top of page
potage_background.png
【この記事の3行まとめ】 EQ検査とは、感情を情報として認識し、行動に活かす力(EQ)を測定する検査です。EQ検査は「EQ診断」「EQテスト」とも呼ばれます。 MBTI・ストレングスファインダー・モチベーション検査との最大の違いは、「変わらない特性を知る」のではなく「後天的に開発できる力の現在地を測る」前提に立つことです。 Potage では、EQ検査のひとつであり、性格特性とEQをセットで測定できる「EQPI®」及び「Potage EQ 64TYPES」を用いて、ビジネスパーソンのEQ開発からチームでの活用までを支援しています。 【目次】 EQ検査とは EQとEQPIの違い EQ検査と主要アセスメント3種の違い 目的別の選び方:個人・組織・マネージャー PotageのEQPI検査の特徴 組織全体でEQを取り入れると、何が変わるか よくある質問 まとめ:検査選びは「何を変えたいか」から EQ検査とは  EQ検査とは、EQ(感情知能)を測定する検査です。EQとは、自分や相手の感情を「情報」として読み取り、状況に応じた行動につなげていく力のことです。なお、EQ検査は「EQ診断」「EQテスト」と呼ばれることもあります。呼び方の違いで、指すものはほぼ同じです。本記事では「EQ検査」に表記を統一してご説明します。  ここでひとつ、よくある誤解に触れておきたいと思います。EQは「感情を表に出さないようにする技術」ではありません。焦りや不安、苛立ちといった感情をなかったことにするのではなく、サインとして受け取り、行動を選び直す。そのための力がEQです。  そしてEQには、もうひとつ大切な性質があります。IQと違い、訓練や経験によって後天的に伸ばせると考えられていることです。この「変えられる」という性質が、本記事でご紹介する他のアセスメントとの違いを考えるうえでの軸になります。EQそのものの成り立ちや、EQが高い人に見られる特徴について詳しくは「EQが高い人の特徴とは」をご覧ください。 EQとEQPI®の違い  EQとEQPI®は、よく混同されますが、指しているものが異なります。EQは、感情を認識し活用する「能力」の概念です。EQ検査は、そのEQを測定する検査の総称です。日本で受けられるEQ検査にも複数の種類があり、検査ごとに設計思想が異なります。  EQPIは、そのEQ検査のひとつです(正式表記はEQPI®)。EQに加えて性格特性(パーソナリティ)をセットで測定できる点が、他のEQ検査にはない特徴です。Potageでは、このEQPIを用いた診断と、アナリストによる個別フィードバックを提供しています。 用語 意味 EQ 感情を情報として認識し、行動に活かす「能力」の概念 EQ検査 EQを測定する検査の総称。複数の検査が存在する EQPI® EQ検査のひとつ。性格特性とEQをセットで測定できる。Potageでは、診断に加えてフィードバックも提供 ※「EQ診断」「EQテスト」も、同じEQ検査を指す呼び名です。本記事では「EQ検査」に統一しています。 EQ検査と主要アセスメント3種の違い  「自分やチームを知るための検査」には、EQ検査のほかにも、MBTI、ストレングスファインダー、モチベーション検査などがあります。どれかが優れていてどれかが劣っている、という話ではありません。それぞれ測るものと目的が違うのです。ここでは、Potageが扱うEQPI®を中心に、EQ検査の特徴を整理します。(※EQ検査には複数の種類があり、測定領域や設計思想は提供元によって異なります。)まず全体を表で整理します。 観点 EQ検査(EQPI®) MBTI ストレングスファインダー モチベーション検査 測るもの 感情を認識し活用する力+性格特性 ものの見方・判断の好み(認知スタイル) 思考・感情・行動の資質(強みの源泉) 何によって動機づけられるか(動機の源泉) 前提 後天的に開発できる タイプは生来の指向 資質は変わりにくい 動機の傾向は比較的安定 結果の形 スコア・波形(程度の可視化) 16タイプへの分類 34資質の順位 動機因子の強弱 再受検 変わることが前提のため、再受検で変化を捉えられる タイプは基本的には不変。変化を測るのではなく、成熟の指針として用いる 資質は安定するとの研究を公表。基本的に再受験は不要との立場 節目での再測定が一般的 チームでの使い方 強み・弱み両方の開示から補完関係をつくる 互いの違いの理解に活用 強みの自己開示と活用 配置・任せ方の参考 検査を選ぶときの実務的な観点でも、あわせて整理しておきます。(受験形態・設問数・受験時間は各社公式サイトより。モチベーション検査は提供元により異なります) 観点 EQ検査(EQPI®) MBTI ストレングスファインダー モチベーション検査 目的 EQと性格特性を把握し、人材育成・EQ開発につなげる 自己理解の促進(タイプ論による気づき) 生まれ持った強み・才能の発見と活用 動機の傾向の把握 測定領域 性格特性・行動特性・EQ(動機も内包) ものの見方・判断の好み 才能・資質 動機 受験形態 Web(PC・スマホ・タブレット)、選択式 Web等(有資格者発行のIDで受検)。原則、対面フィードバックが前提 Web(書籍やアプリ等のアクセスコードが必要) 提供元により異なる(多くはWeb) 設問数 受験時間 約20〜25分(設問数は非公開) 93問・約20分(回答時間。別途フィードバック) 177問・約30〜40分(各設問20秒) 提供元により異なる 向いている用途 チーム・組織の関係づくり、管理職のEQ開発、現状把握 個人の自己理解、相互理解の入口 個人の強みの言語化・活用 任せ方・動機づけの参考 MBTIとEQ検査の違い  MBTIは「ものの見方や判断の好み」を知る検査で、EQ検査は「感情を扱う力の現在地」を測る検査です。  MBTIは、ユングの心理学的タイプ論をもとに開発された検査で、「ものの見方(感覚・直観)」「判断のしかた(思考・感情)」「興味関心の方向(外向・内向)」「外界への接し方(判断的態度・知覚的態度)」の4指標から、性格を16タイプに分類してとらえます。注目したいのは、MBTIを運営する一般社団法人日本MBTI協会自身が、タイプ分類や性格診断そのものを目的とせず、自分の心を理解するための「きっかけ」「座標軸」として用いることを最大の目的に位置づけている点です(出典:一般社団法人日本MBTI協会 公式サイト)。  つまりMBTIは、自己理解の入口としてとても丁寧に設計された検査だと言えます。一方で、タイプは「生まれ持った指向」を表すもので、スコアの高低や変化を測る検査ではありません。「では、ここからどう伸ばしていくか」という開発の設計図が必要になったとき、後天的な変化を測定できるEQ検査が役割を引き継ぐ。そんな関係でとらえると分かりやすいのではないでしょうか。 ストレングスファインダーとEQ検査の違い  ストレングスファインダー(クリフトンストレングス)は「生まれ持った強みを見つける」検査で、EQ検査は「後天的に強みを伸ばす」ための検査です。  ストレングスファインダーは、Gallup社が提供する検査で、34の資質の順位によって、その人の才能の源泉を可視化します。前提にあるのは、資質は人生の早い段階で形づくられ、大きくは変わらないという考え方です。実際にGallupは、資質は長期にわたり安定するという研究結果を示しており、基本的に再受験は不要との立場です。初回と2回目の結果の相関は0.73、つまり順位の多少の入れ替わりはあっても全体はほぼ変わらない、という水準が公表されています(出典:Gallup公式サイト「Should I Retake CliftonStrengths?」)。これは検査として一貫した、誠実な設計だと思います。変わらないものを測るのだから、繰り返し受ける必要はない。その通りです。  EQ検査は、ちょうど反対側の前提に立ちます。EQは後天的に変化し、開発できる。変わることが前提なので、もう一度受けたときには、前回からの違いが「変化」という意味のある情報になります。生まれ持った資質を「見つける」のがストレングスファインダー、感情を扱う力を「育てる」のがEQ検査。どちらを選ぶかは、いま知りたいのが「資質」なのか「変化」なのかで決まります。  チームで使う場合には、もうひとつ視点があります。ストレングスファインダーは強みの自己開示を起点にする設計ですが、日本では「私はこれが強いです」と表明することに、ためらいを感じる方が少なくありません。強みだけの共有は「自分はこれが得意」という意見同士の並列に留まりやすく、補い合いの構図には発展しにくい側面があります。この点は、のちほど「目的別の選び方」で詳しくご紹介します。 モチベーション検査とEQ検査の違い  モチベーション検査は「なぜ動くか(動機の源泉)」を測り、EQ検査は「感情をどう扱い、行動につなげているか」を測ります。  モチベーション系の検査の多くは、心理学者デイビッド・マクレランドが提唱した欲求理論を理論的な基盤としています。人の動機を達成動機・権力動機・親和動機の3つ、のちに回避動機を加えた4つの因子に分け、その人が何によって動機づけられるのかを可視化する考え方です(出典:D.C.マクレランド『モチベーション』生産性出版)。  動機が分かると、仕事の任せ方や声のかけ方のヒントが得られます。ただ、動機が教えてくれるのは、行動の出発点までです。プレッシャーのかかる場面で感情が混乱し、反射的に反応してしまう状態は、動機を知るだけでは解消されません。感情というエネルギーを情報として読み取り、行動の選び方につなげていく。その力を測るのがEQ検査です。  なおEQPIは、この動機の測定を検査の中に内包しています。仕事への動機を測定する項目が組み込まれており、何が動機となり、どのように感情が動き、どのような行動をとる特性があるのか。その一連のつながりを1回の検査でとらえられます。 目的別の選び方:個人・組織・マネージャー それぞれの検査の違いを踏まえて、「誰が・何のために受けるか」の3つの場面で整理します。 目的 適した検査 理由 個人の自己理解 MBTI・ストレングスファインダーも有効。変化を追うならEQPI タイプや資質の把握は入口として手軽。自分の特性を開発していきたいなら、変化を測定できる検査が必要になる 組織・チームで使う EQPI 強みと弱みの両方が可視化され、補完関係(助け合いの構図)を設計できる。再受検により施策の効果測定もできる マネージャーの立場 EQPI メンバーの動機と、感情の扱い方・行動の特性が同時に見え、1on1や役割分担の設計に直結する 個人の自己理解が目的の場合  自分を知る入口としては、どの検査にもそれぞれの良さがあります。タイプで自分をとらえたいならMBTI、才能の源泉を知りたいならストレングスファインダーが、長く使われてきた実績のある選択肢です。  一歩進んで「知った先で、自分の特性を開発していきたい」と感じたら、変化を測定できる検査の出番です。EQPIは、EQが変わることを前提にした検査です。だからこそ再受検にも意味があり、半年前の自分と今の自分を、同じものさしで比べることができます。 組織・チームで使うことが目的の場合  チームで検査を使う目的は、一人ひとりの結果を知ること自体ではなく、メンバー同士が互いを知り合い、関係性が動き出すことにあるはずです。  このとき効いてくるのが、強みと弱みの「両方」が見えるという性質です。日本では、強みの表明は控えめでも、弱みについては案外、口を開いてくれる方が多いものです。謙虚さを大切にする文化では、弱みからの自己開示のほうが場が動きやすいのです。「私はここが苦手」「ならそこは私が得意です」という会話が始まると、チームはパズルのように補完関係を組み立てられるようになります。強みだけが並んでいる状態では、誰が何を必要としているのかが見えません。弱みが開示されて初めて、チームの凸と凹の両方がそろい、誰の強みをどこで生かせばよいかが具体的に決められるようになるからです。  強み・弱みの両方が見えることで、違いを矯正するのではなく、違うまま噛み合う関係をつくっていく。この考え方を、Potageでは「組織調律」と呼んでいます。詳しくは「組織調律とは」をご覧ください。 マネージャーの立場で使う場合  マネージャーにとって検査の価値は、メンバーへの関わり方が具体的に変わるかどうかで決まります。  EQPIでは、メンバーが物事を何からどう捉える傾向があるのか、感じた感情をどのように扱うのか、そしてその結果がどのような行動に出やすいのか、という一連の傾向が見えます。たとえば、不安を内に抱え込みやすいメンバーと、考えるより先に動いて問題を解決しようとするメンバーでは、同じ仕事でも関わり方が変わってきます。1on1でどう関わるか、誰と誰を組ませるか、どこにボトルネックが生まれやすいか。そうした日々の判断の解像度が上がるのです。  さらに、再受検で変化を追えるため、一人ひとりの変化はもちろん、チームとして噛み合う形で全体を育成できているかを確かめながら進められます。「研修をやったが、変わったのかどうか分からない」という状態から抜け出せることは、マネジメントにとって小さくない意味を持つのではないでしょうか。 PotageのEQPI検査の特徴  ここからは、Potageが提供しているEQPI検査について、その構造と使い方をご紹介します。 3つの層で、人を立体的にとらえる EQPIの検査結果は、大きく3つの層で構成されています。 基本性格特性(Big5):自分の性質の核となる部分。変わりにくい土台です ビジネス行動特性:自分が理想とする働き方像の投影です EQマネジメント力:自分や相手の感情を認識し、状況に応じたふるまいにつなげる力 。「自分理解・他者理解・自分活用・関係構築」の4つの構成と、それを支える12の発揮行動(自分認識、共感、平静、気配りなど)で測定されます。ここが後天的に開発できる領域です  「変わりにくい土台」と「変えられる行動」を分けて見られることが、この構造の意味です。性格は変えなくていい。変えられるのは、感情の扱い方と行動のほうです。この区別がつくと、自分やメンバーの課題を「性格の問題」として抱え込まずに済むようになります。 性格特性とEQをセットで測定できる  性格特性とEQをセットで測定できるのは、国内のEQ検査の中でもEQPIだけです。  この組み合わせには、実務上の大きな意味があります。同じ「共感のスコアが低め」という結果でも、性格特性とあわせて読むことで、「もともと他者への関心が内向きなタイプなのか」「本来は関心が高いのに、いまの環境で発揮できていないのか」の区別がつくからです。打ち手はまったく変わってきます。  また、EQの12発揮行動は波形(凸凹)で示されるため、強いところと弱いところの「つながり」まで読み取れます。順位やタイプのラベルではなく、その人の状態の全体像が見えるのです。 再受検で「変化」を捉えられる  EQPIは、EQが後天的に変わることを前提にした検査です。だからこそ、再受検によって変化を捉えることができます。  変化を捉えられること自体は、EQ検査に共通する性質です。EQPIに固有なのは、性格特性という「変わりにくい土台」とあわせて変化を読めることです。再受検の結果を比べたとき、「何が変わって、何が変わっていないのか」を区別して捉えられます。変わっていない部分は性格として受け入れ、変わった部分はEQの発揮行動として次に生かす。この読み分けができるのは、性格特性とEQをセットで測定しているからです。  先ほどご紹介したとおり、ストレングスファインダーは資質の安定性を前提に、基本的に再受験は不要との立場です。変わらない資質を測る検査だからです。EQPIは反対に、変わることを前提にした検査です。半年後、1年後に再受検すると、たとえば「平静が上がった」「気配りが下がっている」といった変化が波形の比較で見えてきます。  変化が見えるということは、取り組みの効果が確かめられるということです。個人にとっては成長の実感に、組織にとっては施策の効果測定になります。たとえば、EQ開発のプログラムに取り組んだあと、その効果を確かめるために改めて受けてみる。そうした使い方も効果的です。 Potage EQ 64TYPES:あなたがどういう人かを、一言で  PotageがEQPIをベースに開発した独自分析手法「Potage EQ 64TYPES(64タイプス)」は、EQPIの検査結果の詳細分析と共に、分析データを基にした「あなたはどういう人か」を一言で表す64のキャラクター分類を解説する検査です。  仕組みはこうです。EQPIが測定する3つの特性、基本性格特性・ビジネス行動特性・EQを、それぞれ4つのグループに分類します。その組み合わせ、4×4×4の64パターンが、その人のキャラクターを表します。Potageがこれまでに実施してきた約800件の検査データをもとに、似た傾向を持つ人たちを整理し、64のパターンとして言語化したものです。  なぜ「一言」が必要だったのか。EQPIのレポートは情報量が豊富で、一人ひとりに寄り添った精度の高さを評価いただいてきました。一方で、「私って、一言で言うとどんな人なんですか?」という質問には、答えにくい検査でもあったのです。手っ取り早く自分を知りたい。そして、知った自分を誰かに伝えたい。64TYPESは、そのニーズに応えるための入口です。  タイプには、それぞれ名前がついています。たとえば「落ち着きのある司令塔」「チームの感情に寄り添う潤滑油」「我が道で輝くスター」。読んだ瞬間に、その人の持ち味と、チームの中での立ち位置がイメージできる名前になっています。  受検すると、自分のタイプ名と、その人らしさを表す説明文が示されます。一言のラベルだけで終わらず、なぜそのタイプなのかが言葉で添えられるので、自分でも納得しやすく、人にも伝えやすい形になっています。  そして、64TYPESのタイプは固定されたものではありません。EQは変化していくため、再受検するとタイプが変わることもあります。変わること自体が、自分の歩みの記録になります。  一言で言い表せることには、チームでの価値もあります。「この人はこういう人」という情報をメンバー同士で交換し合えると、相互理解が深まりやすくなるからです。64TYPESで伝え合い、詳細なレポートで深く知る。2つの粒度を行き来できることが、EQPIの新しい特徴です。 チームでの使い方:弱みから始まる助け合い  EQPIはもともと、チームビルディングでの使いやすさを念頭に設計されています。  チームでEQPIを受検すると、メンバー同士で強み・弱みを共有するワークができます。「私はここが弱いんです」という開示が受け止められる体験は、それ自体が心理的安全性の土台になります。そして弱みと強みが出そろうと、「ここは助け合えますね」という視点が自然に生まれてきます。  診断は、関係性が動き出すための入口です。結果を配って終わりにしない。そこからの対話までを含めて、Potageは設計しています。 同じEQPIでも、活用の仕方で価値が変わります  EQPIという検査自体は、Potage以外の事業者も扱っています。検査結果そのものは同じでも、その結果をどう読み解き、どのように対話や組織づくりにつなげるかによって、得られる価値は変わります。  Potageの独自性は、3つあります。1つめは、EQPIにPotage独自のメソッドであるPotage EQ 64TYPESを組み合わせていること。検査結果を「一言で伝え合える」形にして、チームの相互理解まで届けます。2つめは、約800件の検査データの分析に裏打ちされた、フィードバックの精度。3つめは、診断で終わらせず、チームでの対話と関係づくりまでも設計できることです。  検査の結果は、出した時点では数値とラベルの集まりです。それを組織で実際に起きていることに結びつけて読み解けるかどうかは、これまでどれだけの人に向き合ってきたかに左右されます。AIによって分析の精度そのものは上がっていく時代ですが、何を読み解くかという視点と、さまざまな現場で蓄積してきた知見は、そこに効いてきます。  検査を「渡す」のではなく、組織が変わるところまで「伴走する」。同じEQPIでも、ここに違いが生まれます。 観点 EQPIだけの場合 Potage EQ 64TYPES レポートの内容 各指標のレポートのみ 過去の検査データ分析に基づいた各指標の詳細レポートに加え、Potage EQ 64TYPESで「あなた」を一言で言語化 フィードバック 提供者によって差がある 約800件の分析に裏打ちされた、アナリストによる個別フィードバック チームでの活用 各メンバーの自己理解と共有が中心 対話促進・関係づくりまで設計し、変化をモニタリングしながら改善できる 組織全体でEQを取り入れると、何が変わるか  個人の診断で終わらせず、組織全体でEQを取り入れたとき、何が起きるのでしょうか。フルリモートでウェディング事業を展開するココスタイル株式会社様の事例をご紹介します。  同社では、リモート環境で互いの状況が見えにくく、小さな遠慮や我慢が積み重なりやすいという構造的な課題がありました。EQPIで一人ひとりの特性を可視化することから始め、対話型ワークショップで価値観を共有し、マネージャー層のEQ開発プログラムへ。取り組みを重ねた結果、社内アンケートで「意見や感情を安心して共有できる」と答えたメンバーは92%に達しました。    EQPIで「個を知る」、対話で「価値観を共有する」、EQ開発で「自律したマネジメントを育てる」。この流れが連動したとき、検査は単なるアセスメントではなく、組織の土台づくりのプロセスになります。  検査は、組織を変えるための入口にすぎません。Potageが大切にしているのは、結果をお渡しして終わりにせず、その先のゴールに向けて一緒に考えていくことです。現状をデータで可視化し、どこから整えればよいかを一緒に読み解き、対話と関係づくりまで伴走する。検査の提供者ではなく、組織が目指すゴールをともに追いかけるパートナーでありたいと考えています。  ココスタイル社事例の詳しい経緯は、導入事例「心理的安全性が92%へ向上」をご覧ください。 よくある質問 Q. EQとEQPIは何が違いますか? A. EQは感情を扱う「能力」の概念で、EQPIはそのEQを測定する「検査」のひとつです。EQPIは性格特性とEQをセットで測定できる点が特徴で、PotageはこのEQPIを用いた診断とフィードバックを提供しています。 Q. EQ診断・EQテストとEQ検査は違うものですか? A. 呼び方の違いで、指すものはほぼ同じです。「診断」「テスト」と呼ばれる場合も、感情を扱う力(EQ)の現在地を測る点は共通します。本記事ではEQ検査に表記を統一しています。 Q. EQ検査はどれがおすすめですか? A. チームや組織で活かすことまで考えるなら、性格特性とEQをセットで測定できるEQPIをおすすめします。日本で受けられるEQ検査は1つではなく、検査ごとに設計思想が異なります。 比較する際は、以下の3点で見比べてみてください。 EQ単体を測るのか、性格特性とあわせて測るのか 個人の開発向けか、チームでの活用まで設計されているか  結果がスコアの一覧で出るのか、強み・弱みのつながりまで読める形で出るのか Q. MBTIやストレングスファインダーと、EQ検査は何が違いますか? A. 最大の違いは、「変わらない特性を知る検査」か「変えられる力を測る検査」かです。MBTIやストレングスファインダーは生来の指向や資質の理解を目的とするのに対し、EQ検査は後天的に開発できるEQの現在地を測定します。 Q. EQは後から鍛えられますか? A. はい、EQは後天的に開発できると考えられています。EQPIはこの「変わる」ことを前提にした検査であるため、再受検にも意味があります。自分の感情と向き合うことで一人ひとりが変化していき、その変化を再受検で捉えて、次の取り組みに生かしていきます。 Q. EQが低いと、マネージャーに向いていないのでしょうか? A. いいえ、EQのスコアは適性ではなく「現在の状態」を表すものです。置かれた環境によって、誰でもスコアは変動します。向き不向きを判定するためではなく、いまの状態を知り、整えていくために使うのがEQ検査です。 Q. エンゲージメントサーベイの結果は出たものの、打ち手が分からないときは? A. サーベイが示すのは組織の「状態」です。EQを重ねて見ると、その背景にある原因仮説や、どこから整えればよいかの打ち手が見えやすくなります。なぜなら、エンゲージメントの数値は、一人ひとりが物事をどう捉え、感情をどう扱い、どう行動しているかの積み重ねの結果だからです。EQのレベルまで分解すると、どこで関係性が滞っているのか、何から整えればよいのかが見えてきます。状態を示す数値を、原因と打ち手まで読み解く。ここに、現場で積み重ねてきた分析の経験を活かしています。 Q. チームビルディング施策をしても変わらないのは、なぜですか? A. 施策が、チームの「雰囲気」に働きかけて終わっていることが多いからです。重たい雰囲気や遠慮は、それ自体が問題の正体ではなく、役割分担の歪みや期待値のズレといった関係性の構造から生まれてくる「結果」です。結果である雰囲気だけを変えようとしても、構造が同じままなら、しばらくすると元に戻ります。先に整えるのは、関係性の構造のほうです。Potageではこのアプローチを「組織調律」と呼んでいます。 Q. EQPIの受検にはどのくらい時間がかかりますか? A. 所要時間は15〜20分程度です。受検後は、アナリストによる個別フィードバックを通じて、結果を実際の場面に結びつけて理解を深めます。 まとめ:検査選びは「何を変えたいか」から  MBTI、ストレングスファインダー、モチベーション検査、そしてEQ検査。それぞれに固有の目的があり、優劣の話ではありません。選ぶ基準はシンプルです。確かめたいのは、生まれ持った「変わらないもの」でしょうか。それとも、これから育てていく「変わっていくもの」でしょうか。  チームや組織の関係性を動かしたい。メンバーの状態を知り、整えていきたい。そう感じているなら、性格特性とEQをセットで測定でき、変化を捉えられるEQPIが力になれるはずです。  状態を数値で確かめるだけでなく、その奥にある関係性まで読み解けること。そこにEQ検査の価値があり、これまで現場で重ねてきた分析の蓄積が、その読み解きを支えています。  まずは事例で、組織にEQを取り入れたときに何が起きるのかをご覧ください。ご自身の状態を知ることから始めたい方には、EQPI診断のご案内をしています。(EQ診断のご案内は、Potage公式LINEで行っています。) ※EQPI®は株式会社EQの登録商標です。 
著者:河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) 参考記事: 一般社団法人日本MBTI協会「MBTIとは」https://www.mbti.or.jp/what/ ほか(参照:2026-06-07):MBTIの定義・目的に関する記述 Gallup「Should I Retake CliftonStrengths?」https://www.gallup.com/cliftonstrengths/en/690980/should-i-retake-cliftonstrengths.aspx および Gallupヘルプセンター「When should I retake the CliftonStrengths assessment?」https://support.gallup.com/hc/en-us/articles/360051192533(いずれも参照:2026-06-07):資質の安定性(相関0.73)と再受験に関するGallupの見解 デイビッド・C・マクレランド『モチベーション:「達成・パワー・親和・回避」動機の理論と実際』(梅津祐良・薗部明史・横山哲夫訳、生産性出版、2005年):欲求理論(達成・権力・親和の3動機、のちに回避動機を加えた4動機説)に関する記述

2026年8月14日

最終更新日:

EQ検査・MBTI・ストレングスファインダーの違いと選び方|チームで活かすならどれ?

