だというのが金氏の考えです。   金氏もその通りだと応じ、アウトカム思考には二つの効果があると話しています。ひとつは、届いた相手の行動が変わるので、取り組んだ人に「効果があった」という実感が生まれること。もうひとつは、お互いにやることが減ることです。承認を取るための資料をかっちり作り、受け取った側もその承認をどう通すかを考える。本来そこは省けることもあるはずだといいます。   AIでアウトプットが簡単に作れる時代だからこそ  金氏は、AIによって働き方が急速に変わっていることにも触れました。手続き的に、よく分からない長い資料を読まなければならない。そんな経験をした人もいるのではないか。形式的なやりとりをしなくてよくなるほうが、アウトカムに近いというのが金氏の見方です。何を作るかより、何を起こすか。何を作るかを選ぶことが大事になっている、と金氏は語りました。 調整の力は、チームのゴールを話し合うために使える  対話を振り返って、河原あずさは、調整ごとの意味合いが変わってくる気がすると話しています。これまでの調整は、いろいろな利害関係者のあいだで、まあまあと取りなしながら物事を進めるものだったかもしれません。けれどアウトカム思考のもとでは、調整のスキルは、一段上の場面で使えるものになる。    チームのゴールを考えたとき、私たちはこういう方向で行くのがいい、これは要らない、ここをもっと研ぎ澄ませたい。そういうことをみんなで話すための土台になりながら、プロセスのひとつひとつを整えていく。河原あずさは、そこにこれからのマネージャーのあり方が見えてきたと語りました。    冒頭のご相談にあった「○○さんはどう思う?」という聞き返しも、チームで何を起こしたいかという共通のよりどころがあれば、決めるための対話に変わっていくのかもしれません。黄瀬真理も、便利になっていく時代のなかで、どんな関係性を作れば全体として成果を出していけるのかを、改めて見つめ直したいと話しています。   まとめ •      寄り添い型・調整型の管理職が意思決定に悩むのは、多くの組織で起きていることかもしれない •      アウトカム思考とは、アウトプットの先に起きる人の行動の変化を見て、仕事を組み立てる考え方 •      相談に乗ることは手段。何がどう変わればよいのかを見定めて、次の一手を考える •      アウトカム型の指示は「どう動いてほしいか」から始まる。目的に照らせば、要らないステップを外せる •      判断を部下に任せられるかどうかは、心理的安全性が土台になる   よくある質問(Q&A) Q1. アウトカム思考とは何ですか?アウトプットとの違いは? A. アウトプットは資料や成果物など、つくり上げるものです。アウトカムは、その先で相手にどんな行動の変化が起きるかを指します。お店のパンケーキでいえば、焼き上がったパンケーキがアウトプットで、食べた人が「また来よう」とリピートするところまでがアウトカムです。アウトカムを意識してアウトプットを作っていくのが、アウトカム思考です。 Q2. 部下の意見を聞きすぎて決められない管理職は、どうすればよいですか?    A. まず、チームで何を達成したいのかを言葉にすることから始めてみてください。相談に乗ることは手段であり、何がどう変われば状況が解決するのかを見定めると、次の一手が選びやすくなります。「お客さんにこう思ってもらいたいから、こうやっていこう」と話せるよりどころがあると、意見を聞くことと決めることが両立しやすくなるかもしれません。     Q3. アウトカム型の指示は、アウトプット型の指示とどう違いますか? A. アウトプット型は「この資料をいつまでに出して」のように、作るものと期限を指示します。アウトカム型は、相手や関係者にどう動いてほしいかを伝え、そのための手段は任せます。資料を作るのか、キーマンに一言話を通すのか。その判断を部下に任せるには、わからないことを相談し合える心理的安全性が前提になります。   ▶ この記事のもとになった対話は、以下からポッドキャストでお聴きいただけます。      「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。    放送のなかで金氏が紹介した「アウトカム思考マネジメント実践講座」は、株式会社ZENTechが開講する講座です。詳しくはZENTechの講座ページをご覧ください。    Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。寄り添い型のマネージャーが力を発揮できるチームづくりや、メンバーとの対話の見直しを考えている方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年10月8日

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アウトカム思考とは。決めるのが苦手な調整型の管理職が、チームで判断できるようになる考え方

アウトカム思考とは、アウトプットの先に起きる人の行動の変化を見て仕事を組み立てる考え方です。決めるのが苦手な調整型の管理職が、チームで判断できるようになるには何が要るのか。心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが語ります。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  即戦力として採用した人が思ったように動いてくれない。その原因は本人の力量ではなく、入社前から積み残された期待のギャップにあるのかもしれません。何を、いつまでに、どのレベルで期待しているのか。それが言葉になっていないまま、受け入れ側の期待だけが高くなっている状態です。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。 目次 1. 「動いてくれない」は、採用の前から始まっているのかもしれない 2. 即戦力でも、入社の翌日から活躍できるわけではない 3. オンボーディングは、即戦力化のためのプログラム 4. 「情報が足りない」は、迎える側と入る側の両方の課題 5. いつまでに、どのくらい。期待を時間軸で言語化する 6. 見落とされがちなのは、周囲の受け入れ方 7. 人事異動で来た人には、年間の見通しごと伝える 8. まとめ 9. よくある質問(Q&A) 導入  即戦力として採用したはずの人が、言われたことをこなすだけで、思ったように動いてくれない。こう動いてほしいと伝えても、裁量がないから、入社したてで情報が足りないから、とかわされてしまう。だんだん自分のほうにも諦めの気持ちが生まれて、本音を伝えることも減っていく。  期待して迎えた相手だからこそ、うまくいかないときの落差は大きくなります。そして落差が大きいほど、その人との関係のなかにある心理的安全性は下がっていきます。板挟みのなかで消耗しやすい立場でもあります。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。  この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、スタートアップで営業部の管理職を務めるリスナーさんから寄せられた「即戦力として採用した方が動いてくれない」というご相談に答えました。 「動いてくれない」は、採用の前から始まっているのかもしれない  ご相談を聞いた金氏がまず口にしたのは、打ち手ではなく、時間をさかのぼる問いでした。相談者は管理職なので、おそらく面接や採用の場にも関わっているはずです。だとすれば、採用の前に「こういうことを期待している」という話が、どこまで伝えられていたのか。そこが気になる、というのが金氏の見立てです。  というのも、スタートアップで採用されるとき、採用された直後が一番モチベーションの高い状態であることが多いからです。その段階で「思ったように動いてくれない」という話になっているのなら、事前の部分に積み残しがあったのではないか。金氏はそう受け取りました。  もうひとつ、金氏は放送の後半でこんな指摘もしています。ご相談には「営業の即戦力として採用した方が」と書かれているけれど、即戦力だと思っていたのは採用した側だけで、採用された方はそう思っていなかった可能性もある。同じ言葉を使いながら、前提が揃っていないまま走り出している。「動いてくれない」という悩みの手前には、そういう状態が置かれているのかもしれません。 即戦力でも、入社の翌日から活躍できるわけではない  金氏は、人がスタイルの違う場所に移ってすぐに活躍するのは、どれだけ実績のある人でも難しいと言います。例に挙げられたのは、プロ野球やプロサッカーの世界でした。  これを受けて河原あずさは、サッカーの移籍を引き合いに出します。移籍してきた選手が、前のチームではあれほど活躍していたのに、新しいチームではどうも動きが悪い、輝かない。やがて試合に出なくなり、ファンの見る目も変わって、一年足らずでまったく違う状況になってしまう。プロスポーツの世界では珍しくないケースです。  けれども、と河原あずさは続けます。選手の側からすれば、まったく違う文化、違う戦術、違うカルチャーを持つ場所に移るわけです。その間に順応するための期間を挟まなければ、即戦力として採ってもその後戦力になることは、たいていない。  金氏も、文化やスタイルがきちんと伝わるように、あるいは組織でのパフォーマンスを出してもらいやすい環境づくりまで仕切ったうえで、戦力になっているかどうかを判断することが多いと語っています。「即戦力かどうか」を判断する前に、迎える側がやるべきことがある、という順番です。 オンボーディングは、即戦力化のためのプログラム  では、具体的に何をするのか。金氏の答えは、きちんとオンボーディングをすることでした。情報が足りないと言われるなら、情報をどう渡せるようにするのか。裁量がないと言われるなら、裁量がある側が強制力のあるオンボーディングとして組み立てていく。相手の言い分を反論として受け取るのではなく、設計すべき項目として受け取り直す発想です。  金氏は、ZENTechで実際に行っていることを挙げました。まずMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と呼ばれるものをきちんと言語化し、金氏自身からも事業がどういうものかを伝える。そのうえで、伝えて終わりにせず、本人がどう噛みしめているか、自分なりにどう理解したかをアウトプットしてもらう。業務についても、何をやればいいか、何が分からないかを毎日確認し合う。  そして金氏は、こう言い切っています。オンボーディング自体が、即戦力化のためのプログラムである。即戦力を採用したから立ち上がりが早いのではなく、立ち上がりを早くするための仕組みが用意されているかどうか。順番が入れ替わると、見えてくるものが変わってきます。 「情報が足りない」は、迎える側と入る側の両方の課題  ただし金氏は、オンボーディングは片側だけでは成立しないとも言います。する側とされる側が、同じくらいのマインドセットで臨まないと難しい。  「情報が足りないから」という言葉は、迎える側からは「自分で情報をキャッチアップしに行っていない」とも映ります。だからこそ、できる限り情報にアクセスできる状況を作ったうえで、わからないことをちゃんと聞ける状態に持っていってほしい、というコミュニケーションが事前にあったかどうか。そこが気になる、というのが金氏の見方でした。  河原あずさも、スタートアップに限らず、現業が目まぐるしく忙しい会社ほど、忙しい時間を切り出してすべての情報をきれいに用意して伝えることは現実的に難しいと応じます。だとすれば、入ってくる側にも、自分から「こういう情報が欲しい」と質問したり、誰に聞けばいいかを含めて周りに聞きながら情報を開拓していく働き方をすることが必要かもしれない。  そのうえで金氏は、スポーツの比喩に戻ってこう整理しました。そもそも移籍する当事者である選手自身が活躍したいと思っていなければ、何も起きません。活躍したいという意思はある。けれどギャップがある。そのギャップを埋めるのがオンボーディングだ、ということです。 いつまでに、どのくらい。期待を時間軸で言語化する  ナビゲーターの黄瀬真理は、会社員時代に同じ状況を経験しています。営業メンバーとして初めて、即戦力に近い方を採用したときのことでした。  期待が高いぶん、「自分で情報を取りに行くべきだ」という前提が、組織のなかで無意識のうちに置かれていたといいます。加えて、異なる業界から来た方だったため、動き方や社内の当たり前がわからず、やりにくさもあったと思われます。何より大きな反省点として残ったのは、「即戦力」という言葉の中身でした。即戦力とは、1か月後、2か月後にどういうレベル感を意味しているのか。その言語化したすり合わせが、ご本人とも、受け入れチームともできていなかったことです。  そこで次の採用のときには、1か月後、3か月後にどういう状態を目指すのかを、本人とも、周囲のメンバーとも合意してから始めました。期待を時間軸に置き換えると、「動いてくれない」という漠然とした評価が、「この時期にここまで」という確認可能な話に変わります。そして周囲も応援しやすくなる。  金氏も、即戦力という言葉の期待値調整はとても大事だと応じています。お互いがどういう期待を持っていて、いつまでに、何がどうできるようになってほしいのか。それをどこかですり合わせられるといい、というのが金氏の整理でした。河原あずさは、言葉にすると当たり前のようだけれど、その当たり前をやるのが難しいのだ、と受けています。  こうしたすり合わせを続けていく場として、1on1が使われることもあります。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。 見落とされがちなのは、周囲の受け入れ方  黄瀬真理が、もうひとつ挙げていたことがあります。即戦力採用では、受け入れる側が「お手並み拝見」になりやすいという点です。  関係者は、上司と本人だけではありません。周囲にも一緒に働く人がいて、そこがしばしば見落とされます。その方がなぜ入ってきて、いつ頃どのくらい活躍することを会社が期待しているのかを、周囲の人も正しく理解していること。それが、安心できる雰囲気をつくることにつながるのではないか、という見方でした。  情報の渡し方についても、工夫が語られています。業務情報は自分でも取りに行ってほしい。けれど、人に関する情報は、こちらからセットで渡しておく。「この人は○○さんです」で終わらせず、たとえば、ちょっとぶっきらぼうな部分もあるけれど、優しい人ですよ、といった人となりを添えておく。そうすると、何かあったときに「変なことを言ってしまったのかな」と受け取らずに済みます。そういう人だから悪気はないのかもしれない、と前提がわかっていたり、フォローする人がいたりすると、本筋と関係のないところでストレスを感じることが減る。  新しく入った人が動きやすいかどうかは、本人の適応力だけで決まるわけではなさそうです。 人事異動で来た人には、年間の見通しごと伝える  放送では、派生する問いも扱われました。大企業の人事異動で来た人が、自分から志願したわけではなく受け身の状態で、思ったように動いてくれない場合はどうするか、というものです。  金氏は、スタートアップと大企業の最大の違いはスピード感だと言います。スタートアップは目の前の案件を一件ずつ形にしていく段階で、そのやり方自体を自分たちで作らなければなりません。一方で大企業は、一年のうちどのあたりが忙しく、どのあたりで戦力が欲しいのかが、だいたい決まっている場合が多い。  だとすれば、基本は同じく期待の調整をしたうえで、年間スケジュールのイメージまで含めて伝えるとよい、というのが金氏の提案でした。なぜこのあたりまでに戦力になってほしいのか。なぜこの時期までにこれができるようになってほしいのか。繁忙期という共有された前提があるぶん、期待の伝え方にも具体的な根拠を持たせやすくなります。  金氏は最後に、自身も面接や面談を数多く行いながら失敗もしてきたと語っています。究極的には、一緒に働くまでわからないところは残る。だからこそ、ミスマッチが少なくなるように努力することが大事で、採用前と採用直後にはより意識を向けたい、と。  河原あずさも、なんとなくで採用して、なんとなくで期待して、活躍してもらう。そういう奇跡を待つスタンスではなく、確率を上げるためのアプローチを、手を抜かずに積み重ねていくことが大事だとまとめました。 まとめ •      「動いてくれない」の原因は本人の力量ではなく、採用前から積み残された期待のギャップにあるかもしれない •      即戦力でも、文化やスタイルの違う場所で翌日から活躍できることはたいていない。順応の期間を織り込む •      オンボーディングそのものが即戦力化のためのプログラム。裁量や情報が足りないなら、渡せる側が設計する •      オンボーディングは片側では成立しない。情報にアクセスでき、わからないことを聞ける状態を先に作って伝える •      「即戦力」を、1か月後・3か月後という時間軸に言語化してすり合わせる •      周囲の人にも、なぜ入ってきて、いつ頃どのくらい活躍すると期待されているのかを共有する よくある質問(Q&A) Q1. 即戦力として採用した人が、思ったように動いてくれません。何から見直せばよいですか? A. 本人の力量のみに期待するよりも先に、採用前のすり合わせを振り返ってみてください。「こういうことを期待している」という話が、どこまで具体的に伝えられていたか。とくにスタートアップでは採用直後が一番モチベーションの高い状態であることが多く、その段階で動いてくれないと感じるなら、入社前の前提が揃っていない可能性があります。即戦力だと思っていたのは採用した側だけ、ということも起こります。 Q2. 即戦力採用のオンボーディングでは、何をすればよいですか? A. オンボーディングそのものが即戦力化のためのプログラムです。事業やMVVを言語化して伝えるだけでなく、本人が自分なりにどう理解したかをアウトプットしてもらうこと。業務についても、何をやればいいか、何に躓いたかを毎日確認し合うこと。あわせて、情報にアクセスできる状況を作ったうえで「わからないことは聞いてほしい」と先に伝えておくと、入る側と迎える側のマインドセットが揃いやすくなります。 Q3. 「即戦力」の期待値は、どう伝えればすり合いますか? A. 明日からこのレベル、という漠然とした形ではなく、1か月後・3か月後にどういう状態を目指すのかを言葉にして、本人とも周囲のメンバーとも合意しておくことです。大企業のように年間の繁忙期が決まっている組織なら、年間スケジュールのイメージごと伝えると、なぜこの時期までにこれができてほしいのかが伝わりやすくなります。 ▶ この記事のもとになった対話は、以下からお聴きいただけます。  「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。  Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。新しく迎えたメンバーとの関係づくりや、期待のすり合わせから見直したい方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年10月7日

最終更新日:

即戦力採用がうまくいかない。オンボーディングで期待のギャップを埋める

即戦力として採用したのに動いてくれない。その原因は本人の力量ではなく、期待のすり合わせにあるのかもしれません。心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが、採用前から始まっているギャップを、オンボーディングでどう埋めるかを語ります。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】 手放しマネジメントとは、部下が小さく挑戦し、失敗から学べる構造を整えたうえで、マネージャーが実務を段階的に手放していくマネジメント手法です 丸投げや放任とは違います。「構造を整えてから任せる」という順番に本質があります 手放せない原因はスキル不足ではなく、「仕事量=自分の価値」という呪縛と、走り続けたままの感情の状態にあります 手放す準備として、自分の感情をニュートラルに整えるEQ(感情知能)が前提のスキルになります  【目次】 1. 「もっと部下に任せろ」と言われても、任せられない 2. 手放しマネジメントとは 3. なぜ管理職は手放せないのか。「手放せない病」の正体 4. 放任・丸投げとの違い 5. 手放しマネジメントの実践ステップ 6. 手放せる管理職が、チームをどう変えるか 7. 手放しマネジメントと「組織調律」の関係 8. よくある質問 9. まとめ:手放すことは、チームの設計を変えること  経営層や人事から「もっと部下に権限移譲を」と言われながら、今夜も結局、自分で実務を回している。そんな管理職の方に向けて、この記事では「手放しマネジメント」という考え方を整理します。  【抱え込み・放任・手放しマネジメントの違い】 観点 抱え込み 放任(丸投げ) 手放しマネジメント 仕事の渡し方 渡さず自分で処理する 構造を整えずに「自由にやって」と渡す 小さな挑戦から段階的に渡す 失敗の扱い 失敗させない 部下が一人で抱える 上司と部下が一緒に言語化し、学びに変える 管理職の状態 張り詰めたまま消耗する 関心が向いていない ニュートラルに観察している チームに起きること 指示待ちと離職 不安で動けない 自律的な成長 「もっと部下に任せろ」と言われても、任せられない  「自分じゃないと、この現場は回らない」「部下に任せたら、クオリティが下がって結局自分が尻拭いをすることになる」「教える時間があったら、自分でやったほうが早い」。  責任感の強い管理職ほど、こうした言葉とともに仕事を抱え込みます。周りから権限移譲を促されても、手放した後のことを考えると怖くて、結局は深夜まで自分の手で実務を回してしまう。思い当たる方も多いのではないでしょうか。  先にお伝えしたいのは、これは根性や覚悟の問題ではない、ということです。手放せないことには、はっきりした構造があります。そして、その構造を踏まえた任せ方には名前があります。それが「手放しマネジメント」です。 手放しマネジメントとは  手放しマネジメントとは、部下が小さく挑戦し、失敗から学べる構造を整えたうえで、マネージャーが抱えている実務を段階的に手放していくマネジメント手法です。Potage代表の河原あずさが、中間管理職の支援の現場から提唱している考え方で、仕事の放棄でも、責任の放棄でもありません。  むしろ「チームの設計を変える」という、極めて高度なマネジメントです。手放す対象は、目の前のタスクだけではありません。「すべて自分で抱えるのが責任だ」という前提そのものを手放し、部下の挑戦・失敗・学びの循環が回る構造をつくることに、マネージャーの時間と関心を移していきます。  なぜいま、この考え方が必要なのでしょうか。プレイヤーとしての成果、部下の育成、離職防止、1on1の実施。上と下に挟まれた中間管理職の毎日は、限界まで張り詰めたピアノの弦のような状態にあります。張り詰めた弦は、どんな名演奏家が弾いても美しい音を出せません。手放しマネジメントは、この弦を緩め、チーム全体が響き合う状態に戻すための実践です。 なぜ管理職は手放せないのか。「手放せない病」の正体  優秀な管理職ほど手放せないのには、大きく3つの理由があります。  第一に、「自分がこなしている仕事量=自分の組織における価値」という呪縛です。いま管理職を務めている方の多くは、現場の最前線で誰よりも手を動かし、質とスピードで評価されてきた「優秀なプレイヤー」でした。その成功体験の延長線上で昇格しているため、自分の手から仕事を減らすことが、そのまま自分の存在意義を削る行為のように感じられてしまうのです。  第二に、恐れと不安です。「自分じゃないと回らない」という言葉は、一見すると責任感の表れに聞こえます。しかしその奥には、自分が抜けたらチームが崩れるのではないか、任せて失敗されたら自分が責任を被るのではないか、現場を離れた自分には価値がないのではないか、という恐れが潜んでいることが少なくありません。責任感に見えているものの正体が、恐れであることは意外に多いのです。  第三に、プレイヤー時代の「走り続けるモード」が切れないままになっていることです。次々に飛んでくる通知に即座に反応し、目の前の火消しに追われ続ける。この状態のままでは、チームの構造を俯瞰したり、部下とじっくり向き合ったりする「立ち止まる時間」が取れません。手放すための準備に向き合う余裕がそもそもない、いわば「手放す以前」の状態です。  そして、マネージャーの張り詰めた空気はチームに伝わります。過緊張の空気の中では、メンバーは安心して発言や挑戦ができず、チームビルディングの土台となる心理的安全性が育ちにくくなります。  ここまでを整理すると、手放せないのは本人の能力や性格の欠陥ではなく、「呪縛・恐れ・走り続けるモード」という構造と感情の状態の問題です。だからこそ、解決の入口は「がんばって任せる」ことではなく、状態を整えることになります。 放任・丸投げとの違い  手放しマネジメントについて最も多い誤解が、「放任」との混同です。  部下の能力や経験を考慮せず、「あとは君を信頼して任せたから、自由にやっていいよ」と言って放置するのは、手放しマネジメントではありません。それは構造なき丸投げ、いわば放任です。役割分担が曖昧なまま「自由にやってみて」と言われても、部下はどこまでが自分の責任範囲か分からず、怒られるのが怖くて動けません。  両者を分けるのは、順番です。手放しマネジメントは「構造を整えてから、任せる」という順番を守ります。整えるべき構造は、たとえば次のようなものです。 どこまでが部下の責任範囲か(期待役割) 何を基準に評価されるのか(評価軸) 最終的な意思決定は誰が持つのか(意思決定のライン) 失敗したとき、どうリカバリーするか(やり直しがきく範囲の設計)  もうひとつの違いが、失敗の扱いです。「失敗は成功のもと」という言葉を、無邪気に信じすぎないほうがよいと考えています。部下は、失敗したからといって自動的に学び、成長するわけではありません。失敗を学びに変えるには、失敗の直後に「なぜうまくいかなかったのか」「次はどうアプローチを変えるか」を上司と部下が一緒に言語化する、フィードバックの循環が設計されている必要があります。  放任は失敗を部下ひとりに背負わせます。手放しマネジメントは、失敗を一緒に言語化して、チームの学びに変えます。ここが決定的な違いです。 手放しマネジメントの実践ステップ  では、どこから始めればよいのでしょうか。順番として、4つのステップで考えることをおすすめします。  第一歩は、任せ方のテクニックではなく、自分の感情を整えることです。「部下に任せるのが不安だから自分でやってしまおう」という自己防衛の感情に引きずられているのか、それとも「この業務は本当にマネージャーが持つべきリスク管理の領域」なのか。この見極めには、自分の感情をニュートラルに保ち、感情を「情報」として読み取る力、すなわちEQ(感情知能)が働いている必要があります。自分がいま何に不安を感じているのかに気づけて初めて、「やるべきこと」と「やらなくていいこと(部下に任せること)」の仕分けが正確にできるようになります。  第二に、小さな挑戦を設計することです。いきなり会社の屋台骨を揺るがすような仕事を渡すのではなく、傷が浅く済み、やり直しがきく範囲で、挑戦の機会と権限を渡します。小さな成功体験と小さな失敗体験を積める場をつくることが、部下の自律的な成長の起点になります。  第三に、1on1を「進捗確認の作業」から「調律の対話」に変えることです。心に余白のないまま1on1を詰め込んでも、通知が鳴るたびに視線が泳ぐ様子から、部下は「この人は自分の話を聞きたいわけじゃないんだな」と瞬時に察知します。議題の処理だけに集中せず、その場の感情の温度感や、どちらがどれだけ話しているかを観察する。相手が沈黙しているとき、「やる気がない」と切り捨てるのではなく、「何か感情の引っかかりがあるのではないか」と仮説を立てて問いかけを変えてみる。ときには「実は僕も今の進捗には不安があるんだ」と自分から本音を開く。こうした積み重ねが、挑戦と失敗を学びに変えるフィードバックの循環を支えます。  第四に、構造を見直し続けることです。手放しは一度きりの権限移譲ではなく、役割分担・期待値・ボトルネックを観察しては微調整する、続いていく営みです。  そして、最初の一歩はごく小さくて構いません。明日から「1つだけ」手放せるとしたら、何を、誰に向けて手放すか。自分がやらなくても成立するタスクを1つだけ、勇気を出して部下に渡してみる。その小さな実践が、チームの設計を変える起点になります。 手放せる管理職が、チームをどう変えるか  管理職が手放しマネジメントを実行できるようになると、チームには段階的な変化が起きます。  まず、若手・中堅メンバーが育ち始めます。細かな干渉をやめ、構造を整えたうえで挑戦の機会を渡し続けることで、メンバーは「自分の頭で考え、自分の力で完遂する」経験を積みます。指示を待つ働き方から、自律的に動く働き方への変化です。  次に、エンゲージメントが上がります。エンゲージメントとは、単なる愛社精神や満足度のことではなく、「自分はこのチームで信頼され、意味のある役割を任されており、自分の成長が組織の目標とつながっている」という確信から生まれる、内発的な動機づけの強さを指します。いざという時は上司が壁になって守ってくれるという心理的安全性の土台があるからこそ、人は全力を出せるのです。  そして、離職が減ります。若手が辞める理由は、待遇への不満だけではありません。「この上司の下では、これ以上の成長機会がない」「上司はいつも忙しそうで、自分のキャリアに関心を持ってくれない」という閉塞感が、退職の引き金になります。管理職が部下の成長と構造の設計に時間を使うようになると、「このチームにいれば、もっと挑戦できる」という未来への確信が生まれます。  実際の変化の例を紹介します。ある企業のマネージャーは、部下への仕事の割り振り方が分からず、「自分で抱えたほうが早い」とタスクを抱え込んでいました。しかし自身の業務があふれ、チームから離職者も出たことをきっかけに、EQ開発のセッションを実施。チーム全体の役割分担を見直し、自分の仕事を「プロダクトの品質を保つためのモニタリング」と「人材の育成」の2つに絞り込む手放しを行いました。すると、それまでマネージャーの顔色をうかがいながら仕事を進めていたメンバーの表情が変わり、改善ミーティングが自発的に立ち上がり、活発に意見が飛び交うようになったのです。  これは魔法ではありません。感情の調律と、構造の再設計。この両輪が噛み合ったときに起きる、再現性のある変化です。 手放しマネジメントと「組織調律」の関係  Potageは、メンバー一人ひとりの違いを前提に、人と人のあいだの関係性をEQと対話で整えるアプローチを「組織調律」と呼んでいます。手放しマネジメントは、この組織調律を管理職の立場から実践するための、具体的な方法のひとつです。  調律師は、弦を直接弾く演奏者ではありません。全体の響きを聴きながら、張りすぎた弦を少し緩め、緩んだ弦を少し張る存在です。管理職が実務をすべて自分で弾き続けるのをやめ、チーム全体の響きを聴く側に回ること。手放しマネジメントとは、演奏者から調律師への役割の転換だと言い換えることもできます。  そして、その前提には自分自身の調律があります。自分の感情の癖、恐れや不安のパターンを知らないまま、チームだけを整えることはできません。Potageが提供するEQPI®診断が、性格という「変えられないもの」と感情の扱い方という「変えられるもの」を仕分けるところから始まるのは、このためです。  組織調律の考え方について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。 よくある質問 Q. 手放しマネジメントとは何ですか? A. 部下が小さく挑戦し、失敗から学べる構造を整えたうえで、マネージャーが実務を段階的に手放していくマネジメント手法です。仕事の放棄ではなく、チームの設計を変えることに本質があります。Potage代表の河原あずさが、中間管理職支援の現場から提唱しています。 Q. 放任や丸投げとは何が違いますか? A. 順番と、失敗の扱いが違います。放任は構造を整えないまま「自由にやって」と渡し、失敗を部下ひとりに背負わせます。手放しマネジメントは、責任範囲・評価軸・やり直しのきく範囲という構造を整えてから任せ、失敗を上司と部下が一緒に言語化して学びに変えます。 Q. 部下に任せると品質が下がりそうで不安です。 A. その不安自体は自然なもので、なくす必要はありません。大切なのは、不安に引きずられて抱え込むのではなく、不安を「情報」として扱うことです。品質に直結するリスク管理の領域は手元に残し、傷が浅くやり直しがきく仕事から渡す。この仕分けができれば、品質を守りながら部下の成長機会をつくれます。 Q. 何から始めればいいですか? A. 明日から「1つだけ」手放すことから始めてみてください。自分がやらなくても成立するタスクを1つ選び、誰に渡すかを決めて、実際に渡してみる。あわせて、自分がなぜそのタスクを抱えていたのか(不安なのか、リスク管理なのか)を言葉にしてみると、2つ目以降の手放しが楽になります。 まとめ:手放すことは、チームの設計を変えること  手放しマネジメントとは、構造を整えたうえで実務を段階的に手放し、部下の挑戦・失敗・学びの循環をつくるマネジメント手法です。手放せないのは責任感の強さや能力の問題ではなく、「仕事量=価値」の呪縛と、走り続けたままの感情の状態によるものです。だからこそ、最初の一歩はテクニックではなく、自分の感情を整えることから始まります。  自分がどんな場面で不安に引きずられ、何を抱え込みやすいのか。その癖を知ることが、手放しの出発点になります。Potageの公式LINEでは、自分の感情の癖を可視化するEQ診断のキャンペーンや、チームづくりに関する読み物を配信しています。抱え込むマネジメントから一歩踏み出したい方は、ぜひLINEにご登録ください。 取材記事:UNITE(Unipos株式会社運営) マネージャーに必要なのはスキルより“EQ”。サバイブモードから抜け出す組織づくり 関連記事 中間管理職の「板挟み」はなぜ起きるのか。その正体と、抜け出すための視点 EQ検査・MBTI・ストレングスファインダーの違いと選び方|チームで活かすならどれ? 参考記事:日経COMEMO EQ時代の中間管理職サバイバルより  「手放せる管理職」が強いチームを作る~マネジメントの戦闘モードを脱却する組織構造改革~  中間管理職よ「無理ゲー」を脱出せよ!板挟みを抜け出す感情マネジメント術の極意 著者 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師)

2026年10月6日

最終更新日:

手放しマネジメントとは。放任との違いと、抱え込む管理職が最初にやること

手放しマネジメントとは、部下が小さく挑戦し失敗から学べる構造を整えたうえで、実務を手放していくマネジメント手法です。放任との違い、手放せない原因、実践の順番を、EQと組織調律の視点から解説します。

河原あずさ(Potage代表)

【この記事のまとめ】 AIで作業は目に見えて速くなった。それなのに、働く時間は減っていない。そんな感覚はないでしょうか。 AIは考えてくれますが、現実の世界で実行はしてくれません。だからこそ、人の時間は「人が動く仕事」に移していけます。 NOKIOO・小田木朝子さんと河原あずさの対談の前半から、AIをチームの一員として迎えるマネジメントを探ります。 【目次】 AIは「相棒」になった。それなのに、仕事は減っていない 空いた時間を、次の作業で埋めていないか AIは考えてくれる。でも、実行はしてくれない AIを「一人のメンバー」として迎えてみる Potageで起きた、小さな革命 空いた時間の使い道は、選べる  議事録はAIがまとめてくれる。資料の下書きも、あっという間にできあがる。それなのに、夕方になっても仕事は終わらず、むしろ以前より忙しくなっている気さえする。そんな不思議な感覚を持っている方は、少なくないかもしれません。  この記事は、人材開発・組織開発を手がけるNOKIOO取締役の小田木朝子さんと河原あずさの対談をもとにして作成しています。月1回ペースで続いてきたコラボの3回目、今回のテーマは「AI時代のチームマネジメント」です。対談は前半と後半に分かれていて、この記事は前半(あずさんのチャンネル)をもとにしています。 前半(あずさんのチャンネル。この記事のもとにした回) 後半(小田木さんのチャンネル「明日の景色を変える仕事サプリ」) AIは「相棒」になった。それなのに、仕事は減っていない  小田木さんにとって、AIはすでに仕事に欠かせない存在になっているそうです。  常に傍らで動いて、一緒に仕事をしてくれる相棒みたいな感じになっていて。たった半年とか1年弱の期間の中で、もう切っても切れない関係性にしてしまうAIのパワーに、本当に驚いてますね。 一方で、ちょうど社内で「あれ、そういえば」という話になったことがあると言います。文章を書くのも、考えをまとめるのも、アウトプットにかかる時間は劇的に短くなった。議事録ひとつ取っても、以前は一次メモを取ってまとめて編集していたのが、今では何分の一の時間もかからない。それなのに、働く時間は減っていない。むしろ忙しくなっていないか、と。  ふたりはこれを「AI七不思議のひとつ」と笑い合いましたが、笑い話では終わらない論点です。AIによって起きている変化を、私たちはまだつかみきれていないのかもしれません。 空いた時間を、次の作業で埋めていないか  あずさんにも、思い当たる経験がありました。コンサルティングの仕事が多かった時期、ブラウザのウィンドウというウィンドウに生成AIの画面を開き、ひとつに指示を入れて動かしている間に、別のウィンドウでもうひとつ動かす。複数のプロジェクトを同時に進めようとした結果、日中、目が開かなくなるほど疲れ果ててしまったそうです。AIの処理速度は、人間の認知能力を超えています。それ以来、AIが動いている待ち時間に別の指示を打つのはやめて、目と脳を休める時間にあてるようになりました。  小田木さんは、この「生み出された時間」の行き先をこう捉えます。 何らかの時間は生み出せているはずなんですよね。じゃあその生み出した時間を何に使うのか、そもそも今は何に使ってしまっているのか。ちょっと無自覚だけれども、考えていいテーマだなって、すごく思うようになりつつありますね。  空いた時間を、無自覚に次の作業で埋めていく。それを続けている限り、AIがどれだけ速くなっても忙しさは変わりません。まず、自分が空いた時間を何に使っているかに気づくこと。そこが出発点になりそうです。 AIは考えてくれる。でも、実行はしてくれない  では、生み出した時間は本来、何に使えるのでしょうか。対談の中で軸になったのは、AIにできることと、できないことの線引きでした。 AIにできること:考える・まとめる・書くといった、構想とアウトプットを速くすること AIにできないこと:現実の世界で人と関わり、人が動いて、何かを作り上げること  現実世界の実行っていうのは、結局、人と関わって、人を動かすとか、人に動いてもらうとか、人が動くことで現実の何かを作り上げるとか。そこの精度を上げることに時間を使えると、AIの中で構想するものと現実の世界がいい感じに前進していくことが、うまくリンクするのかもしれないなって思い始めています。  この小田木さんの言葉を、あずさんは「それはすなわち、マネジメントですね」と受けました。AIが空けてくれた時間の行き先として、人を動かし、人と一緒に何かを作り上げる仕事、すなわちマネジメントが浮かび上がってきます。 AIを「一人のメンバー」として迎えてみる  AIの話になると、つい「人かAIか」という二者択一や、仕事の奪い合いの構図で考えてしまいがちです。対談で出てきたのは、それとは違う「AIを含めたチームを作る」という発想でした。  ChatGPTにはChatGPTの、GeminiにはGeminiの、ClaudeにはClaudeの人格がある、とふたりは口を揃えます。小田木さんはChatGPTを仕事のパートナーに、Geminiを植物の育成や雑談の相手にと使い分けていて、あずさんにとってClaudeは、甘い判断に待ったをかけてくれる監査役のような存在なのだそうです。それぞれのキャラクターを見立てて、適材適所で役割をはめていく。まるでチームを組成するような感覚です。  例えて言うなら、超絶記憶力が良くて、超絶アウトプットの速度が速い新人が入ってきたようなものなんですよ。会社のことも業務のことも全く分からないけど、インプットしたら何でも返してくれる。そういう偏った新人に、じゃあどういう役割を与えるのか。周りの人たちとの関係性をどう組み立てて設計していくのか。そういう観点で入れていくと、みんなが腹落ちした状態でAIと関われるようになるのかなって。  このあずさんの見立てを、小田木さんはこう広げます。チームに新しい誰かが加わると、つい今のやり方に適応させようとしてしまう。けれど本当は、新しいメンバーが入ったのなら、仕事の進め方も、誰が何を担うかという分け方も含めて、新しく変えていけばいい。加わった側を今の枠にはめるのではなく、顔ぶれに合わせて仕事の側を変えていく。AIの導入は、その良い機会になるのかもしれません。 Potageで起きた、小さな革命  実際に、Potageの現場でも変化が起きています。PotageではEQ(感情知能)検査のフィードバックに、検査結果を独自に分析したレポートを使っていますが、その作成はこれまで手作業で、1名あたり10時間近くかかることもありました。半年の試行錯誤の末、数値を入れるとAIがレポートを吐き出してくれるところまでたどり着いた、その瞬間に起きた話です。  レポート作りに関わっていた2人のメンバーの業務が、ほぼゼロになったんですよ。そうすると何が起きるかというと、じゃあこのリソースが空いたときに、本当にやってほしい仕事って何だったっけ、っていう問いかけが生まれたんです。人海戦術で何とかしようとしてもらっていたけど、本来それをやってほしくて雇っているわけじゃない。どれをやっていくのが一番組織にとっていいんだろうって、考えるフェーズにようやく入れたんです。  小田木さんが反応したのは、空いた時間を「そこらにあるもの」で埋めようとしなかった点でした。空白ができたとき、手近な作業で埋めるのは簡単です。けれどそこで立ち止まり、本当にやってほしい仕事は何かを問い直す。こうした小さな革命は、これからいろいろな組織で起きてくるのではないでしょうか。 空いた時間の使い道は、選べる  AIが進化すれば、人の仕事は自然と本質的なものに移っていく。そのように言うこともできます。ただ、対談の締めくくりに小田木さんが置いたのは、もう一歩踏み込んだ言葉でした。  移っていくとも言えるし、意思を持って移していきたい、ですよね。さっきのエピソードは、結果的にそうなったというよりも、そこで問いを立てて、そこらのもので埋めようとしなかった。そっちじゃないよ、あっちだよっていうことを、選び取っていけたらいいなって思いました。  AIに時間を奪われて回し続けるのか、生み出した時間で人と関わり、現実を前に進める仕事に踏み出すのか。本当は選べるはずのその分かれ道を、無自覚に通り過ぎないこと。AIを一人のメンバーとして迎え、チームの形ごと問い直していくことが、AI時代のチームマネジメントの入り口になりそうです。この続きは、後半の対談(小田木さんのチャンネル)で語られています。 小田木さんの発信について  小田木さんのVoicy「明日の景色を変える仕事サプリ」では、仕事・キャリア・人生に効く音声を毎日配信中。後半の放送は以下からお聴きいただけます。  また、記事の内容について、WEBサイトでも公開中です。 【対談レポート】AI時代、人は何に時間を使うのか―「編集長」としての判断軸を考える(Potage・河原あずささん対談)  Potageからのご案内 PotageはEQ(感情知能)診断とワークショップを通じて、「感情を扱えるチーム」づくりを支援しています。まずは、個人や組織の感情の状態を知るところから始めてみませんか。 取り組み事例を読む 対談の出演者 小田木朝子さん(株式会社NOKIOO取締役) 人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO 取締役。Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」パーソナリティ。 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) EQ(感情知能)と組織調律を軸に、チームづくりを支援。メンバーが本音を交わし、生き生きと成果を上げ続けられる組織づくりに取り組んでいる。

2026年10月17日

最終更新日:

AIは考えてくれる。でも、実行はしてくれない。AI時代のチームマネジメント/NOKIOO・小田木朝子さんと考える、AIとチームのこれから

AIで作業は速くなったのに、忙しさは変わらない。NOKIOO・小田木朝子さんと河原あずさの対談から、AIを一人のメンバーとして迎える、AI時代のチームマネジメントを考えます。

河原あずさ(Potage代表)

【この記事のまとめ】  褒め合う文化は、号令をかけてつくるものではないのかもしれません。グループチャットで「いいね」より「ごめんなさい」が押されるのは、関係が悪いからではなく、どう反応すればいいかのお手本がないから。誰が最初に押すかを決める、自分たちの言葉のスタンプをつくる。この小さな設計から変わります。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。 目次 1. 「ごめんなさい」が押される職場は、実は悪い状態ではないのかもしれない 2. 褒めるのはみんなの前で、ネガティブな指摘は1対1で 3. 最初のリアクションが文化をつくる 4. 自分たちの言葉で、スタンプをつくる 5. 「それはちょうど良かった」。言葉でリフレーミングを仕込む 6. 反応したくなる投稿を、意図して挟む 7. 褒め合う文化は、管理職ひとりでつくるものではない 8. まとめ 9. よくある質問(Q&A) 導入  チームで褒め合う文化をつくりたい。そう思っているのに、グループチャットに投稿しても「いいね」はあまり押されず、代わりに「ごめんなさい」のスタンプばかりが並ぶ。前向きな職場にしたいのに、やりとりがどこか申し訳なさそうな空気をまとってしまう。  「褒め合いましょう」と号令をかけてみても、それで急に褒め言葉が飛び交うようにはなりません。かといって、何から手をつければいいのかが見えない。前向きな職場づくりは、気持ちの問題として片づけられがちで、具体的な一手が語られることは多くありません。  この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、地方の不動産会社に勤める管理職のリスナーさんから寄せられた「チーム内で褒め合う文化をつくるのが難しい。グループチャットで、いいねボタンではなくごめんなさいのボタンを押す人が多い」というご相談に答えました。 「ごめんなさい」が押される職場は、実は悪い状態ではないのかもしれない  まず金氏が投げかけたのは、そもそもどんなテンションの文面がチャットに流れているのか、という視点でした。かっちりした文章が並ぶ場では、「いいね」だけで済ませていいのだろうかと受け手が迷ってしまう。逆に、書き手の感情が乗っていたり、何が嬉しかったのかが伝わったり、誰かの活躍を紹介していたりする文章には、いいねやハートがつきやすい。反応の少なさは、メンバーの前向きさの問題ではなく、投稿そのものが反応しづらい形をしている可能性があるということです。  そのうえで、河原あずさと金氏が揃って指摘したのが、心理的安全性がもっとも低いのはノーリアクションの状態だという点でした。「ごめんなさい」であっても、何かしらの表明はされている。金氏は「必ずしも悪い状態ではない気がする」と語っています。ここは、ご相談を読み替える出発点になりそうです。  ナビゲーターの黄瀬真理も、放送の終わりにこう振り返っています。「ごめんなさい」は、ごめんなさいという意味ではなく、ありがとうの意味で使われているのかもしれない。であれば、いきなり褒め合うところを目指さなくてもいい。謝るよりありがとうが自然に出てくる仕掛けをつくることが、その先の褒め合う文化につながっていくのかもしれません。 褒めるのはみんなの前で、ネガティブな指摘は1対1で  ZENTechの代表として人を褒めたり承認したりするときに気をつけていることを尋ねられ、金氏が原則として挙げたのは次の2つでした。褒めるときは、できる限りみんなの前で。ネガティブなフィードバックは、できるだけ早く1対1で。  理由も明快です。褒めるというのは素敵な行動をしてくれたことに対するものなので、みんなが知ったほうがいい。一方でネガティブな話をみんなの前でやると、糾弾のような場になってしまう。だから1対1で伝える、というのが金氏の考え方です。  この使い分けを徹底すると、副次的な効果が生まれます。表に出るコミュニケーションが、基本的にポジティブなものだけになる。チャットも会議も、目に入るやりとりが前向きなものばかりであれば、メンバーの側も自然と人に前向きに接するようになっていきます。褒め合う文化の土台は、褒め言葉を増やすことより先に、この置き場所のルールにあるのかもしれません。  なお、1対1で伝える場をどう設計するかについては、関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。 最初のリアクションが文化をつくる  では、チャットのリアクションそのものはどう増やすのか。金氏が挙げたのは、グループチャットの仕様上、最初についたスタンプが一番数を伸ばしやすいという点でした。あとから見た人は、すでにあるスタンプに乗るだけで済むからです。だとすれば、早めに見た人がいいねをつけてくれれば、いいねがつく方向に文化は傾いていく。「見た人はできるだけ早くリアクションする」というルールを1つ決めておくだけでも変わるのではないか、というのが金氏の見立てです。ZENTechでは、誰かが何か書いたらまずスタンプを押す、というグランドルールのようなものができているといいます。  河原あずさは、これに近いことをコミュニティづくりの支援の現場で繰り返し伝えてきたと語ります。社内でオンラインコミュニティを立ち上げたものの、投稿しても誰も反応せず、そもそも投稿も生まれない。そうしたご相談は非常に多いのだそうです。そのときに河原あずさが率直に答えるのは、お手本がない状態でいきなり投稿を生み出すのは難しいということ。だからまず、単純ないいねが起きやすい投稿を事務局側がして、それに反応する文化をつくるところから始める。「投稿を見たらすぐハートでもいいねでも押してください」と伝えるのだといいます。反応がなければ投稿した人は投稿をやめ、数が溜まらなければ他の人も乗ろうと思わない。土台は、半分は仕込みでつくってしまっていい、という考え方です。  金氏はこれを「行列ができているラーメン屋はうまいと思う」のと同じ話だと表現しました。この場では反応するのが当たり前なんだ、というところまで持っていく。河原あずさも、人は行動しやすいほうに動く生き物なので、そちらに行動しやすいよう状況をデザインすれば自然とその方向に向かう、と応じています。最初にスタンプを押す役割の人を決めてしまう。それだけの工夫が、地味に効いてきそうです。 自分たちの言葉で、スタンプをつくる  もうひとつ、両者が揃って実践していたのが、自社ならではのスタンプをつくるという方法でした。  Potageで使っているグループウェアはSlackで、スタンプを自作できます。Potageが取り扱っているEQの検査には「共感」といった因子があり、その言葉をそのままスタンプにして置いておいたスタッフがいた。すると、みんながその「共感」を使うようになったといいます。  ZENTechでも同じことをしていて、金氏が挙げたのは「グランサンクス」。ありがとうの最上級を表すスタンプです。ほかにも「神」や、盛り上げるときの「わっしょい」といったものがあるそうです。  既存の絵文字は、意味が最大公約数的に決まっています。自分たちの言葉でつくったスタンプは、そのチームが何を良しとしているかを、押すたびに共有していくことになる。褒め合う文化を言葉で説明する代わりに、押せる形で置いておく。ここは、今日からでも試せる一手です。 「それはちょうど良かった」。言葉でリフレーミングを仕込む  金氏がスタンプの話から続けて紹介したのが、ZENTechの「それはちょうど良かった」という文化でした。トラブルが起きたら、まず全員で「それはちょうど良かった」と口にする。専用のスタンプもあるそうです。  トラブルが起きて「で、どうするの」と正面から見つめても、何も始まらない。ネガティブな面ばかりに目が行ってしまう。だから一度ポジティブに前向きにセットし直し、トラブルとの距離をきちんと取ってから、じゃあどうしようかと考え始める。研修やワークショップの現場でプロジェクターが消えるといった予期せぬトラブルが起きたときも、講師が壇上で「それはちょうど良かったですね、ちょうど良かったのでアドリブしますけども」と返すのだといいます。  河原あずさはこれを、発する言葉でリフレーミングを自動的に行う仕組みだと受け取りました。ネガティブな要素があっても、最初の言葉ひとつで前向きなものとして受け取られる。いい意味での認知のバグを利用している、という言い方をしています。金氏も、起きてしまったことを正面からすぐ見ようとすると、どうしてもマイナスな方ばかりを言ってしまう。見ている視点を変えてしまうのがおすすめだ、と語りました。  前向きな職場をつくるというと、メンバーの心構えを変える話になりがちです。けれど実際に効いているのは、決まった言葉を決まったタイミングで口にするという、行動様式のほうなのかもしれません。 反応したくなる投稿を、意図して挟む  金氏がもうひとつ挙げたのは、SNSからの学びでした。Facebookなどを眺めていると、どういう投稿ならいいねが集まりやすいかを、皆さん投稿しているあいだに体感で学んでいるように見える。であれば、自社のグループチャットでも、いいねが増えた投稿はどれだったかを見返してみるといいのではないか、という提案です。  たとえば、その人の転機になっているような話。転職しましたという報告。あるいは新入社員の自己紹介投稿。頑張ってほしいという気持ちも込めて、みんなが押したくなる投稿というものがある。毎日そういう出来事が起きるわけではないけれど、ふとしたイベントごとにいいねが集まっていることは案外あります。  河原あずさは、そうした反応したくなる投稿を合間に挟むこと自体が、見る側にいいね癖をつけるキュレーションになると述べました。反応は結局のところ習慣です。押したくなる投稿を意図的に置くことで、その習慣が育っていく。金氏も、画面から見ていいねが多い場だと分かると、褒められている文化に見えてくるはずだと応じています。 褒め合う文化は、管理職ひとりでつくるものではない  ここまでの工夫を振り返りながら、金氏がこぼしたひとことがあります。褒め合う文化を、この管理職の方ひとりでどうにかつくろうと考えなくてもいいのではないか。  河原あずさも、そもそも文化はひとりで作れるものではないと同意しました。みんなが「いいね」と思うのはどんなことなのかを、チームで考えてみる。日常の行動に残したいなら、物事を前向きに捉える行動様式のほうから入っていく。その合わせ技で、前向きな職場づくりは進んでいきそうだ、というのが放送の着地でした。  ひとりで抱え込んだまま前向きな空気をつくろうとすると、管理職の側が先に消耗します。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」も参考にしてみてください。  チャットは、お互いの顔が見えません。それでも、いいねがつくスピードや、いいねなのかごめんなさいなのかという選択から、人はその場の文化を感じ取っています。だからこそ、仕組みでなんとかできる部分がある。「今日からこういうルールにしてみようか」とチームに持ちかけるところが、最初の一歩になりそうです。 まとめ •      「ごめんなさい」が押される職場は、悪い状態とは限らない。心理的安全性がもっとも低いのはノ ーリアクションの状態 •      褒めるときはみんなの前で、ネガティブな指摘は早く1対1で。表に出るやりとりがポジティブなものになる •      最初についたスタンプが一番伸びる。「見た人はできるだけ早く押す」というルールを決めてしまう •      反応の土台は仕込みでつくっていい。まず率先して押す役割を置く •      自分たちの言葉でスタンプをつくる。何を良しとするチームなのかが、押すたびに共有される •      トラブル時の第一声を決めておくなど、言葉でリフレーミングを仕込む •      反応したくなる投稿を意図して挟み、いいね癖を育てる •      褒め合う文化は、管理職ひとりでつくるものではない よくある質問(Q&A) Q1. グループチャットで「いいね」より「ごめんなさい」が押されます。心理的安全性が低いのでしょうか?  A. 必ずしもそうとは限りません。心理的安全性がもっとも低いのは、何のリアクションもない状態です。「ごめんなさい」であっても表明はされているので、関係性はある程度できていると考えられます。むしろ、ありがとうの意味で使われている可能性もあります。まずは投稿の文面がかっちりしすぎていないか、反応しやすい形になっているかを見直してみてください。 Q2. 褒め合う文化をつくりたいのですが、何から始めればよいですか?  A. 号令をかける前に、リアクションのルールを1つ決めるところから始めるのがおすすめです。グループチャットは最初についたスタンプが一番伸びやすいため、「投稿を見た人はできるだけ早くリアクションする」と決めておくだけでも変わります。率先して押す役割の人を置いて、反応があるのが当たり前という状態を先につくってしまう方法もあります。 Q3. 部下を褒めるとき、どこで伝えるのがよいですか?  A. 褒めるときはできる限りみんなの前で、ネガティブなフィードバックはできるだけ早く1対1で、という使い分けが原則です。素敵な行動はみんなが知ったほうがよく、ネガティブな話をみんなの前ですると糾弾のような場になってしまうためです。この使い分けを徹底すると、表に出るコミュニケーションが自然とポジティブなものになっていきます。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。  「ごめん」を「ありがとう」に変える、褒め合うチームのつくり方  「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。

2026年9月25日

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褒め合う文化のつくり方。心理的安全性は最初のリアクションから変わる

組織開発の具体例を探している方へ。代表的な手法と実例に加えて、施策を実施しても変化が続かない理由と、定着させるための「組織調律」という考え方を紹介します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事の3行まとめ】    組織開発とは、組織の一体感を生み出し、チームが有機的に動ける状態をつくる取り組みです。1on1や組織サーベイ、理念づくりと対話の場などが代表的な具体例です。    施策を実施しても変化が続かない場合、原因は施策の不足ではなく、トップダウンとボトムアップの間に距離が残ったままになっていることが少なくありません。    組織開発の第一歩は、新しい施策を足すことではなく、一人ひとりが自分の特性と働き方の理想を言語化し、互いに共有することから始められます。    【目次】   1. 組織開発とは何か。人材開発との違い 2. 組織開発の代表的な手法と具体例 3. なぜ組織開発は「やったのに変わらない」のか 4. 施策を足す前に考えたい「組織調律」という視点 5. 組織調律の実例。COCOSTYLE社とPotage自社での実践 6. 組織開発の最初の一歩 7. よくある質問 8. まとめ:組織開発の具体例は「足す」ことより「聴く」ことから    こんにちは。Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。    「組織開発に取り組みたいが、具体的に何をすればいいのか分からない」。あるいは、「1on1もサーベイも導入したのに、何かが噛み合っていない気がする」。この記事を開いてくださった方の多くは、そのどちらかの状態にいらっしゃるのではないでしょうか。    この記事では、組織開発の代表的な手法と具体例を整理したうえで、施策を実施しても変化が続かない理由と、変化を定着させるために私が大切にしている「組織調律」という考え方を紹介します。私が支援に入っている企業での取り組みと、Potage自社での実践も、実例としてお伝えします。     組織開発とは何か。人材開発との違い  組織開発とは、組織としての一体感を生み出していくプロセスだと私は考えています。組織の中のあらゆるチームが一体感を持って、有機的に、能動的に動いていく状態。それを生み出していくことが、組織開発という言葉をシンプルに説明したときの定義ではないでしょうか。その意味で、組織開発は「チームビルディング」の延長線上にある取り組みだと言えます。    よく似た言葉に「人材開発」があります。両者の違いは、働きかける対象にあります。     組織開発 人材開発 対象 組織全体・チーム・人と人の関係 個人 目的 一体感を生み出し、チームが有機的に動ける状態をつくる 個人のスキル・能力を高める 施策の例 1on1、対話の場づくり、理念の浸透、組織サーベイ 研修、資格取得支援、コーチング    人材開発が「個人を伸ばす」取り組みだとしたら、組織開発は「人と人の間」に働きかける取り組みです。    ところで、実際に人事の方とお話ししていると、「組織開発」という言葉そのものは、現場ではあまり使われていないと感じることがあります。「チーム作り」「組織作り」「対話の機会を作る」といった表現で語られることがほとんどなのです。それだけ、組織開発という言葉には、どこか実態との距離があるのかもしれません。    この距離を紐解く鍵は、「開発」という言葉にあると私は考えています。    組織開発は、英語のOrganization Developmentの直訳です。日本語の「開発」は、もともと仏教の言葉で「かいほつ」と読み、自分の中に眠っている仏の性質を開き起こすことを意味していたと言われています。それが転じて、現代では「まだ開かれていない場所を切り開き、新しいものを作っていく」というニュアンスが強い言葉になりました。都市の再開発を思い浮かべると分かりやすいのではないでしょうか。    一方、英語のdevelopmentの語源は「包まれているものを解く」ことだと言われています。封筒を意味するenvelope(包むもの)と対になる言葉で、風呂敷に包まれたものをすっと解いて、中身を取り出すイメージです。つまり、まだないものを作り出すのではなく、すでに存在しているものを明らかにして、そのポテンシャルを解放していく。そんな意味合いを持つ言葉なのです。    「切り開く開発」と「包みを解くdevelopment」。この違いが、のちほどお話しする「やったのに変わらない」問題と深く関わってきます。まずは、具体的な手法から見ていきましょう。     組織開発の代表的な手法と具体例  組織開発の手法はさまざまですが、働きかけ方で整理すると、大きく3つに分けられます。   分類 ねらい 手法の例 組織の状態を測る 現状を可視化し、課題を特定する 組織サーベイ、エンゲージメント調査、EQなどの特性検査 個人に働きかける 一人ひとりの内省とスキルを支援する コーチング、管理職向け研修 関係に働きかける 人と人の間の対話と信頼を育てる 1on1、ワークショップ、対話の場づくり、理念の共有    実際の現場では、これらを課題に合わせて組み合わせていきます。よくあるパターンを3つ紹介します。    一つめは、メンバーが本音を言いにくい、会議で意見が出ないという課題に対して、1on1を導入するケースです。上司の方がコーチングのスキルを研修で身につけたうえで話を引き出し、個人の自発的な動きが生まれる環境を整えていきます。    二つめは、理念が現場に浸透していないという課題に対して、ビジョン・ミッション・バリューを作り直し、それについて「みんなはどう思うか」を話す対話の場やワークショップを開くケースです。    三つめは、組織の状態が見えないという課題に対して、エンゲージメントサーベイで、メンバーがどんな気持ちで働いているのかを調べるケースです。    どの施策も、それ自体はとても有効です。実際、多くの企業がこうした取り組みを熱心に進めていらっしゃいます。    ただ、こうして並べてみると、気づくことがあります。どれも「それまでやられていなかったことを、新しく足していく」アプローチだということです。そして、施策を足し続けているのに変化が続かないという悩みが生まれるのは、多くの場合、ここからなのです。     なぜ組織開発は「やったのに変わらない」のか  日本の企業で行われている組織開発には、共通する型があるように思います。    まず、経営層や人事の方が主導して、新しい理念や制度を作ります。ビジョン・ミッション・バリューが古くなったので刷新しましょう、といった形です。作ったものは「カスケード」と呼ばれるやり方で、マネージャー層から現場層へと順に落とし、浸透を図ります。そして、トップダウンだけではうまくいかないので、ワークショップや対話の場というボトムアップの取り組みを組み合わせて、腹落ちを作っていきます。    誤解のないようにお伝えしたいのですが、この型そのものは、良いアプローチだと私は考えています。変革は、トップダウンとボトムアップが融合した先にしか生まれない。これは私自身、強く実感しているところです。    問題は、トップダウンとボトムアップの間に距離が残ったまま、進んでしまう場合があることです。    少し厳しい言い方になりますが、現場の人たちが話す場を「アリバイ」のように作って、対話をやったという実績ができたら、「もうみんな大丈夫だよね」と手を放してしまう。そんなケースは、決して珍しくないのではないでしょうか。    変化が続かないとき、私たちはつい「次の施策」を探してしまいます。しかし、足りないのは新しい施策ではないかもしれません。先ほどの言葉に戻ると、これは「切り開く開発」のイメージ、すなわち、ないものを新しく作って組織に馴染ませていく発想が行き着きやすい場所なのだと思います。    では、もう一つの発想、「すでにあるものを解き放つ」に立つと、何が変わるのでしょうか。     施策を足す前に考えたい「組織調律」という視点    私はふだん、「組織調律」という言葉を使って組織づくりのお手伝いをしています。一言でいうと、みんながのびのびと働ける場所を、調律して作るという考え方です。    組織調律が大事にしているのは、その組織が「本来鳴らせる音」です。これをPotageでは「基準音」と表現しています。この組織はどんなポテンシャルを持っていて、いま、どんな人たちがどんな音を鳴らしているのか。比喩的にですが、そんなふうに組織と向き合い、「こう組み合わせると、より良い音を奏でられるかもしれない」という見立てのもとで、チームや一人ひとりと向き合って、ちょっとした調整を行っていきます。    極端なことを言えば、新しい制度も、新しい取り組みも、何も足さなくても組織調律は成り立ちます。理念の刷新や中期計画づくりと並行して進めることもできますが、それがなくても始められるのです。ここが、新しいものを作って組織に馴染ませていく組織開発の進め方との、大きな違いのひとつだと考えています。    なぜ「音」の比喩を使うのかというと、多くの組織では、自分たちの音が自分たちでは聞けなくなっているからです。目の前の業務に追われていると、濁った不協和音が流れ続けてストレスになっているような状態に陥りがちです。これは言い換えると、業務において何を優先したらいいのかが、見えなくなっている状態です。自分がどういう音を鳴らせば自然とパフォーマンスが発揮され、周りと調和できるのか。それが見えなくなっているから、困ってしまうのです。    組織調律は、組織開発を否定する考え方ではありません。むしろ、先ほどのdevelopmentの語源、すなわち「すでにあるものを明らかにして、ポテンシャルを解放する」という本来の意味に立ち返るアプローチだと私は捉えています。施策を足す前に、いま鳴っている音を聴く。その順番を大切にする考え方です。    とはいえ、これだけでは抽象的だと思いますので、実際に何をするのかを、私が支援に入っている企業での取り組みと、Potage自社での実践でお話しします。     組織調律の実例。COCOSTYLE社とPotage自社での実践  ここでは、実例を2つお話しします。一つは、私が「CEQO(チーフEQオフィサー)」、すなわち組織のEQ経営を支える役割として関わっている、COCOSTYLE株式会社での取り組みです。ウェディング事業を展開し、全国のプランナーの方々がフルリモートで働いている会社で、EQを起点にした組織調律を一緒に進めてきました。もう一つは、私たちPotageが自分たちの会社で続けている実践です。    まず、COCOSTYLE社での取り組みからお話しします。プロセスは大きく4つのステップに分かれます。     ステップ1:自分の鳴らしている音を知る  最初にやるのは、お互いのことを知ること。調律の言葉でいえば、お互いの鳴っている音を理解することです。ただ、その前に欠かせないことがあります。まず、自分自身がどんな音で鳴っているのかを知ることです。自分の音が分からない状態で、周りとハーモニーを奏でるのは難しいのです。    ここで使うのが「EQPI」という検査です。EQ(感情知能)と性格特性を可視化する検査で、自分がどんな感情の癖を持ち、どんな特性があるのかを言語化します。感情の癖や特性は、人と関わるときの得意・不得意につながります。だからこそ、検査結果をもとに「本来の自分はどういう状態で力を発揮できるのか」を言葉にしていくのです。     ステップ2:得意・苦手・モヤモヤを開示し合う  次に、言語化した内容をお互いに共有します。ポイントは、共有の仕方です。単に「自分はこういう人間です」と発表するのではなく、「こういうことを実現したいので、こういう面で支援してほしい」という言い方で、周りに伝えてもらいます。    自分はこういうことが得意でできる。こういうことは苦手だけれど、やらなければいけないと思っている。ここで困っている。ミッションを進めるうえで、こういうところにモヤモヤがある。そうしたことを、かなり細かく言語化して、助けてほしいことまで含めて口に出すのです。    なぜここまでやるのかというと、組織が噛み合っていないとき、共通して起きているのが「抱え込み」だからです。マネージャーは、優秀なプレイヤーだった方が昇格するケースがほとんどです。つまりマネージャー陣とは、「自分で何とかできる人」の集合体なのです。だからこそ「自分で何とかしよう」が先行して、苦手なことまで一人で抱え込み、孤独になっていきます。「支援してほしい」と口に出す仕組みは、この抱え込みを解くための、小さくても大きな一歩です。    やりたいことが重なっているのに、隣のチームと連携が取れていない。この部署とこの部署がつながれば実現するのに、分断されている。そんな状態も、お互いの理想とボトルネックを開示し合うことで、「では一緒にやりませんか」「私たちはこういう支援ができます」という言葉が生まれ、つながり始めます。     ステップ3:チームの中で役割分担を言語化する  開示と共有は、まずマネージャー同士で行い、次にチームの中、すなわちマネージャーとメンバーの間でも行います。マネージャーが自分の理想と、忙殺されてうまくいっていない部分、苦手なのに引き受けてしまっている部分をメンバーに開示する。メンバーも自分の思いを言語化する。そのうえで、お互いにどういう役割分担ならチームが噛み合うのかを、一緒に言葉にしていきます。    そうすると、それぞれができるだけ得意なことに向き合い、チームの成果に直結する動きを取れるようになっていきます。     ステップ4:定期的にメンテナンスする  一度整えても、時間が経つと実態からずれていきます。得意・不得意は変わりますし、新しいメンバーが入れば役割の持ち方も変わります。だから、ピアノの調律と同じように、定期的に聴き直して整え直します。一度で完成させるのではなく、続けることを前提にした取り組みなのです。     この実践が生んだもの  COCOSTYLE社では、こうした取り組みを重ねる中で、弱みや迷いを口にしても受け止めてもらえるという安心感が育ち、本音が自然に行き交う組織へと変わっていきました。社内アンケートでは、心理的安全性の指標が92%まで高まっています。詳しい経緯は、事例記事で紹介しています。    そして、同じ考え方は、私たちPotage自身の会社づくりでも実践しています。その中で、うれしい変化がありました。メンバーが、周りの人にPotageのことを「得難い居場所」だと話してくれるようになったのです。    子育てでどうしてもイレギュラーなことが起きたとき、「お互い様だから」と積極的に送り出す。大切にしている趣味の遠出も「行ってくれるとうれしい」と背中を押す。ちょっとした悩み事をメンバー間で打ち明け合う。そんな助け合いの文化が育ち、この居場所を守るためにも事業に貢献したい、という言葉が自然に出てくるようになりました。    外から与えられた目標のために働くのではなく、自分の大事な場所を守りたいから事業に貢献する。そういう気持ちで働けることが、組織を長続きさせるうえでいちばん大事なことなのではないかと私は考えています。     組織開発の最初の一歩  ここまで読んで、「自社でも何かやってみたい」と思ってくださった方に、最初の一歩をお伝えします。    それは、新しい施策を探すことではなく、自分の鳴らしている音を知ることから始める、ということです。自分はどんなことが得意で、何が苦手で、いま何にモヤモヤしているのか。まず自分の内側を言語化するところから、組織の変化は始まります。    組織の側から見るときは、問いの立て方を一つ変えてみてください。「誰が悪いのか」ではなく、「何と何が噛み合っていないのか」。会議で同じ議論が繰り返されている、特定の人にだけ相談が集まっている。そんな場面を、人の問題ではなく噛み合わせの問題として眺めてみると、打ち手の見え方が変わってくるのではないでしょうか。     よくある質問  Q. 組織開発とは何ですか? A.組織としての一体感を生み出していく取り組みです。組織の中のあらゆるチームが一体感を持って、有機的に、能動的に動いていく状態をつくることを目指します。1on1や対話の場づくり、理念の浸透、組織サーベイなどが代表的な施策です。     Q. 組織開発と人材開発の違いは何ですか? A.働きかける対象が違います。人材開発は個人のスキルや能力を伸ばす取り組みで、研修やコーチングが中心です。組織開発は人と人の関係や組織全体に働きかける取り組みで、対話や関係づくりの施策が中心になります。     Q. 組織開発では具体的に何をしますか? A.組織の状態を測る(サーベイ・特性検査)、個人に働きかける(研修・コーチング)、関係に働きかける(1on1・対話の場・理念共有)の3種類を、課題に合わせて組み合わせます。詳しくは本文の手法の章をご覧ください。     Q. 組織開発は誰が担当するのですか? A.全社的には人事部門が主導するケースが多いです。ただ、現場での変化を実際に担うのは各チームのマネージャーです。人事だけで完結させず、現場のマネージャーと一緒に進める体制を作ることが大切だと考えています。     Q. 組織開発は何から始めればいいですか? A.新しい施策の導入より先に、一人ひとりが自分の特性・得意・苦手・モヤモヤを言語化し、互いに共有することから始めるのがおすすめです。いま組織で起きている噛み合わせのズレを言葉にすることが、施策選びの精度を上げてくれます。     Q. 組織調律とは何ですか? A.Potageが提唱している組織づくりの考え方で、みんながのびのびと働ける場所を調律して作る、というアプローチです。新しい施策を足すことよりも、組織が本来持っているポテンシャルを聴き取り、噛み合わせを少しずつ整えることを大切にしています。   まとめ:組織開発の具体例は「足す」ことより「聴く」ことから  組織開発の代表的な手法と具体例、そして施策を実施しても変化が続かない理由についてお話ししてきました。    1on1もサーベイもワークショップも、一つひとつは有効な施策です。ただ、施策を足し続けるだけでは、トップダウンとボトムアップの距離は埋まりません。大切なのは、その組織にすでにあるもの、すなわち一人ひとりの特性や思い、本来鳴らせる音を聴き取り、噛み合わせを整えていくことではないでしょうか。    Potageでは、EQ(感情知能)の検査やワークショップを通じて、チームの信頼関係づくりと組織調律をお手伝いしています。本文で紹介したCOCOSTYLE社の取り組みの詳細は、事例記事でご覧いただけます。Potageの公式LINEでは、組織づくりに役立つ読み物や、EQ診断のキャンペーンを配信しています。自分の鳴らしている音を知ることから始めてみたい方は、ぜひLINEにご登録ください。