チームのために受けるなら、どの検査が適しているのでしょうか。EQ検査と主要アセスメント3種の違いを、目的別に整理しました。

河原あずさ(Potage代表)

【この記事の3行まとめ】 組織開発やチームビルディングがうまくいかない原因は、メンバーの能力不足ではなく、「翻訳不足」か「関わりの過剰」にあることが少なくありません。 いま必要なのは、組織を「開発」して理想形に作り変えることではなく、ズレを整えて「調律」することです。違いを矯正せず、違うまま噛み合える状態に戻していきます。 組織調律は、EQ(感情知能)を軸にした実務的なアプローチであり、エンゲージメントを無理なく高めるための新しい組織観です。 【目次】 施策はやっているのに、なぜか噛み合わない 組織調律とは なぜ「開発」ではなく「調律」なのか 組織開発との違い 組織がズレる2つの方向 組織調律で何が変わるのか 組織調律をどう実装するか よくある質問 施策はやっているのに、なぜか噛み合わない 組織づくりの現場に入ると、よく出会う光景があります。 経営層は「方針はちゃんと伝えた」と思っている。現場は「上が何を考えているか見えない」と感じている。あいだに立つ中間管理職は、その両方から引っ張られて消耗している。それぞれが悪意なく、むしろ誠実に動いているのに、なぜか噛み合いません。 心理的安全性もエンゲージメントも、言葉としては社内に浸透した。1on1もワークショップもやっている。それでも現場は楽にならない。そんな手応えのなさを感じているなら、それはあなたのチームの力不足のせいではないかもしれません。 問題は「空気」ではなく、もっと具体的なところにあります。 Potageは、コミュニティづくりの現場で人と人の関係性に向き合うなかから、この「組織調律」という考え方にたどり着きました。 組織調律とは 組織調律とは、メンバー一人ひとりの違いとズレを前提に、人と人、部署と部署のあいだの関係性を、EQ(感情知能)と対話を使って整え、「違うまま噛み合える状態」をつくるアプローチです。 組織のズレには、2つの方向があります。ひとつは「足りない」側で、同じ言葉が通じ合わない翻訳不足の状態です。もうひとつは「過剰」な側で、関わりすぎ、気づかいすぎによる疲弊です。組織調律は、そのどちらにも関係性の張力を取り戻し、ちょうどよく響く状態へ戻していきます。 言い換えると、組織の不和の正体は、空気ではありません。多くの場合、それは「翻訳不足」か「関わりの過剰」です。 なぜ「開発」ではなく「調律」なのか 「開発」という言葉には、足りないものを足して理想形に作り変える、というニュアンスがあります。組織調律は、それとは少し立ち位置が違います。 私たちが大切にしているのは、人や組織を正しい形へ矯正することではなく、その人や組織が無理なく響ける状態を取り戻すことです。「変える」というより「戻す」「ほぐす」に近い営みだと考えています。 そして「戻す」と言っても、正しい音を私たちが知っているわけではありません。本来こうあるべきだと決めつけた瞬間に、それは教育や矯正に変わってしまいます。組織調律が見ているのは「本来の姿」ではなく、「いまの響き方と、もう少し心地よく響きそうな状態とのギャップ」のほうです。完成された設計者ではなく、響きを聴き続け、少しずつ整え続ける伴走者でありたいと思っています。 組織開発との違い 観点 組織開発 組織調律 前提 理想形へ近づける 違い・ズレを前提に整える 向き 足りないものを足す ズレを戻す・ほぐす 関わり方 仕組み・施策を増やす 量より質、余白と張力を設計する ゴール 統一・一体感 違うまま噛み合う、適度な張力 中心にある力 制度・プロセスの設計 EQ(感情を情報として扱う力) 組織開発を否定したいわけではありません。制度や仕組みの設計が効く場面は確かにあります。ただ、施策をいくら足してもズレが解けないとき、足りないのは新しい施策ではなく、関係性を整える視点のほうではないでしょうか。 組織がズレる2つの方向 組織のズレは、正反対の2つの方向から起きます。どちらか一方だけを見ても、現場は楽になりません。 足りない側:翻訳不足(バベル状態) 同じ日本語を話し、同じ会議に出ているのに、見えている景色がまるで違う。私たちはこの状態を「バベル状態」と呼んでいます。次のような兆候が当てはまるなら、翻訳不足が起きているサインかもしれません。 会議のあとに認識がズレる/同じ会議に出たのに、人によって受け取った内容や次の行動がバラバラになる 言葉の意味が人によって違う/同じ言葉でも、部署や役職、世代によって解釈が違い、噛み合わない 1on1が管理や「報告」になっている/本音の対話ではなく、進捗確認や課題の棚卸しで終わってしまう 心理的安全性がぬるま湯化している/「波風を立てないこと」が優先され、本音や違和感を出しにくい空気がある 中間管理職だけが疲弊している/上からの期待と現場の板挟みで、中間管理職に負荷が集中し、余裕がなくなっている 優秀な人材ほど辞めていく/挑戦したり、意見を言う人から先に去っていき、組織に活気がなくなっている 部署やチーム間の対立が増えている/「うちは違う」「あちらが悪い」と責任の押しつけ合いが起き、協力より分断が目立つ 変化・新しい取り組みがなかなか進まない/現場の納得感が得られず、新しい施策が机上の空論で終わってしまう 「なんとなくモヤモヤしている人」が多い/はっきりした不満は言えないが、違和感やモヤモヤを抱えた人が増えている 組織の方向性に一体感がない/ビジョンや方針はあるが、「自分ごと」として捉えられておらず、温度差がある 過剰な側:関わりすぎ(野暮化) もうひとつは、関わりが足りないのではなく、過剰なために起きる疲弊です。「ちゃんと寄り添わなきゃ」「ちゃんと反応しなきゃ」という善意が積み重なると、関係性はかえって息苦しくなります。次のような状態です。 通知が鳴り止まず、休日も仕事のことが頭から離れない 返信が遅いと不誠実とされる空気がある 1on1のたびに細かい指導が積み上がっていく 評価の仕組みが、いつのまにか監視のように働いている 会議では本音が出ず、廊下や雑談でだけ本音が出る エンゲージメントが上がらない組織で起きているのは、関わりの不足ではなく、関わりの過剰なことが少なくありません。 組織調律で何が変わるのか 組織調律が向かう先は、抽象的な「良い雰囲気」ではありません。具体的には、エンゲージメントを無理なく高め、現場の消耗を減らすことです。 とりわけ鍵になるのが中間管理職です。中間管理職のエンゲージメントが下がると、組織全体のエンゲージメントも連動して下がっていきます。だからこそ私たちは、まずマネージャーの状態を整えることから始め、そこから組織全体の調律へ広げていく順序を大切にしています。整えるべきは、頑張りの量ではなく、関係性の張力のほうです。 組織調律をどう実装するか 組織調律は、精神論ではなく実務として進めます。流れはおおむね次の通りです。 はじめに、EQアセスメント「Potage EQ 64TYPES」で、メンバー一人ひとりの感じ方や強み、消耗しやすい状況を「説明できる情報」として可視化します。違いが見えるようになると、勘と空気で動くしかなかった状態から抜け出せます。 次に、対話型ワークショップとリフレクションの設計を通じて、見えた違いを関係性のなかで扱えるようにしていきます。アセスメントとワークショップはあくまで入口です。そこで得たデータをもとに組織構造を捉え直し、少しずつチューニングしていくところに本質があります。 よくある質問 Q. 組織調律とは何ですか?  A. 違いやズレを前提に、関係性の状態を整えるアプローチです。組織開発が「理想形へ変える」発想を含むのに対し、組織調律は「違うまま噛み合える状態」をつくることを重視します。 Q.「組織開発」と「組織調律」はどう違うのですか?  A. 組織開発は足りないものを足して作り変える発想が強く、組織調律はズレを戻し、ほぐして整える発想です。前者は統一を、後者は適度な張力を目指します。 Q. なぜエンゲージメントが上がらないのですか?  A. 関わりが足りないのではなく、過剰なことが少なくありません。即レスや過剰なフィードバックが余白を奪い、組織を過緊張にしているためです。 Q. EQ(感情知能)と共感力はどう違うのですか?  A. EQは「感情を情報として扱う力」です。共感に飲み込まれず、自分と相手を観察し、適切な距離で関係性を整える力を指します。 Q. どんな組織に向いていますか?  A. 施策はやっているのに噛み合わない、心理的安全性がぬるま湯化している、中間管理職に負荷が集中している、そんな組織に向いています。 さらに読む この考え方をもっと知るには 組織調律が現場でどう機能したのかは、導入事例でご覧いただけます。 EQ診断のご案内は、Potage公式LINEで行っています。 取材記事:UNITE(Unipos株式会社運営):マネージャーに必要なのはスキルより“EQ”。サバイブモードから抜け出す組織づくり 著者:河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) 参考記事:組織開発もチームビルディングもうまくいかない本当の理由──「同じ言葉なのに通じない"バベル状態"」を解く【ズレたチームを"ほぐす"組織調律論①】

2026年8月14日

最終更新日:

組織調律とは? 組織開発・チームビルディングがうまくいかない理由と、ズレを整える考え方

組織開発やチームビルディングがうまくいかない原因は、能力不足ではなく「翻訳不足」かもしれません。違いを前提に関係性を整える「組織調律」の定義、組織開発との違い、EQでの実装までを解説します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事の3行まとめ】    組織開発とは、組織の一体感を生み出し、チームが有機的に動ける状態をつくる取り組みです。1on1や組織サーベイ、理念づくりと対話の場などが代表的な具体例です。    施策を実施しても変化が続かない場合、原因は施策の不足ではなく、トップダウンとボトムアップの間に距離が残ったままになっていることが少なくありません。    組織開発の第一歩は、新しい施策を足すことではなく、一人ひとりが自分の特性と働き方の理想を言語化し、互いに共有することから始められます。    【目次】   1. 組織開発とは何か。人材開発との違い 2. 組織開発の代表的な手法と具体例 3. なぜ組織開発は「やったのに変わらない」のか 4. 施策を足す前に考えたい「組織調律」という視点 5. 組織調律の実例。COCOSTYLE社とPotage自社での実践 6. 組織開発の最初の一歩 7. よくある質問 8. まとめ:組織開発の具体例は「足す」ことより「聴く」ことから    こんにちは。Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。    「組織開発に取り組みたいが、具体的に何をすればいいのか分からない」。あるいは、「1on1もサーベイも導入したのに、何かが噛み合っていない気がする」。この記事を開いてくださった方の多くは、そのどちらかの状態にいらっしゃるのではないでしょうか。    この記事では、組織開発の代表的な手法と具体例を整理したうえで、施策を実施しても変化が続かない理由と、変化を定着させるために私が大切にしている「組織調律」という考え方を紹介します。私が支援に入っている企業での取り組みと、Potage自社での実践も、実例としてお伝えします。     組織開発とは何か。人材開発との違い  組織開発とは、組織としての一体感を生み出していくプロセスだと私は考えています。組織の中のあらゆるチームが一体感を持って、有機的に、能動的に動いていく状態。それを生み出していくことが、組織開発という言葉をシンプルに説明したときの定義ではないでしょうか。その意味で、組織開発は「チームビルディング」の延長線上にある取り組みだと言えます。    よく似た言葉に「人材開発」があります。両者の違いは、働きかける対象にあります。     組織開発 人材開発 対象 組織全体・チーム・人と人の関係 個人 目的 一体感を生み出し、チームが有機的に動ける状態をつくる 個人のスキル・能力を高める 施策の例 1on1、対話の場づくり、理念の浸透、組織サーベイ 研修、資格取得支援、コーチング    人材開発が「個人を伸ばす」取り組みだとしたら、組織開発は「人と人の間」に働きかける取り組みです。    ところで、実際に人事の方とお話ししていると、「組織開発」という言葉そのものは、現場ではあまり使われていないと感じることがあります。「チーム作り」「組織作り」「対話の機会を作る」といった表現で語られることがほとんどなのです。それだけ、組織開発という言葉には、どこか実態との距離があるのかもしれません。    この距離を紐解く鍵は、「開発」という言葉にあると私は考えています。    組織開発は、英語のOrganization Developmentの直訳です。日本語の「開発」は、もともと仏教の言葉で「かいほつ」と読み、自分の中に眠っている仏の性質を開き起こすことを意味していたと言われています。それが転じて、現代では「まだ開かれていない場所を切り開き、新しいものを作っていく」というニュアンスが強い言葉になりました。都市の再開発を思い浮かべると分かりやすいのではないでしょうか。    一方、英語のdevelopmentの語源は「包まれているものを解く」ことだと言われています。封筒を意味するenvelope(包むもの)と対になる言葉で、風呂敷に包まれたものをすっと解いて、中身を取り出すイメージです。つまり、まだないものを作り出すのではなく、すでに存在しているものを明らかにして、そのポテンシャルを解放していく。そんな意味合いを持つ言葉なのです。    「切り開く開発」と「包みを解くdevelopment」。この違いが、のちほどお話しする「やったのに変わらない」問題と深く関わってきます。まずは、具体的な手法から見ていきましょう。     組織開発の代表的な手法と具体例  組織開発の手法はさまざまですが、働きかけ方で整理すると、大きく3つに分けられます。   分類 ねらい 手法の例 組織の状態を測る 現状を可視化し、課題を特定する 組織サーベイ、エンゲージメント調査、EQなどの特性検査 個人に働きかける 一人ひとりの内省とスキルを支援する コーチング、管理職向け研修 関係に働きかける 人と人の間の対話と信頼を育てる 1on1、ワークショップ、対話の場づくり、理念の共有    実際の現場では、これらを課題に合わせて組み合わせていきます。よくあるパターンを3つ紹介します。    一つめは、メンバーが本音を言いにくい、会議で意見が出ないという課題に対して、1on1を導入するケースです。上司の方がコーチングのスキルを研修で身につけたうえで話を引き出し、個人の自発的な動きが生まれる環境を整えていきます。    二つめは、理念が現場に浸透していないという課題に対して、ビジョン・ミッション・バリューを作り直し、それについて「みんなはどう思うか」を話す対話の場やワークショップを開くケースです。    三つめは、組織の状態が見えないという課題に対して、エンゲージメントサーベイで、メンバーがどんな気持ちで働いているのかを調べるケースです。    どの施策も、それ自体はとても有効です。実際、多くの企業がこうした取り組みを熱心に進めていらっしゃいます。    ただ、こうして並べてみると、気づくことがあります。どれも「それまでやられていなかったことを、新しく足していく」アプローチだということです。そして、施策を足し続けているのに変化が続かないという悩みが生まれるのは、多くの場合、ここからなのです。     なぜ組織開発は「やったのに変わらない」のか  日本の企業で行われている組織開発には、共通する型があるように思います。    まず、経営層や人事の方が主導して、新しい理念や制度を作ります。ビジョン・ミッション・バリューが古くなったので刷新しましょう、といった形です。作ったものは「カスケード」と呼ばれるやり方で、マネージャー層から現場層へと順に落とし、浸透を図ります。そして、トップダウンだけではうまくいかないので、ワークショップや対話の場というボトムアップの取り組みを組み合わせて、腹落ちを作っていきます。    誤解のないようにお伝えしたいのですが、この型そのものは、良いアプローチだと私は考えています。変革は、トップダウンとボトムアップが融合した先にしか生まれない。これは私自身、強く実感しているところです。    問題は、トップダウンとボトムアップの間に距離が残ったまま、進んでしまう場合があることです。    少し厳しい言い方になりますが、現場の人たちが話す場を「アリバイ」のように作って、対話をやったという実績ができたら、「もうみんな大丈夫だよね」と手を放してしまう。そんなケースは、決して珍しくないのではないでしょうか。    変化が続かないとき、私たちはつい「次の施策」を探してしまいます。しかし、足りないのは新しい施策ではないかもしれません。先ほどの言葉に戻ると、これは「切り開く開発」のイメージ、すなわち、ないものを新しく作って組織に馴染ませていく発想が行き着きやすい場所なのだと思います。    では、もう一つの発想、「すでにあるものを解き放つ」に立つと、何が変わるのでしょうか。     施策を足す前に考えたい「組織調律」という視点    私はふだん、「組織調律」という言葉を使って組織づくりのお手伝いをしています。一言でいうと、みんながのびのびと働ける場所を、調律して作るという考え方です。    組織調律が大事にしているのは、その組織が「本来鳴らせる音」です。これをPotageでは「基準音」と表現しています。この組織はどんなポテンシャルを持っていて、いま、どんな人たちがどんな音を鳴らしているのか。比喩的にですが、そんなふうに組織と向き合い、「こう組み合わせると、より良い音を奏でられるかもしれない」という見立てのもとで、チームや一人ひとりと向き合って、ちょっとした調整を行っていきます。    極端なことを言えば、新しい制度も、新しい取り組みも、何も足さなくても組織調律は成り立ちます。理念の刷新や中期計画づくりと並行して進めることもできますが、それがなくても始められるのです。ここが、新しいものを作って組織に馴染ませていく組織開発の進め方との、大きな違いのひとつだと考えています。    なぜ「音」の比喩を使うのかというと、多くの組織では、自分たちの音が自分たちでは聞けなくなっているからです。目の前の業務に追われていると、濁った不協和音が流れ続けてストレスになっているような状態に陥りがちです。これは言い換えると、業務において何を優先したらいいのかが、見えなくなっている状態です。自分がどういう音を鳴らせば自然とパフォーマンスが発揮され、周りと調和できるのか。それが見えなくなっているから、困ってしまうのです。    組織調律は、組織開発を否定する考え方ではありません。むしろ、先ほどのdevelopmentの語源、すなわち「すでにあるものを明らかにして、ポテンシャルを解放する」という本来の意味に立ち返るアプローチだと私は捉えています。施策を足す前に、いま鳴っている音を聴く。その順番を大切にする考え方です。    とはいえ、これだけでは抽象的だと思いますので、実際に何をするのかを、私が支援に入っている企業での取り組みと、Potage自社での実践でお話しします。     組織調律の実例。COCOSTYLE社とPotage自社での実践  ここでは、実例を2つお話しします。一つは、私が「CEQO(チーフEQオフィサー)」、すなわち組織のEQ経営を支える役割として関わっている、COCOSTYLE株式会社での取り組みです。ウェディング事業を展開し、全国のプランナーの方々がフルリモートで働いている会社で、EQを起点にした組織調律を一緒に進めてきました。もう一つは、私たちPotageが自分たちの会社で続けている実践です。    まず、COCOSTYLE社での取り組みからお話しします。プロセスは大きく4つのステップに分かれます。     ステップ1:自分の鳴らしている音を知る  最初にやるのは、お互いのことを知ること。調律の言葉でいえば、お互いの鳴っている音を理解することです。ただ、その前に欠かせないことがあります。まず、自分自身がどんな音で鳴っているのかを知ることです。自分の音が分からない状態で、周りとハーモニーを奏でるのは難しいのです。    ここで使うのが「EQPI」という検査です。EQ(感情知能)と性格特性を可視化する検査で、自分がどんな感情の癖を持ち、どんな特性があるのかを言語化します。感情の癖や特性は、人と関わるときの得意・不得意につながります。だからこそ、検査結果をもとに「本来の自分はどういう状態で力を発揮できるのか」を言葉にしていくのです。     ステップ2:得意・苦手・モヤモヤを開示し合う  次に、言語化した内容をお互いに共有します。ポイントは、共有の仕方です。単に「自分はこういう人間です」と発表するのではなく、「こういうことを実現したいので、こういう面で支援してほしい」という言い方で、周りに伝えてもらいます。    自分はこういうことが得意でできる。こういうことは苦手だけれど、やらなければいけないと思っている。ここで困っている。ミッションを進めるうえで、こういうところにモヤモヤがある。そうしたことを、かなり細かく言語化して、助けてほしいことまで含めて口に出すのです。    なぜここまでやるのかというと、組織が噛み合っていないとき、共通して起きているのが「抱え込み」だからです。マネージャーは、優秀なプレイヤーだった方が昇格するケースがほとんどです。つまりマネージャー陣とは、「自分で何とかできる人」の集合体なのです。だからこそ「自分で何とかしよう」が先行して、苦手なことまで一人で抱え込み、孤独になっていきます。「支援してほしい」と口に出す仕組みは、この抱え込みを解くための、小さくても大きな一歩です。    やりたいことが重なっているのに、隣のチームと連携が取れていない。この部署とこの部署がつながれば実現するのに、分断されている。そんな状態も、お互いの理想とボトルネックを開示し合うことで、「では一緒にやりませんか」「私たちはこういう支援ができます」という言葉が生まれ、つながり始めます。     ステップ3:チームの中で役割分担を言語化する  開示と共有は、まずマネージャー同士で行い、次にチームの中、すなわちマネージャーとメンバーの間でも行います。マネージャーが自分の理想と、忙殺されてうまくいっていない部分、苦手なのに引き受けてしまっている部分をメンバーに開示する。メンバーも自分の思いを言語化する。そのうえで、お互いにどういう役割分担ならチームが噛み合うのかを、一緒に言葉にしていきます。    そうすると、それぞれができるだけ得意なことに向き合い、チームの成果に直結する動きを取れるようになっていきます。     ステップ4:定期的にメンテナンスする  一度整えても、時間が経つと実態からずれていきます。得意・不得意は変わりますし、新しいメンバーが入れば役割の持ち方も変わります。だから、ピアノの調律と同じように、定期的に聴き直して整え直します。一度で完成させるのではなく、続けることを前提にした取り組みなのです。     この実践が生んだもの  COCOSTYLE社では、こうした取り組みを重ねる中で、弱みや迷いを口にしても受け止めてもらえるという安心感が育ち、本音が自然に行き交う組織へと変わっていきました。社内アンケートでは、心理的安全性の指標が92%まで高まっています。詳しい経緯は、事例記事で紹介しています。    そして、同じ考え方は、私たちPotage自身の会社づくりでも実践しています。その中で、うれしい変化がありました。メンバーが、周りの人にPotageのことを「得難い居場所」だと話してくれるようになったのです。    子育てでどうしてもイレギュラーなことが起きたとき、「お互い様だから」と積極的に送り出す。大切にしている趣味の遠出も「行ってくれるとうれしい」と背中を押す。ちょっとした悩み事をメンバー間で打ち明け合う。そんな助け合いの文化が育ち、この居場所を守るためにも事業に貢献したい、という言葉が自然に出てくるようになりました。    外から与えられた目標のために働くのではなく、自分の大事な場所を守りたいから事業に貢献する。そういう気持ちで働けることが、組織を長続きさせるうえでいちばん大事なことなのではないかと私は考えています。     組織開発の最初の一歩  ここまで読んで、「自社でも何かやってみたい」と思ってくださった方に、最初の一歩をお伝えします。    それは、新しい施策を探すことではなく、自分の鳴らしている音を知ることから始める、ということです。自分はどんなことが得意で、何が苦手で、いま何にモヤモヤしているのか。まず自分の内側を言語化するところから、組織の変化は始まります。    組織の側から見るときは、問いの立て方を一つ変えてみてください。「誰が悪いのか」ではなく、「何と何が噛み合っていないのか」。会議で同じ議論が繰り返されている、特定の人にだけ相談が集まっている。そんな場面を、人の問題ではなく噛み合わせの問題として眺めてみると、打ち手の見え方が変わってくるのではないでしょうか。     よくある質問  Q. 組織開発とは何ですか?  A.組織としての一体感を生み出していく取り組みです。組織の中のあらゆるチームが一体感を持って、有機的に、能動的に動いていく状態をつくることを目指します。1on1や対話の場づくり、理念の浸透、組織サーベイなどが代表的な施策です。     Q. 組織開発と人材開発の違いは何ですか?  A.働きかける対象が違います。人材開発は個人のスキルや能力を伸ばす取り組みで、研修やコーチングが中心です。組織開発は人と人の関係や組織全体に働きかける取り組みで、対話や関係づくりの施策が中心になります。     Q. 組織開発では具体的に何をしますか?  A.組織の状態を測る(サーベイ・特性検査)、個人に働きかける(研修・コーチング)、関係に働きかける(1on1・対話の場・理念共有)の3種類を、課題に合わせて組み合わせます。詳しくは本文の手法の章をご覧ください。     Q. 組織開発は誰が担当するのですか?  A.全社的には人事部門が主導するケースが多いです。ただ、現場での変化を実際に担うのは各チームのマネージャーです。人事だけで完結させず、現場のマネージャーと一緒に進める体制を作ることが大切だと考えています。     Q. 組織開発は何から始めればいいですか?  A.新しい施策の導入より先に、一人ひとりが自分の特性・得意・苦手・モヤモヤを言語化し、互いに共有することから始めるのがおすすめです。いま組織で起きている噛み合わせのズレを言葉にすることが、施策選びの精度を上げてくれます。     Q. 組織調律とは何ですか?  A.Potageが提唱している組織づくりの考え方で、みんながのびのびと働ける場所を調律して作る、というアプローチです。新しい施策を足すことよりも、組織が本来持っているポテンシャルを聴き取り、噛み合わせを少しずつ整えることを大切にしています。   まとめ:組織開発の具体例は「足す」ことより「聴く」ことから  組織開発の代表的な手法と具体例、そして施策を実施しても変化が続かない理由についてお話ししてきました。    1on1もサーベイもワークショップも、一つひとつは有効な施策です。ただ、施策を足し続けるだけでは、トップダウンとボトムアップの距離は埋まりません。大切なのは、その組織にすでにあるもの、すなわち一人ひとりの特性や思い、本来鳴らせる音を聴き取り、噛み合わせを整えていくことではないでしょうか。    Potageでは、EQ(感情知能)の検査やワークショップを通じて、チームの信頼関係づくりと組織調律をお手伝いしています。本文で紹介したCOCOSTYLE社の取り組みの詳細は、事例記事でご覧いただけます。Potageの公式LINEでは、組織づくりに役立つ読み物や、EQ診断のキャンペーンを配信しています。自分の鳴らしている音を知ることから始めてみたい方は、ぜひLINEにご登録ください。