2026年10月6日

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組織開発の具体例とは?手法と事例だけでは変わらない組織に必要な視点

組織開発の具体例を探している方へ。代表的な手法と実例に加えて、施策を実施しても変化が続かない理由と、定着させるための「組織調律」という考え方を紹介します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  仲は良いのに厳しい議論ができない。いわゆるぬるま湯の状態を抜け出す鍵は、優しさの加減ではないかもしれません。何をもって成果とするのか、どんな行動が推奨されるのか。この二つがチームの共通言語になっていないと、踏み込んだ議論は始まりにくいものです。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。 【目次】 1. 「ぬるま湯」は、心理的安全性の誤解から生まれるのかもしれない 2. ぬるま湯を抜け出す鍵は、「成果」を共通言語にすること 3. 数字ではなく、行動が変わる目標に置き換える 4. チームのコンセプトを言葉にする 5. 成果が出なくても「ナイストライ」と言える基準をつくる 6. 言い合う時間と、決めて動く時間を分ける 7. まとめ 8. よくある質問(Q&A)    チームの雰囲気は悪くない。メンバー同士の仲も良く、雑談もある。それなのに、成果に向けた厳しい議論や、仕事の進め方への踏み込んだフィードバックがなかなかできない。お願いしたことはやってくれるけれど、自分から考えて提案したり、先回りして動いたりするメンバーが少ない。かといって強く言いすぎると、空気が悪くなりそうで迷ってしまう。     こうした状態は、しばしば「ぬるま湯」と呼ばれます。心理的安全性という言葉を知っている管理職ほど、優しくすることと踏み込むことのあいだで揺れているのではないでしょうか。      この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、ある管理職のリスナーさんから寄せられた「ぬるま湯の安全性から、成果に向き合えるチームへどう変えていけばよいか」というご相談に答えました。ちなみに放送の冒頭では、お風呂のお湯は熱い派かぬるい派かという雑談から始まっています。金氏の答えは「長居したいときはぬるいほうがいいけれど、昔ながらの銭湯の熱いお湯も好き」。組織の話も、どちらか一方を選ぶ話ではないのかもしれません。   「ぬるま湯」は、心理的安全性の誤解から生まれるのかもしれない  金氏によれば、このご相談は心理的安全性の現場で繰り返し出会うものだといいます。心理的安全性という言葉には「安全性」が入っているため、それはぬるま湯をつくることではないか、と言われることがよくあるのだそうです。言葉のまま、とにかく優しくすればいいのかと受け取って、優しくしすぎてしまう職場は少なくない。ぬるま湯は、心理的安全性を目指した結果というより、その言葉の受け取り方から生まれているのかもしれません。    金氏は放送の終わりに、こうも語っています。心理的安全性という言葉を聞くと「厳しくしてはいけないのでしょう」と受け取る方が結構いる。けれども、そもそも成果のためにその組織づくりをしている。厳しくしすぎてパワーハラスメントになるようなことは絶対にいけないけれども、相手に対して愛がある厳しさは、ちゃんと持たなければならないのではないか。ZENTechとして心理的安全性を広げる活動をしているのも、ぬるま湯をつくりたいからではない、という言葉が印象的でした。     つまり出発点は、優しさの量を調整することではなく、何のために安全な場をつくっているのかをチームで共有し直すことにありそうです。踏み込めない管理職ほど、板挟みのなかで消耗しやすくもあります。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。   ぬるま湯を抜け出す鍵は、「成果」を共通言語にすること  では、どこから手をつければよいのでしょうか。金氏がまず挙げたのは、「成果」がチームのなかできちんと共通言語になっているか、という点でした。何をもって成果と考えているのか。それができればチームの成果になりながら、個人にとっても自分の成果として語れる状態になっているのか。そもそも成果が何なのかわからない状態では、激しい議論のしようもない、というのが金氏の見立てです。     これに対して河原あずさは、多くの組織にはミッションもあるし、売上を立てる組織なら数値目標もある、それでも足りないのだろうかと問いかけました。      金氏の答えは、額面上に置いてある言葉と、それを自分のなかで腹落ちさせて自分の言葉として語れる状態のあいだには、大きなギャップがあるというものでした。ミッションの字面どおりでなくてかまわないので、それに近い言葉で「自分がこういうことを達成できれば、このチームはこうなると思います」とメンバー全員が言えているか。そこが分かれ目になります。    河原あずさはこれを、自分の役割が明確になっていて、それをやることがチームの助けになっていると本人に見えている状態、と受け取りました。成果が共通言語になるとは、掲げられた目標を全員が暗唱できることではなく、それぞれが自分の言葉で語り直せている状態のことなのかもしれません。   数字ではなく、行動が変わる目標に置き換える  共通言語がないまま数字だけが置かれると、どうなるか。金氏は営業部門を例に挙げます。数字だけが成果として掲げられていても、それを自分の行動とどう紐づければいいのかにギャップがある。必要なのは、自分の行動の結果としてその数字が達成できる、という形で目標を言葉にできているかどうかです。    金氏はここで、イチロー選手の例え話を紹介しました。イチロー選手は自身のKPIに打率を置いたことがなく、安打数を置いていたという話です。理由は、打率をKPIにしてしまうと、4割を超えているときにフォアボールを選ぼうとする自分が出てしまうと考えたから。安打数であれば、積極的にバットを振らない限り増えません。自分の行動が変わりうる目標値になっているか、という視点です。    そのうえで金氏は、この相談者さんの場合は、「自分から考えて提案してほしい」「先回りして動いてほしい」と、増えてほしい行動をすでに明確に言葉にしていらっしゃる。であれば、その行動が増えるためにはどんな目標があるとよいかを、管理職の側からメンバーと一緒に考えていくことができます。    もうひとつ、金氏はテクニックとしてこんな工夫も挙げました。一緒に考える場を持ちながら、自分のなかに答えらしきものがあっても、最後はできる限りメンバー本人に言わせること。人は自分が思いついたこと、自分が考えたと思えることには強いコミットメントを発揮するからです。打率ではなく安打数だ、という気づきに本人が到達し、本人の言葉で口にする。そこまで設計できると、行動はより能動的になっていくのではないか、というのが金氏の見方です。    強く言いすぎるとティーチングになってしまう。だからチーム全体のコミュニケーションを変えようとする前に、まずは一人ひとりの目標設定を手伝うところから。この文脈では、1on1の設計も同じ役割を担います。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。   チームのコンセプトを言葉にする  個人の目標が整うと、次は場の側です。河原あずさは、その人が何をやったら褒められるのか、何が成果として認められるのかという定義が必要だと述べたうえで、個人の目標設計だけでなく「場の設計」も同じくらい重要だと指摘しました。踏み込んだ意見が、しっかり受け止められる場になっているかどうかです。     これを受けて金氏が挙げたのが、チーム自体のコンセプトを言語化するという提案でした。スポーツを見ていると、このチームはこういうことをやるチームだな、と分かる瞬間があります。野球とサッカーでは、良いプレーとされるものがまったく違う。同じように、どういう行動を取ると褒められて、どういう行動だとそれは違うと言われるのか。それがチームのコンセプトとしてはっきりしていることが大切だといいます。成果そのものの前に、成果につながるかもしれない「こういうことが増えてほしい」を言葉にしていく、という順番です。     コンセプトは業種・業界によっても変わります。個人が売上をつくり続け、その総和がチームの数字になるような組織で、個人へのインセンティブが強く働いているなら、基本的には個人戦になっていく。それで部門の予算が達成できているのなら、チーム戦にこだわらなくてもいいのではないか、と金氏は言います。  今回の相談者さんの場合は、メンバーがもう少し自分から考え、チーム全体で成果をつくっていく、そういうことが求められる業種・業界なのだろうと想像できます。その業界・業種の特徴に合わせて、「こういうチームが理想」というコンセプトをつくれるとよいのではないか、というのが金氏の整理でした。    河原あずさはこれを、「この流れに乗って、こういうふうにやってくれたら成果も上がるし評価もされる。だからここに乗っていったらいいんだよ」という安心感を提示することだと言い換えています。プロスポーツでも、あるチームでは評価される選手が別のチームではそうではない、ということが起こります。コンセプトを理解して、自分にできる行動に落とし込んでいけるかどうか。それは個人の側にとっても、成果を上げるチームにコミットするうえで大事な観点になります。     コンセプトは、上から配られるものである必要はありません。金氏は、どういうチームでありたいかという話を、メンバー全員で話し合える場を持てるといい、と語りました。河原あずさは、前回の放送で出た「チームラーニング」という言葉を引用しながら、このチームで自分が達成したいことは何か、自分たちが向かう方向はどちらかを、わいわい話しながら握っていく。それだけでもずれた行動が減り、成果は上がるのではないか、と応じています。   成果が出なくても「ナイストライ」と言える基準をつくる  コンセプトが言葉になると、フィードバックの基準も決まります。金氏によれば、コンセプトと違う行動を取った場合には、「チームのコンセプトと違うから、今のは違ったよね」というギャップに対するフィードバックはあるべきものです。心理的安全性が高い状態とは、指摘がなくなることではありません。     一方で、チームが推奨する行動を取ったうえで成果に結びつかなかったときは、「ナイストライ」と言える。この対になった基準があると、踏み込むことと安心して挑戦できることが両立します。河原あずさは、トライを重ねればそのうち成果も出る、だからプロセスを見ることが大切なのかもしれない、と重ねました。     そして河原あずさは、こんな見立ても添えています。こういうことをやったら褒められて、結果として評価も上がり、給料も上がる。そうなれば、その人の行動は自然とそちらに最適化されていくはずだ、と。金氏も、人は褒められたりポジティブなことがあったりした行動を取り続けるものなので、褒めることが増えるような文化をつくっていくのがよいのではないか、と応じました。      成果を求める組織というと、常に緊張感の漂う空気を想像しがちです。けれども、ここまでに出てきたのは、何を褒めるかを決めて、褒める機会を増やしていくという、意外なほど地道なアプローチでした。河原あずさも、想像とはずいぶん違う印象を受けたと語っています。   言い合う時間と、決めて動く時間を分ける  もうひとつ金氏が挙げたのが、チームのなかの共通ルールを明確にすることでした。紹介されたのは、アマゾンのジェフ・ベゾス氏の言葉として知られる「ディスアグリー・アンド・コミット」という考え方です。反論を言い合うこと自体はとても大事だけれども、物事が決まった後は、自分に反論があってもその決定にきちんとコミットする。金氏によれば、シリコンバレーではこうした文化が共有されているといいます。     どのタイミングなら喧々諤々に意見交換していいのか。決まった後はどうするのか。それがチーム内の共通認識になると、「今は言い合える時間だ」「今はちゃんと固めに行く時間だ」と、全員が同じ前提で場に臨めるようになります。ぬるま湯に見えるチームでは、この切り替えの合図がないまま、言い合う時間そのものが省略されているのかもしれません。     ただ、決めたことを一貫して運用し続けるのは簡単ではありません。ナビゲーターの黄瀬真理は、そこに難しさを感じたと言います。仮に「自分から考えて提案してほしい」とみんなで合意したとしても、待ちきれずに上司が先に口出ししてしまう・・それは子どもに「それ、今やろうと思ってたのに」と言われるように、数時間待てば本人がやってくれたかもしれないことなのに。その塩梅の難しさです。     金氏の答えは、待ちきれない瞬間はやはりあるものだと認めたうえで、このケースでいうと口出しするときに「なぜ」を省かないことでした。なぜ今この短い時間で決めたいのか。今はあなたの意見を待てないので、こちらでこう考えたけれどどうか。そうした理由を一緒に伝えることは、どんなときもおろそかにしない。河原あずさは、理由があってそうしている、合理性に基づいて行動しているということをお互いに伝えられれば、相互の理解につながり、チーム運営のなかのギャップも徐々に解消していくのではないか、とまとめています。   まとめ •      ぬるま湯は、心理的安全性を目指した結果というより、「とにかく優しくすればいい」という言葉の受け取り方から生まれているのかもしれない •      厳しい議論の前に、何をもって成果とするかがチームの共通言語になっているかを確かめる •      自分の行動が変わりうる目標を持つ。気づきを本人の言葉で語ってもらう •      どんな行動が褒められ、どんな行動は違うと言われるのか。チームのコンセプトを言葉にする •      コンセプトどおりに動いて成果が出なかったときは「ナイストライ」。プロセスを見て褒める •      言い合う時間と決めて動く時間を分け、急ぐときも「なぜ」を省かない   よくある質問(Q&A)   Q1. 心理的安全性を高めると、ぬるま湯のチームになりませんか?   A. 心理的安全性は、厳しいことを言わない状態を目指すものではありません。そもそも前提として成果のためにその組織づくりをしています。パワーハラスメントにあたるような厳しさはいけませんが、相手に対して愛のある厳しさは持つべきものです。ぬるま湯になるとしたら、それは「安全性」という言葉を「とにかく優しくすること」と受け取ってしまっている場合かもしれません。     Q2. 仲は良いのに、成果に向けた厳しい議論ができません。何から手をつければよいですか?    A. まず、何をもって成果とするかがチームの共通言語になっているかを確かめてみてください。ミッションや数値目標が掲げられていても、それを自分の言葉で語れる状態になっているとは限りません。「自分がこれを達成できれば、チームはこうなる」とメンバー全員が言える状態を目指すことが出発点になります。成果の定義があいまいなままでは、踏み込んだ議論のしようがありません。     Q3. 強く言うと空気が悪くなりそうで、踏み込んだフィードバックができません。どうすればよいですか?    A. フィードバックの基準を、個人の感覚ではなくチームのコンセプトに置くと伝えやすくなります。どういう行動が推奨され、どういう行動は違うのかをあらかじめ言葉にしておけば、「チームのコンセプトと違ったよね」という形で指摘できます。推奨する行動を取ったうえで成果が出なかったときは「ナイストライ」と伝える。この対の基準があると、踏み込むことと安心して挑戦できることが両立します。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。    【ぬるま湯組織を変える】成果を生む「チームの共通言語」     「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。       Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。仲は良いけれど踏み込めない、というチームの関係性から見直したい方は、お気軽にご相談ください。 → お問い合わせはこちら

2026年9月21日

最終更新日:

心理的安全性はぬるま湯ではない。成果に向き合えるチームのつくり方

心理的安全性を高めるとぬるま湯になるのでは。そんな迷いを抱える管理職に向けて、心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが答えます。鍵は優しさの加減ではなく、成果とチームのコンセプトを言葉にすることにありました。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  休みにくい空気は、制度ではなくチームの関係性から生まれているのかもしれません。管理職が自ら休むことを言葉にし、メンバーそれぞれの休み方の価値観を共有し、誰かが抜けてもフォローし合える状態をつくる。この3つが揃うと、しなくてもいい遠慮が減っていきます。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに、休みやすいチームのつくり方を整理します。 【目次】 1. 「有給が取りにくい」空気は、制度ではなくチームの関係性から生まれているのかもしれない 2. 管理職ができる最初の一手は、自分が休むと言葉にすること 3. 「休み方の取扱説明書」をチームで共有する 4. 一人で休みにくいなら、みんなで休む日を決める 5. 制度より先に、自分たちの実態を言葉にする 6. 休めるチームは、助け合えるチーム 7. まとめ 8. よくある質問(Q&A)    「有給は制度としてあるのに、なんとなく申請しづらい」「自分の部署は休みやすいけれど、隣の部署はそうでもないらしい」。夏休みのシーズンが近づくたびに、こうした違和感が浮かび上がってくるチームは少なくないのではないでしょうか。制度は同じなのに、部署によって休みやすさが違う。その差は、どこから生まれているのでしょうか。      この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、リスナーさんから寄せられた「休みやすい文化はつくれるのか」というご相談に答えました。   「有給が取りにくい」空気は、制度ではなくチームの関係性から生まれているのかもしれない  番組に届いたのは、地方の会社で研究開発職として働くリスナーさんからのご相談です。お盆の時期に3日間の有給を計画的に取得する制度をめぐって、社内でアンケートと議論があったといいます。意見は、休みを取りにくいので制度を維持したい人、自分のタイミングで休みたいので撤廃したい人、事前申請で振り替えられるようにしたい人に分かれ、結論は「現行制度を維持して、1年かけて議論を続ける」となりました。     相談者が意外に感じたのは、有給を取りにくいと感じている人が一定数いたことでした。自分の部署は部長自身が家族の予定で休むため、有給を取るのは当たり前という空気がある。けれど営業部などは、そうではないのかもしれない。ここから相談者さんは、管理職はどんな行動や仕組みづくりをすると休みやすい文化をつくれるのか、と番組に質問を送ってくれました。     金氏はこのご相談を受けて、相談文のなかにすでに答えのひとつがあると受け止めました。部長自身が休むから、部下も休める。管理職の側からきちんと休むことを明言するのは、それだけで大きな意味があるのではないか、という見立てです。     河原あずさもここに、残業の構図と同じものを見ています。役職者がずっと会社に残っていると、メンバーは帰りづらくなる。休みやすさをつくる一番大きな要素は、管理職がそれを実践しているかどうかにかかってくるのではないか、という受け止めです。     管理職自身が休めないまま板挟みになっている状態については、関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。   管理職ができる最初の一手は、自分が休むと言葉にすること  金氏が挙げた具体的な行動は、とてもささやかなものでした。「このプロジェクトが終わったら休むからね」と、あらかじめ言っておく。それだけでも、チームの休みやすさは変わってくるのではないかといいます。人は横の人や上の人が頑張っていると、どうしても休みづらくなる。だからこそ、自分も休むという宣言を少ししておくことに意味がある、という見方です。     裏側の話もあります。金氏は、つい時間外にSlackを送ってしまいがちだと振り返り、最近はそれを極力やめようとしていると語りました。活用しているのは予約送信です。チーム全体の合意として「今はスケジュールが足りないからこの状況だ」と共有されていればまだしも、仮になぜこの人が時間外まで働いているのか分からないまま通知が飛んでくると、周囲は休みづらくなってしまうからです。     河原あずさも、自分がこんな時間まで頑張って働いているという雰囲気を漂わせるメールやSlackを送ってくる管理職の存在に触れています。送っている本人にその意図がなくても、受け取る側は勝手に空気を読んでしまうものなのかもしれません。    あわせて金氏が挙げたのが、制度として準備されているものはみんな使ってもらって大丈夫だと、リーダーの側から言葉にすることでした。サボるのは別の話ですが、休むことは制度で決まっている以上、堂々と休んでいい。それを宣言したうえで、お互いの働き方を話し合えるとよいのではないか、という提案です。   「休み方の取扱説明書」をチームで共有する  とはいえ、チームには多様なメンバーがいます。働き方の希望がばらばらな組織で、休んでいいという空気をどうつくればいいのでしょうか。    金氏がZENTechで実践したものとして紹介したのが、チームラーニングと呼ばれるワークショップです。外資系コンサルティング会社で行われている手法で、その名の通りチームのことをきちんと学ぼうというもの。簡単に言えば、働き方や自分の取扱説明書をお互いに共有する時間です。    共有される内容は、日中のほうが集中できる、あるいは夜型なので夜のほうが進む、といった小さなことから始まります。家族と暮らしているのでこの時間は避けてほしい。電話の前に一言メッセージをもらえるとありがたい。逆に、5分10分の用件なら電話でまったく構わない。そうした一人ひとりのしっくりくる働き方を、先に共有しておくワークです。フルリモートの組織では相手の働いている環境が見えないため、金氏はその必要性をより強く感じたといいます。    これをやっておくと、つい仕事に没頭してしまう人がいても状況が変わります。金氏の見立てでは、その人が働くこと自体を楽しんでいるとみんなが知っていればまだいい。「単純に自分が好きで働いているだけなので、気にしないでください」という一言があるだけで、周囲は休みやすくなるのではないか、というわけです。     河原あずさは、この視点を自身の会社員時代の実感と重ねています。働き方改革という言葉が出はじめた時期に大企業にいた河原あずさは、残業時間について指摘を受けるなかで、働きすぎは良くないという空気が強まっていくのを感じていました。そのとき覚えたのは、休みやすさと引き換えに働きやすさが削られていくストレスだったといいます。こちらは働きたいのだから働かせてほしい、という感覚です。それぞれのスタンスが共有され、そこに寄り添った運営ができていれば、みんながハッピーになれる状態をつくれるかもしれない、というのが河原あずさの見立てです。     ナビゲーターの黄瀬真理も、休むという一言のなかにある価値観の幅を挙げました。家族が休むときに合わせて休みたい人。あえてみんなが休まない時期に休む人。連続ではなく水曜日などにちょこちょこ取りたい人。半日でいいので、お客さま対応を誰かに任せて短くリフレッシュしたい人。むしろ自分でお客さまからの連絡を受けながら休んだほうが安心できる人。こうした違いが共有され、どこまでをチームが許容できるかの認識が揃っていると、しなくてもいい遠慮を減らしやすくなるのではないか、という見方です。    お互いの前提を共有する時間という意味では、1on1の時間についての関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。   一人で休みにくいなら、みんなで休む日を決める  河原あずさは、自社のスタッフと長期休暇の話をしたときのことを紹介しました。1週間ほど休むことについて、スタッフの口から「そういうことはやらないようにしている」「言わないようにしている」という言葉が出てきたそうです。裏を返せば、機会があるなら1週間くらい休んでみたいという気持ちが、本人も無自覚なまま存在しているのではないか。河原あずさはそう受け取っています。     では、遠慮なく1週間休める組織にするには何ができるのか。金氏が挙げたのは、繁忙期を避けて、みんなで一緒に休むという方法でした。どの部門にも繁忙期があり、その裏側には比較的落ち着く時期があります。繁忙期に1週間抜けられるとチームは苦しくなりますが、そこまで忙しくない時期にみんなで休む約束を先に取り付けておけば、ずいぶん休みやすくなるのではないか、という提案です。     背景にあるのは、遠慮の構造です。金氏によれば、一人で誰にも言わずに休もうとすると人は遠慮してしまう。カレンダーに休みと入れることさえ申し訳なく感じてしまう優しい人もいる。けれどみんなで休んでいるなら誰にも迷惑をかけていないので、一緒にカレンダーに入れようと声をかけ合えるようになります。     河原あずさは、これをチームビルディングの機会としてとらえ直しました。イベントやシステムのローンチなど、プロジェクトに明らかな山があるなら、「これが終わったらみんなで1週間休もう」を合言葉にして走る。休みが目標のひとつになると、チームの空気そのものが変わってくるかもしれません。    対外的な発信についても、二人の見方は重なりました。この期間、この部署は1週間お休みをいただきますと告知してしまう。1週間止まったところで会社が倒れるわけではありませんし、準備をしておけば問題は起きにくい。金氏は、休むことを難しいと感じている人が増えているように見えるからこそ、きちんと休んでいる部署だと知られることは素敵なイメージづくりになるのではないか、と語っています。   制度より先に、自分たちの実態を言葉にする  今回のご相談は、制度を検討するためのアンケートを取ったことで、休みに対する価値観の幅が見えてきたという流れでした。河原あずさは、この順番に注目します。もともと休もうというカルチャーが先にあり、それに合わせて制度が設計される順番であれば、こうはならなかったのではないか。実態に合わせてくれた、そうだよね、という受け止めになっていくはずだ、という見方です。    河原あずさ自身、IT業界にいた頃は休みをばらばらに取るスタイルが主流でした。フレキシブルな働き方を好む人が多いというカルチャーがあり、制度がそこに合っていたので無理がなかった。だからまずは、自分たちがどういう実態なのかを言語化しておく。そうすれば人事に働きかけることもできるかもしれないし、リーダーが「うちの部署はこういう運用でやっています」と周囲に発信できるようにもなるかもしれません。管理職ではないメンバーにとっての第一歩も、おそらくここにあります。     金氏も、制度につなげるためには本音を引き出すことが大事だと応じました。今回の相談者がギャップの存在に気づいたこと自体が、すでに一歩前進だという見方です。全員が100%満足する制度をつくるのは難しいとしても、実態と照らし合わせた形にしていくことには大きな意味がある、と金氏は語ります。    金氏は自社での実感も添えています。ゴールデンウィークやお盆は、本当はずらして休みたいという声が社員から上がってくる。一方でクライアントがカレンダー通りに休むなら、こちらもカレンダー通りのほうがいいという結論にもなる。どちらが正しいかを決めるより、みんなが納得できる形で議論するところから、休み方のカルチャーができあがっていくのではないか、というのが金氏の見立てです。   休めるチームは、助け合えるチーム  もうひとつ、休みやすさを左右する条件があります。河原あずさが挙げたのは、誰かが休んだときに他の人がフォローできる関係性になっているかどうかでした。心理的安全性でいう助け合いの文化が日常にあるかどうかが、そのまま休みやすさに現れてくるのかもしれません。    金氏もここに同意し、視野を計画的な休みの外側まで広げています。今回のご相談は計画年休の話でしたが、人間である以上、突発的に休まざるをえない場面は生じます。そのときにきちんとフォローできる体制を、日々つくっておきたいところです。     黄瀬真理は放送の終わりに、こう振り返っています。休むことには、しっかりリフレッシュしていい仕事をするという意味がある。それでも、休むと言いにくい雰囲気は同時に存在する。その背後には、集まっている人たちがどんな休みを取りたいのか、どんな働き方をしたいのかというカルチャーがある。だからこそ、その部分をみんなで理解し合うことが心理的安全性につながり、それぞれの価値観に沿った休みを相談しやすい雰囲気が生まれていくのではないか、という気づきです。     河原あずさが放送のなかで残した言葉が、この回全体を言い表しています。働き方もカルチャーだけれど、休み方もカルチャーである。すなわち、制度を変える前にできることが、チームの側にはまだ残されているということです。   まとめ •      休みやすさを左右する一番大きな要素は、管理職自身が休んでいるかどうか •      「この話が終わったら休むからね」と先に言っておくだけでも、チームの空気は変わる •      時間外の連絡は予約送信に。頑張っているアピールは、周囲の休みにくさに変わりやすい •      働き方の取扱説明書を共有しておくと、ワーカホリックな人がいても遠慮が減る •      一人で休みにくいなら、繁忙期を避けてチーム全員で休む日を決めてしまう •      制度を議論する前に、自分たちの休み方の実態を言葉にしておく •      誰かが休んだときに助け合える関係性が、そのまま休みやすさになる   よくある質問(Q&A) Q1. 休みやすい職場の文化は、どうすればつくれますか? A. 制度を整えるより先に、管理職が自ら休むことを言葉にすることが出発点になります。「このプロジェクトが終わったら休みます」と先に伝えておくだけでも、周囲の休みやすさは変わります。あわせて、制度として用意されているものは使ってもらって大丈夫だとリーダーの側から明言し、お互いの働き方や休み方の希望を共有する時間をつくると、しなくてもいい遠慮が減っていきます。     Q2. 有給休暇を取りにくいと感じるのは、どうしてですか? A. 上司や同僚が働き続けている状況では、人はどうしても休みづらくなります。例えば緊急性がない連絡が時間外に複数回飛んでくるような環境だと、その傾向は強まります。前提となる、休みに対する自分の価値観を共有するといった対策が有効です。     Q3. 管理職ではないメンバーが、休みやすいチームづくりにできることはありますか?  A. まず、自分たちの部署が実際にどんな休み方をしているのかを言語化しておくことが第一歩になります。実態が言葉になっていれば、人事や制度の担当者に働きかける材料になりますし、リーダーが対外的に運用を説明することもできます。あわせて、休みに対する自分の価値観をチームに共有しておくと、お互いの許容範囲が見えやすくなります。     ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。  なぜあなたの職場は休みづらい?制度の前に必要な「休み方のカルチャー」    「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。      Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。休み方や働き方の前提を共有し合えるチームの関係性づくりに関心のある方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年9月21日

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心理的安全性と休み方。休みやすいチームは管理職の一言から変わる

心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが、「休みやすい文化はつくれるのか」というご相談に回答。制度を整える前に、管理職が自ら休むことを言葉にし、お互いの休み方の価値観を共有することが出発点になります。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  伝えたことがチームに浸透しないとき、足りないのはリマインドの回数ではないかもしれません。「伝わった」とは、相手の行動が変わった状態のこと。誰から伝わるかを設計し、雑談と相談ができる土壌を整えることが、心理的安全性の高いチームへの近道になります。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに、そのヒントを整理します。 【目次】 1. 「伝えたのに動いてくれない」のはなぜか 2. リマインドを増やすより、「誰が言うか」を設計する 3. ワークする仕組みは、文化を反映している 4. 空気が重いチームで、ひとりのメンバーにできること 5. まとめ 6. よくある質問(Q&A)  「店舗のメンバーに伝えたことが、なかなか徹底されない」「業務に慣れた社員ほど、社内手続きをギリギリまで後回しにする」。中間管理職やバックオフィスの立場で、こんな悩みを抱えていないでしょうか。何度リマインドしても変わらないとき、伝え方そのものを見直すタイミングなのかもしれません。  この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、リスナーの皆さまから寄せられた「伝わらない」「動かない」にまつわる相談に答えました。 「伝えたのに動いてくれない」のはなぜか  番組には、フルリモートのIT企業でバックオフィスを担当するリスナーさんから「社内手続きを後回しにする社員に悩んでいる」というご相談が、また小売業の管理職のリスナーさんから「店舗のメンバーに伝えたことが徹底されない」というご相談が寄せられました。  金氏はここで、そもそも「伝わっている」とはどういう状態かを問い直します。金氏の見解によれば、伝わっているとは、伝えられた人の行動が変わっている状態のこと。行動が変わるところまで届いていないなら、そもそも伝わっていないのではないか、という視点です。  河原あずさは、研修会社から聞いた話として「知っている」と「実際にやれる」のあいだにあるギャップを紹介しました。知識として知っている状態と、行動に移せる状態のあいだには溝があり、そこに橋をかけることが行動を変えるうえで大切だという考え方です。「伝えたのに動かない」の多くは、この溝の手前で止まっているのかもしれません。  伝えても動かない状況が続くと、板挟みになる管理職自身が疲れてしまいます。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。 リマインドを増やすより、「誰が言うか」を設計する  では、どうすれば行動が変わるところまで届くのでしょうか。金氏は、仕組みで解決しようとすると「リマインドを増やす」方向になりがちだと指摘したうえで、コミュニケーションでの解決策をふたつ挙げました。  ひとつめは、悩みや困りごとをきちんと伝えられる場所、雑談や相談ができる場所がチームにあるかを見直すこと。ふたつめは、伝言ゲームのように「伝えてもらう」側に回ってもらうことです。金氏によれば、人は誰かに伝える役割を担うと、能動的に内容を自分の中に落とし込もうとします。6〜7割の理解だった人が、伝えるために学び直して8〜9割まで到達することもよくあるのではないか、というのが金氏の見立てです。学校時代の「教え合うと自分も学べる」経験と同じ構造です。  そして、誰に発信役をお願いするかも重要です。金氏は「この人から言われたら、やらなきゃな」と周囲が思えるような、日ごろの行動で信頼を積み重ねている人を探してみることを勧めています。  河原あずさは自身の会社員時代を振り返り、経費精算をためがちだったことを振り返りました。事務的に「ちゃんとやってください」と言われてもなかなか動けなかったけれど、仕事への姿勢を尊敬している人から「数日でいいので早めに回してもらえると助かります」と言われたら、早めに出そうと心がけたかもしれない。同じ内容でも、誰からどんな状況で言われるかで、受け取り方は大きく変わるという実感です。 ワークする仕組みは、文化を反映している  相談にあった「後回しにさせない仕組みや文化」について、河原あずさはひとつの見方を示しました。ワークする仕組みは、その会社の文化を反映しているという考え方です。エンジニアが集まる会社ならプログラミング思考の仕組みが自然に定着しますが、同じ仕組みを感性豊かなメンバーが集まる会社に持ち込んでも、うまくいくとは限りません。  これを受けて金氏は、仕組みづくりの一歩目は「自社にはこういう人が集まっている」と自分たちの文化を知ることだと述べました。さらに、フルリモートの組織ほど文化の言語化はハードルが高くなるからこそ、「自分たちはどんな働き方をしたいのか」を話す時間を定期的に設けることを勧めています。遠回りに見えて、大切にしたい文化が共有されていれば、仕組みはその上で機能しやすくなります。逆に、大事にしたいものが脅かされると人は強い抵抗を感じるものだ、というのが金氏の見立てです。 空気が重いチームで、ひとりのメンバーにできること  番組にはもうひとつ、切実な相談が届きました。遅延している大型システム開発プロジェクトに途中から加わり、空気が重く、会議も結論が出ない。全体会議で発言する勇気はまだ出ないけれど、一メンバーとしてプロジェクトを前に進めたい、という相談です。  金氏が挙げた第一歩は、その悩みそのものを、伝えられる範囲の上司や信頼できる人に伝えてみることでした。興味深いのは、金氏が紹介した「話しやすさ」のとらえ方です。ZENTechで心理的安全性の研究を始めた当初から話されてきたこととして、率直に発言し合う文化が根づいた組織だけでなく、日本の組織では「上司に耳打ちしたら会議で代わりに言ってくれる」ことも、話しやすさのひとつに数えられるのではないか、という視点です。  河原あずさはこれを「根回し」と重ねつつ、決してアンフェアなやり方ではないと整理しました。ひとりの意見のままで終わらせず、チームの中で影響力のある人に話してみて、共通認識の輪を広げていく。世論形成のアプローチとして、むしろ有効ではないかという見方です。  金氏はもうひとつ、視点の大きな提案も添えています。大型のプロジェクトであるほど、最初にチーム全体の心理的安全性を担保する期間をつくったほうが、あとの手戻りが減るのではないか、というものです。雑談ができない環境で相談ができるだろうか、という前回ゲストの倉貫義人氏の著書にある問いを引きながら、キックオフの前にコミュニケーションできる状態を整えておくことの大切さを語りました。  ナビゲーターの黄瀬真理は、雑談の意味をこう受け取っています。雑談を通じてチームにどんな人がいるかを知っていると、困ったときに「この人に相談すると先に進むかもしれない」という勘が働く。何気ない雑談が、誰の力を借りるかを見極める土台になるという気づきです。  雑談や相談の場づくりという意味では、1on1の設計も同じ文脈にあります。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。 まとめ ・「伝わった」とは、相手の行動が変わった状態。行動が変わるまで届いていないなら、まだ伝わっていないのかもしれません ・徹底したいことは、リマインドを増やすより「誰から伝わるか」を設計する ・「伝えてもらう」役割を任せると、本人の理解も深まり、チームへの浸透も進む ・ワークする仕組みは文化の反映。まず「自分たちはどんな働き方をしたいか」を言葉にする ・空気が重いチームでは、信頼できる人にまず相談することが第一歩。根回しはアンフェアではない ・雑談と相談はセット。話せる土壌づくりが、心理的安全性のベースになる よくある質問(Q&A) Q1. 伝えたことがチームに徹底されないのはなぜですか? A. 「伝わった」とは、相手の行動が変わった状態を指します。知っていることと、実際にやれることのあいだにはギャップがあるため、伝達の回数を増やすだけでは行動は変わりにくいものです。誰から伝わるかを設計し、伝えられた人が誰かに「伝える側」に回る仕掛けをつくると、理解と定着が進みやすくなります。 Q2. 心理的安全性が低いプロジェクトで、一人のメンバーにできることはありますか? A. まず、感じている問題意識を、伝えられる範囲の上司や信頼できるメンバーに相談してみることが第一歩です。全体の場で発言できなくても、影響力のある人に話して共通認識の輪を広げていくことは、遠回りに見えて有効なアプローチです。上司に耳打ちして代わりに発言してもらうことも、日本の組織では「話しやすさ」のひとつと考えられます。 Q3. リモートワークのチームで、文化やルールを定着させるにはどうすればよいですか? A. フルリモートの組織ほど、文化の言語化はハードルが高くなります。だからこそ、「自分たちはどんな働き方をしたいのか」を話す時間を定期的に設けることが土台になります。仕組みは文化を反映してこそ機能するため、リマインドの仕組みを増やす前に、雑談や相談ができるコミュニケーションの土壌を整えることが近道になります。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。 「伝えたのに動かない」を変えるには?チームに徹底力を生む方法 「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。  Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。「伝わらない」「動かない」の背景にあるチームの関係性から見直したい方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年9月21日

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心理的安全性は「誰が言うか」で変わる。中間管理職のための伝わる伝え方

心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが、「伝えたことが徹底されない」「停滞したプロジェクトを動かしたい」という中間管理職の悩みに回答。鍵はリマインドの回数ではなく、「誰が言うか」の設計にあります。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のポイント】  ・共感力が高すぎること自体は、短所ではありません ・疲れの原因は、共感力の高さではなく「共感に俯瞰が伴っていない状態」にあります ・共感力とEQは別のものです。EQは感情を「情報」として読み取り、共感と俯瞰を行き来する力です ・共感力は、鍛えるものではなく「整える」ものです 【目次】   1. 共感力が高すぎるとは、どのような状態か 2. 共感力が高すぎる人が疲れやすい理由 3. エンパス・HSPとは何か。共感力の高さとの関係 4. 共感力とEQの違い 5. 共感力が高すぎるマネージャー・中間管理職の方へ。チームでの活かし方 6. 疲れずに共感力を活かすには 7. よくある質問 8. まとめ:共感力は下げるものではなく、整えるもの    相手の機嫌や場の空気を敏感に感じ取ってしまう。頼まれると断れない。気づけば、人の悩みまで自分のことのように抱え込んでいる。そんな自分に疲れて、「共感力が高すぎるのかもしれない」と検索された方も多いのではないでしょうか。    この記事では、共感力の高さそのものではなく、「共感に俯瞰が伴っていない状態」が疲れの原因であることを、EQ(感情知能)の視点から整理します。共感力を下げるのではなく、活かしたまま疲れなくなる考え方をお伝えします。 共感力とEQの違い(概要)  観点 共感力 EQ(感情知能) どんな力か 相手の感情を自分のことのように感じ取る力 自分と相手の感情を「情報」として認識し、扱う力 意識の向き 相手に向かい続ける 「共感」と「俯瞰」を行き来する 高いとき起きること 相手の疲れや不安が自分に流れ込んでくる 感じ取ったうえで、どう関わるかを選べる 高い場合の疲れとの関係 抱え込みやすく、消耗しやすい 感じても流されないため、消耗しにくい      共感力が高すぎるとは、どのような状態か    共感力が高すぎるとは、相手の感情を自分のことのように感じ取る力が強く働きすぎて、自分の感情との区別がつきにくくなっている状態として、しばしば認識されます。    あなたは、次のような項目に、いくつあてはまるでしょうか。   相手が疲れていると、自分まで疲れてくる 人が怒られているのを見ると、自分が怒られているように感じる 頼まれごとを断れず、気づけば手一杯になっている 会議や集まりのあと、どっと消耗している 相手の機嫌の変化に、誰よりも早く気づいてしまう 「あの一言はまずかっただろうか」と、あとから何度も反芻する    多くあてはまった方に、先にお伝えしたいことがあります。共感力が高すぎることは「直すべき欠点」ではない、ということです。    相手の感情を感じ取る力は、信頼関係を築くうえで替えのきかない土台になります。問題はその力の高さではなく、感じ取ったものを受け止めたまま、抱え続けてしまうことにあります。言いかえると、「共感」に「俯瞰」が伴っていない状態です。この構造を、順番に見ていきます。     共感力が高すぎる人が疲れやすい理由    共感力が高い人が疲れやすいのは、受け取る感情の量が多いからだけではありません。受け取った感情が、整理されないまま自分の中に溜まっていくからです。    感じ取る力が強い人は、日々、他の人より多くの感情の情報を受信しています。受信すること自体は消耗しません。消耗するのは、受信したものが「相手の感情」なのか「自分の感情」なのか、区別がつかないまま混ざってしまうときです。    たとえば、メンバーの表情が曇っていることに気づいたとき。「何かあったのかな」と気にかけるところまでは、感じ取る力が働いているだけです。ところが、そのモヤモヤが夜まで頭から離れず、自分の仕事が手につかなくなっているとしたら、相手の感情が自分の感情と混ざり始めています。    ここでは、この状態を「感情の混乱」と名付けましょう。不安や焦りに感情が流されると、目の前の出来事にただ反射的に「反応」するようになり、どう関わるかを選ぶ余裕がなくなっていきます。やるべきことと、やらなくていいことの区別がつかなくなるのです。    疲れの正体は、共感力の高さではありません。感情が混ざり、ニュートラルな状態を失っていることです。ここを取り違えて「共感力を下げよう」「鈍感になろう」とすると、せっかくの感じ取る力まで手放すことになってしまいます。    実際の現場でも、この構造は繰り返し確認されています。Potageはこれまで、800名ほどのビジネスパーソンにEQ検査(EQPI)を実施し、結果の分析とフィードバックを重ねてきました。そのうちおよそ4分の1が、人をマネジメントする立場の方々です。その中で、共感力の高い方々には共通する消耗のパターンが見えています。    周りに気を使いすぎて、いつも疲れている。誰かが違うことを言い始めると、そこに振り回されてしまう。相手が困っていると、自分の得意なことでなくても手を貸してしまい、気づけば身動きが取れなくなっている。そして特徴的なのは、誰かに頼まれたわけでもないのに、「こうすると相手が喜ぶんじゃないか」という想像上のニーズに応えようとして、自分で自分にタスクを課してしまうことです。    さらに、こうした方々には、もうひとつ共通する傾向があります。自分の本音に目を向けていないことです。「疲れているから休みたい」という心の声が聞こえたとき、「これは私のわがままだから」と押し殺してしまう。すると休めなくなり、自分の時間がなくなり、疲労が積み重なっていきます。自分で決めてコントロールできる範囲が減っていくと、人は「自分ならできる」という感覚(自己効力感)を少しずつ失っていきます。関わる人の数が増えるほど、この消耗は加速します。      エンパス・HSPとは何か。共感力の高さとの関係    共感力の高さについて調べると、「エンパス」や「HSP」という言葉に出会います。初めて見る方のために、簡単に整理します。    HSPは「Highly Sensitive Person」の頭文字で、感受性が生まれつき特に高い人を指す心理学の概念です。アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が1996年に提唱しました(出典:エレイン・N・アーロン『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』冨田香里訳、講談社、2000年。原著 The Highly Sensitive Person、1996年)。音や光などの刺激に敏感である点まで含む、広い気質の概念です。    エンパスは、他者の感情をまるで自分のことのように感じ取る人を指す呼び名です。アメリカの精神科医ジュディス・オルロフ氏の著書などを通じて広まりました(出典:ジュディス・オルロフ『LAの人気精神科医が教える共感力が高すぎて疲れてしまうがなくなる本』桜田直美訳、SBクリエイティブ、2019年。原著 The Empath's Survival Guide、2017年)。こちらは学術的に確立した診断名ではなく、特徴を表す通俗的な言葉として使われています。    どちらの言葉も、自分の状態に名前がつくことで楽になる面があります。一方で、「生まれつきの気質だから、距離を置いて自衛するしかない」という結論で止まってしまいやすい言葉でもあるかもしれません。    Potageの見方は少し違います。気質そのものは変えられなくても、感じ取ったあとの「状態」は整えられる、と考えています。感じ取る力が強いことと、感じ取ったものに飲み込まれることは、別の話だからです。    なお、眠れない日が続く、気分の落ち込みが長引くなど、心身の不調が続いている場合は、無理をせず医療機関や専門家に相談してみてください。      共感力とEQの違い    共感力とEQは、しばしば似たようなものとして語られることがありますが、別のものです。    EQ(感情知能)とは、自分と相手の感情を「情報」として適切に認識し、扱う力です。感情を押し殺す技術ではありません。共感は、EQを構成する要素のひとつであって、EQそのものではないのです。    EQには、大きく2つの段階があります。    第一の段階は、感情を「見つける」ことです。多くの人は、モヤモヤした気持ちに蓋をして、感じなかったことにして行動へ急ぎます。自分の気持ちに蓋をせず、「いま自分は焦っている」「あの一言が引っかかっている」と気づけるようになること。これがEQの出発点です。    第二の段階は、見つけた感情を踏まえて「調整する」ことです。感じ取った情報をもとに、いつ、どう関わるかを選ぶ。ここで働くのが「共感」と「俯瞰」の行き来です。相手の気持ちに寄って感じ取り、いったん引いて全体を眺め、また寄る。この往復ができると、感じ取る力は消耗の原因ではなく、判断の材料になります。    この違いは、「遠慮」と「配慮」の違いにも表れます。遠慮は、我慢し続けて自分の意見を出せない状態です。配慮は、自分の本音を、周りが傷つかないよう適切なタイミングで伝えられる状態です。どちらも相手を思う気持ちから始まりますが、遠慮は共感に飲み込まれた状態、配慮は共感と俯瞰を行き来できている状態と言っていいでしょう。    共感力が高すぎて疲れている方は、能力が足りないのではありません。すでに強力な「感じ取る力」を持っていて、「俯瞰との行き来」がまだ加わっていないだけなのです。      共感力が高すぎるマネージャー・中間管理職の方へ。チームでの活かし方    共感力の高さに疲れている方の中には、チームを預かる立場の方も多いのではないでしょうか。メンバーの様子が気になり、頼られれば応え、気づけば全員の感情を一人で引き受けている。そんなマネージャー・中間管理職の方に、Potageの1on1で出会った話をご紹介します。    配慮がとても強く、メンバーの求めに何でも応えようとするマネージャーの方が、あるときこう漏らしました。「時々、舌打ちしたくなる自分がいて、それが嫌なんです」。    優しくありたい自分の中に、苛立つ自分がいる。それを恥じている様子でした。しかし、この「舌打ちしたくなる自分」は、悪者ではありません。やりすぎないためのブレーキとして出てきた、本音のサインです。その声を押し殺すのではなく、「自分はいま、応えすぎているのかもしれない」という情報として受け取れたとき、この方の仕事はむしろ前に進み始めました。    似た場面には、EQ検査のフィードバックでも繰り返し出会います。押し殺してきた本音が顔を出したとき、ある方はそれを「自分の黒い側面」と表現しました。優しくあろうとしてきた自分の中の、認めたくない部分という感覚だったのだと思います。けれども、Potageの見方は逆です。黒ではなく、白。その声は、自分を守ろうとして働く自浄作用のようなものです。悪者にして押し込めるのではなく、スポットライトを当てて聞いてあげる。そこから、抱え込みは少しずつほどけていきます。    メンバーへの寄り添い方は、べったり寄り添い続けることではありません。かといって、突き放すことでもありません。「関心を持ちつつ、干渉しない」という距離感が、その間にあります。    Potageはこれを、楽器の調律師にたとえて考えています。調律師は、弦を直接弾く演奏者ではありません。全体の響きを聴きながら、張りすぎた弦を少し緩め、緩んだ弦を少し張る存在です。メンバー全員の感情を自分で引き受けるのではなく、チーム全体の響きを聴く側に回る。共感力の高いマネージャーがこの位置に立てたとき、感じ取る力はチームの調律に活きる力へと変わります。  チーム全体の響きから整えていく関わり方を、Potageでは「組織調律」と呼んでいます。個人の頑張りだけでは噛み合わないと感じている方は、こちらもご覧ください。     なお、マネージャーが感情を一人で抱え込んでしまう背景には、本人の性格だけでなく、役割分担や期待値のズレといったチームの構造の問題が隠れていることが少なくありません。個人の努力だけで解決しようとせず、構造から見直す視点については、関連記事もご覧ください。      疲れずに共感力を活かすには    共感力が高すぎて疲れている人に必要なのは、共感力を下げることでも、鍛え直すことでもありません。「整える」ことです。張り詰めた弦を緩めるように、混ざってしまった感情をほどいて、本来の感じ取る力が自然に働く状態に戻していきます。    順番は、EQの2段階と同じです。    最初の一歩は、感情に蓋をしないことです。モヤモヤしたとき、「こんなことで疲れてはいけない」と打ち消すのではなく、モヤモヤしている自分に気づくこと。それだけで、感情は「正体不明の重さ」から「扱える情報」に変わり始めます。    次に、そのモヤモヤを外に出してみます。モヤモヤは、見えていないからモヤモヤなのです。ノートに書き出す、信頼できる人に「ちょっと聞いてもらえますか」と話してみる。外に出して初めて可視化され、解像度が上がります。出すのをためらうのは、「ちゃんと説明しなければ」というプレッシャーのせいであることが多いのですが、結論もまとまりもない状態のまま出して構いません。    そのうえで、感じ取った感情が「誰のものか」を分けてみます。いま抱えている重さのうち、自分の感情はどれで、相手から流れ込んできたものはどれか。書き出したものを眺めると、相手の課題まで自分の宿題にしていたことに気づけることがあります。    あわせて、おすすめしたいことがひとつあります。自分にとっての「聖域」を作ることです。1日15分でいいので、誰にも干渉されず、誰にも気を使わない、自分だけの時間を決めて、キープし続ける。気合いで確保するのではなく、生活の構造として組み込むのがコツです。聖域の意味は、休息そのものよりも、「自分のことを自分で決める」という感覚を取り戻すことにあります。この感覚が戻ってくると、自分を大事にする気持ちと、周りを大事にする気持ちのバランスが取れるようになっていきます。    実際にあった変化を紹介します。人を優先しがちな共感型の方が、EQ開発に取り組み、2年ぶりにEQ検査を受けたところ、自己感情認知(自分の気持ちに気づく力)が大きく上がっていました。その方が実際にやったことは、家族のために毎日作っていたお弁当を、やめると宣言したことでした。聞けば、誰かに頼まれたわけではなく、「こうすると喜ぶんじゃないか」と想像上の相手のニーズに応えて、自分で自分にタスクを課していたことに気づいたのだそうです。理由を説明してやめてみると、家族も受け入れてくれて、ご本人は大きな解放感を得られました。「自分で決める」という感覚が戻り、めぐりめぐって、家族との対話や、相手を理解しようとする姿勢が生まれた。想像上の相手に応え続けるのをやめたことで、かえって本当の意味で相手に寄り添えるようになったのです。    共感力を働かせる先を、想像上のニーズから、実際に相手から出てきたニーズへ。そして、空いた自分のリソースを、少しだけ自分に振り向ける。距離の取り方に迷ったら、ほんの1メートル、ときには30センチでも引いてみる。それだけで、見える景色は変わります。      よくある質問  Q. 共感力が高すぎるのは短所ですか?   A. 短所ではありません。相手の感情を感じ取る力は、信頼関係を築くうえで替えのきかない強みです。疲れの原因は共感力の高さではなく、感じ取った感情が自分の感情と混ざったまま整理されていない状態にあります。感じ取った後の状態は整えることができます。     Q. EQと共感力は違うものですか?   A. EQと共感力は、違うものです。共感力は相手の感情を自分のことのように感じ取る力で、EQ(感情知能)は自分と相手の感情を「情報」として認識し扱う力です。共感はEQの構成要素のひとつです。EQは「共感」と「俯瞰」を行き来する力を含むため、EQが働いていると、感じ取ってもその感情に飲み込まれにくくなります。     Q. 共感しすぎて疲れるとき、何から始めればいいですか?   A. 自分のモヤモヤに蓋をせず、気づくことから始めてみてください。次に、ノートに書き出すなどして外に出すと、感情が可視化されて扱いやすくなります。そのうえで「これは誰の感情か」を分けてみると、相手の課題まで抱え込んでいたことに気づきやすくなります。あわせて、1日15分だけ誰にも気を使わない自分の時間を「聖域」として確保するのもおすすめです。 まとめ:共感力は下げるものではなく、整えるもの    共感力が高すぎて疲れるのは、感じ取る力が強いからではなく、感じ取った感情が自分の感情と混ざり、ニュートラルを失っているからです。必要なのは鈍感になることではなく、「共感」と「俯瞰」を行き来できる状態に整えることです。その力を測り、扱えるようにするのがEQ(感情知能)です。    自分の感情の癖を知ることは、整える第一歩になります。PotageのEQPI®診断は、EQと性格特性をあわせて可視化し、アナリストとの1on1で結果を一緒に読み解きながら、自分の感じ取り方の癖を言葉にしていきます。Potageの公式LINEでは、しばしばEQ診断のキャンペーンを配信しています。共感力の高さを消耗の原因ではなく、強みとして活かしたい方は、ぜひLINEにご登録ください。  ご自身の状態を知ることから始めたい方には、Potage公式LINEで、EQ診断のご案内を行っています。ぜひご登録ください。

2026年10月17日

最終更新日:

共感力が高すぎて疲れる原因と、共感力を活かしたまま整える方法

共感力が高すぎて疲れるのは、受け取った感情を整理しないまま抱え込んでしまうからかもしれません。疲れやすさのチェック項目、エンパス・HSPとの関係、共感力を下げずに疲れを減らす方法を、EQ(感情知能)の視点から解説します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】   遠慮をやめて本音を伝えたい。でも、どう伝えればいいか分からず、つい飲み込んでしまう。そんな方は少なくないかもしれません。 変えるのは、たった「1.1倍」でいい。いつもより少しだけ心を開いてみることから、コミュニケーションは動き出します。 NOKIOO・小田木朝子さんとの対談の後半から、遠慮を配慮に変えていく具体的な練習法を探ります。   【目次】  その前に:「遠慮」と「配慮」は、何が違うのか 頭で分かっても、行動が変わらないのはなぜか いきなり変えなくていい。「1.1倍」だけ開いてみる 失敗していい場所を、先につくる 大切なのは、「みんな違う」と知ること 「言ってくれてありがとう」から始まる循環 今日からできる、小さな一歩  本音を伝えたほうがいいのは、分かっている。それでも、いざその場になると、角が立つ気がして言葉を飲み込んでしまう。あとから一人で、あるいはAIに向かって、言えなかったことをこぼしてしまう。そんな経験を持つ方は、少なくないのではないでしょうか。  この記事は、人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO取締役の小田木朝子さんと河原あずさの対談をもとにしています。前半の対談で、「遠慮」と「配慮」の違いを話しました。後半の対談では実際にどうやって遠慮を配慮へ変えていくのか、という実践の話をうかがいました。  この対談は、前半と後半に分かれています。前半(小田木さんのチャンネル)では、「遠慮」と「配慮」が何を指すのか、なぜ遠慮が積み重なると厄介なのか、その入り口を話しています。この記事は後半をもとにしていますので、前半とあわせて聴いていただけると、より立体的に楽しめるかもしれません。 前半(小田木さんのチャンネル「明日の景色を変える仕事サプリ」): 後半(あずさんのチャンネル。この記事のもとにした回「コミュニティ思考AtoZ」):     その前に:「遠慮」と「配慮」は、何が違うのか    前半で話したのは、似ているようで違うこの二つの言葉でした。あらためて整理すると、こうなります。 遠慮:言いたいことも言えず、飲み込んでしまう状態 配慮:自分の本音を、相手が傷つかない形で、適切なタイミングで伝えられる状態  この違いは、聴いてくださった方の反応にもよく表れていたようです。小田木さんは、前半の対談の手応えをこう振り返ります。  このテーマを選んでよかったなって。自分が遠慮の傾向が強いのか、それとも配慮しながら小さな違和感を交わし合えているのか。まずそこにフラグが立つだけで、少し選択や傾向を変えられる。そんな話だなと思ったんです。  自分はどちらに寄っているのか。それに気づくだけでも、動き出せることがあります。 ここから先は、その「じゃあ、どう変えるのか」を一緒に見ていきます。     頭で分かっても、行動が変わらないのはなぜか    配慮のほうがいい、というのは、多くの人が頭では分かっています。それでも行動が変わらないのは、途中にいくつかの壁があるからです。小田木さんは、かつての自分をこう振り返ります。    一つは、どこまで言っていいのか分からないという悩み。もう一つは、違和感やモヤモヤは、あんまり言っちゃダメなことだという思い込み。相手を不快にさせるかもしれない、気を遣わせてしまうかもしれない。だから口には出さないほうがいい、と思っていたんです。  言えない状態が続くと、それはやがて「言えない構造」として固まっていきます。何が怖いかといえば、コミュニケーションで失敗することです。だとすれば、考える順番は変わります。失敗しないように身構えるのではなく、失敗してもいい場所を先に用意しておく。そこから始めればいいのではないでしょうか。     いきなり変えなくていい。「1.1倍」だけ開いてみる    とはいえ、いきなり本音を全部さらけ出すのは、誰にとっても難しいことです。あずさんが現場でよく使うのは、EQの考え方をもとにした、ある声かけです。  EQの検査の中に、心を開くと書いて「心開(しんかい)」というパラメーターがあります。自分の感じていることをどれだけ外にオープンにするか、という力です。トレーニングのときは、いつもの1.1倍だけ心開してみましょう、と伝えるんです。2倍じゃなくて、1.1倍でいい。  全開にしようとすると、人は無理をして長続きしません。けれど1割増しなら、自分のモードを崩さずに、少しだけブレーキを緩めることができます。そして、ここには返報性の法則がはたらきます。自分が1.1倍で開くと、相手も1.1倍で返してくれる。それを毎日くり返せば、複利のように少しずつ増えていきます。変えるのは、今まで言わなかった一言を足すこと、深掘りの質問を一つ加えること。たったそれだけで、コミュニケーションは変わり始めます。     失敗していい場所を、先につくる    1.1倍を試すにも、いきなり本番では緊張します。そこであずさんが挙げるのが、車の運転の比喩です。こういう距離感で車は止まるんだ、というのは、動かしてみるまで分からないですよね。だから教習所で、運転の下手な人同士が運転して体得していく。コミュニケーションもそれと同じで、失敗してもいい場所をつくればいいんです。    気の置けないチームや、気心の知れた相手。まずはそういう場で、いつもと少し違う言い方を試してみる。うまく伝わったか、もう少しトゲを抜けたか、お互いにフィードバックし合う。助手席に誰かを乗せて振り返るように、一人で抱え込まずに練習できる機会を持っておくと、安心して一歩を踏み出しやすくなります。     大切なのは、「みんな違う」と知ること    配慮的なコミュニケーションでつまずくとき、その根っこには共通した勘違いがある、とあずさんは言います。  失敗の一番の要因は、みんなが同じ価値観を持っていると思い込んでいることなんです。自分がこう感じるから、相手もこう感じるはずだ、と。だから想定外の反応が返ってくると、動揺して次の言葉が出なくなってしまう。  育ってきた環境が違えば、好きも嫌いも違う。近いメンバーであっても、感じ方はそれぞれです。まずはその違いを知っていくこと自体が、いいトレーニングになります。相手が感情を見せても、それは自分が責められているサインではありません。ひとつの情報として、そのまま受け止めればいいのです。そう捉え直せると、相手の反応を怖がらずに受け止められるようになっていきます。     「言ってくれてありがとう」から始まる循環    一人が勇気を出しても、それが罰のように扱われれば、次からは口をつぐんでしまいます。小田木さんが、自分たちのチームで大切にしてきたことを教えてくれました。プチ勇気を出して言ってみたことに対して、まずは「言葉にしてくれてありがとう」と返すんです。それによって、言っていいんだ、言ってよかった、という蓄積ができていく。    あずさんも、こう重ねます。言うことが罰ゲームになると、人は当たり前のように言わなくなる。だからこそ、そのループを断ち切ることに意味がある、と。小さな一言に「ありがとう」を返す。その積み重ねが、遠慮ではなく配慮が回っていくチームの土台になります。小田木さん自身も、信頼できる人との対話を数年続けながら、言葉にする習慣を持つチームの中で、少しずつこの力を育ててきたそうです。     今日からできる、小さな一歩    配慮は、高度で難しい技術のように見えて、工夫しだいでいくらでも試せるものです。一気に変える必要はありません。いつもより1.1倍だけ心を開く。今まで言わなかった一言を、そっと足してみる。  うまくいったという小さな成功体験を一つ持ち帰れれば、コミュニケーションはそこから少しずつ変化していきます。  自分がつぶやくときもあれば、誰かのつぶやきに「ありがとう」を返すときもある。その循環が、チーム全体の感情の扱い方を少しずつ育てていくのではないでしょうか。小田木さんとの対談は、次回もまた続く予定です。これからも一緒に考えていければと思っています。     小田木さんの発信・株式会社NOKIOOについて   Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」では、仕事・キャリア・人生に効く音声を毎日配信中 株式会社NOKIOO コーポレートサイト     Potageからのご案内   PotageはEQ(感情知能)診断とワークショップを通じて、「感情を扱えるチーム」づくりを支援しています。まずは、個人や組織の感情の状態を知るところから始めてみませんか。 取り組み事例を読む     対談の出演者   小田木朝子さん(株式会社NOKIOO取締役) 人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOOの取締役。Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」パーソナリティ。 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) EQ(感情知能)と組織調律を軸に、チームづくりを支援。メンバーが本音を交わし、生き生きと成果を上げ続けられる組織づくりに取り組んでいる。