2026年9月7日

最終更新日:

組織開発の具体例とは?手法と事例だけでは変わらない組織に必要な視点

組織開発の具体例を探している方へ。代表的な手法と実例に加えて、施策を実施しても変化が続かない理由と、定着させるための「組織調律」という考え方を紹介します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  仲は良いのに厳しい議論ができない。いわゆるぬるま湯の状態を抜け出す鍵は、優しさの加減ではないかもしれません。何をもって成果とするのか、どんな行動が推奨されるのか。この二つがチームの共通言語になっていないと、踏み込んだ議論は始まりにくいものです。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。 【目次】 1. 「ぬるま湯」は、心理的安全性の誤解から生まれるのかもしれない 2. ぬるま湯を抜け出す鍵は、「成果」を共通言語にすること 3. 数字ではなく、行動が変わる目標に置き換える 4. チームのコンセプトを言葉にする 5. 成果が出なくても「ナイストライ」と言える基準をつくる 6. 言い合う時間と、決めて動く時間を分ける 7. まとめ 8. よくある質問(Q&A)    チームの雰囲気は悪くない。メンバー同士の仲も良く、雑談もある。それなのに、成果に向けた厳しい議論や、仕事の進め方への踏み込んだフィードバックがなかなかできない。お願いしたことはやってくれるけれど、自分から考えて提案したり、先回りして動いたりするメンバーが少ない。かといって強く言いすぎると、空気が悪くなりそうで迷ってしまう。     こうした状態は、しばしば「ぬるま湯」と呼ばれます。心理的安全性という言葉を知っている管理職ほど、優しくすることと踏み込むことのあいだで揺れているのではないでしょうか。      この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、ある管理職のリスナーさんから寄せられた「ぬるま湯の安全性から、成果に向き合えるチームへどう変えていけばよいか」というご相談に答えました。ちなみに放送の冒頭では、お風呂のお湯は熱い派かぬるい派かという雑談から始まっています。金氏の答えは「長居したいときはぬるいほうがいいけれど、昔ながらの銭湯の熱いお湯も好き」。組織の話も、どちらか一方を選ぶ話ではないのかもしれません。   「ぬるま湯」は、心理的安全性の誤解から生まれるのかもしれない  金氏によれば、このご相談は心理的安全性の現場で繰り返し出会うものだといいます。心理的安全性という言葉には「安全性」が入っているため、それはぬるま湯をつくることではないか、と言われることがよくあるのだそうです。言葉のまま、とにかく優しくすればいいのかと受け取って、優しくしすぎてしまう職場は少なくない。ぬるま湯は、心理的安全性を目指した結果というより、その言葉の受け取り方から生まれているのかもしれません。    金氏は放送の終わりに、こうも語っています。心理的安全性という言葉を聞くと「厳しくしてはいけないのでしょう」と受け取る方が結構いる。けれども、そもそも成果のためにその組織づくりをしている。厳しくしすぎてパワーハラスメントになるようなことは絶対にいけないけれども、相手に対して愛がある厳しさは、ちゃんと持たなければならないのではないか。ZENTechとして心理的安全性を広げる活動をしているのも、ぬるま湯をつくりたいからではない、という言葉が印象的でした。     つまり出発点は、優しさの量を調整することではなく、何のために安全な場をつくっているのかをチームで共有し直すことにありそうです。踏み込めない管理職ほど、板挟みのなかで消耗しやすくもあります。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。   ぬるま湯を抜け出す鍵は、「成果」を共通言語にすること  では、どこから手をつければよいのでしょうか。金氏がまず挙げたのは、「成果」がチームのなかできちんと共通言語になっているか、という点でした。何をもって成果と考えているのか。それができればチームの成果になりながら、個人にとっても自分の成果として語れる状態になっているのか。そもそも成果が何なのかわからない状態では、激しい議論のしようもない、というのが金氏の見立てです。     これに対して河原あずさは、多くの組織にはミッションもあるし、売上を立てる組織なら数値目標もある、それでも足りないのだろうかと問いかけました。      金氏の答えは、額面上に置いてある言葉と、それを自分のなかで腹落ちさせて自分の言葉として語れる状態のあいだには、大きなギャップがあるというものでした。ミッションの字面どおりでなくてかまわないので、それに近い言葉で「自分がこういうことを達成できれば、このチームはこうなると思います」とメンバー全員が言えているか。そこが分かれ目になります。    河原あずさはこれを、自分の役割が明確になっていて、それをやることがチームの助けになっていると本人に見えている状態、と受け取りました。成果が共通言語になるとは、掲げられた目標を全員が暗唱できることではなく、それぞれが自分の言葉で語り直せている状態のことなのかもしれません。   数字ではなく、行動が変わる目標に置き換える  共通言語がないまま数字だけが置かれると、どうなるか。金氏は営業部門を例に挙げます。数字だけが成果として掲げられていても、それを自分の行動とどう紐づければいいのかにギャップがある。必要なのは、自分の行動の結果としてその数字が達成できる、という形で目標を言葉にできているかどうかです。    金氏はここで、イチロー選手の例え話を紹介しました。イチロー選手は自身のKPIに打率を置いたことがなく、安打数を置いていたという話です。理由は、打率をKPIにしてしまうと、4割を超えているときにフォアボールを選ぼうとする自分が出てしまうと考えたから。安打数であれば、積極的にバットを振らない限り増えません。自分の行動が変わりうる目標値になっているか、という視点です。    そのうえで金氏は、この相談者さんの場合は、「自分から考えて提案してほしい」「先回りして動いてほしい」と、増えてほしい行動をすでに明確に言葉にしていらっしゃる。であれば、その行動が増えるためにはどんな目標があるとよいかを、管理職の側からメンバーと一緒に考えていくことができます。    もうひとつ、金氏はテクニックとしてこんな工夫も挙げました。一緒に考える場を持ちながら、自分のなかに答えらしきものがあっても、最後はできる限りメンバー本人に言わせること。人は自分が思いついたこと、自分が考えたと思えることには強いコミットメントを発揮するからです。打率ではなく安打数だ、という気づきに本人が到達し、本人の言葉で口にする。そこまで設計できると、行動はより能動的になっていくのではないか、というのが金氏の見方です。    強く言いすぎるとティーチングになってしまう。だからチーム全体のコミュニケーションを変えようとする前に、まずは一人ひとりの目標設定を手伝うところから。この文脈では、1on1の設計も同じ役割を担います。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。   チームのコンセプトを言葉にする  個人の目標が整うと、次は場の側です。河原あずさは、その人が何をやったら褒められるのか、何が成果として認められるのかという定義が必要だと述べたうえで、個人の目標設計だけでなく「場の設計」も同じくらい重要だと指摘しました。踏み込んだ意見が、しっかり受け止められる場になっているかどうかです。     これを受けて金氏が挙げたのが、チーム自体のコンセプトを言語化するという提案でした。スポーツを見ていると、このチームはこういうことをやるチームだな、と分かる瞬間があります。野球とサッカーでは、良いプレーとされるものがまったく違う。同じように、どういう行動を取ると褒められて、どういう行動だとそれは違うと言われるのか。それがチームのコンセプトとしてはっきりしていることが大切だといいます。成果そのものの前に、成果につながるかもしれない「こういうことが増えてほしい」を言葉にしていく、という順番です。     コンセプトは業種・業界によっても変わります。個人が売上をつくり続け、その総和がチームの数字になるような組織で、個人へのインセンティブが強く働いているなら、基本的には個人戦になっていく。それで部門の予算が達成できているのなら、チーム戦にこだわらなくてもいいのではないか、と金氏は言います。  今回の相談者さんの場合は、メンバーがもう少し自分から考え、チーム全体で成果をつくっていく、そういうことが求められる業種・業界なのだろうと想像できます。その業界・業種の特徴に合わせて、「こういうチームが理想」というコンセプトをつくれるとよいのではないか、というのが金氏の整理でした。    河原あずさはこれを、「この流れに乗って、こういうふうにやってくれたら成果も上がるし評価もされる。だからここに乗っていったらいいんだよ」という安心感を提示することだと言い換えています。プロスポーツでも、あるチームでは評価される選手が別のチームではそうではない、ということが起こります。コンセプトを理解して、自分にできる行動に落とし込んでいけるかどうか。それは個人の側にとっても、成果を上げるチームにコミットするうえで大事な観点になります。     コンセプトは、上から配られるものである必要はありません。金氏は、どういうチームでありたいかという話を、メンバー全員で話し合える場を持てるといい、と語りました。河原あずさは、前回の放送で出た「チームラーニング」という言葉を引用しながら、このチームで自分が達成したいことは何か、自分たちが向かう方向はどちらかを、わいわい話しながら握っていく。それだけでもずれた行動が減り、成果は上がるのではないか、と応じています。   成果が出なくても「ナイストライ」と言える基準をつくる  コンセプトが言葉になると、フィードバックの基準も決まります。金氏によれば、コンセプトと違う行動を取った場合には、「チームのコンセプトと違うから、今のは違ったよね」というギャップに対するフィードバックはあるべきものです。心理的安全性が高い状態とは、指摘がなくなることではありません。     一方で、チームが推奨する行動を取ったうえで成果に結びつかなかったときは、「ナイストライ」と言える。この対になった基準があると、踏み込むことと安心して挑戦できることが両立します。河原あずさは、トライを重ねればそのうち成果も出る、だからプロセスを見ることが大切なのかもしれない、と重ねました。     そして河原あずさは、こんな見立ても添えています。こういうことをやったら褒められて、結果として評価も上がり、給料も上がる。そうなれば、その人の行動は自然とそちらに最適化されていくはずだ、と。金氏も、人は褒められたりポジティブなことがあったりした行動を取り続けるものなので、褒めることが増えるような文化をつくっていくのがよいのではないか、と応じました。      成果を求める組織というと、常に緊張感の漂う空気を想像しがちです。けれども、ここまでに出てきたのは、何を褒めるかを決めて、褒める機会を増やしていくという、意外なほど地道なアプローチでした。河原あずさも、想像とはずいぶん違う印象を受けたと語っています。   言い合う時間と、決めて動く時間を分ける  もうひとつ金氏が挙げたのが、チームのなかの共通ルールを明確にすることでした。紹介されたのは、アマゾンのジェフ・ベゾス氏の言葉として知られる「ディスアグリー・アンド・コミット」という考え方です。反論を言い合うこと自体はとても大事だけれども、物事が決まった後は、自分に反論があってもその決定にきちんとコミットする。金氏によれば、シリコンバレーではこうした文化が共有されているといいます。     どのタイミングなら喧々諤々に意見交換していいのか。決まった後はどうするのか。それがチーム内の共通認識になると、「今は言い合える時間だ」「今はちゃんと固めに行く時間だ」と、全員が同じ前提で場に臨めるようになります。ぬるま湯に見えるチームでは、この切り替えの合図がないまま、言い合う時間そのものが省略されているのかもしれません。     ただ、決めたことを一貫して運用し続けるのは簡単ではありません。ナビゲーターの黄瀬真理は、そこに難しさを感じたと言います。仮に「自分から考えて提案してほしい」とみんなで合意したとしても、待ちきれずに上司が先に口出ししてしまう・・それは子どもに「それ、今やろうと思ってたのに」と言われるように、数時間待てば本人がやってくれたかもしれないことなのに。その塩梅の難しさです。     金氏の答えは、待ちきれない瞬間はやはりあるものだと認めたうえで、このケースでいうと口出しするときに「なぜ」を省かないことでした。なぜ今この短い時間で決めたいのか。今はあなたの意見を待てないので、こちらでこう考えたけれどどうか。そうした理由を一緒に伝えることは、どんなときもおろそかにしない。河原あずさは、理由があってそうしている、合理性に基づいて行動しているということをお互いに伝えられれば、相互の理解につながり、チーム運営のなかのギャップも徐々に解消していくのではないか、とまとめています。   まとめ •      ぬるま湯は、心理的安全性を目指した結果というより、「とにかく優しくすればいい」という言葉の受け取り方から生まれているのかもしれない •      厳しい議論の前に、何をもって成果とするかがチームの共通言語になっているかを確かめる •      自分の行動が変わりうる目標を持つ。気づきを本人の言葉で語ってもらう •      どんな行動が褒められ、どんな行動は違うと言われるのか。チームのコンセプトを言葉にする •      コンセプトどおりに動いて成果が出なかったときは「ナイストライ」。プロセスを見て褒める •      言い合う時間と決めて動く時間を分け、急ぐときも「なぜ」を省かない   よくある質問(Q&A)   Q1. 心理的安全性を高めると、ぬるま湯のチームになりませんか?   A. 心理的安全性は、厳しいことを言わない状態を目指すものではありません。そもそも前提として成果のためにその組織づくりをしています。パワーハラスメントにあたるような厳しさはいけませんが、相手に対して愛のある厳しさは持つべきものです。ぬるま湯になるとしたら、それは「安全性」という言葉を「とにかく優しくすること」と受け取ってしまっている場合かもしれません。     Q2. 仲は良いのに、成果に向けた厳しい議論ができません。何から手をつければよいですか?    A. まず、何をもって成果とするかがチームの共通言語になっているかを確かめてみてください。ミッションや数値目標が掲げられていても、それを自分の言葉で語れる状態になっているとは限りません。「自分がこれを達成できれば、チームはこうなる」とメンバー全員が言える状態を目指すことが出発点になります。成果の定義があいまいなままでは、踏み込んだ議論のしようがありません。     Q3. 強く言うと空気が悪くなりそうで、踏み込んだフィードバックができません。どうすればよいですか?    A. フィードバックの基準を、個人の感覚ではなくチームのコンセプトに置くと伝えやすくなります。どういう行動が推奨され、どういう行動は違うのかをあらかじめ言葉にしておけば、「チームのコンセプトと違ったよね」という形で指摘できます。推奨する行動を取ったうえで成果が出なかったときは「ナイストライ」と伝える。この対の基準があると、踏み込むことと安心して挑戦できることが両立します。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。    【ぬるま湯組織を変える】成果を生む「チームの共通言語」     「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。       Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。仲は良いけれど踏み込めない、というチームの関係性から見直したい方は、お気軽にご相談ください。 → お問い合わせはこちら

2026年9月3日

最終更新日:

心理的安全性はぬるま湯ではない。成果に向き合えるチームのつくり方

心理的安全性を高めるとぬるま湯になるのでは。そんな迷いを抱える管理職に向けて、心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが答えます。鍵は優しさの加減ではなく、成果とチームのコンセプトを言葉にすることにありました。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  休みにくい空気は、制度ではなくチームの関係性から生まれているのかもしれません。管理職が自ら休むことを言葉にし、メンバーそれぞれの休み方の価値観を共有し、誰かが抜けてもフォローし合える状態をつくる。この3つが揃うと、しなくてもいい遠慮が減っていきます。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに、休みやすいチームのつくり方を整理します。 【目次】 1. 「有給が取りにくい」空気は、制度ではなくチームの関係性から生まれているのかもしれない 2. 管理職ができる最初の一手は、自分が休むと言葉にすること 3. 「休み方の取扱説明書」をチームで共有する 4. 一人で休みにくいなら、みんなで休む日を決める 5. 制度より先に、自分たちの実態を言葉にする 6. 休めるチームは、助け合えるチーム 7. まとめ 8. よくある質問(Q&A)    「有給は制度としてあるのに、なんとなく申請しづらい」「自分の部署は休みやすいけれど、隣の部署はそうでもないらしい」。夏休みのシーズンが近づくたびに、こうした違和感が浮かび上がってくるチームは少なくないのではないでしょうか。制度は同じなのに、部署によって休みやすさが違う。その差は、どこから生まれているのでしょうか。      この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、リスナーさんから寄せられた「休みやすい文化はつくれるのか」というご相談に答えました。   「有給が取りにくい」空気は、制度ではなくチームの関係性から生まれているのかもしれない  番組に届いたのは、地方の会社で研究開発職として働くリスナーさんからのご相談です。お盆の時期に3日間の有給を計画的に取得する制度をめぐって、社内でアンケートと議論があったといいます。意見は、休みを取りにくいので制度を維持したい人、自分のタイミングで休みたいので撤廃したい人、事前申請で振り替えられるようにしたい人に分かれ、結論は「現行制度を維持して、1年かけて議論を続ける」となりました。     相談者が意外に感じたのは、有給を取りにくいと感じている人が一定数いたことでした。自分の部署は部長自身が家族の予定で休むため、有給を取るのは当たり前という空気がある。けれど営業部などは、そうではないのかもしれない。ここから相談者さんは、管理職はどんな行動や仕組みづくりをすると休みやすい文化をつくれるのか、と番組に質問を送ってくれました。     金氏はこのご相談を受けて、相談文のなかにすでに答えのひとつがあると受け止めました。部長自身が休むから、部下も休める。管理職の側からきちんと休むことを明言するのは、それだけで大きな意味があるのではないか、という見立てです。     河原あずさもここに、残業の構図と同じものを見ています。役職者がずっと会社に残っていると、メンバーは帰りづらくなる。休みやすさをつくる一番大きな要素は、管理職がそれを実践しているかどうかにかかってくるのではないか、という受け止めです。     管理職自身が休めないまま板挟みになっている状態については、関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。   管理職ができる最初の一手は、自分が休むと言葉にすること  金氏が挙げた具体的な行動は、とてもささやかなものでした。「このプロジェクトが終わったら休むからね」と、あらかじめ言っておく。それだけでも、チームの休みやすさは変わってくるのではないかといいます。人は横の人や上の人が頑張っていると、どうしても休みづらくなる。だからこそ、自分も休むという宣言を少ししておくことに意味がある、という見方です。     裏側の話もあります。金氏は、つい時間外にSlackを送ってしまいがちだと振り返り、最近はそれを極力やめようとしていると語りました。活用しているのは予約送信です。チーム全体の合意として「今はスケジュールが足りないからこの状況だ」と共有されていればまだしも、仮になぜこの人が時間外まで働いているのか分からないまま通知が飛んでくると、周囲は休みづらくなってしまうからです。     河原あずさも、自分がこんな時間まで頑張って働いているという雰囲気を漂わせるメールやSlackを送ってくる管理職の存在に触れています。送っている本人にその意図がなくても、受け取る側は勝手に空気を読んでしまうものなのかもしれません。    あわせて金氏が挙げたのが、制度として準備されているものはみんな使ってもらって大丈夫だと、リーダーの側から言葉にすることでした。サボるのは別の話ですが、休むことは制度で決まっている以上、堂々と休んでいい。それを宣言したうえで、お互いの働き方を話し合えるとよいのではないか、という提案です。   「休み方の取扱説明書」をチームで共有する  とはいえ、チームには多様なメンバーがいます。働き方の希望がばらばらな組織で、休んでいいという空気をどうつくればいいのでしょうか。    金氏がZENTechで実践したものとして紹介したのが、チームラーニングと呼ばれるワークショップです。外資系コンサルティング会社で行われている手法で、その名の通りチームのことをきちんと学ぼうというもの。簡単に言えば、働き方や自分の取扱説明書をお互いに共有する時間です。    共有される内容は、日中のほうが集中できる、あるいは夜型なので夜のほうが進む、といった小さなことから始まります。家族と暮らしているのでこの時間は避けてほしい。電話の前に一言メッセージをもらえるとありがたい。逆に、5分10分の用件なら電話でまったく構わない。そうした一人ひとりのしっくりくる働き方を、先に共有しておくワークです。フルリモートの組織では相手の働いている環境が見えないため、金氏はその必要性をより強く感じたといいます。    これをやっておくと、つい仕事に没頭してしまう人がいても状況が変わります。金氏の見立てでは、その人が働くこと自体を楽しんでいるとみんなが知っていればまだいい。「単純に自分が好きで働いているだけなので、気にしないでください」という一言があるだけで、周囲は休みやすくなるのではないか、というわけです。     河原あずさは、この視点を自身の会社員時代の実感と重ねています。働き方改革という言葉が出はじめた時期に大企業にいた河原あずさは、残業時間について指摘を受けるなかで、働きすぎは良くないという空気が強まっていくのを感じていました。そのとき覚えたのは、休みやすさと引き換えに働きやすさが削られていくストレスだったといいます。こちらは働きたいのだから働かせてほしい、という感覚です。それぞれのスタンスが共有され、そこに寄り添った運営ができていれば、みんながハッピーになれる状態をつくれるかもしれない、というのが河原あずさの見立てです。     ナビゲーターの黄瀬真理も、休むという一言のなかにある価値観の幅を挙げました。家族が休むときに合わせて休みたい人。あえてみんなが休まない時期に休む人。連続ではなく水曜日などにちょこちょこ取りたい人。半日でいいので、お客さま対応を誰かに任せて短くリフレッシュしたい人。むしろ自分でお客さまからの連絡を受けながら休んだほうが安心できる人。こうした違いが共有され、どこまでをチームが許容できるかの認識が揃っていると、しなくてもいい遠慮を減らしやすくなるのではないか、という見方です。    お互いの前提を共有する時間という意味では、1on1の時間についての関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。   一人で休みにくいなら、みんなで休む日を決める  河原あずさは、自社のスタッフと長期休暇の話をしたときのことを紹介しました。1週間ほど休むことについて、スタッフの口から「そういうことはやらないようにしている」「言わないようにしている」という言葉が出てきたそうです。裏を返せば、機会があるなら1週間くらい休んでみたいという気持ちが、本人も無自覚なまま存在しているのではないか。河原あずさはそう受け取っています。     では、遠慮なく1週間休める組織にするには何ができるのか。金氏が挙げたのは、繁忙期を避けて、みんなで一緒に休むという方法でした。どの部門にも繁忙期があり、その裏側には比較的落ち着く時期があります。繁忙期に1週間抜けられるとチームは苦しくなりますが、そこまで忙しくない時期にみんなで休む約束を先に取り付けておけば、ずいぶん休みやすくなるのではないか、という提案です。     背景にあるのは、遠慮の構造です。金氏によれば、一人で誰にも言わずに休もうとすると人は遠慮してしまう。カレンダーに休みと入れることさえ申し訳なく感じてしまう優しい人もいる。けれどみんなで休んでいるなら誰にも迷惑をかけていないので、一緒にカレンダーに入れようと声をかけ合えるようになります。     河原あずさは、これをチームビルディングの機会としてとらえ直しました。イベントやシステムのローンチなど、プロジェクトに明らかな山があるなら、「これが終わったらみんなで1週間休もう」を合言葉にして走る。休みが目標のひとつになると、チームの空気そのものが変わってくるかもしれません。    対外的な発信についても、二人の見方は重なりました。この期間、この部署は1週間お休みをいただきますと告知してしまう。1週間止まったところで会社が倒れるわけではありませんし、準備をしておけば問題は起きにくい。金氏は、休むことを難しいと感じている人が増えているように見えるからこそ、きちんと休んでいる部署だと知られることは素敵なイメージづくりになるのではないか、と語っています。   制度より先に、自分たちの実態を言葉にする  今回のご相談は、制度を検討するためのアンケートを取ったことで、休みに対する価値観の幅が見えてきたという流れでした。河原あずさは、この順番に注目します。もともと休もうというカルチャーが先にあり、それに合わせて制度が設計される順番であれば、こうはならなかったのではないか。実態に合わせてくれた、そうだよね、という受け止めになっていくはずだ、という見方です。    河原あずさ自身、IT業界にいた頃は休みをばらばらに取るスタイルが主流でした。フレキシブルな働き方を好む人が多いというカルチャーがあり、制度がそこに合っていたので無理がなかった。だからまずは、自分たちがどういう実態なのかを言語化しておく。そうすれば人事に働きかけることもできるかもしれないし、リーダーが「うちの部署はこういう運用でやっています」と周囲に発信できるようにもなるかもしれません。管理職ではないメンバーにとっての第一歩も、おそらくここにあります。     金氏も、制度につなげるためには本音を引き出すことが大事だと応じました。今回の相談者がギャップの存在に気づいたこと自体が、すでに一歩前進だという見方です。全員が100%満足する制度をつくるのは難しいとしても、実態と照らし合わせた形にしていくことには大きな意味がある、と金氏は語ります。    金氏は自社での実感も添えています。ゴールデンウィークやお盆は、本当はずらして休みたいという声が社員から上がってくる。一方でクライアントがカレンダー通りに休むなら、こちらもカレンダー通りのほうがいいという結論にもなる。どちらが正しいかを決めるより、みんなが納得できる形で議論するところから、休み方のカルチャーができあがっていくのではないか、というのが金氏の見立てです。   休めるチームは、助け合えるチーム  もうひとつ、休みやすさを左右する条件があります。河原あずさが挙げたのは、誰かが休んだときに他の人がフォローできる関係性になっているかどうかでした。心理的安全性でいう助け合いの文化が日常にあるかどうかが、そのまま休みやすさに現れてくるのかもしれません。    金氏もここに同意し、視野を計画的な休みの外側まで広げています。今回のご相談は計画年休の話でしたが、人間である以上、突発的に休まざるをえない場面は生じます。そのときにきちんとフォローできる体制を、日々つくっておきたいところです。     黄瀬真理は放送の終わりに、こう振り返っています。休むことには、しっかりリフレッシュしていい仕事をするという意味がある。それでも、休むと言いにくい雰囲気は同時に存在する。その背後には、集まっている人たちがどんな休みを取りたいのか、どんな働き方をしたいのかというカルチャーがある。だからこそ、その部分をみんなで理解し合うことが心理的安全性につながり、それぞれの価値観に沿った休みを相談しやすい雰囲気が生まれていくのではないか、という気づきです。     河原あずさが放送のなかで残した言葉が、この回全体を言い表しています。働き方もカルチャーだけれど、休み方もカルチャーである。すなわち、制度を変える前にできることが、チームの側にはまだ残されているということです。   まとめ •      休みやすさを左右する一番大きな要素は、管理職自身が休んでいるかどうか •      「この話が終わったら休むからね」と先に言っておくだけでも、チームの空気は変わる •      時間外の連絡は予約送信に。頑張っているアピールは、周囲の休みにくさに変わりやすい •      働き方の取扱説明書を共有しておくと、ワーカホリックな人がいても遠慮が減る •      一人で休みにくいなら、繁忙期を避けてチーム全員で休む日を決めてしまう •      制度を議論する前に、自分たちの休み方の実態を言葉にしておく •      誰かが休んだときに助け合える関係性が、そのまま休みやすさになる   よくある質問(Q&A) Q1. 休みやすい職場の文化は、どうすればつくれますか? A. 制度を整えるより先に、管理職が自ら休むことを言葉にすることが出発点になります。「このプロジェクトが終わったら休みます」と先に伝えておくだけでも、周囲の休みやすさは変わります。あわせて、制度として用意されているものは使ってもらって大丈夫だとリーダーの側から明言し、お互いの働き方や休み方の希望を共有する時間をつくると、しなくてもいい遠慮が減っていきます。     Q2. 有給休暇を取りにくいと感じるのは、どうしてですか? A. 上司や同僚が働き続けている状況では、人はどうしても休みづらくなります。例えば緊急性がない連絡が時間外に複数回飛んでくるような環境だと、その傾向は強まります。前提となる、休みに対する自分の価値観を共有するといった対策が有効です。     Q3. 管理職ではないメンバーが、休みやすいチームづくりにできることはありますか?  A. まず、自分たちの部署が実際にどんな休み方をしているのかを言語化しておくことが第一歩になります。実態が言葉になっていれば、人事や制度の担当者に働きかける材料になりますし、リーダーが対外的に運用を説明することもできます。あわせて、休みに対する自分の価値観をチームに共有しておくと、お互いの許容範囲が見えやすくなります。   ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。  なぜあなたの職場は休みづらい?制度の前に必要な「休み方のカルチャー」      「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。      Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。休み方や働き方の前提を共有し合えるチームの関係性づくりに関心のある方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年8月20日

最終更新日:

心理的安全性と休み方。休みやすいチームは管理職の一言から変わる

心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが、「休みやすい文化はつくれるのか」というご相談に回答。制度を整える前に、管理職が自ら休むことを言葉にし、お互いの休み方の価値観を共有することが出発点になります。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  伝えたことがチームに浸透しないとき、足りないのはリマインドの回数ではないかもしれません。「伝わった」とは、相手の行動が変わった状態のこと。誰から伝わるかを設計し、雑談と相談ができる土壌を整えることが、心理的安全性の高いチームへの近道になります。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに、そのヒントを整理します。 【目次】 1. 「伝えたのに動いてくれない」のはなぜか 2. リマインドを増やすより、「誰が言うか」を設計する 3. ワークする仕組みは、文化を反映している 4. 空気が重いチームで、ひとりのメンバーにできること 5. まとめ 6. よくある質問(Q&A)  「店舗のメンバーに伝えたことが、なかなか徹底されない」「業務に慣れた社員ほど、社内手続きをギリギリまで後回しにする」。中間管理職やバックオフィスの立場で、こんな悩みを抱えていないでしょうか。何度リマインドしても変わらないとき、伝え方そのものを見直すタイミングなのかもしれません。  この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、リスナーの皆さまから寄せられた「伝わらない」「動かない」にまつわる相談に答えました。 「伝えたのに動いてくれない」のはなぜか  番組には、フルリモートのIT企業でバックオフィスを担当するリスナーさんから「社内手続きを後回しにする社員に悩んでいる」というご相談が、また小売業の管理職のリスナーさんから「店舗のメンバーに伝えたことが徹底されない」というご相談が寄せられました。  金氏はここで、そもそも「伝わっている」とはどういう状態かを問い直します。金氏の見解によれば、伝わっているとは、伝えられた人の行動が変わっている状態のこと。行動が変わるところまで届いていないなら、そもそも伝わっていないのではないか、という視点です。  河原あずさは、研修会社から聞いた話として「知っている」と「実際にやれる」のあいだにあるギャップを紹介しました。知識として知っている状態と、行動に移せる状態のあいだには溝があり、そこに橋をかけることが行動を変えるうえで大切だという考え方です。「伝えたのに動かない」の多くは、この溝の手前で止まっているのかもしれません。  伝えても動かない状況が続くと、板挟みになる管理職自身が疲れてしまいます。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。 リマインドを増やすより、「誰が言うか」を設計する  では、どうすれば行動が変わるところまで届くのでしょうか。金氏は、仕組みで解決しようとすると「リマインドを増やす」方向になりがちだと指摘したうえで、コミュニケーションでの解決策をふたつ挙げました。  ひとつめは、悩みや困りごとをきちんと伝えられる場所、雑談や相談ができる場所がチームにあるかを見直すこと。ふたつめは、伝言ゲームのように「伝えてもらう」側に回ってもらうことです。金氏によれば、人は誰かに伝える役割を担うと、能動的に内容を自分の中に落とし込もうとします。6〜7割の理解だった人が、伝えるために学び直して8〜9割まで到達することもよくあるのではないか、というのが金氏の見立てです。学校時代の「教え合うと自分も学べる」経験と同じ構造です。  そして、誰に発信役をお願いするかも重要です。金氏は「この人から言われたら、やらなきゃな」と周囲が思えるような、日ごろの行動で信頼を積み重ねている人を探してみることを勧めています。  河原あずさは自身の会社員時代を振り返り、経費精算をためがちだったことを振り返りました。事務的に「ちゃんとやってください」と言われてもなかなか動けなかったけれど、仕事への姿勢を尊敬している人から「数日でいいので早めに回してもらえると助かります」と言われたら、早めに出そうと心がけたかもしれない。同じ内容でも、誰からどんな状況で言われるかで、受け取り方は大きく変わるという実感です。 ワークする仕組みは、文化を反映している  相談にあった「後回しにさせない仕組みや文化」について、河原あずさはひとつの見方を示しました。ワークする仕組みは、その会社の文化を反映しているという考え方です。エンジニアが集まる会社ならプログラミング思考の仕組みが自然に定着しますが、同じ仕組みを感性豊かなメンバーが集まる会社に持ち込んでも、うまくいくとは限りません。  これを受けて金氏は、仕組みづくりの一歩目は「自社にはこういう人が集まっている」と自分たちの文化を知ることだと述べました。さらに、フルリモートの組織ほど文化の言語化はハードルが高くなるからこそ、「自分たちはどんな働き方をしたいのか」を話す時間を定期的に設けることを勧めています。遠回りに見えて、大切にしたい文化が共有されていれば、仕組みはその上で機能しやすくなります。逆に、大事にしたいものが脅かされると人は強い抵抗を感じるものだ、というのが金氏の見立てです。 空気が重いチームで、ひとりのメンバーにできること  番組にはもうひとつ、切実な相談が届きました。遅延している大型システム開発プロジェクトに途中から加わり、空気が重く、会議も結論が出ない。全体会議で発言する勇気はまだ出ないけれど、一メンバーとしてプロジェクトを前に進めたい、という相談です。  金氏が挙げた第一歩は、その悩みそのものを、伝えられる範囲の上司や信頼できる人に伝えてみることでした。興味深いのは、金氏が紹介した「話しやすさ」のとらえ方です。ZENTechで心理的安全性の研究を始めた当初から話されてきたこととして、率直に発言し合う文化が根づいた組織だけでなく、日本の組織では「上司に耳打ちしたら会議で代わりに言ってくれる」ことも、話しやすさのひとつに数えられるのではないか、という視点です。  河原あずさはこれを「根回し」と重ねつつ、決してアンフェアなやり方ではないと整理しました。ひとりの意見のままで終わらせず、チームの中で影響力のある人に話してみて、共通認識の輪を広げていく。世論形成のアプローチとして、むしろ有効ではないかという見方です。  金氏はもうひとつ、視点の大きな提案も添えています。大型のプロジェクトであるほど、最初にチーム全体の心理的安全性を担保する期間をつくったほうが、あとの手戻りが減るのではないか、というものです。雑談ができない環境で相談ができるだろうか、という前回ゲストの倉貫義人氏の著書にある問いを引きながら、キックオフの前にコミュニケーションできる状態を整えておくことの大切さを語りました。  ナビゲーターの黄瀬真理は、雑談の意味をこう受け取っています。雑談を通じてチームにどんな人がいるかを知っていると、困ったときに「この人に相談すると先に進むかもしれない」という勘が働く。何気ない雑談が、誰の力を借りるかを見極める土台になるという気づきです。  雑談や相談の場づくりという意味では、1on1の設計も同じ文脈にあります。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。 まとめ ・「伝わった」とは、相手の行動が変わった状態。行動が変わるまで届いていないなら、まだ伝わっていないのかもしれません ・徹底したいことは、リマインドを増やすより「誰から伝わるか」を設計する ・「伝えてもらう」役割を任せると、本人の理解も深まり、チームへの浸透も進む ・ワークする仕組みは文化の反映。まず「自分たちはどんな働き方をしたいか」を言葉にする ・空気が重いチームでは、信頼できる人にまず相談することが第一歩。根回しはアンフェアではない ・雑談と相談はセット。話せる土壌づくりが、心理的安全性のベースになる よくある質問(Q&A) Q1. 伝えたことがチームに徹底されないのはなぜですか? A. 「伝わった」とは、相手の行動が変わった状態を指します。知っていることと、実際にやれることのあいだにはギャップがあるため、伝達の回数を増やすだけでは行動は変わりにくいものです。誰から伝わるかを設計し、伝えられた人が誰かに「伝える側」に回る仕掛けをつくると、理解と定着が進みやすくなります。 Q2. 心理的安全性が低いプロジェクトで、一人のメンバーにできることはありますか? A. まず、感じている問題意識を、伝えられる範囲の上司や信頼できるメンバーに相談してみることが第一歩です。全体の場で発言できなくても、影響力のある人に話して共通認識の輪を広げていくことは、遠回りに見えて有効なアプローチです。上司に耳打ちして代わりに発言してもらうことも、日本の組織では「話しやすさ」のひとつと考えられます。 Q3. リモートワークのチームで、文化やルールを定着させるにはどうすればよいですか? A. フルリモートの組織ほど、文化の言語化はハードルが高くなります。だからこそ、「自分たちはどんな働き方をしたいのか」を話す時間を定期的に設けることが土台になります。仕組みは文化を反映してこそ機能するため、リマインドの仕組みを増やす前に、雑談や相談ができるコミュニケーションの土壌を整えることが近道になります。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。 「伝えたのに動かない」を変えるには?チームに徹底力を生む方法(stand.fm) 「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。  Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。「伝わらない」「動かない」の背景にあるチームの関係性から見直したい方は、お気軽にご相談ください。→ お問い合わせはこちら

2026年8月14日

最終更新日:

心理的安全性は「誰が言うか」で変わる。中間管理職のための伝わる伝え方

心理的安全性の専門家・金亨哲氏とEQの専門家・河原あずさが、「伝えたことが徹底されない」「停滞したプロジェクトを動かしたい」という中間管理職の悩みに回答。鍵はリマインドの回数ではなく、「誰が言うか」の設計にあります。