2026年8月16日

最終更新日:

いきなり変えなくていい。「遠慮」を「配慮」に変える1.1倍の練習/NOKIOO・小田木朝子さんと考えるEQ(感情知能) 実践編

遠慮して本音を飲み込んでしまう。それを変えるのは、いつもの「1.1倍」だけかもしれません。EQ(感情知能)をもとに、遠慮を配慮に変えていく具体的な練習法を、NOKIOO・小田木朝子さんとの対談からお伝えします。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  メンバーは発言せず、上司は聞く耳を持たない。中間管理職が抱えるこうした悩みの多くは、関係性の土台不足と「決めつけ」から生まれています。雑談と1on1で話せる土台をつくること、相手への決めつけや自分の感情の投影に気づくこと、「あなたvs私」ではなく「問題vs私たち」の構図でゴールを揃えること。この3つが、心理的安全性のあるチームへの入口になります。   【目次】 1. なぜ「特にありません」しか返ってこないのか 2. 「お山の大将」は本当か。決めつけと投影に気づく 3. チームの掛け違いを予防する「問題vs私たち」 4. まとめ 5. よくある質問(Q&A)      会議でメンバーに「困っていることはありますか」と聞いても、返ってくるのは「特にありません」の一言。かと思えば、自分の上司はチームで練った案に聞く耳を持たず、経験者としてのダメ出しが続く。上からも下からも板挟みになる中間管理職の方には、思い当たる場面が多いのではないでしょうか。(関連記事:管理職のストレスが限界になる前に)      この記事では、ポッドキャスト「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」のゲスト回をもとに、こうした相談への答えを再構成しました。答えるのは、1日所長として登場した株式会社ソニックガーデンの倉貫義人氏(くらぬき・よしひと)。「管理をしない会社」の経営で知られ、雑談と相談をかけ合わせた「ザッソウ(雑談・相談)」提唱者です。『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談』の著者でもあります。 今回は、倉貫義人氏と、心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)、EQの専門家である河原あずさ(Potage株式会社)との対話から、ヒントを探ります。     なぜ「特にありません」しか返ってこないのか  早速1つ目はこんな相談です。  「定例会議で何を聞いても「特にありません」としか返ってこないのですが、  どのように対応したらよいでしょうか」      倉貫氏の最初の指摘は、問いの立て方そのものに向けられました。「困っていることはありますかって聞かれるのって、僕も結構困るんですよね」。本当に困っていないのなら発言しなくてもよいはずで、聞くとしても「最近気になっていることはありますか」のような言い方に変えるだけで印象が変わる、という見立てです。      そのうえで倉貫氏は、より根本にある関係性の土台を挙げます。相談の前には雑談が必要で、雑談の中で「この人は話しても怒らない」「話を聞いてくれる」と分かってはじめて、公式の場でも話せるようになるかもしれない、という順序です。ソニックガーデンでも、マネージャーには1対1で話す時間を作ってもらうようにしているそうです。大勢の前で話すことはハードルが高く、1対1であれば話す機会そのものが生まれるからです。 (関連記事:1on1の目的とは。形骸化させないために)      金氏も同じ構図を指摘します。会議の場で聞かれると「特にありません」と言いやすいため、1対1で聞いても何も出てこないのかどうかが気になる、と。つまりこの相談は「関係性の問題なのか、場のデザインの問題なのか」を切り分ける必要がある、という見立てです。      河原あずさは、シチュエーションの影響を補足します。たとえば会議終了5分前に「困っていることはありますか」と聞かれれば、早く終わらせたいので「特にありません」と返ってくるのが自然です。メンバーが話さないのではなく、話しにくい環境をこちらが設定してしまっている可能性に気づけると、開示してもらえる環境設計につながるのではないか、という視点です。     「お山の大将」は本当か。決めつけと投影に気づく  2つ目の相談は逆の立場から(メンバーからの相談)でした。  「上司がお山の大将で、聞く耳を持たず、チームで練った案も通らない。  この不穏な雰囲気を良くするには、どうしたらよいでしょうか。」      倉貫氏はまず、問いそのものを問い直します。本当に実現したいことは雰囲気を良くすることではないはずだ、と。そのうえで、こう指摘します。「上司がお山の大将である、というのはバイアスがかかっているということだと思うんですよね」。あらゆる人の行動には本人なりの理由がある。話を聞かないのなら聞かない理由があるはずで、「あいつは話を聞かない」と決めつけてしまうと相互理解の道が断たれてしまう。だからこそ、決めつけを外して相手の理由を確認し、対話で解決していくことが、本当にチームを良くしたいのであれば必要になる、という考え方です。      似た構図は3つ目の相談にもありました。  「経験者の上司からダメ出しが続き「メンバーの表情も曇っていきました・・」  という課長の方からのご相談です。  金氏が着目したのは、この「曇っていきました」という言葉でした。メンバーの誰も「嫌だ」と言葉にしたわけではなく、相談者自身の気持ちが投影されている瞬間ではないか、という見立てです。ただし金氏は、こうも付け加えます。自分自身が嫌な気持ちになっていること自体は認めてよい。そのうえで「そういう言い方をされると、私はこう思います」と上司に伝えられているかが、次の問いになる、と。      河原あずさはこの2つの相談に共通する構造を、鏡にたとえて整理しました。上司がお山の大将に見えるのも、メンバーの表情が曇って見えるのも、自分自身の気持ちが投影されて、鏡を見ているような状態になっている可能性がある、ということです。まだ仮説の段階なのだとしたら、決めつける前にそこをクリアにするほうが先ではないでしょうか。     チームの掛け違いを予防する「問題vs私たち」  では、こうした掛け違いはどう防げるのでしょうか。倉貫氏の答えは明快で、起きてから対処するのではなく、起きないように予防することでした。      その方法が、ゴールの共有です。プロジェクトには目指すゴールがあるはずで、最初に「私たちが実現したいことはこれですよね」という合意を取り、参加者がそこにコミットする。そうすれば、意見がぶつかっても「自分の意見を通すためか、ゴールを達成するためか」で判断できるようになります。倉貫氏はこのスタンスを「問題vs私たち」と呼んでいます。「あなたvs私」の構図では、どちらかの思惑が通ってもどちらかに不満が残ります。そうではなく、問題を前に置いて、それに私たちで取り組む構図を最初から作り続ける、という考え方です。      これを受けて金氏は、心理的安全性の文脈から同じ結論を語りました。心理的安全性は単にコミュニケーションができる組織の話に見えがちですが、「何の問題に対してコミュニケーションがちゃんとできる組織なのか」という前提がないとうまくいかない。見ている問題がバラバラだと、意見は全部食い違う。ZENTechでも「課題vs私たち」というスライドを作っているそうで、お2人の見立てはここで重なりました。      河原あずさはこれを、チームづくりの原則として引き取ります。仮想敵を作れば一見一体感が出るように見えますが、組織全体で見れば誰も幸せにしません。そうではなく、何の目的で集まった人たちなのかに立ち返り、ゴールとその手前にある課題を確かめて、最適な行動をみんなで話し合う。それができてくると、心理的安全性あふれるチーム形成につながるのではないか、という整理です。     まとめ ・「困っていることはありますか」という問い自体が答えにくい。聞き方と場のデザインを見直す ・相談の前に雑談。話しても大丈夫だと分かる関係性の土台を、1on1などでつくる ・『「上司はお山の大将」「皆の表情が曇った」は、もしかしたら自分の感情の投影かもしれない』という可能性を、まず確かめる ・嫌な気持ちそのものは認めてよい。そのうえで「私はこう思う」と伝えられているかを問う ・ゴールを共有し「あなたvs私」ではなく「問題vs私たち」の構図をつくることが、掛け違いの予防になる ・目的に立ち返ってみんなで行動を選び直すことが、心理的安全性のあるチームにつながる     よくある質問(Q&A) Q1. 会議で「特にありません」としか返ってこないとき、どうすればいいですか? A. 問いの立て方と場の設計を見直すことから始められます。「困っていることはありますか」は答えにくい問いで、「最近気になっていることはありますか」のような聞き方に変える、会議ではなく1対1で聞く、といった工夫が入口になります。前提として、雑談などを通じて「話しても大丈夫」と思える関係性の土台が必要です。     Q2. 意見を聞かない上司には、どう向き合えばいいですか? A. 「聞く耳を持たない上司」という見方自体が決めつけになっている可能性があります。行動には本人なりの理由があると考えて、まず相手の理由を確認することが出発点になります。嫌な気持ちを抱くこと自体は自然なことなので、それを自分で受け入れたうえで「私はこう思う」と相手に伝えられているかを振り返ってみてください。     Q3. 「問題vs私たち」とはどういう考え方ですか? A. 意見の対立を「あなたvs私」の構図にせず、共有した問題やゴールを前に置いて、それに全員で取り組む構図をつくる考え方です。プロジェクトの最初にゴールへの合意とコミットがあれば、意見がぶつかっても「ゴール達成のためかどうか」で判断でき、思惑のぶつかり合いを予防できます。     ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。 ソニックガーデン・倉貫義人さんと考える『問題 vs 私たち』のチームづくり   「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する金氏の知見は株式会社ZENTech(ZENTech様のURLを挿入)のサイトもご覧ください。    Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。 お気軽にご相談ください。 お問い合わせはこちら

2026年8月16日

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中間管理職のための心理的安全性。ソニックガーデン代表 倉貫さんと語る「決めつけを手放す」チームづくり

年上の部下が本音を話さない原因は、若手管理職側の「優秀さを示さなければ」という構えにあります。敬意と自己開示を組み合わせる「可愛がられる力」、指摘の伝え方、こだわりの可視化まで、心理的安全性を高める具体策を専門家の見解をもとに解説します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事の3行まとめ】  チームのためにと気を配るほど、自分ばかりがすり減っていく。その違和感の正体は、「遠慮」と「配慮」が混ざっていることかもしれません。  感情に蓋をしないことは、誰かにぶつけることではなく、自分で丁寧に扱うこと。EQでは、この一連の流れを「調整」と呼びます。  人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO取締役の小田木朝子さんとの対談から、遠慮を配慮に変え、感情を扱えるチームをつくるヒントを探ります。 目次 NOKIOO・小田木さんが、いま「感情」に向き合う理由 蓋をしないことは、ぶつけることではない 遠慮と配慮は、似ているようで違う NOKIOOとPotageは、同じ方向を別の入り口から 今日からできる、小さな一歩 「気遣い」から「お互いさま」へ   チームのためにと気を配っているのに、なぜか自分ばかりがすり減っていく。会議では波風を立てないよう言葉を選び、メンバーの要望にはできる限り応える。その先で、ふと「自分は何をしているんだろう」とモヤモヤが残る。そんな感覚を持つ管理職は、少なくないかもしれません。   この違和感の正体について、人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO(以下、NOKIOO)取締役の小田木朝子さんとVoicyにて対談しました。EQ(感情知能)をテーマに話すうちに見えてきたのは、「遠慮」と「配慮」が混ざってしまっている、という構図でした。この記事は、対談をもとにして作成しています。 NOKIOO・小田木さんが、いま「感情」に向き合う理由   小田木さんは、組織で働く人の力をどう引き出すかを長く見てきた人です。その小田木さんが、いまもっとも大切にしているテーマのひとつが「感情の扱い方」だと言います。 意外なのは、10年前はまったく逆だったという点です。   「ビジネスに感情を含めるものではない、感情を排して論理的でなくてはならない、と思っていたんです。自分自身も、感情を丁寧に扱うことを知らなかった。 常にポジティブでいなければと振る舞ううちに、悲しみも、怒りも、がっかりも、きちんと扱わないまま通り過ぎていく。それは「自分に鈍感になり、人にも鈍感になっていくことと同義だった」と、小田木さんは振り返ります。   中間管理職の忙しさの本質も、物理的な量よりも「感情の混乱」にあることが少なくありません。やるべきことと手放していいことの仕分けがつかなくなる。不安や焦りに流されると、目の前の出来事に反射的に反応するだけになり、選ぶ余裕がなくなっていきます。 蓋をしないことは、ぶつけることではない   ここで誤解が生まれやすい、と小田木さんははっきり言葉にしてくれました。   感情に蓋をしない、というと、出しまくっていい、誰かにぶつけていい、と受け取られがちです。でも、ぶつけることと、自分で丁寧に扱うことは、まったく別のことなんですよね。   Potageの現場でも、配慮や気配りの強いマネージャーが、こんな悩みを話してくれたことがあります。いろいろな人から「こうしてほしい」と頼まれると、その全部に応えようとしてしまう。それが自分の仕事だと思っている。けれど時々、心の中で舌打ちしたくなる自分がいて、それが嫌だ、と。   その声を、悪い自分の声として扱う必要はないのかもしれません。「なぜ、その声は出てくるのか」と問いを向けると、見えてくるのは、それが「やりすぎないためのブレーキ」だということです。本音を消そうとするのではなく、そこにあると認める。それだけで、ものごとが前に進むことがあります。 遠慮と配慮は、似ているようで違う 【遠慮】我慢し続けて、自分の意見を出せない状態 【配慮】自分の本音を、まわりが傷つかないように、適切なタイミングで伝えられる状態  自分の感情を見つけ、蓋をせずに気づけるようになると、不思議とまわりの気持ちも察せられるようになる。そのうえで、どう伝えるかを選べるようになる。遠慮から配慮へ調整することが大切、と言えるのかもしれません。  小田木さんは、これを「意識して育てた」と言います。難しいと思い込まず、蓋をしすぎないようにしようと自分の感情に向き合うことを始めたら、相手の感情も大事にできて、この状態を手放したくないと感じるようになっていった、と。調整する力は、後からでも身につけられるものなのです。 NOKIOOとPotageは、同じ方向を別の入り口から   NOKIOOは、人材開発・組織開発の専門家として、学びの設計や仕組みづくりから組織の力を引き出してきました。一方Potageは、EQを活かしたチームづくりを通じて、感情が循環する「場」の側から組織を支えています。  入り口は違いますが、向かう先は同じです。すなわち、その人らしさを活かしながら、成果を上げ続けられる組織です。今回の対談は、その二つの視点が交わったからこそ深まった話でした。 今日からできる、小さな一歩  感情を扱うと言われても、何から始めればいいのか迷うところです。試してみてほしいのは、モヤモヤを「小さいうちに、結論のないまま」声に出してみること。モヤモヤは、見えていないからモヤモヤなのであって、外に出して初めて可視化され、解像度が上がっていきます。  小田木さんには、そのための鉄板の枕詞があるそうです。  「ちょっと、つぶやいていいですか」で始める。そうすると、結論もないし、ポジティブな話でもなくても、抱えているモヤモヤを言葉にしやすい。相手も『いいよいいよ』という気持ちで聞ける。  多くの人がモヤモヤを出すのを躊躇するのは、「ちゃんと説明しなきゃ」「整理してから話さなきゃ」というプレッシャーがあるからです。けれど本当は、結論も解決策もいりません。まだ言葉になりきらない感覚を、そのまま置いてみる。それを聞ける関係が増えていくこと自体が、チームが感情を扱えるようになっていく一歩です。 「気遣い」から「お互いさま」へ  個々人の感情は、チームや組織全体の状態となって、そこに表れます。その状態は、見た目だけでは見分けがつきません。一人が気を使って抑え込む関係と、お互いに気を配り合って支え合う関係は、似ているようでまったく違うからです。  小田木さんの言葉を借りれば、「気遣い」よりも「お互いさま」。自分がつぶやくときもあれば、誰かのつぶやきを聞くときもある。その循環が、組織全体の感情の扱い方を育てていきます。 小田木さんの発信・株式会社NOKIOOについて  小田木さんのVoicyチャンネル「明日の景色を変えるしごとサプリ」では、仕事・キャリア・人生に効く“音声サプリ”を毎日配信中! 株式会社NOKIOO コーポレートサイトはこちらからご覧いただけます。 Potageからのご案内  PotageはEQ(感情知能)診断とワークショップを通じて、「感情を扱えるチーム」づくりを支援しています。まずは、個人や組織の感情の状態を知るところから始めてみませんか。 取り組み事例を読む 感情をプラスの力に変える、組織向けの伴走サービスYourCEQOを見る 対談の出演者 小田木朝子さん(株式会社NOKIOO取締役) 人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOOの取締役。Voicy「明日の景色を変えるしごとサプリ」パーソナリティ。 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) EQ(感情知能)と組織調律を軸に、チームづくりを支援。メンバーが本音を交わし、生き生きと成果を上げ続けられる組織づくりに取り組んでいる。  ご自身の状態や組織の状態をEQという観点で知ることから始めたい方には、EQPI診断も効果的です。EQ診断のご案内は、Potage公式LINEで行っています。

2026年11月1日

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「遠慮」と「配慮」は違う。感情を扱えるチームのつくり方/NOKIOO・小田木朝子さんと考えるEQ(感情知能)

チームのためにと気を配るほど、自分がすり減っていく。その正体を、NOKIOO・小田木朝子さんとの対談から整理しました。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】 年上の部下が本音を話さない原因は、若手管理職側の「優秀さを示さなければ」という鎧にあります。解決の鍵は、相手への敬意と自分の弱みの開示をセットにした「可愛がられる力」。指摘は背景を丁寧に共有したうえでストレートに伝え、チームでは互いの「こだわり」を可視化することで、心理的安全性の土台ができます。 抜擢人事が広がり、30代で部長や課長になる人が増えています。その結果、中間管理職が40代・50代の年上の部下をマネジメントする場面は、もはや珍しくありません。 「年上のメンバーがやりづらそうにしていて、本音を話してくれない」「若いと軽く見られているのではないかと不安になる」。こうした悩みは、多くの中間管理職に共通するものです。 本記事では、ポッドキャスト「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」に寄せられた、製造業・30代部長さまからの相談をもとに、心理的安全性の専門家・金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知性)の専門家・河原あずさ(Potage株式会社)が語った「年上の部下との関係づくり」のポイントを解説します。 【目次】 なぜ年上の部下との関係はこじれるのか——「鎧」の構造 解決の鍵は「可愛がられる力」——リスペクト×自己開示 自己開示は「武勇伝」より「茶目っ気」 ネガティブな指摘は「準備は丁寧に、伝え方はストレートに」 チームの土台をつくる「こだわりポイント」の共有 まとめ よくある質問(Q&A) なぜ年上の部下との関係はこじれるのか。「鎧」の構造  若くして管理職になる人は、もともと優秀な人がほとんどです。ところがその優秀さが、かえって壁になることがあります。  ZENTech金亨哲氏の見解によれば、「優秀さを上にも下にも見せ続けなければならない」という意識が働き、弱みを見せない自己防衛の"鎧"をまとってしまうのです。リーダーが鎧を着ていると、年上の部下も構えてしまい、本音を出しにくくなります。「若いと思われたくない」という管理職側の不安が、率直な対話を妨げる。これが典型的なこじれの構造です。  こうした対人関係の緊張は、中間管理職のストレスの主要因のひとつでもあります。上司と部下の板挟みに悩んでいる方は、管理職のストレスが限界を迎える前に知っておきたいことについての記事もあわせてご覧ください。 解決の鍵は「可愛がられる力」。リスペクト×自己開示    放送の中で金氏が示した処方箋は、意外にもシンプルでした。優秀さで戦うのをやめ、「可愛がられる力」を発揮することです。金氏自身も30代で年上のクライアントと向き合う立場にあり、実践から得た方法として、2つの要素をセットにすることを挙げています。 1. リスペクトを土台にする 相手の経験やキャリアへの敬意を、態度と言葉で明確に示す。 2. 自分から悩みを開示する 「若く見られがちで悩んでいる」といった本音を、あえてそのまま伝える。そのうえで「この部分を頼りにしています」と、頼りたい領域を具体的に伝える。  年下から頼られて嫌な気持ちになる人は多くありません。敬意と自己開示がセットになったとき、年上の部下との距離は縮まり始めます。  これは、自分や相手の感情を理解して扱うEQ(感情知能)を土台にした、共感型リーダーシップのアプローチでもあります(河原あずさ)。優秀さで信頼を勝ち取るのではなく、感情のやり取りで信頼を育てる。この転換が本質です。 自己開示は「武勇伝」より「茶目っ気」  自己開示といっても、実績や武勇伝を語るのは逆効果です。金氏によれば、効果的なのは、少し人間味があり、笑える要素のある「茶目っ気」のあるエピソードです。  失敗談や、思わずクスッとするような話を日頃から共有しておくと、心理的距離が縮まり、いざというときに本音の対話がしやすくなります。 ネガティブな指摘は「準備は丁寧に、伝え方はストレートに」  年上の部下に改善点を伝える場面は、中間管理職にとって最も気が重い仕事のひとつです。放送では、金氏から次の原則が示されました。 事前準備は通常の何倍も丁寧に行う。どう伝えるかのシミュレーションや資料準備に時間をかける 伝えるべきことは、あいまいにせずストレートに伝える。ただしその前に、背景にある思いや事実を丁寧に共有する 敬意を保ちながら、指摘はぼかさない。この両立が信頼につながります。  この「背景を共有してから、まっすぐ伝える」姿勢は、1on1やフィードバック全般に応用できます。評価や指示を一方的に下ろすのではなく、相手の感情や背景に耳を傾け、問いを通じて一緒に解決策を探る。河原あずさはこれを、管理としてのマネジメントから「対話型マネジメント」への転換と位置づけています。年上の部下から本音を引き出す土壌は、この関わり方から生まれます。 なお、こうした対話の場として1on1を機能させたい方は、1on1の目的とは何かで形骸化を防ぐポイントを解説しています。 チームの土台をつくる「こだわりポイント」の共有  個人のコミュニケーション技術に加えて、チーム単位でできる施策も紹介されました。金氏が新しいチームの立ち上げ時に実践した、メンバー全員が「仕事でここだけは譲れない」というこだわりを話し合い、可視化するワークショップです。  チーム内の軋轢の多くは、互いのこだわりの違いを知らないまま"地雷"を踏み合うことから生まれます。こだわりを事前に共有し、相手の譲れない領域にリスペクトを払うと決めるだけで、チームの動きやすさは大きく変わります。譲れない部分がわかれば、それ以外の部分では譲り合える。この転換が、鎧を脱ぐための土台になります。  うまくマネジメントできている人ほど、相手を人としてリスペクトし、相手に花を持たせ、強みが活きる場面で力を発揮してもらっています。一人ひとりの「個」の良い側面を組み合わせたとき、チームに相乗効果が生まれる。これは、Potageが組織文化づくりで大切にしている考え方でもあります。 まとめ:中間管理職に必要なのは戦闘能力より茶目っ気 若手管理職ほど「優秀さの鎧」を張りやすく、それが年上の部下との壁になる リスペクトと自己開示をセットにした「可愛がられる力」が関係構築の鍵 自己開示は武勇伝ではなく茶目っ気のあるエピソードで ネガティブな指摘は、準備を丁寧に、伝え方はストレートに チームでは「こだわりポイント」を共有し、心理的安全性の土台をつくる よくある質問(Q&A) Q1. 年上の部下が本音を話してくれないのはなぜですか?  A. 原因は管理職側の「方向性を示し続けなければ」という考え方にあることも、多くあります。リーダーが弱みを見せない鎧をまとうと、年上の部下も構えてしまい、率直な対話が生まれにくくなります。 Q2. 年上の部下との信頼関係はどう築けばよいですか? A. 相手の経験への敬意を明確に示したうえで、自分の悩みや弱みを開示し、「この部分を頼りにしている」と具体的に伝えることです。敬意と自己開示をセットにすることが鍵です。 Q3. 年上の部下に改善点を指摘するときの注意点は? A. 事前準備を丁寧に行い、背景にある事実や思いを共有したうえで、指摘そのものはあいまいにせずストレートに伝えることです。準備の丁寧さと伝え方の率直さは両立できます。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。 年上の部下とどう付き合えば…!?若手リーダーに必要な"可愛がられる力" ※「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見は株式会社ZENTechのサイトもあわせてご覧ください。 Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。チームの対話や相互理解を深める取り組みを検討したい方は、お気軽にご相談ください。  → お問い合わせはこちら

2026年8月16日

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中間管理職が年上の部下とうまくいかない理由と対処法。「可愛がられる力」とは

年上の部下が本音を話さない原因は、若手管理職側の「優秀さを示さなければ」という構えにあります。敬意と自己開示を組み合わせる「可愛がられる力」、指摘の伝え方、こだわりの可視化まで、心理的安全性を高める具体策を専門家の見解をもとに解説します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1.     なぜ「形だけの1on1」は起きるのか 2.     心理的安全性を高める鍵は「上司の自己開示」 3.     メンバーの本音を引き出すEQと「弱さを見せる」リーダーシップ 4.     1on1は「教える場」ではなく「聞く場」。小さな積み重ねが組織文化を変える  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、組織の中で混ぜ合わせることで新しい価値を生み出す。そんな想いで、コミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと一緒にお届けしている音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」。ナビゲーターのきのせさんを加えた3人で、現場のリアルなお悩みに向き合っています。  今回のテーマは、ナビゲーターのきのせさんが持ち込んでくれた「1on1」です。事前アンケートで「最も処方箋が欲しいモヤモヤ」を尋ねたところ、最も回答が多かったのが「形だけの1on1」でした。時間は取っているのに、お互い本音を話せていない。とくに中間管理職の方から、そんな声が多く寄せられています。本記事では、形だけの1on1がなぜ起きるのか、そしてメンバーの本音を引き出し、心理的安全性を高める対話術を掘り下げます。   なぜ「形だけの1on1」は起きるのか  ひょんちょるさんも「本当におっしゃる通り」とうなずいた、形だけの1on1問題。1on1が形骸化する背景には、いくつかの構造があります。  ひとつは、制度としての1on1の広がりです。「1on1をやりなさい」「キャリア面談でメンバーを支援してください」と会社から求められ、それまで自分のチームの数字を追っていればよかった中間管理職が、突然、メンバーと1対1で定期的に向き合うことになる。プレイングマネージャーとして自分の業務を抱えながら、本音で話し合う場をいきなり持とうとすると、ハードルが高いのは当然です。  もうひとつは、関係性が育っていないところから始まること。新任のリーダーや異動直後で、ミーティングですらまだ話したことのない相手と、急に1on1をすることになる。これでは「何を話せばいいかわからない」と戸惑うのも無理はありません。さらに、初任や数年目のマネージャーは、マネジメント自体が手探りです。自分も悩んでいるのに、メンバーの悩みまで聞かなければならない。そんな板挟みの状態に置かれている方も、少なくないのです。   心理的安全性を高める鍵は「上司の自己開示」  では、形だけの1on1をどう変え、心理的安全性を高めていけばいいのか。放送で繰り返し出てきたキーワードが「上司の自己開示」です。  ひょんちょるさんによれば、素敵な1on1ができている関係は、なぜか趣味の話がすっとできていることが多いそうです。たとえば、プラモデルにハマっているメンバーに上司が教わり続けたら、関係がぐっと良くなった、という話。最初から仕事の核心に切り込むのではなく、相手が気持ちよく話せる入り口をつくることが、本音を引き出すうえで遠回りのようで近道になります。  オンラインの1on1なら、できる限り上司から顔を出すこと。背景に映る本棚など、そこから話題を拾うだけでも、対話のきっかけは生まれます。私自身がワークショップでよく使うのは、「スマホのカメラロールから、自分を象徴する一枚を選んで共有する」というアイスブレイクです。子どもの写真でもラーメンの写真でも、人は語れる一枚を必ず持っているもので、これが関係性の糸口として驚くほど効きます。   メンバーの本音を引き出すEQと「弱さを見せる」リーダーシップ  関係性ができていないのに、いきなり本音を、というのは難しいものです。とくにメンバーにとって、上司は「評価する立場」。本音を出しづらいのは当然です。だからこそ、まず上司側が弱さを見せることに意味があります。これは、強さで引っ張るカリスマ型ではなく、共感で支える新時代のリーダーシップにもつながります。  私が会社員だった頃の上司は、隣の席で愚痴をこぼす人でした。「最近こう言われて困っててさ」と。その場で解決策を出すわけではないのですが、聞いているうちに「何かを返したい」という気持ちになる。そして上司が弱音を見せてくれることで、自分も困ったときに頼っていいんだ、とハードルが下がっていきます。ZENTechでは、リーダーに必要なのは「のび太力」ーードラえもんに素直に泣きつける力ではないか、という話もあったそうです。  これはEQ(感情知能)の観点ともつながります。私が扱うアセスメントには、「心を開く」姿勢を表す「心開(しんかい)」という要素があります。これが高い人は、自分の弱みや困りごとをまっすぐ開示できるため、周囲とのコミュニケーションがスムーズになります。返報性の法則も働き、本音を話すほど、周りも本音を話すようになる。とはいえ、いきなりフルオープンにする必要はありません。私が研修でお伝えしているのは「1.1倍の心開」です。今までの開示の幅を、ほんの少しだけ広げてみる。一人ひとりが1.1倍になれば、組織全体では何倍にも本音の幅が広がっていくのです。   1on1は「教える場」ではなく「聞く場」。小さな積み重ねが組織文化を変える  1on1で上司からよく聞くのが、「どう教えていいのかわからない」という声です。けれど、ここには誤解があります。1on1は教える場ではなく、話を聞く場。「何かいいことを教えなければ」というプレッシャーから上司を解放することも、対話型マネジメントの第一歩です。  大切なのは、相手が今「ただ聞いてほしいのか」「ヒントが欲しいのか」を見極めること。放送では、ティーチングとコーチングを明確に使い分ける上司の例も紹介されました。普段はコーチングで気づきを渡し、数字を追う局面では教える。普段から信頼を積み重ねているから、必要なタイミングでトップダウンな関わりが入っても関係は崩れない。この使い分けができると、メンバー育成は一気に進めやすくなります。  そして、本音にたどり着くまでには時間がかかります。きのせさんからの「小さなマイルストーンの置き方は?」という問いに、ひょんちょるさんは2つのヒントを挙げました。ひとつは単純接触効果。月1回30分よりも、週10分を月4回のほうが、構えずに本音を話しやすくなる。「実は今日は話すことがないんですけど」から始められる関係こそ、強いのです。もうひとつは、上司が「メンバーの困りごとを助けよう」というスタンスで臨むこと。「この連絡、文面を一緒に作ってみようか」といった些細な助け合いの積み重ねが、本音への近道になります。  最初の1回は、あえて仕事の話を一切せず、趣味や雑談だけに割り切ってみる。「今日は趣味の話しかしない時間にしたいんです」と最初のひと言を上司の側から伝えられたら、メンバーの方もぐっと柔らかくなるはずです。  いきなり大きく変えようとせず、小さな積み重ねを大切にすること。1.1倍でいい、少しのストレッチを自分に課していくこと。重く受け止めすぎないことが、心理的安全性あふれる1on1への近道になります。こうした小さな対話の積み重ねが、やがて組織文化そのものを変えていきます。  「シンクリ!」では、こうした現場のリアルなお悩みに、ひょんちょるさんの心理的安全性の知見と、私のコミュニティ・EQの知見を掛け合わせて、解決のヒントを探っていきます。あなたのモヤモヤこそが、誰かのチームを救うヒントになるかもしれません。番組へのお便りも、お待ちしています。 シンクリの配信情報などはPotage公式LINEから受け取れます。

2026年8月16日

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「形だけの1on1」はなぜ起きる?中間管理職のための本音を引き出す対話術

あなたの1on1、形だけになっていませんか。本音を引き出す鍵は、上司が先に弱さを見せること。EQと心理的安全性の観点から、対話の質を変えるヒントを解説します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. 「BeReal」が浮き彫りにする、心理的安全性のあたらしい論点 2. 「内輪の安心」と心理的安全性は同じではない 3. プールで泳ぐ前に大海原へ放り出される時代 4. 心理的安全性を高める方法は「小さく失敗できる場」にある 5. まとめ:テクノロジー時代の心理的安全性とチームづくり  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、組織やコミュニティの中で混ぜ合わせることで新しい価値を生み出す。そんな想いで、日々コミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと毎週お届けしている音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」、略して「シンクリ」。早くも第7回目となる今回は、最近巷をざわつかせているSNS「BeReal(ビーリアル)」をきっかけに、テクノロジーと心理的安全性の関係について、ひょんちょるさんと深く語りました。ナビゲーターは木瀬さんです。 「BeReal」が浮き彫りにする、心理的安全性のあたらしい論点  ここのところ、BeRealを発端としたトラブルが続いています。とある銀行では、顧客の名前が映り込んだ写真がアップされ、謝罪のプレスリリースが出る事態にまで発展しました。研修中の社内風景が外に流れて炎上した事例も報じられています。  BeRealは、その場で撮った写真をすぐ投稿し、すぐに消えていく、いわゆるクローズドなSNSです。「自分が投稿しないと他人の投稿も見られない」という独特の設計で、学生層を中心に若い世代に広く浸透しています。  今回この話題を取り上げたきっかけは、Voicyパーソナリティ仲間で大学教員の針木義勝さんから聞いた、学生たちの言葉でした。「なぜBeRealを使うのか」と尋ねたら、返ってきた答えが「だって心理的安全性が高いから」。仲間内しか見ていないから何でも投稿できる、飾らなくていい、だから安心して使えるのだと。  若い人にとっての「心理的安全性」とは、そういう文脈で使われている。それは新鮮な驚きであり、同時に、少し立ち止まって考えたい現象でもありました。テクノロジーと心理的安全性は、現代の組織やコミュニケーションを読み解く上で外せないテーマだと感じます。 「内輪の安心」と心理的安全性は同じではない  ひょんちょるさんに第一印象を尋ねると、「半分は確かに正しい」という反応でした。会議は人数が少なければ少ないほど発言しやすくなる、という研究もあります。閉じた空間で、見られている人の数が少ないからこそ言いやすい。その感覚自体は事実だと。  ただ、もともと心理的安全性という概念は「率直に何でも言い合える関係性」を指しています。クローズドな場でしか言い合えないのだとしたら、それは心理的安全性の定義からはむしろズレている。学術的な意味合いとは少し別物になっている、というのがひょんちょるさんの見立てでした。teamsやsalckでもDMだけで完結していたら、それは組織として機能している関係性とは言えないですよね。  話しながら改めて気づいたのは、心理的安全性とはそもそも「多様性のある組織を機能させるための関係づくり」の概念だということです。立場や背景の異なるメンバー同士が、率直にお互いの見方を交換できるからこそ、組織は前に進める。Googleの研究をはじめ、この概念が広がってきた背景には、そうした文脈がありました。  ところがBeRealの「安心感」は、徹底的に内輪、つまり同質性の上に成り立っています。「外の人とつながるための心理的安全性」と、「内輪を確かめ合うための安心感」が、同じ言葉で語られている。ここに、現代的なねじれを感じます。安心と心理的安全性は、似ているようで違うのです。 プールで泳ぐ前に大海原へ放り出される時代  ひょんちょるさんが指摘したもう一つの論点が、とても印象的でした。昔のSNS体験は、段階的だったというのです。  最初は友達数人とメールをやり取りし、掲示板に書き込み、ミクシィの日記に「面白いね」と反応をもらう。小さな発信と小さな承認欲求が、ゆっくりと循環する時代でした。先輩からたしなめられながら、ネット上の作法を身につけていった世代もいるはずです。  ところが今は、TikTokやインスタのリールで「いきなりバズる」ことが目指されることもある時代です。承認欲求をハックするように設計されたプラットフォームの上で、若い世代は「プールで練習する前に、いきなり大海原に放り出されている」状態なのではないか。そんな例えがしっくり来ます。  しかも、BeRealのような「閉じた場所」は、本当の意味ではクローズドではありません。プラットフォーム側はデータを保有していて、規約によっては著作権も含めて持っていく構造になっています。情報やプライバシーを切り売りすることで成り立つ無料サービスの構造に気づかないまま、ユーザーは「ここは安全だ」と油断し、自分自身を切り出していく。  プラットフォームが用意した仮初めの安全性を、本物の安全性と取り違えてしまう。これは個人だけでなく、組織や企業の情報リテラシー、ひいては組織文化のあり方にも関わる、根深いテーマだと感じます。 心理的安全性を高める方法は「小さく失敗できる場」にある  ではどうすればいいのか。ひょんちょるさんから出てきた答えは、シンプルですが本質的でした。「致命的な炎上だけしなければ、小さく失敗できる体験を積めばいい」と。  子どもの頃、私たちは小さくやらかしては誰かにたしなめられ、周りがやらかしているのを見て叱られる場面を眺め、「ああ、これはやっちゃダメなんだ」と学んできました。今のインターネットには、その「小さく試して、小さく失敗できる場」がほとんどありません。誰にも止められないまま、いきなり大きく炎上してしまう構造になっています。  組織やチームの中でも同じことが言えます。小さな失敗や違和感を受け止め合える文化がなければ、メンバーは何も発信できなくなる。心理的安全性を高める方法を考える上で、「小さく試して、小さく失敗できる場」を整えるリーダーシップは、これからますます重要になっていくはずです。  話の途中で、私たちは「インターネット老人会」モードに入ってしまいました。はてなダイアリーやミクシィの日記が盛り上がっていた時代。お金を稼ぐためではなく、カルチャーを作るために手を動かしてコードを書き、サーバーを立てていた時代があったのです。  いまのBeRealはフランスの巨大スタートアップで、何千億もの資金を調達してビジネスとして展開されています。プラットフォームが大きなビジネスになるほど、データ提供やプライバシーの切り売りといったトレードオフが構造的に生まれてしまう。それが歪みとして表に出てきているのが、現代のインターネットの姿だと言えそうです。  一方で、ひょんちょるさんから希望のある話も出ました。VCの上場ハードルが上がりつつある今、他社資本に頼らず「自分たちが本当に作りたいもの」を作るスタイルへ回帰する起業家が出てきているのだそうです。さらにAIの発展でプロトタイプは誰でも作れる時代になりました。テクノロジーと心理的安全性の未来は、決して暗いものばかりではないのです。 テクノロジー時代の心理的安全性とチームづくり  ナビゲーターのきのせさんは、放送の最後に「リアルとネットがいつもつながっている中で、自分の居場所をどう持つか。これはあらゆる世代に共通するテーマですね」と締めくくってくれました。  テクノロジーと心理的安全性の関係は、若者だけの話ではなく、私たち全員の働き方・生き方、そして組織文化づくりに直結する問題です。BeRealをきっかけに広がった議論は、思っていたよりずっと深く、奥行きがありました。ぜひ本編の音声配信もあわせてチェックしてみてください。

2026年8月16日

最終更新日:

BeRealは「心理的安全性が高い」のか?テクノロジーが変える組織コミュニケーションと対話の本質

BeRealは本当に「心理的安全性が高い」のか?SNS時代の安心と心理的安全性を、読み解きます。

河原あずさと36.5編集部

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