河原あずさと36.5編集部

【目次】   1. 共感力が高すぎるとは、どのような状態か 2. 共感力が高すぎる人が疲れやすい理由 3. エンパス・HSPとは何か。共感力の高さとの関係 4. 共感力とEQの違い 5. 共感力が高すぎるマネージャーへ。チームでの活かし方 6. 疲れずに共感力を活かすには 7. よくある質問 8. まとめ:共感力は下げるものではなく、整えるもの   【この記事のポイント】  ・共感力が高すぎること自体は、短所ではありません ・疲れの原因は、共感力の高さではなく「共感に俯瞰が伴っていない状態」にあります ・共感力とEQは別のものです。EQは感情を「情報」として読み取り、共感と俯瞰を行き来する力です ・共感力は、鍛えるものではなく「整える」ものです  相手の機嫌や場の空気を敏感に感じ取ってしまう。頼まれると断れない。気づけば、人の悩みまで自分のことのように抱え込んでいる。そんな自分に疲れて、「共感力が高すぎるのかもしれない」と検索された方も多いのではないでしょうか。    この記事では、共感力の高さそのものではなく、「共感に俯瞰が伴っていない状態」が疲れの原因であることを、EQ(感情知能)の視点から整理します。共感力を下げるのではなく、活かしたまま疲れなくなる考え方をお伝えします。 共感力とEQの違い(概要)  観点 共感力 EQ(感情知能) どんな力か 相手の感情を自分のことのように感じ取る力 自分と相手の感情を「情報」として認識し、扱う力 意識の向き 相手に向かい続ける 「共感」と「俯瞰」を行き来する 高いとき起きること 相手の疲れや不安が自分に流れ込んでくる 感じ取ったうえで、どう関わるかを選べる 高い場合の疲れとの関係 抱え込みやすく、消耗しやすい 感じても流されないため、消耗しにくい      共感力が高すぎるとは、どのような状態か    共感力が高すぎるとは、相手の感情を自分のことのように感じ取る力が強く働きすぎて、自分の感情との区別がつきにくくなっている状態として、しばしば認識されます。    あなたは、次のような項目に、いくつあてはまるでしょうか。   相手が疲れていると、自分まで疲れてくる 人が怒られているのを見ると、自分が怒られているように感じる 頼まれごとを断れず、気づけば手一杯になっている 会議や集まりのあと、どっと消耗している 相手の機嫌の変化に、誰よりも早く気づいてしまう 「あの一言はまずかっただろうか」と、あとから何度も反芻する    多くあてはまった方に、先にお伝えしたいことがあります。共感力が高すぎることは「直すべき欠点」ではない、ということです。    相手の感情を感じ取る力は、信頼関係を築くうえで替えのきかない土台になります。問題はその力の高さではなく、感じ取ったものを受け止めたまま、抱え続けてしまうことにあります。言いかえると、「共感」に「俯瞰」が伴っていない状態です。この構造を、順番に見ていきます。     共感力が高すぎる人が疲れやすい理由    共感力が高い人が疲れやすいのは、受け取る感情の量が多いからだけではありません。受け取った感情が、整理されないまま自分の中に溜まっていくからです。    感じ取る力が強い人は、日々、他の人より多くの感情の情報を受信しています。受信すること自体は消耗しません。消耗するのは、受信したものが「相手の感情」なのか「自分の感情」なのか、区別がつかないまま混ざってしまうときです。    たとえば、メンバーの表情が曇っていることに気づいたとき。「何かあったのかな」と気にかけるところまでは、感じ取る力が働いているだけです。ところが、そのモヤモヤが夜まで頭から離れず、自分の仕事が手につかなくなっているとしたら、相手の感情が自分の感情と混ざり始めています。    ここでは、この状態を「感情の混乱」と名付けましょう。不安や焦りに感情が流されると、目の前の出来事にただ反射的に「反応」するようになり、どう関わるかを選ぶ余裕がなくなっていきます。やるべきことと、やらなくていいことの区別がつかなくなるのです。    疲れの正体は、共感力の高さではありません。感情が混ざり、ニュートラルな状態を失っていることです。ここを取り違えて「共感力を下げよう」「鈍感になろう」とすると、せっかくの感じ取る力まで手放すことになってしまいます。    実際の現場でも、この構造は繰り返し確認されています。Potageはこれまで、800名ほどのビジネスパーソンにEQ検査(EQPI)を実施し、結果の分析とフィードバックを重ねてきました。そのうちおよそ4分の1が、人をマネジメントする立場の方々です。その中で、共感力の高い方々には共通する消耗のパターンが見えています。    周りに気を使いすぎて、いつも疲れている。誰かが違うことを言い始めると、そこに振り回されてしまう。相手が困っていると、自分の得意なことでなくても手を貸してしまい、気づけば身動きが取れなくなっている。そして特徴的なのは、誰かに頼まれたわけでもないのに、「こうすると相手が喜ぶんじゃないか」という想像上のニーズに応えようとして、自分で自分にタスクを課してしまうことです。    さらに、こうした方々には、もうひとつ共通する傾向があります。自分の本音に目を向けていないことです。「疲れているから休みたい」という心の声が聞こえたとき、「これは私のわがままだから」と押し殺してしまう。すると休めなくなり、自分の時間がなくなり、疲労が積み重なっていきます。自分で決めてコントロールできる範囲が減っていくと、人は「自分ならできる」という感覚(自己効力感)を少しずつ失っていきます。関わる人の数が増えるほど、この消耗は加速します。      エンパス・HSPとは何か。共感力の高さとの関係    共感力の高さについて調べると、「エンパス」や「HSP」という言葉に出会います。初めて見る方のために、簡単に整理します。    HSPは「Highly Sensitive Person」の頭文字で、感受性が生まれつき特に高い人を指す心理学の概念です。アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が1996年に提唱しました(出典:エレイン・N・アーロン『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』冨田香里訳、講談社、2000年。原著 The Highly Sensitive Person、1996年)。音や光などの刺激に敏感である点まで含む、広い気質の概念です。    エンパスは、他者の感情をまるで自分のことのように感じ取る人を指す呼び名です。アメリカの精神科医ジュディス・オルロフ氏の著書などを通じて広まりました(出典:ジュディス・オルロフ『LAの人気精神科医が教える共感力が高すぎて疲れてしまうがなくなる本』桜田直美訳、SBクリエイティブ、2019年。原著 The Empath's Survival Guide、2017年)。こちらは学術的に確立した診断名ではなく、特徴を表す通俗的な言葉として使われています。    どちらの言葉も、自分の状態に名前がつくことで楽になる面があります。一方で、「生まれつきの気質だから、距離を置いて自衛するしかない」という結論で止まってしまいやすい言葉でもあるかもしれません。    Potageの見方は少し違います。気質そのものは変えられなくても、感じ取ったあとの「状態」は整えられる、と考えています。感じ取る力が強いことと、感じ取ったものに飲み込まれることは、別の話だからです。    なお、眠れない日が続く、気分の落ち込みが長引くなど、心身の不調が続いている場合は、無理をせず医療機関や専門家に相談してみてください。      共感力とEQの違い    共感力とEQは、しばしば似たようなものとして語られることがありますが、別のものです。    EQ(感情知能)とは、自分と相手の感情を「情報」として適切に認識し、扱う力です。感情を押し殺す技術ではありません。共感は、EQを構成する要素のひとつであって、EQそのものではないのです。    EQには、大きく2つの段階があります。    第一の段階は、感情を「見つける」ことです。多くの人は、モヤモヤした気持ちに蓋をして、感じなかったことにして行動へ急ぎます。自分の気持ちに蓋をせず、「いま自分は焦っている」「あの一言が引っかかっている」と気づけるようになること。これがEQの出発点です。    第二の段階は、見つけた感情を踏まえて「調整する」ことです。感じ取った情報をもとに、いつ、どう関わるかを選ぶ。ここで働くのが「共感」と「俯瞰」の行き来です。相手の気持ちに寄って感じ取り、いったん引いて全体を眺め、また寄る。この往復ができると、感じ取る力は消耗の原因ではなく、判断の材料になります。    この違いは、「遠慮」と「配慮」の違いにも表れます。遠慮は、我慢し続けて自分の意見を出せない状態です。配慮は、自分の本音を、周りが傷つかないよう適切なタイミングで伝えられる状態です。どちらも相手を思う気持ちから始まりますが、遠慮は共感に飲み込まれた状態、配慮は共感と俯瞰を行き来できている状態と言っていいでしょう。    共感力が高すぎて疲れている方は、能力が足りないのではありません。すでに強力な「感じ取る力」を持っていて、「俯瞰との行き来」がまだ加わっていないだけなのです。      共感力が高すぎるマネージャー・中間管理職の方へ。チームでの活かし方    共感力の高さに疲れている方の中には、チームを預かる立場の方も多いのではないでしょうか。メンバーの様子が気になり、頼られれば応え、気づけば全員の感情を一人で引き受けている。そんなマネージャー・中間管理職の方に、Potageの1on1で出会った話をご紹介します。    配慮がとても強く、メンバーの求めに何でも応えようとするマネージャーの方が、あるときこう漏らしました。「時々、舌打ちしたくなる自分がいて、それが嫌なんです」。    優しくありたい自分の中に、苛立つ自分がいる。それを恥じている様子でした。しかし、この「舌打ちしたくなる自分」は、悪者ではありません。やりすぎないためのブレーキとして出てきた、本音のサインです。その声を押し殺すのではなく、「自分はいま、応えすぎているのかもしれない」という情報として受け取れたとき、この方の仕事はむしろ前に進み始めました。    似た場面には、EQ検査のフィードバックでも繰り返し出会います。押し殺してきた本音が顔を出したとき、ある方はそれを「自分の黒い側面」と表現しました。優しくあろうとしてきた自分の中の、認めたくない部分という感覚だったのだと思います。けれども、Potageの見方は逆です。黒ではなく、白。その声は、自分を守ろうとして働く自浄作用のようなものです。悪者にして押し込めるのではなく、スポットライトを当てて聞いてあげる。そこから、抱え込みは少しずつほどけていきます。    メンバーへの寄り添い方は、べったり寄り添い続けることではありません。かといって、突き放すことでもありません。「関心を持ちつつ、干渉しない」という距離感が、その間にあります。    Potageはこれを、楽器の調律師にたとえて考えています。調律師は、弦を直接弾く演奏者ではありません。全体の響きを聴きながら、張りすぎた弦を少し緩め、緩んだ弦を少し張る存在です。メンバー全員の感情を自分で引き受けるのではなく、チーム全体の響きを聴く側に回る。共感力の高いマネージャーがこの位置に立てたとき、感じ取る力はチームの調律に活きる力へと変わります。  チーム全体の響きから整えていく関わり方を、Potageでは「組織調律」と呼んでいます。個人の頑張りだけでは噛み合わないと感じている方は、こちらもご覧ください。     なお、マネージャーが感情を一人で抱え込んでしまう背景には、本人の性格だけでなく、役割分担や期待値のズレといったチームの構造の問題が隠れていることが少なくありません。個人の努力だけで解決しようとせず、構造から見直す視点については、関連記事もご覧ください。      疲れずに共感力を活かすには    共感力が高すぎて疲れている人に必要なのは、共感力を下げることでも、鍛え直すことでもありません。「整える」ことです。張り詰めた弦を緩めるように、混ざってしまった感情をほどいて、本来の感じ取る力が自然に働く状態に戻していきます。    順番は、EQの2段階と同じです。    最初の一歩は、感情に蓋をしないことです。モヤモヤしたとき、「こんなことで疲れてはいけない」と打ち消すのではなく、モヤモヤしている自分に気づくこと。それだけで、感情は「正体不明の重さ」から「扱える情報」に変わり始めます。    次に、そのモヤモヤを外に出してみます。モヤモヤは、見えていないからモヤモヤなのです。ノートに書き出す、信頼できる人に「ちょっと聞いてもらえますか」と話してみる。外に出して初めて可視化され、解像度が上がります。出すのをためらうのは、「ちゃんと説明しなければ」というプレッシャーのせいであることが多いのですが、結論もまとまりもない状態のまま出して構いません。    そのうえで、感じ取った感情が「誰のものか」を分けてみます。いま抱えている重さのうち、自分の感情はどれで、相手から流れ込んできたものはどれか。書き出したものを眺めると、相手の課題まで自分の宿題にしていたことに気づけることがあります。    あわせて、おすすめしたいことがひとつあります。自分にとっての「聖域」を作ることです。1日15分でいいので、誰にも干渉されず、誰にも気を使わない、自分だけの時間を決めて、キープし続ける。気合いで確保するのではなく、生活の構造として組み込むのがコツです。聖域の意味は、休息そのものよりも、「自分のことを自分で決める」という感覚を取り戻すことにあります。この感覚が戻ってくると、自分を大事にする気持ちと、周りを大事にする気持ちのバランスが取れるようになっていきます。    実際にあった変化を紹介します。人を優先しがちな共感型の方が、EQ開発に取り組み、2年ぶりにEQ検査を受けたところ、自己感情認知(自分の気持ちに気づく力)が大きく上がっていました。その方が実際にやったことは、家族のために毎日作っていたお弁当を、やめると宣言したことでした。聞けば、誰かに頼まれたわけではなく、「こうすると喜ぶんじゃないか」と想像上の相手のニーズに応えて、自分で自分にタスクを課していたことに気づいたのだそうです。理由を説明してやめてみると、家族も受け入れてくれて、ご本人は大きな解放感を得られました。「自分で決める」という感覚が戻り、めぐりめぐって、家族との対話や、相手を理解しようとする姿勢が生まれた。想像上の相手に応え続けるのをやめたことで、かえって本当の意味で相手に寄り添えるようになったのです。    共感力を働かせる先を、想像上のニーズから、実際に相手から出てきたニーズへ。そして、空いた自分のリソースを、少しだけ自分に振り向ける。距離の取り方に迷ったら、ほんの1メートル、ときには30センチでも引いてみる。それだけで、見える景色は変わります。      よくある質問  Q. 共感力が高すぎるのは短所ですか?   A. 短所ではありません。相手の感情を感じ取る力は、信頼関係を築くうえで替えのきかない強みです。疲れの原因は共感力の高さではなく、感じ取った感情が自分の感情と混ざったまま整理されていない状態にあります。感じ取った後の状態は整えることができます。     Q. EQと共感力は違うものですか?   A. EQと共感力は、違うものです。共感力は相手の感情を自分のことのように感じ取る力で、EQ(感情知能)は自分と相手の感情を「情報」として認識し扱う力です。共感はEQの構成要素のひとつです。EQは「共感」と「俯瞰」を行き来する力を含むため、EQが働いていると、感じ取ってもその感情に飲み込まれにくくなります。     Q. 共感しすぎて疲れるとき、何から始めればいいですか?   A. 自分のモヤモヤに蓋をせず、気づくことから始めてみてください。次に、ノートに書き出すなどして外に出すと、感情が可視化されて扱いやすくなります。そのうえで「これは誰の感情か」を分けてみると、相手の課題まで抱え込んでいたことに気づきやすくなります。あわせて、1日15分だけ誰にも気を使わない自分の時間を「聖域」として確保するのもおすすめです。      まとめ:共感力は下げるものではなく、整えるもの    共感力が高すぎて疲れるのは、感じ取る力が強いからではなく、感じ取った感情が自分の感情と混ざり、ニュートラルを失っているからです。必要なのは鈍感になることではなく、「共感」と「俯瞰」を行き来できる状態に整えることです。その力を測り、扱えるようにするのがEQ(感情知能)です。    自分の感情の癖を知ることは、整える第一歩になります。PotageのEQPI®診断は、EQと性格特性をあわせて可視化し、アナリストとの1on1で結果を一緒に読み解きながら、自分の感じ取り方の癖を言葉にしていきます。Potageの公式LINEでは、しばしばEQ診断のキャンペーンを配信しています。共感力の高さを消耗の原因ではなく、強みとして活かしたい方は、ぜひLINEにご登録ください。  ご自身の状態を知ることから始めたい方には、Potage公式LINEで、EQ診断のご案内を行っています。ぜひご登録ください。

2026年8月16日

最終更新日:

共感力が高すぎると疲れるのはなぜか。共感とEQの違いから考える

共感力が高すぎて疲れるのは、生まれつきの気質のせいだけではないかもしれません。共感と俯瞰を行き来するEQの視点から、疲れの構造と、優しさを手放さずに整える方法を解説します

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】   遠慮をやめて本音を伝えたい。でも、どう伝えればいいか分からず、つい飲み込んでしまう。そんな方は少なくないかもしれません。 変えるのは、たった「1.1倍」でいい。いつもより少しだけ心を開いてみることから、コミュニケーションは動き出します。 NOKIOO・小田木朝子さんとの対談の後半から、遠慮を配慮に変えていく具体的な練習法を探ります。   【目次】  その前に:「遠慮」と「配慮」は、何が違うのか 頭で分かっても、行動が変わらないのはなぜか いきなり変えなくていい。「1.1倍」だけ開いてみる 失敗していい場所を、先につくる 大切なのは、「みんな違う」と知ること 「言ってくれてありがとう」から始まる循環 今日からできる、小さな一歩  本音を伝えたほうがいいのは、分かっている。それでも、いざその場になると、角が立つ気がして言葉を飲み込んでしまう。あとから一人で、あるいはAIに向かって、言えなかったことをこぼしてしまう。そんな経験を持つ方は、少なくないのではないでしょうか。  この記事は、人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO取締役の小田木朝子さんと河原あずさの対談をもとにしています。前半の対談で、「遠慮」と「配慮」の違いを話しました。後半の対談では実際にどうやって遠慮を配慮へ変えていくのか、という実践の話をうかがいました。  この対談は、前半と後半に分かれています。前半(小田木さんのチャンネル)では、「遠慮」と「配慮」が何を指すのか、なぜ遠慮が積み重なると厄介なのか、その入り口を話しています。この記事は後半をもとにしていますので、前半とあわせて聴いていただけると、より立体的に楽しめるかもしれません。 前半(小田木さんのチャンネル「明日の景色を変える仕事サプリ」): 後半(あずさんのチャンネル。この記事のもとにした回「コミュニティ思考AtoZ」):     その前に:「遠慮」と「配慮」は、何が違うのか    前半で話したのは、似ているようで違うこの二つの言葉でした。あらためて整理すると、こうなります。 遠慮:言いたいことも言えず、飲み込んでしまう状態 配慮:自分の本音を、相手が傷つかない形で、適切なタイミングで伝えられる状態  この違いは、聴いてくださった方の反応にもよく表れていたようです。小田木さんは、前半の対談の手応えをこう振り返ります。  このテーマを選んでよかったなって。自分が遠慮の傾向が強いのか、それとも配慮しながら小さな違和感を交わし合えているのか。まずそこにフラグが立つだけで、少し選択や傾向を変えられる。そんな話だなと思ったんです。  自分はどちらに寄っているのか。それに気づくだけでも、動き出せることがあります。 ここから先は、その「じゃあ、どう変えるのか」を一緒に見ていきます。     頭で分かっても、行動が変わらないのはなぜか    配慮のほうがいい、というのは、多くの人が頭では分かっています。それでも行動が変わらないのは、途中にいくつかの壁があるからです。小田木さんは、かつての自分をこう振り返ります。    一つは、どこまで言っていいのか分からないという悩み。もう一つは、違和感やモヤモヤは、あんまり言っちゃダメなことだという思い込み。相手を不快にさせるかもしれない、気を遣わせてしまうかもしれない。だから口には出さないほうがいい、と思っていたんです。  言えない状態が続くと、それはやがて「言えない構造」として固まっていきます。何が怖いかといえば、コミュニケーションで失敗することです。だとすれば、考える順番は変わります。失敗しないように身構えるのではなく、失敗してもいい場所を先に用意しておく。そこから始めればいいのではないでしょうか。     いきなり変えなくていい。「1.1倍」だけ開いてみる    とはいえ、いきなり本音を全部さらけ出すのは、誰にとっても難しいことです。あずさんが現場でよく使うのは、EQの考え方をもとにした、ある声かけです。  EQの検査の中に、心を開くと書いて「心開(しんかい)」というパラメーターがあります。自分の感じていることをどれだけ外にオープンにするか、という力です。トレーニングのときは、いつもの1.1倍だけ心開してみましょう、と伝えるんです。2倍じゃなくて、1.1倍でいい。  全開にしようとすると、人は無理をして長続きしません。けれど1割増しなら、自分のモードを崩さずに、少しだけブレーキを緩めることができます。そして、ここには返報性の法則がはたらきます。自分が1.1倍で開くと、相手も1.1倍で返してくれる。それを毎日くり返せば、複利のように少しずつ増えていきます。変えるのは、今まで言わなかった一言を足すこと、深掘りの質問を一つ加えること。たったそれだけで、コミュニケーションは変わり始めます。     失敗していい場所を、先につくる    1.1倍を試すにも、いきなり本番では緊張します。そこであずさんが挙げるのが、車の運転の比喩です。こういう距離感で車は止まるんだ、というのは、動かしてみるまで分からないですよね。だから教習所で、運転の下手な人同士が運転して体得していく。コミュニケーションもそれと同じで、失敗してもいい場所をつくればいいんです。    気の置けないチームや、気心の知れた相手。まずはそういう場で、いつもと少し違う言い方を試してみる。うまく伝わったか、もう少しトゲを抜けたか、お互いにフィードバックし合う。助手席に誰かを乗せて振り返るように、一人で抱え込まずに練習できる機会を持っておくと、安心して一歩を踏み出しやすくなります。     大切なのは、「みんな違う」と知ること    配慮的なコミュニケーションでつまずくとき、その根っこには共通した勘違いがある、とあずさんは言います。  失敗の一番の要因は、みんなが同じ価値観を持っていると思い込んでいることなんです。自分がこう感じるから、相手もこう感じるはずだ、と。だから想定外の反応が返ってくると、動揺して次の言葉が出なくなってしまう。  育ってきた環境が違えば、好きも嫌いも違う。近いメンバーであっても、感じ方はそれぞれです。まずはその違いを知っていくこと自体が、いいトレーニングになります。相手が感情を見せても、それは自分が責められているサインではありません。ひとつの情報として、そのまま受け止めればいいのです。そう捉え直せると、相手の反応を怖がらずに受け止められるようになっていきます。     「言ってくれてありがとう」から始まる循環    一人が勇気を出しても、それが罰のように扱われれば、次からは口をつぐんでしまいます。小田木さんが、自分たちのチームで大切にしてきたことを教えてくれました。プチ勇気を出して言ってみたことに対して、まずは「言葉にしてくれてありがとう」と返すんです。それによって、言っていいんだ、言ってよかった、という蓄積ができていく。    あずさんも、こう重ねます。言うことが罰ゲームになると、人は当たり前のように言わなくなる。だからこそ、そのループを断ち切ることに意味がある、と。小さな一言に「ありがとう」を返す。その積み重ねが、遠慮ではなく配慮が回っていくチームの土台になります。小田木さん自身も、信頼できる人との対話を数年続けながら、言葉にする習慣を持つチームの中で、少しずつこの力を育ててきたそうです。     今日からできる、小さな一歩    配慮は、高度で難しい技術のように見えて、工夫しだいでいくらでも試せるものです。一気に変える必要はありません。いつもより1.1倍だけ心を開く。今まで言わなかった一言を、そっと足してみる。  うまくいったという小さな成功体験を一つ持ち帰れれば、コミュニケーションはそこから少しずつ変化していきます。  自分がつぶやくときもあれば、誰かのつぶやきに「ありがとう」を返すときもある。その循環が、チーム全体の感情の扱い方を少しずつ育てていくのではないでしょうか。小田木さんとの対談は、次回もまた続く予定です。これからも一緒に考えていければと思っています。     小田木さんの発信・株式会社NOKIOOについて   Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」では、仕事・キャリア・人生に効く音声を毎日配信中 株式会社NOKIOO コーポレートサイト     Potageからのご案内   PotageはEQ(感情知能)診断とワークショップを通じて、「感情を扱えるチーム」づくりを支援しています。まずは、個人や組織の感情の状態を知るところから始めてみませんか。 取り組み事例を読む     対談の出演者   小田木朝子さん(株式会社NOKIOO取締役) 人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOOの取締役。Voicy「明日の景色を変える仕事サプリ」パーソナリティ。 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) EQ(感情知能)と組織調律を軸に、チームづくりを支援。メンバーが本音を交わし、生き生きと成果を上げ続けられる組織づくりに取り組んでいる。

2026年8月16日

最終更新日:

いきなり変えなくていい。「遠慮」を「配慮」に変える1.1倍の練習/NOKIOO・小田木朝子さんと考えるEQ(感情知能) 実践編

遠慮して本音を飲み込んでしまう。それを変えるのは、いつもの「1.1倍」だけかもしれません。EQ(感情知能)をもとに、遠慮を配慮に変えていく具体的な練習法を、NOKIOO・小田木朝子さんとの対談からお伝えします。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】  メンバーは発言せず、上司は聞く耳を持たない。中間管理職が抱えるこうした悩みの多くは、関係性の土台不足と「決めつけ」から生まれています。雑談と1on1で話せる土台をつくること、相手への決めつけや自分の感情の投影に気づくこと、「あなたvs私」ではなく「問題vs私たち」の構図でゴールを揃えること。この3つが、心理的安全性のあるチームへの入口になります。   【目次】 1. なぜ「特にありません」しか返ってこないのか 2. 「お山の大将」は本当か。決めつけと投影に気づく 3. チームの掛け違いを予防する「問題vs私たち」 4. まとめ 5. よくある質問(Q&A)      会議でメンバーに「困っていることはありますか」と聞いても、返ってくるのは「特にありません」の一言。かと思えば、自分の上司はチームで練った案に聞く耳を持たず、経験者としてのダメ出しが続く。上からも下からも板挟みになる中間管理職の方には、思い当たる場面が多いのではないでしょうか。(関連記事:管理職のストレスが限界になる前に)      この記事では、ポッドキャスト「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」のゲスト回をもとに、こうした相談への答えを再構成しました。答えるのは、1日所長として登場した株式会社ソニックガーデンの倉貫義人氏(くらぬき・よしひと)。「管理をしない会社」の経営で知られ、雑談と相談をかけ合わせた「ザッソウ(雑談・相談)」提唱者です。『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談』の著者でもあります。 今回は、倉貫義人氏と、心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)、EQの専門家である河原あずさ(Potage株式会社)との対話から、ヒントを探ります。     なぜ「特にありません」しか返ってこないのか  早速1つ目はこんな相談です。  「定例会議で何を聞いても「特にありません」としか返ってこないのですが、  どのように対応したらよいでしょうか」      倉貫氏の最初の指摘は、問いの立て方そのものに向けられました。「困っていることはありますかって聞かれるのって、僕も結構困るんですよね」。本当に困っていないのなら発言しなくてもよいはずで、聞くとしても「最近気になっていることはありますか」のような言い方に変えるだけで印象が変わる、という見立てです。      そのうえで倉貫氏は、より根本にある関係性の土台を挙げます。相談の前には雑談が必要で、雑談の中で「この人は話しても怒らない」「話を聞いてくれる」と分かってはじめて、公式の場でも話せるようになるかもしれない、という順序です。ソニックガーデンでも、マネージャーには1対1で話す時間を作ってもらうようにしているそうです。大勢の前で話すことはハードルが高く、1対1であれば話す機会そのものが生まれるからです。 (関連記事:1on1の目的とは。形骸化させないために)      金氏も同じ構図を指摘します。会議の場で聞かれると「特にありません」と言いやすいため、1対1で聞いても何も出てこないのかどうかが気になる、と。つまりこの相談は「関係性の問題なのか、場のデザインの問題なのか」を切り分ける必要がある、という見立てです。      河原あずさは、シチュエーションの影響を補足します。たとえば会議終了5分前に「困っていることはありますか」と聞かれれば、早く終わらせたいので「特にありません」と返ってくるのが自然です。メンバーが話さないのではなく、話しにくい環境をこちらが設定してしまっている可能性に気づけると、開示してもらえる環境設計につながるのではないか、という視点です。     「お山の大将」は本当か。決めつけと投影に気づく  2つ目の相談は逆の立場から(メンバーからの相談)でした。  「上司がお山の大将で、聞く耳を持たず、チームで練った案も通らない。  この不穏な雰囲気を良くするには、どうしたらよいでしょうか。」      倉貫氏はまず、問いそのものを問い直します。本当に実現したいことは雰囲気を良くすることではないはずだ、と。そのうえで、こう指摘します。「上司がお山の大将である、というのはバイアスがかかっているということだと思うんですよね」。あらゆる人の行動には本人なりの理由がある。話を聞かないのなら聞かない理由があるはずで、「あいつは話を聞かない」と決めつけてしまうと相互理解の道が断たれてしまう。だからこそ、決めつけを外して相手の理由を確認し、対話で解決していくことが、本当にチームを良くしたいのであれば必要になる、という考え方です。      似た構図は3つ目の相談にもありました。  「経験者の上司からダメ出しが続き「メンバーの表情も曇っていきました・・」  という課長の方からのご相談です。  金氏が着目したのは、この「曇っていきました」という言葉でした。メンバーの誰も「嫌だ」と言葉にしたわけではなく、相談者自身の気持ちが投影されている瞬間ではないか、という見立てです。ただし金氏は、こうも付け加えます。自分自身が嫌な気持ちになっていること自体は認めてよい。そのうえで「そういう言い方をされると、私はこう思います」と上司に伝えられているかが、次の問いになる、と。      河原あずさはこの2つの相談に共通する構造を、鏡にたとえて整理しました。上司がお山の大将に見えるのも、メンバーの表情が曇って見えるのも、自分自身の気持ちが投影されて、鏡を見ているような状態になっている可能性がある、ということです。まだ仮説の段階なのだとしたら、決めつける前にそこをクリアにするほうが先ではないでしょうか。     チームの掛け違いを予防する「問題vs私たち」  では、こうした掛け違いはどう防げるのでしょうか。倉貫氏の答えは明快で、起きてから対処するのではなく、起きないように予防することでした。      その方法が、ゴールの共有です。プロジェクトには目指すゴールがあるはずで、最初に「私たちが実現したいことはこれですよね」という合意を取り、参加者がそこにコミットする。そうすれば、意見がぶつかっても「自分の意見を通すためか、ゴールを達成するためか」で判断できるようになります。倉貫氏はこのスタンスを「問題vs私たち」と呼んでいます。「あなたvs私」の構図では、どちらかの思惑が通ってもどちらかに不満が残ります。そうではなく、問題を前に置いて、それに私たちで取り組む構図を最初から作り続ける、という考え方です。      これを受けて金氏は、心理的安全性の文脈から同じ結論を語りました。心理的安全性は単にコミュニケーションができる組織の話に見えがちですが、「何の問題に対してコミュニケーションがちゃんとできる組織なのか」という前提がないとうまくいかない。見ている問題がバラバラだと、意見は全部食い違う。ZENTechでも「課題vs私たち」というスライドを作っているそうで、お2人の見立てはここで重なりました。      河原あずさはこれを、チームづくりの原則として引き取ります。仮想敵を作れば一見一体感が出るように見えますが、組織全体で見れば誰も幸せにしません。そうではなく、何の目的で集まった人たちなのかに立ち返り、ゴールとその手前にある課題を確かめて、最適な行動をみんなで話し合う。それができてくると、心理的安全性あふれるチーム形成につながるのではないか、という整理です。     まとめ ・「困っていることはありますか」という問い自体が答えにくい。聞き方と場のデザインを見直す ・相談の前に雑談。話しても大丈夫だと分かる関係性の土台を、1on1などでつくる ・『「上司はお山の大将」「皆の表情が曇った」は、もしかしたら自分の感情の投影かもしれない』という可能性を、まず確かめる ・嫌な気持ちそのものは認めてよい。そのうえで「私はこう思う」と伝えられているかを問う ・ゴールを共有し「あなたvs私」ではなく「問題vs私たち」の構図をつくることが、掛け違いの予防になる ・目的に立ち返ってみんなで行動を選び直すことが、心理的安全性のあるチームにつながる     よくある質問(Q&A) Q1. 会議で「特にありません」としか返ってこないとき、どうすればいいですか? A. 問いの立て方と場の設計を見直すことから始められます。「困っていることはありますか」は答えにくい問いで、「最近気になっていることはありますか」のような聞き方に変える、会議ではなく1対1で聞く、といった工夫が入口になります。前提として、雑談などを通じて「話しても大丈夫」と思える関係性の土台が必要です。     Q2. 意見を聞かない上司には、どう向き合えばいいですか? A. 「聞く耳を持たない上司」という見方自体が決めつけになっている可能性があります。行動には本人なりの理由があると考えて、まず相手の理由を確認することが出発点になります。嫌な気持ちを抱くこと自体は自然なことなので、それを自分で受け入れたうえで「私はこう思う」と相手に伝えられているかを振り返ってみてください。     Q3. 「問題vs私たち」とはどういう考え方ですか? A. 意見の対立を「あなたvs私」の構図にせず、共有した問題やゴールを前に置いて、それに全員で取り組む構図をつくる考え方です。プロジェクトの最初にゴールへの合意とコミットがあれば、意見がぶつかっても「ゴール達成のためかどうか」で判断でき、思惑のぶつかり合いを予防できます。     ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。 ソニックガーデン・倉貫義人さんと考える『問題 vs 私たち』のチームづくり   「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する金氏の知見は株式会社ZENTech(ZENTech様のURLを挿入)のサイトもご覧ください。    Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。 お気軽にご相談ください。 お問い合わせはこちら

2026年8月16日

最終更新日:

中間管理職のための心理的安全性。ソニックガーデン代表 倉貫さんと語る「決めつけを手放す」チームづくり

年上の部下が本音を話さない原因は、若手管理職側の「優秀さを示さなければ」という構えにあります。敬意と自己開示を組み合わせる「可愛がられる力」、指摘の伝え方、こだわりの可視化まで、心理的安全性を高める具体策を専門家の見解をもとに解説します。

河原あずさと36.5編集部

【この記事の3行まとめ】  チームのためにと気を配るほど、自分ばかりがすり減っていく。その違和感の正体は、「遠慮」と「配慮」が混ざっていることかもしれません。  感情に蓋をしないことは、誰かにぶつけることではなく、自分で丁寧に扱うこと。EQでは、この一連の流れを「調整」と呼びます。  人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO取締役の小田木朝子さんとの対談から、遠慮を配慮に変え、感情を扱えるチームをつくるヒントを探ります。 目次 NOKIOO・小田木さんが、いま「感情」に向き合う理由 蓋をしないことは、ぶつけることではない 遠慮と配慮は、似ているようで違う NOKIOOとPotageは、同じ方向を別の入り口から 今日からできる、小さな一歩 「気遣い」から「お互いさま」へ   チームのためにと気を配っているのに、なぜか自分ばかりがすり減っていく。会議では波風を立てないよう言葉を選び、メンバーの要望にはできる限り応える。その先で、ふと「自分は何をしているんだろう」とモヤモヤが残る。そんな感覚を持つ管理職は、少なくないかもしれません。   この違和感の正体について、人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOO(以下、NOKIOO)取締役の小田木朝子さんとVoicyにて対談しました。EQ(感情知能)をテーマに話すうちに見えてきたのは、「遠慮」と「配慮」が混ざってしまっている、という構図でした。この記事は、対談をもとにして作成しています。 NOKIOO・小田木さんが、いま「感情」に向き合う理由   小田木さんは、組織で働く人の力をどう引き出すかを長く見てきた人です。その小田木さんが、いまもっとも大切にしているテーマのひとつが「感情の扱い方」だと言います。 意外なのは、10年前はまったく逆だったという点です。   「ビジネスに感情を含めるものではない、感情を排して論理的でなくてはならない、と思っていたんです。自分自身も、感情を丁寧に扱うことを知らなかった。 常にポジティブでいなければと振る舞ううちに、悲しみも、怒りも、がっかりも、きちんと扱わないまま通り過ぎていく。それは「自分に鈍感になり、人にも鈍感になっていくことと同義だった」と、小田木さんは振り返ります。   中間管理職の忙しさの本質も、物理的な量よりも「感情の混乱」にあることが少なくありません。やるべきことと手放していいことの仕分けがつかなくなる。不安や焦りに流されると、目の前の出来事に反射的に反応するだけになり、選ぶ余裕がなくなっていきます。 蓋をしないことは、ぶつけることではない   ここで誤解が生まれやすい、と小田木さんははっきり言葉にしてくれました。   感情に蓋をしない、というと、出しまくっていい、誰かにぶつけていい、と受け取られがちです。でも、ぶつけることと、自分で丁寧に扱うことは、まったく別のことなんですよね。   Potageの現場でも、配慮や気配りの強いマネージャーが、こんな悩みを話してくれたことがあります。いろいろな人から「こうしてほしい」と頼まれると、その全部に応えようとしてしまう。それが自分の仕事だと思っている。けれど時々、心の中で舌打ちしたくなる自分がいて、それが嫌だ、と。   その声を、悪い自分の声として扱う必要はないのかもしれません。「なぜ、その声は出てくるのか」と問いを向けると、見えてくるのは、それが「やりすぎないためのブレーキ」だということです。本音を消そうとするのではなく、そこにあると認める。それだけで、ものごとが前に進むことがあります。 遠慮と配慮は、似ているようで違う 【遠慮】我慢し続けて、自分の意見を出せない状態 【配慮】自分の本音を、まわりが傷つかないように、適切なタイミングで伝えられる状態  自分の感情を見つけ、蓋をせずに気づけるようになると、不思議とまわりの気持ちも察せられるようになる。そのうえで、どう伝えるかを選べるようになる。遠慮から配慮へ調整することが大切、と言えるのかもしれません。  小田木さんは、これを「意識して育てた」と言います。難しいと思い込まず、蓋をしすぎないようにしようと自分の感情に向き合うことを始めたら、相手の感情も大事にできて、この状態を手放したくないと感じるようになっていった、と。調整する力は、後からでも身につけられるものなのです。 NOKIOOとPotageは、同じ方向を別の入り口から   NOKIOOは、人材開発・組織開発の専門家として、学びの設計や仕組みづくりから組織の力を引き出してきました。一方Potageは、EQを活かしたチームづくりを通じて、感情が循環する「場」の側から組織を支えています。  入り口は違いますが、向かう先は同じです。すなわち、その人らしさを活かしながら、成果を上げ続けられる組織です。今回の対談は、その二つの視点が交わったからこそ深まった話でした。 今日からできる、小さな一歩  感情を扱うと言われても、何から始めればいいのか迷うところです。試してみてほしいのは、モヤモヤを「小さいうちに、結論のないまま」声に出してみること。モヤモヤは、見えていないからモヤモヤなのであって、外に出して初めて可視化され、解像度が上がっていきます。  小田木さんには、そのための鉄板の枕詞があるそうです。  「ちょっと、つぶやいていいですか」で始める。そうすると、結論もないし、ポジティブな話でもなくても、抱えているモヤモヤを言葉にしやすい。相手も『いいよいいよ』という気持ちで聞ける。  多くの人がモヤモヤを出すのを躊躇するのは、「ちゃんと説明しなきゃ」「整理してから話さなきゃ」というプレッシャーがあるからです。けれど本当は、結論も解決策もいりません。まだ言葉になりきらない感覚を、そのまま置いてみる。それを聞ける関係が増えていくこと自体が、チームが感情を扱えるようになっていく一歩です。 「気遣い」から「お互いさま」へ  個々人の感情は、チームや組織全体の状態となって、そこに表れます。その状態は、見た目だけでは見分けがつきません。一人が気を使って抑え込む関係と、お互いに気を配り合って支え合う関係は、似ているようでまったく違うからです。  小田木さんの言葉を借りれば、「気遣い」よりも「お互いさま」。自分がつぶやくときもあれば、誰かのつぶやきを聞くときもある。その循環が、組織全体の感情の扱い方を育てていきます。 小田木さんの発信・株式会社NOKIOOについて  小田木さんのVoicyチャンネル「明日の景色を変えるしごとサプリ」では、仕事・キャリア・人生に効く“音声サプリ”を毎日配信中! 株式会社NOKIOO コーポレートサイトはこちらからご覧いただけます。 Potageからのご案内  PotageはEQ(感情知能)診断とワークショップを通じて、「感情を扱えるチーム」づくりを支援しています。まずは、個人や組織の感情の状態を知るところから始めてみませんか。 取り組み事例を読む 感情をプラスの力に変える、組織向けの伴走サービスYourCEQOを見る 対談の出演者 小田木朝子さん(株式会社NOKIOO取締役) 人材開発・組織開発を手がける株式会社NOKIOOの取締役。Voicy「明日の景色を変えるしごとサプリ」パーソナリティ。 河原あずさ(Potage株式会社代表/コミュニティ・アクセラレーター/思考調律師) EQ(感情知能)と組織調律を軸に、チームづくりを支援。メンバーが本音を交わし、生き生きと成果を上げ続けられる組織づくりに取り組んでいる。  ご自身の状態や組織の状態をEQという観点で知ることから始めたい方には、EQPI診断も効果的です。EQ診断のご案内は、Potage公式LINEで行っています。

2026年8月16日

最終更新日:

「遠慮」と「配慮」は違う。感情を扱えるチームのつくり方/NOKIOO・小田木朝子さんと考えるEQ(感情知能)

チームのためにと気を配るほど、自分がすり減っていく。その正体を、NOKIOO・小田木朝子さんとの対談から整理しました。

河原あずさと36.5編集部

【この記事のまとめ】 年上の部下が本音を話さない原因は、若手管理職側の「優秀さを示さなければ」という鎧にあります。解決の鍵は、相手への敬意と自分の弱みの開示をセットにした「可愛がられる力」。指摘は背景を丁寧に共有したうえでストレートに伝え、チームでは互いの「こだわり」を可視化することで、心理的安全性の土台ができます。 抜擢人事が広がり、30代で部長や課長になる人が増えています。その結果、中間管理職が40代・50代の年上の部下をマネジメントする場面は、もはや珍しくありません。 「年上のメンバーがやりづらそうにしていて、本音を話してくれない」「若いと軽く見られているのではないかと不安になる」。こうした悩みは、多くの中間管理職に共通するものです。 本記事では、ポッドキャスト「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」に寄せられた、製造業・30代部長さまからの相談をもとに、心理的安全性の専門家・金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知性)の専門家・河原あずさ(Potage株式会社)が語った「年上の部下との関係づくり」のポイントを解説します。 【目次】 なぜ年上の部下との関係はこじれるのか——「鎧」の構造 解決の鍵は「可愛がられる力」——リスペクト×自己開示 自己開示は「武勇伝」より「茶目っ気」 ネガティブな指摘は「準備は丁寧に、伝え方はストレートに」 チームの土台をつくる「こだわりポイント」の共有 まとめ よくある質問(Q&A) なぜ年上の部下との関係はこじれるのか。「鎧」の構造  若くして管理職になる人は、もともと優秀な人がほとんどです。ところがその優秀さが、かえって壁になることがあります。  ZENTech金亨哲氏の見解によれば、「優秀さを上にも下にも見せ続けなければならない」という意識が働き、弱みを見せない自己防衛の"鎧"をまとってしまうのです。リーダーが鎧を着ていると、年上の部下も構えてしまい、本音を出しにくくなります。「若いと思われたくない」という管理職側の不安が、率直な対話を妨げる。これが典型的なこじれの構造です。  こうした対人関係の緊張は、中間管理職のストレスの主要因のひとつでもあります。上司と部下の板挟みに悩んでいる方は、管理職のストレスが限界を迎える前に知っておきたいことについての記事もあわせてご覧ください。 解決の鍵は「可愛がられる力」。リスペクト×自己開示    放送の中で金氏が示した処方箋は、意外にもシンプルでした。優秀さで戦うのをやめ、「可愛がられる力」を発揮することです。金氏自身も30代で年上のクライアントと向き合う立場にあり、実践から得た方法として、2つの要素をセットにすることを挙げています。 1. リスペクトを土台にする 相手の経験やキャリアへの敬意を、態度と言葉で明確に示す。 2. 自分から悩みを開示する 「若く見られがちで悩んでいる」といった本音を、あえてそのまま伝える。そのうえで「この部分を頼りにしています」と、頼りたい領域を具体的に伝える。  年下から頼られて嫌な気持ちになる人は多くありません。敬意と自己開示がセットになったとき、年上の部下との距離は縮まり始めます。  これは、自分や相手の感情を理解して扱うEQ(感情知能)を土台にした、共感型リーダーシップのアプローチでもあります(河原あずさ)。優秀さで信頼を勝ち取るのではなく、感情のやり取りで信頼を育てる。この転換が本質です。 自己開示は「武勇伝」より「茶目っ気」  自己開示といっても、実績や武勇伝を語るのは逆効果です。金氏によれば、効果的なのは、少し人間味があり、笑える要素のある「茶目っ気」のあるエピソードです。  失敗談や、思わずクスッとするような話を日頃から共有しておくと、心理的距離が縮まり、いざというときに本音の対話がしやすくなります。 ネガティブな指摘は「準備は丁寧に、伝え方はストレートに」  年上の部下に改善点を伝える場面は、中間管理職にとって最も気が重い仕事のひとつです。放送では、金氏から次の原則が示されました。 事前準備は通常の何倍も丁寧に行う。どう伝えるかのシミュレーションや資料準備に時間をかける 伝えるべきことは、あいまいにせずストレートに伝える。ただしその前に、背景にある思いや事実を丁寧に共有する 敬意を保ちながら、指摘はぼかさない。この両立が信頼につながります。  この「背景を共有してから、まっすぐ伝える」姿勢は、1on1やフィードバック全般に応用できます。評価や指示を一方的に下ろすのではなく、相手の感情や背景に耳を傾け、問いを通じて一緒に解決策を探る。河原あずさはこれを、管理としてのマネジメントから「対話型マネジメント」への転換と位置づけています。年上の部下から本音を引き出す土壌は、この関わり方から生まれます。 なお、こうした対話の場として1on1を機能させたい方は、1on1の目的とは何かで形骸化を防ぐポイントを解説しています。 チームの土台をつくる「こだわりポイント」の共有  個人のコミュニケーション技術に加えて、チーム単位でできる施策も紹介されました。金氏が新しいチームの立ち上げ時に実践した、メンバー全員が「仕事でここだけは譲れない」というこだわりを話し合い、可視化するワークショップです。  チーム内の軋轢の多くは、互いのこだわりの違いを知らないまま"地雷"を踏み合うことから生まれます。こだわりを事前に共有し、相手の譲れない領域にリスペクトを払うと決めるだけで、チームの動きやすさは大きく変わります。譲れない部分がわかれば、それ以外の部分では譲り合える。この転換が、鎧を脱ぐための土台になります。  うまくマネジメントできている人ほど、相手を人としてリスペクトし、相手に花を持たせ、強みが活きる場面で力を発揮してもらっています。一人ひとりの「個」の良い側面を組み合わせたとき、チームに相乗効果が生まれる。これは、Potageが組織文化づくりで大切にしている考え方でもあります。 まとめ:中間管理職に必要なのは戦闘能力より茶目っ気 若手管理職ほど「優秀さの鎧」を張りやすく、それが年上の部下との壁になる リスペクトと自己開示をセットにした「可愛がられる力」が関係構築の鍵 自己開示は武勇伝ではなく茶目っ気のあるエピソードで ネガティブな指摘は、準備を丁寧に、伝え方はストレートに チームでは「こだわりポイント」を共有し、心理的安全性の土台をつくる よくある質問(Q&A) Q1. 年上の部下が本音を話してくれないのはなぜですか?  A. 原因は管理職側の「方向性を示し続けなければ」という考え方にあることも、多くあります。リーダーが弱みを見せない鎧をまとうと、年上の部下も構えてしまい、率直な対話が生まれにくくなります。 Q2. 年上の部下との信頼関係はどう築けばよいですか? A. 相手の経験への敬意を明確に示したうえで、自分の悩みや弱みを開示し、「この部分を頼りにしている」と具体的に伝えることです。敬意と自己開示をセットにすることが鍵です。 Q3. 年上の部下に改善点を指摘するときの注意点は? A. 事前準備を丁寧に行い、背景にある事実や思いを共有したうえで、指摘そのものはあいまいにせずストレートに伝えることです。準備の丁寧さと伝え方の率直さは両立できます。 ▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。 年上の部下とどう付き合えば…!?若手リーダーに必要な"可愛がられる力" ※「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見は株式会社ZENTechのサイトもあわせてご覧ください。 Potageでは、EQを軸にしたチームづくり支援(研修・ワークショップ)を提供しています。チームの対話や相互理解を深める取り組みを検討したい方は、お気軽にご相談ください。  → お問い合わせはこちら

2026年8月16日

最終更新日:

中間管理職が年上の部下とうまくいかない理由と対処法。「可愛がられる力」とは

年上の部下が本音を話さない原因は、若手管理職側の「優秀さを示さなければ」という構えにあります。敬意と自己開示を組み合わせる「可愛がられる力」、指摘の伝え方、こだわりの可視化まで、心理的安全性を高める具体策を専門家の見解をもとに解説します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1.     なぜ「形だけの1on1」は起きるのか 2.     心理的安全性を高める鍵は「上司の自己開示」 3.     メンバーの本音を引き出すEQと「弱さを見せる」リーダーシップ 4.     1on1は「教える場」ではなく「聞く場」。小さな積み重ねが組織文化を変える  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、組織の中で混ぜ合わせることで新しい価値を生み出す。そんな想いで、コミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと一緒にお届けしている音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」。ナビゲーターのきのせさんを加えた3人で、現場のリアルなお悩みに向き合っています。  今回のテーマは、ナビゲーターのきのせさんが持ち込んでくれた「1on1」です。事前アンケートで「最も処方箋が欲しいモヤモヤ」を尋ねたところ、最も回答が多かったのが「形だけの1on1」でした。時間は取っているのに、お互い本音を話せていない。とくに中間管理職の方から、そんな声が多く寄せられています。本記事では、形だけの1on1がなぜ起きるのか、そしてメンバーの本音を引き出し、心理的安全性を高める対話術を掘り下げます。   なぜ「形だけの1on1」は起きるのか  ひょんちょるさんも「本当におっしゃる通り」とうなずいた、形だけの1on1問題。1on1が形骸化する背景には、いくつかの構造があります。  ひとつは、制度としての1on1の広がりです。「1on1をやりなさい」「キャリア面談でメンバーを支援してください」と会社から求められ、それまで自分のチームの数字を追っていればよかった中間管理職が、突然、メンバーと1対1で定期的に向き合うことになる。プレイングマネージャーとして自分の業務を抱えながら、本音で話し合う場をいきなり持とうとすると、ハードルが高いのは当然です。  もうひとつは、関係性が育っていないところから始まること。新任のリーダーや異動直後で、ミーティングですらまだ話したことのない相手と、急に1on1をすることになる。これでは「何を話せばいいかわからない」と戸惑うのも無理はありません。さらに、初任や数年目のマネージャーは、マネジメント自体が手探りです。自分も悩んでいるのに、メンバーの悩みまで聞かなければならない。そんな板挟みの状態に置かれている方も、少なくないのです。   心理的安全性を高める鍵は「上司の自己開示」  では、形だけの1on1をどう変え、心理的安全性を高めていけばいいのか。放送で繰り返し出てきたキーワードが「上司の自己開示」です。  ひょんちょるさんによれば、素敵な1on1ができている関係は、なぜか趣味の話がすっとできていることが多いそうです。たとえば、プラモデルにハマっているメンバーに上司が教わり続けたら、関係がぐっと良くなった、という話。最初から仕事の核心に切り込むのではなく、相手が気持ちよく話せる入り口をつくることが、本音を引き出すうえで遠回りのようで近道になります。  オンラインの1on1なら、できる限り上司から顔を出すこと。背景に映る本棚など、そこから話題を拾うだけでも、対話のきっかけは生まれます。私自身がワークショップでよく使うのは、「スマホのカメラロールから、自分を象徴する一枚を選んで共有する」というアイスブレイクです。子どもの写真でもラーメンの写真でも、人は語れる一枚を必ず持っているもので、これが関係性の糸口として驚くほど効きます。   メンバーの本音を引き出すEQと「弱さを見せる」リーダーシップ  関係性ができていないのに、いきなり本音を、というのは難しいものです。とくにメンバーにとって、上司は「評価する立場」。本音を出しづらいのは当然です。だからこそ、まず上司側が弱さを見せることに意味があります。これは、強さで引っ張るカリスマ型ではなく、共感で支える新時代のリーダーシップにもつながります。  私が会社員だった頃の上司は、隣の席で愚痴をこぼす人でした。「最近こう言われて困っててさ」と。その場で解決策を出すわけではないのですが、聞いているうちに「何かを返したい」という気持ちになる。そして上司が弱音を見せてくれることで、自分も困ったときに頼っていいんだ、とハードルが下がっていきます。ZENTechでは、リーダーに必要なのは「のび太力」ーードラえもんに素直に泣きつける力ではないか、という話もあったそうです。  これはEQ(感情知能)の観点ともつながります。私が扱うアセスメントには、「心を開く」姿勢を表す「心開(しんかい)」という要素があります。これが高い人は、自分の弱みや困りごとをまっすぐ開示できるため、周囲とのコミュニケーションがスムーズになります。返報性の法則も働き、本音を話すほど、周りも本音を話すようになる。とはいえ、いきなりフルオープンにする必要はありません。私が研修でお伝えしているのは「1.1倍の心開」です。今までの開示の幅を、ほんの少しだけ広げてみる。一人ひとりが1.1倍になれば、組織全体では何倍にも本音の幅が広がっていくのです。   1on1は「教える場」ではなく「聞く場」。小さな積み重ねが組織文化を変える  1on1で上司からよく聞くのが、「どう教えていいのかわからない」という声です。けれど、ここには誤解があります。1on1は教える場ではなく、話を聞く場。「何かいいことを教えなければ」というプレッシャーから上司を解放することも、対話型マネジメントの第一歩です。  大切なのは、相手が今「ただ聞いてほしいのか」「ヒントが欲しいのか」を見極めること。放送では、ティーチングとコーチングを明確に使い分ける上司の例も紹介されました。普段はコーチングで気づきを渡し、数字を追う局面では教える。普段から信頼を積み重ねているから、必要なタイミングでトップダウンな関わりが入っても関係は崩れない。この使い分けができると、メンバー育成は一気に進めやすくなります。  そして、本音にたどり着くまでには時間がかかります。きのせさんからの「小さなマイルストーンの置き方は?」という問いに、ひょんちょるさんは2つのヒントを挙げました。ひとつは単純接触効果。月1回30分よりも、週10分を月4回のほうが、構えずに本音を話しやすくなる。「実は今日は話すことがないんですけど」から始められる関係こそ、強いのです。もうひとつは、上司が「メンバーの困りごとを助けよう」というスタンスで臨むこと。「この連絡、文面を一緒に作ってみようか」といった些細な助け合いの積み重ねが、本音への近道になります。  最初の1回は、あえて仕事の話を一切せず、趣味や雑談だけに割り切ってみる。「今日は趣味の話しかしない時間にしたいんです」と最初のひと言を上司の側から伝えられたら、メンバーの方もぐっと柔らかくなるはずです。  いきなり大きく変えようとせず、小さな積み重ねを大切にすること。1.1倍でいい、少しのストレッチを自分に課していくこと。重く受け止めすぎないことが、心理的安全性あふれる1on1への近道になります。こうした小さな対話の積み重ねが、やがて組織文化そのものを変えていきます。  「シンクリ!」では、こうした現場のリアルなお悩みに、ひょんちょるさんの心理的安全性の知見と、私のコミュニティ・EQの知見を掛け合わせて、解決のヒントを探っていきます。あなたのモヤモヤこそが、誰かのチームを救うヒントになるかもしれません。番組へのお便りも、お待ちしています。 シンクリの配信情報などはPotage公式LINEから受け取れます。

2026年8月16日

最終更新日:

「形だけの1on1」はなぜ起きる?中間管理職のための本音を引き出す対話術

あなたの1on1、形だけになっていませんか。本音を引き出す鍵は、上司が先に弱さを見せること。EQと心理的安全性の観点から、対話の質を変えるヒントを解説します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. 「BeReal」が浮き彫りにする、心理的安全性のあたらしい論点 2. 「内輪の安心」と心理的安全性は同じではない 3. プールで泳ぐ前に大海原へ放り出される時代 4. 心理的安全性を高める方法は「小さく失敗できる場」にある 5. まとめ:テクノロジー時代の心理的安全性とチームづくり  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、組織やコミュニティの中で混ぜ合わせることで新しい価値を生み出す。そんな想いで、日々コミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと毎週お届けしている音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」、略して「シンクリ」。早くも第7回目となる今回は、最近巷をざわつかせているSNS「BeReal(ビーリアル)」をきっかけに、テクノロジーと心理的安全性の関係について、ひょんちょるさんと深く語りました。ナビゲーターは木瀬さんです。 「BeReal」が浮き彫りにする、心理的安全性のあたらしい論点  ここのところ、BeRealを発端としたトラブルが続いています。とある銀行では、顧客の名前が映り込んだ写真がアップされ、謝罪のプレスリリースが出る事態にまで発展しました。研修中の社内風景が外に流れて炎上した事例も報じられています。  BeRealは、その場で撮った写真をすぐ投稿し、すぐに消えていく、いわゆるクローズドなSNSです。「自分が投稿しないと他人の投稿も見られない」という独特の設計で、学生層を中心に若い世代に広く浸透しています。  今回この話題を取り上げたきっかけは、Voicyパーソナリティ仲間で大学教員の針木義勝さんから聞いた、学生たちの言葉でした。「なぜBeRealを使うのか」と尋ねたら、返ってきた答えが「だって心理的安全性が高いから」。仲間内しか見ていないから何でも投稿できる、飾らなくていい、だから安心して使えるのだと。  若い人にとっての「心理的安全性」とは、そういう文脈で使われている。それは新鮮な驚きであり、同時に、少し立ち止まって考えたい現象でもありました。テクノロジーと心理的安全性は、現代の組織やコミュニケーションを読み解く上で外せないテーマだと感じます。 「内輪の安心」と心理的安全性は同じではない  ひょんちょるさんに第一印象を尋ねると、「半分は確かに正しい」という反応でした。会議は人数が少なければ少ないほど発言しやすくなる、という研究もあります。閉じた空間で、見られている人の数が少ないからこそ言いやすい。その感覚自体は事実だと。  ただ、もともと心理的安全性という概念は「率直に何でも言い合える関係性」を指しています。クローズドな場でしか言い合えないのだとしたら、それは心理的安全性の定義からはむしろズレている。学術的な意味合いとは少し別物になっている、というのがひょんちょるさんの見立てでした。teamsやsalckでもDMだけで完結していたら、それは組織として機能している関係性とは言えないですよね。  話しながら改めて気づいたのは、心理的安全性とはそもそも「多様性のある組織を機能させるための関係づくり」の概念だということです。立場や背景の異なるメンバー同士が、率直にお互いの見方を交換できるからこそ、組織は前に進める。Googleの研究をはじめ、この概念が広がってきた背景には、そうした文脈がありました。  ところがBeRealの「安心感」は、徹底的に内輪、つまり同質性の上に成り立っています。「外の人とつながるための心理的安全性」と、「内輪を確かめ合うための安心感」が、同じ言葉で語られている。ここに、現代的なねじれを感じます。安心と心理的安全性は、似ているようで違うのです。 プールで泳ぐ前に大海原へ放り出される時代  ひょんちょるさんが指摘したもう一つの論点が、とても印象的でした。昔のSNS体験は、段階的だったというのです。  最初は友達数人とメールをやり取りし、掲示板に書き込み、ミクシィの日記に「面白いね」と反応をもらう。小さな発信と小さな承認欲求が、ゆっくりと循環する時代でした。先輩からたしなめられながら、ネット上の作法を身につけていった世代もいるはずです。  ところが今は、TikTokやインスタのリールで「いきなりバズる」ことが目指されることもある時代です。承認欲求をハックするように設計されたプラットフォームの上で、若い世代は「プールで練習する前に、いきなり大海原に放り出されている」状態なのではないか。そんな例えがしっくり来ます。  しかも、BeRealのような「閉じた場所」は、本当の意味ではクローズドではありません。プラットフォーム側はデータを保有していて、規約によっては著作権も含めて持っていく構造になっています。情報やプライバシーを切り売りすることで成り立つ無料サービスの構造に気づかないまま、ユーザーは「ここは安全だ」と油断し、自分自身を切り出していく。  プラットフォームが用意した仮初めの安全性を、本物の安全性と取り違えてしまう。これは個人だけでなく、組織や企業の情報リテラシー、ひいては組織文化のあり方にも関わる、根深いテーマだと感じます。 心理的安全性を高める方法は「小さく失敗できる場」にある  ではどうすればいいのか。ひょんちょるさんから出てきた答えは、シンプルですが本質的でした。「致命的な炎上だけしなければ、小さく失敗できる体験を積めばいい」と。  子どもの頃、私たちは小さくやらかしては誰かにたしなめられ、周りがやらかしているのを見て叱られる場面を眺め、「ああ、これはやっちゃダメなんだ」と学んできました。今のインターネットには、その「小さく試して、小さく失敗できる場」がほとんどありません。誰にも止められないまま、いきなり大きく炎上してしまう構造になっています。  組織やチームの中でも同じことが言えます。小さな失敗や違和感を受け止め合える文化がなければ、メンバーは何も発信できなくなる。心理的安全性を高める方法を考える上で、「小さく試して、小さく失敗できる場」を整えるリーダーシップは、これからますます重要になっていくはずです。  話の途中で、私たちは「インターネット老人会」モードに入ってしまいました。はてなダイアリーやミクシィの日記が盛り上がっていた時代。お金を稼ぐためではなく、カルチャーを作るために手を動かしてコードを書き、サーバーを立てていた時代があったのです。  いまのBeRealはフランスの巨大スタートアップで、何千億もの資金を調達してビジネスとして展開されています。プラットフォームが大きなビジネスになるほど、データ提供やプライバシーの切り売りといったトレードオフが構造的に生まれてしまう。それが歪みとして表に出てきているのが、現代のインターネットの姿だと言えそうです。  一方で、ひょんちょるさんから希望のある話も出ました。VCの上場ハードルが上がりつつある今、他社資本に頼らず「自分たちが本当に作りたいもの」を作るスタイルへ回帰する起業家が出てきているのだそうです。さらにAIの発展でプロトタイプは誰でも作れる時代になりました。テクノロジーと心理的安全性の未来は、決して暗いものばかりではないのです。 テクノロジー時代の心理的安全性とチームづくり  ナビゲーターのきのせさんは、放送の最後に「リアルとネットがいつもつながっている中で、自分の居場所をどう持つか。これはあらゆる世代に共通するテーマですね」と締めくくってくれました。  テクノロジーと心理的安全性の関係は、若者だけの話ではなく、私たち全員の働き方・生き方、そして組織文化づくりに直結する問題です。BeRealをきっかけに広がった議論は、思っていたよりずっと深く、奥行きがありました。ぜひ本編の音声配信もあわせてチェックしてみてください。

2026年8月16日

最終更新日:

BeRealは「心理的安全性が高い」のか?テクノロジーが変える組織コミュニケーションと対話の本質

BeRealは本当に「心理的安全性が高い」のか?SNS時代の安心と心理的安全性を、読み解きます。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. EQとは何か(定義)? 2. EQを構成する4つの能力 3. EQが高い人に見られる10の特徴 4. EQが低い人に見られる傾向 5. EQが高い人がいるだけでは、チームは変わらない 6. 個人のEQをチームに循環させる「互いを知り合う」プロセス 7. PotageのEQPI診断が選ばれる理由 8. 自分や周囲のEQを把握する第一歩 9. まとめ:EQの高さは、個人の能力ではなく「チームに循環する力」として育てる 【この記事の要点】  EQ(感情知能)とは、自分や相手の感情を「情報」として読み取り、行動につなげる力です。1990年にサロベイ氏とメイヤー氏が提唱した概念で、「感情の識別・利用・理解・調整」の4つで構成され、性格と違って後天的に伸ばせます。  EQが高い人には、共感力・傾聴力・感情のコントロール・自己認識の深さなど、共通する特徴があります。  ただし、EQが高い人がチームに一人いるだけでは、チームは変わりません。むしろ「察してくれる便利な人」として感情負荷が偏り、その人だけが消耗していくケースが多く見られます。個人のEQは、それを受け止め循環させるチームの「土壌」がなければ発揮されないからです。  大切なのは、個人のEQを鍛えることではなく、メンバー同士が互いの特性を知り合い、補い合える関係性に整えていくこと。Potageはこれを「組織調律」と呼んでいます。  「あの人はEQが高い」と言われる人には、共通する特徴があると言われています。共感力や傾聴力、感情のコントロール、柔軟性。私自身もこの言葉を日常的に使うのですが、ふと立ち止まることがあります。  そういう人がチームに一人いるだけで、本当にチームは変わるのでしょうか。  現場を見てきて感じるのは、むしろ逆のことが起きやすいということです。EQが高いとされる人ほど「察してくれる便利な人」として扱われ、その人だけが消耗していくケースは少なくありません。  本記事では、EQが高い人の特徴を具体的にご紹介したうえで、もう一歩踏み込みます。大切なのは、EQを個人の能力として磨くことだけではなく、メンバー同士が互いの特性を知り合い、補い合える関係性をつくっていくこと。そのプロセスを「組織調律」という言葉で考えていきたいと思います。  EQとは何か(定義)?  EQはEmotional Intelligence Quotientの略で、日本語では「感情知能」「心の知能指数」と訳されます。1990年にイェール大学のピーター・サロベイ氏とニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー氏が論文で提唱し、その後ダニエル・ゴールマン氏の著作によって広く知られるようになりました。「感情の識別」「感情の利用」「感情の理解」「感情の調整」の4つの能力で構成されます。IQと違い、訓練や経験によって後天的に伸ばせる能力だと考えられています。 EQは「感情を情報として扱う力」  EQは「感情を扱う力」を測る考え方です。怒りや不安、喜びといった感情を「ないもの」とするのではなく、自分や相手の中にある感情を一つの「情報」として読み取り、行動につなげていく。そのような力としてEQをとらえています。  EQとIQの違い  よくIQ(Intelligence Quotient/知能指数)と対比されますが、扱う領域がまったく異なります。下の表で整理してみました。 項目 EQ(感情知能) IQ(知能指数) 測るもの  感情を読み取り、扱う力  論理・計算・抽象的な思考 後天的な変化 訓練・経験で伸ばせる  大きく変えることは難しい 仕事との関係 人間関係や対人マネジメントに直結 個人の処理能力に直結  自覚しやすさ  自分では気づきにくい  テストで数値化されやすい  EQは「もって生まれた性格」ではなく「伸ばせる力」だと考えています。意識のスイッチをどこに置くかで変わっていくものなのです。  EQは「感情を押し殺す技術」ではない  ここで一つ、注意しておきたいことがあります。EQを「感情を出さないようにする力」と誤解されることがあるのですが、それは違うのです。  EQは、自分の中に動く感情を「情報」として読み取り、必要に応じて使い分けていく力です。焦り、苛立ち、不安——そうした感情をなかったことにするのではなく、サインとして受け取り、行動を選び直す。そのような力としてとらえると、EQはずっと身近な能力になっていくのではないでしょうか。  EQを構成する4つの能力  EQ理論では、感情を扱う力を4つの能力(ブランチ)に分けて整理しています。ここでは、EQ理論の提唱者であるサロベイ氏が監修するEQグローバルアライアンスの公式定義に沿って紹介します。  感情の識別(Identify)  相手の感情を理解し、それに対し自分に生まれた感情を正確に理解する能力です。怒り、不安、喜びといった感情を、自分の中でも、他者の表情や仕草からも、ありのままに捉える力なのです。  感情の利用(Use)  理解した感情に対し、自らの思考や行動を助けるための感情を生み出す能力です。集中したいときに気持ちを切り替える、相手の意欲を引き出すために自分の表現を整える、といった感情の使い方が含まれます。  感情の理解(Understand)  感情が生み出された原因や特性を理解し、次に生まれる感情を予測する能力です。「なぜ自分は今モヤモヤしているのか」「相手はこのあとどんな感情を持つだろうか」を読み解く力だと言ってよいでしょう。  感情の調整(Manage)  自らと相手が求めるべき結果が得られるよう、感情を思慮深く調整し、行動へと繋げる能力です。4つの能力の中でも最も総合的なもので、他の3つを活かしながら対人関係を成立させる役割を担うのです。  EQが高い人に見られる10の特徴  ここからは、EQが高いとされる人によく見られる行動や思考の特徴を10点ご紹介します。みなさんご自身や、周囲のメンバーに当てはまるかを照らし合わせながら読んでみてください。  1. 共感力がある  相手の表情や言葉から感情を察し、その気持ちに寄り添うことができます。同情ではなく、相手の立場から物事を見られる姿勢だと言えます。  2. 傾聴力が高い  相手の話を遮らず、最後まで耳を傾けます。途中で「それは違う」と否定したり、自分の話に持っていったりすることが少ない傾向があります。  3. 感情のコントロールができる  怒りや不安を感じる場面でも、感情のままに反応するのではなく、一度立ち止まれます。自分の状態を客観的に捉える視点を持っているのです。  4. 柔軟性がある  自分と異なる価値観や意見に対しても、偏見を持たずに受け止められます。「そういう見方もあるか」と一度引き取れる懐の広さだと言ってよいでしょう。  5. ストレス耐性が高い  難しい状況に置かれても、過度に動揺せず、目の前のことに集中できます。ストレスを感じないのではなく、ストレスとの付き合い方を知っているという意味です。  6. 素直さがある  他者からの指摘やフィードバックを、防衛的にならず受け取れます。自分の弱みを認められる強さを持っているのです。  7. 粘り強さがある  うまくいかない状況でも、感情に流されず取り組み続けられます。短期的な結果に一喜一憂しない姿勢だと言えます。  8. 自己認識が深い  自分の強み・弱み、感情の癖を把握しています。「自分はこういう場面で焦りやすい」といった自己理解があるのです。  9. ポジティブな視点を持てる  困難な状況でも、その中にある可能性や学びを見出せます。無理に明るく振る舞うことではなく、見え方の幅が広いということではないでしょうか。  10. 他者を尊重する  立場や役割に関わらず、相手を一人の人間として扱います。表面的な敬意ではなく、関係性の中で対等であろうとする姿勢なのです。 ここまでのポイント EQはサロベイ氏とメイヤー氏が1990年に提唱した、感情を扱う能力 「感情の識別/利用/理解/調整」の4つで構成される EQが高い人の特徴は、共感力・傾聴力・感情コントロールなど10項目に整理できる EQは性格ではなく、後天的に伸ばせる能力  EQが低い人に見られる傾向  EQが高い人の特徴がわかりやすい一方で、低いとされる人にも一定の傾向があると言われています。ここで紹介する特徴は、ある人を「EQが低い人」と断定するためではなく、誰もが陥りやすい状態として捉える目安だと考えてください。  自分中心になりやすい  相手の感情や状況より、自分の感情や立場を優先する場面が多くなります。意図的というより、相手の感情に注意が向きにくい状態なのです。  感情のままに反応してしまう  怒りや不満をその場で出してしまい、あとで後悔することがあります。感情と行動のあいだに、立ち止まる余白が少ない状態だと言えます。  ネガティブな発言が多くなりがち  状況の中の問題点に目が向きやすく、できないこと・足りないことを口にすることが増えます。本人の性格というより、感情の扱い方の癖がそうさせているのかもしれません。  これらの傾向は、性格の問題というよりは、EQの扱い方の癖です。本人が自覚し、扱い方を整えていくことで、状態は十分に変えていけるものなのです。  EQが高い人がいるだけでは、チームは変わらない  ここからは本記事の中心となる視点です。EQが高い人の特徴を読むと、「こういう人がチームにいてくれたら、自然と良くなりそうだ」と感じるかもしれません。けれど、実際の現場では、そう単純にはいかない場面が数多くあります。  「察してくれる人」に感情負荷が偏る  共感力や傾聴力が高い人は、周囲から見ると「気が利く」「話しやすい」存在になります。すると、相談ごとや感情的な負荷が、その人に集中していくのです。  「あの人に聞いてもらえば落ち着く」「あの人がいるからこの場はもつ」。一見、その人の能力が活かされているように見えます。けれど、本人にとっては感情労働が偏ってかかっている状態です。便利に使われる側にまわってしまうと、能力が高い人ほど消耗していきます。  弦楽器の弦をイメージしてみてください。一本だけが張り詰めすぎていれば、いつ切れてもおかしくありません。それと同じことが、EQの高い人と組織の関係でも起きていると感じています。  PotageのEQアナリストとしてクライアントに向き合ってきた代表・河原あずさも、こう話しています。  高いEQを持っているとされる人が、組織に踏まれて消耗している状態は、たくさんあります。特に中間管理職のみなさんに、よく見られる状態だと感じているのです。  EQが高い人を採用して組織に組み込んだだけでは、必ずしもうまくいくとは限らない。むしろ、その人ひとりに依存する構造が静かにつくられていく。そのことを、私たちは現場で繰り返し見てきました。  個人のEQは「土壌」がないと発揮されない  個人のEQが活きるかどうかは、本人の能力だけでは決まらないのです。チームの側に、その能力を受け止めて循環させる「土壌」があるかどうかで変わります。  弱みを開示できる空気がない。誰かが察してくれる前提で動いている。感情の話をすることが避けられている。こうした土壌では、EQが高い人の能力は「ひとりが頑張る」形で消費されていきます。  EQの効果は、本人の能力よりもチームの関係性に依存します。だからこそ、個人を鍛えるアプローチだけでは届かない領域があるのではないでしょうか。  個人のEQをチームに循環させる「互いを知り合う」プロセス  では、何をすればよいのでしょうか。鍵になるのは、「個人を鍛える」発想から、「メンバー同士が互いの特徴を知り合い、活かし合える関係性をつくる」発想への切り替えだと考えています。  これはPotageが「組織調律」と呼んでいる考え方です。劇的に何かを変えるのではなく、メンバー一人ひとりが自分のEQの特徴を理解し、互いの違いを尊重しながら、適切な距離で響き合える状態に整えていく。調律師が弦を弾くプレイヤーになるのではなく、全体の響きを聴きながら微調整するように、チームの関係性も整えていけるのです。この切り替えが実際の現場でどう起きたのかは、[関電不動産開発さまでのEQ研修事例]で具体的にイメージしていただけます。  互いの特性を可視化する  最初の一歩は、互いのEQの特性を共通言語で把握できる状態をつくることです。「あの人は気が利くから」「あの人は細かいから」という曖昧な印象ではなく、それぞれがどんな感情の傾向を持ち、どんな場面で力が出るのかを言語化していきます。  EQ診断は、この共通言語をつくるための手段の一つです。マネージャーだけが受けるのではなく、チーム全員が共通の物差しを持つことに意味があると考えています。  弱みを開示し合える場をつくる  互いを知り合うときに大切なのは、強みだけでなく弱みを共有し合えることです。「私はこういう場面が苦手」「ここはモヤモヤを抱えやすい」と話せる場があると、メンバーは個人で抱え込まなくてよくなります。  個人の困りごとが、チームの課題として受け止められる状態。これが、心理的安全性の前提なのです。  補い合える関係性に組み替える  互いの特徴がわかると、関わり方は自然に変わっていきます。「あの人はこういうタイプだから、こう伝えよう」「自分の弱みはあの人の強みだから頼ってみよう」。役割や指示ではなく、特性を起点にした補い合いが生まれていくのです。  実際にPotageが関わった関電不動産開発様の事例では、メンバー同士がEQPIの結果シートを互いに見せ合い、弱みも含めて開示し合ったことで、3か月後に行動の変化が現れました。相談や報告が増え、意思疎通が滑らかになり、プロジェクト推進のスピードまで上がっていったのです。「個を知り、互いを知り合う」ことが、チームの動きをどう変えていくかが見える事例だと感じています。 ▶ Potage導入事例:関電不動産開発様|EQ×チームビルディング研修で変わった営業推進部の関係性  PotageのEQPI診断が選ばれる理由  ここまで「互いの特徴を知り合う」ことの大切さに触れてきました。Potageでは、その出発点として、独自設計のEQ診断「Potage EQ64 Types(EQPI)」を提供しています。世の中にはEQ診断やパーソナリティ診断がたくさんありますが、設計の考え方が他のものとは少し異なる部分があるので、ここで簡単にご紹介します。  EQ+性格特性+64タイプの3層構造  PotageのEQPIは、EQ・性格特性・64タイプの3層を組み合わせて結果を返します。  EQだけを見ると、能力の高低という見え方に寄ってしまいます。性格特性だけを見ると、その人らしさは見えても、変えられる部分が見えにくくなる。3つを重ねることで初めて、変えられるEQの部分と、その人らしさである性格特性が、立体的に立ち上がってくるのです。  「数値の良し悪し」ではなく「特性の理解」を軸にした設計にしています。  「あなたを一言で表すと」64タイプが共通言語になる  3層構造の中でも特徴的なのが、64タイプの分類です。これは、Potageが800名以上のEQPI実施データをもとにつくり上げた独自フォーマットで、「あなたを一言で表すと、どんなタイプか」を言葉で返す設計になっています。  数値やグラフだけでは伝わりにくい「自分のキャラクター」が、一言の表現として戻ってくる。しかも、優劣のない、価値判断を含まない並列の特性として提示されます。  代表の河原あずさは、設計の意図をこう話しています。   私のキャラクターはこんな感じ、あの人はこんな感じ。そんなシンプルな形で、お互いを語り合えるようになるんです。研修で無理やり促されるのではなく、自分から言いたくなる。そんな分析シートの設計にしています。  EQ検査を受けて終わりにせず、自分から共有したくなる。そういう入り口になることが、64タイプ設計の意図なのです。  アナリストとの1on1を通して、診断結果で「自分の理解」が進む  PotageのEQPIは、診断結果のシートを返して終わりではありません。受検後にPotageのEQアナリストが、お一人につき1時間の1on1でフィードバックを行い、結果を一緒に読み解いていきます。  数値が数値のままだと、行動には変わりません。アナリストとの対話を通じて、結果が「自分の言葉」に変わり、「あ、確かにこういうところがあるな」と腑に落ちる瞬間が生まれる。そこから自己理解が一段深まり、行動の変化につながっていくのです。  800名以上の診断実施と、複数企業での診断活用支援のなかで蓄積してきた、結果の読み方・活かし方の知見が、アナリストとの1on1には反映されています。  自分や周囲のEQを把握する第一歩  EQが高い人の特徴を読んでいると、「自分はどうだろう」「あの人はどうだろう」と気になってくるはずです。けれど、印象や感覚で判断するのは難しいですし、当てはまる項目を数えても、自分の現在地は見えてきません。  最初の一歩としておすすめしたいのは、診断などで自分のEQを客観的な情報として手にすることです。数値とタイプという共通言語が手に入ると、自分の現在地が見えるだけでなく、チームメンバーと互いを語り合う土台ができてきます。  「個人のEQを把握する」と「チームに循環するEQを育てる」は、別の話に見えて、実は同じプロセスの入り口と出口だと考えています。 EQを「個人の力」から「チームに循環する力」へ変えていく過程は、関電不動産開発さまでのEQ研修事例で具体的にイメージしていただけます。 ▶EQPI診断について、Potage公式LINEで不定期にご案内をしています。 【よくある質問(FAQ)】  Q. EQが高い人の特徴は?  A. 共感力・傾聴力・感情のコントロール・自己認識の深さなどが代表的な特徴です。ほかにも、柔軟性、ストレス耐性、素直さ、粘り強さ、ポジティブな視点、他者への尊重が挙げられます。いずれも「感情を情報として読み取り、行動につなげる力」の表れだと考えられます。  Q. EQは生まれつきのものですか。後天的に伸ばせますか?  A. EQは後天的に伸ばせる能力だと考えられています。性格そのものではなく、訓練や経験、そして自分の感情の扱い方を意識することで変えていけるものです。IQが大きく変えにくいとされるのとは、この点が異なります。  Q. EQが高い人がチームにいれば、チームは良くなりますか?  A. EQが高い人が一人いるだけでは、チームは変わりません。むしろ「察してくれる便利な人」として感情負荷が偏り、その人だけが消耗していくケースが少なくないからです。個人のEQが活きるかどうかは、それを受け止めて循環させるチームの関係性(土壌)があるかどうかで決まります。  まとめ:EQの高さは、個人の能力ではなく「チームに循環する力」として育てる  EQが高い人には、共感力・傾聴力・感情のコントロールといった共通の特徴があります。これらはたしかに、チームを良くしていく可能性を持った能力です。  けれど、EQが高い人がチームに一人いるだけでは、チームは変わりません。その人だけに感情負荷が偏り、消耗していくケースのほうがむしろ多いのではないでしょうか。  大切なのは、個人のEQを鍛えることだけではなく、メンバー同士が互いの特徴を知り合い、活かし合える関係性に整えていくこと。私たちはこれを「組織調律」と呼んでいます。自分のEQを把握することは、そのプロセスの最初の一歩になっていくのです。 このテーマについて、Potage代表・河原あずさが日経COMEMOの連載「ズレたチームを含む組織調律論」で詳しく語っています。 ▶ ズレたチームを含む組織調律論(連載)

2026年8月16日

最終更新日:

EQが高い人の特徴とは。共感力・傾聴力が"その人だけ"で終わらないチームの作り方

EQが高い人の特徴は、共感力や傾聴力、感情コントロールなど。けれど、そういう人がチームに一人いるだけでは変わらないのはなぜでしょうか。EQを「個人」ではなく「チームに循環する力」として捉え直す視点を解説します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 AI時代になぜリーダーは「休めない」のか EQから読み解く「休み下手リーダー」の正体 心理的安全性を保つ「代替行動」というリーダーの休み方 「休めるリーダー」が組織文化とチームを変える  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、混ぜ合わせることで新しい価値を生み出す。そんな思いで日々、コミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと、ナビゲーターのきのせまりさんと一緒に音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」をお届けしています。今回は第6回放送の内容を、記事としてお届けします。 006ai時代のリーダーが「休めない」本当の理由とは?eqで読み解く心理的安全性と代替行動の作り方  ゴールデンウィーク明けの収録となった今回は、いつもと趣向を変えて、所長であるひょんちょるさんから副所長の私にお悩み相談を投げかけてもらう回となりました。テーマはずばり「休み下手なリーダーは、どうしたら休めるのか」。中間管理職やプレイングマネージャー、そしてチームを率いるすべての方にとって、他人事ではないテーマだと感じます。 AI時代になぜリーダーは「休めない」のか  ひょんちょるさんからの相談はこんな内容でした。  「連休があっても、休むのがめちゃくちゃ下手くそなんです。AIが出てきてから、なおさら休みにくくなった感覚があって。EQの観点から、どう休むといいのかを聞いてみたい」。  心当たりがありすぎて、思わず深くうなずいてしまいました。AIは本来、人を楽にするために進化しているはずなのに、使えば使うほど仕事が増えていく感覚。これはひょんちょるさんも同じだと言います。「アウトプットは速くなったけれど、処理する情報量はどんどん増えていて、楽になった感じがしない。空いた時間を全部また、AIに費やしてしまっている・・」。  隙間時間ができたら、とりあえずプロンプトを投げて裏で回しておく。ご飯を食べる前にもAIを動かしておかないと、なんだか損した気持ちになる。気がつけば、AIを動かす隙間で自分が仕事をしているような、本末転倒な状態です。プレイングマネージャーとして現場と管理の両方を抱えるリーダーの皆さんも、このような罠にハマっているかもしれません。  ひょんちょるさんから出てきたもう一つの疲労ポイントが、部下が出してくるアウトプットの質の問題です。「いかにもAIで作りました」というものが増え、勘所のずれた成果物にツッコミを入れる役を、上司が一手に引き受けることになる。  もちろん中身がしっかりしていれば問題はありません。けれど、一度もやったことのない仕事をAIに丸投げしてしまうと、絶対に成立しない箇所が紛れ込みます。その違和感の発見と修正を、中間管理職が担う構造になっている職場は少なくないのかもしれません。AIで効率化したはずの時間が、別のところで燃え尽きの種になっている。これは、今向き合うべきテーマだと感じます。 EQから読み解く「休み下手リーダー」の正体  EQ(感情知能)の観点で見ると、私たちにはある共通点があります。それは「自分活用」というパラメーターが高いタイプだということ。自分で自分の行動を促していく力がめっぽう強く、同時並行でいろいろな物事を進めるのが三度の飯より好物なのです。  EQ検査(EQPI)を多くのマネージャーに実施していると、リーダーシップを発揮している方ほど、この行動力のパラメーターが高い傾向があります。それ自体は強みなのですが、休むという文脈においては、まさに諸刃の剣になります。  このタイプの人は、ストレスを感じると「休む」のではなく「別の作業を始めてストレス解消する」という、なかなか根深い癖があります。プロンプトを打つ手が止められないのも、この延長線上にある現象です。思考の壁打ち相手であるAIが、頭のオーバーヒートを助長して、擦り切れるまで考え続けてしまう。  理想を言えば、1日10分でもいいから振り返りの時間を作って、ぼーっと脳のデフラグをすることが大事です。ただ、多動なタイプほど「何も考えずにぼーっとする」のが苦手だから多動なのであって、頭でわかっていても体が勝手に動いてしまう。この性質を理解しないまま「休みなさい」と言われても、リーダー自身が自分を責めるだけで終わってしまいます。まずはこのメカニズムを認めることが、心理的安全性を自分自身に向ける第一歩になります。 心理的安全性を保つ「代替行動」というリーダーの休み方  では、どうするか。私が最近実践しているのは「代替行動」を自分にインストールするやり方です。  最近、神奈川県の二宮町に引っ越しまして、家から5分ほどの場所に「自分を整える場所」を作ってしまいました。ビルの3階の部屋に人工芝を敷き、オーディオ一式を新調し、レコードプレーヤーも置いて。朝起きたらその場所に行って、1曲、何もしないでレコードを聴く。それを自分に課しています。  多動な人は、ぼーっとすること自体は苦手でも、ルーティンとして組み込んでしまえば「事務所に行ってレコードを回したい」というプログラムに書き換わります。ある種、AIのプロンプトを打つ代わりの「代替行動」をセットして、行動の癖を別のところに付け替えてしまう発想です。一度書き換わると続いてしまうのも、多動タイプの特性ですから、これが意外と相性がいい。  禁煙のときに「タバコを吸いたくなったらレモンドロップを口に入れる」という古典的なテクニックがありますが、考え方としては同じです。やめさせるのではなく、別の行動にすり替える。コーチングの現場でも、こうした行動置換のアプローチは王道です。  代替行動を設計するときのコツは、五感を使って、できるだけスクリーンと左脳から離れる行動にすることです。  走る、筋トレする、散歩する、料理する。フィジカルな行動はどれも切り替えに役立ちます。音楽も、五感全体を包み込むような没入感が得られるので相性がいい。逆に、散歩しながらAudibleを聴いたりポッドキャストを聴いたりするのは、走るという身体的な行動に「知識を得たい」という二つ目を乗せてしまっているので、リリース効果は薄くなります。これは耳が痛いリーダーも多いはずです。  ひょんちょるさんは散歩で頭を整えるタイプだそうですが、「散歩を楽しくするアプリをクロードコードで作ってしまって、逆に神経が乱れる」という、いかにもなオチも飛び出していました。AIで解決しようとした瞬間に、目的が裏返ってしまうあるあるです。  知り合いの起業家にフルマラソンが大好きな方がいるのですが、「走っているうちにいろんなことがどうでもよくなって、思考整理にいい」とおっしゃっていました。何かに集中するために走るのではなく、何も考えられなくなるために走る。それくらいシンプルな仕掛けでいいのだと思います。 「休めるリーダー」が組織文化とチームを変える  心理的安全性の議論は、ともすればチームメンバーやプレイヤー側の話に寄りがちです。けれど、リーダー自身に余白がない状態では、対話型マネジメントも1on1も機能しません。余裕がない人間同士は、どうしても心理的安全性のない振る舞いを互いに引き出してしまいやすくなるからです。  逆に、リーダーが代替行動を持ち、五感で自分を整える時間を確保できていると、部下の話を聞くときの解像度が変わります。ツッコミ役にならざるを得ない場面でも、攻撃的な指摘ではなく、共感型リーダーシップに根ざしたフィードバックを返しやすくなる。これは、メンバーとの向き合いの質を変え、結果として組織文化そのものを少しずつ書き換えていきます。  今までの自分とは全く違うパターンの行動を一つ設定して、そこにスイッチを移していく。中間管理職、プレイングマネージャー、起業家、すべてのリーダーにとって、この「代替行動」発想は燃え尽きを防ぐ実装可能なチームビルディング戦略になります。  番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」では、これからもリーダーが現場で抱えるリアルなモヤモヤを、ひょんちょるさんの心理的安全性の知見と、私のEQ・コミュニティの知見を掛け合わせながら解いていきます。  お便り、ひょんちょるグッズアイデア、いずれも所員一同お待ちしています。

2026年8月16日

最終更新日:

AI時代のリーダーが「休めない」本当の理由とは?EQで読み解く心理的安全性と代替行動の作り方 

AI時代に疲弊するリーダー必読。EQの視点で読み解く「休み下手」の正体と、五感を取り戻す代替行動術、対話型マネジメントに重要なリーダー自身の休み方を紹介。

河原あずさと36.5編集部

——関電不動産開発・営業推進部様での研修より 【目次】 1.ここまでの歩みと、今回の位置づけ 2.「発信力」というテーマについて 3.「相手の反応を勝手に解釈して、自分で飲み込んでしまう」 4.「関係性を壊したくないから、言わなかった」 5.「1mmだけ動かす」という発想 6.次のテーマへ——EQ研修を一過性で終わらせないために 7.研修の様子をもっと知りたい方へ  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。  今年度のEQ研修を、関電不動産開発・営業推進部のみなさんと行ってきました。今回の記事では、研修後に受講生でもあるえなりさん・リンナさんと対談した内容をもとにお伝えします。  研修にあたり、関電不動産開発さんにいただいたテーマは「発信力」。「発信力」というキーワードの裏には、「言いたいことがあったのに、つい飲み込んでしまった」「相手の反応を先回りして気を遣い、結局お願いできなかった」。そんな、組織の中で誰もが一度は経験したことのある場面がありました。   ここまでの歩みと、今回の位置づけ    関電不動産開発・営業推進部のみなさんとは、昨年7月のEQPI受検から半年をかけて、「自分を知る → 他者を知る → 信頼を構築する」というプロセスをご一緒してきました。 昨年度の取り組みはこちら  新年度の今回は、その積み重ねの上に乗せた次のテーマです。研修の副題は「状況を『1mm』動かす関係構築実践法」。「発信」と聞くとSNSやプレゼンの技術を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、実際に扱ったのは、日常業務の中でのコミュニケーションです。   「発信力」というテーマについて  そもそも今回の研修は、本研修窓口のえなりさんからの、こんな言葉から始まりました。「社外でいろんな方と接し共に事業を検討する場面、社内で他部署と連携する場面、そういった中で他者をモチベートしたり、自分の考えを伝えていく力を高めていきたい」。最初に聞いた時は、私も「外向きの発信」を想像してしまったのですが、お話を伺ううちに、見えてきた像は少し違うものでした。    発信力を広く捉え直すと、それはEQそのものなのではないか。人は誰でも、何かを発信し、何かを受信しています。その小さな、相手とのやりとりの解像度を上げることが、結果として、組織の中での発信力につながっていく。そんな仮説のもとで、今回の研修を組み立てました。 ここから、受講してくださったえなりさん、リンナさんの声を取り入れながら、研修の様子をお伝えしますね。   「相手の反応を勝手に解釈して、自分で飲み込んでしまう」  研修後にえなりさんが話してくださった気づきは、このようなものでした。    「相手はこう思っているだろうと勝手に解釈・遠慮して、お願いせずに自分でやってしまう傾向があった」。けれどロープレで実際に対話してみると、「気にしていたことは、起こらなかった」。余計な不安や、勝手に設定していた前提に、自分自身が縛られていたことに気づいた、と。    研修の中で、私は「言葉を飲み込む理由」には大きく4つのパターンがあるとお話ししました。「関係を壊したくない」「言っても効果が見えない」「うまく言葉にならない」「伝え方を間違えた」の4つです。そのどれもが、その瞬間は合理的に判断したつもりで、実は感情的な前提に縛られていることが多いのではないでしょうか。    えなりさんのケースは、典型的な「関係を壊したくない」型。気が利く方、責任感が強い方ほど陥りやすい癖でもあります。  ここで「感情を抑える」のではなく、「飲み込む前に、自分の中で何が起きているかを観察する」時にEQが活きます。   「関係性を壊したくないから、言わなかった」  もう一人、リンナさんも、気づきを話してくれました。  「他人を気にして自分の意見をこらえる傾向、というEQ診断の結果が、まさにその通りだった」と。  今回はなんと部長さんとのペアワークでした。普段は遠慮しがちなことも、思い切って素直に伝えてみたら、「言ってみても、別に恥ずかしくなかった」「関係性は壊れなかったどころか、ベストな方向に議論が進んだ」。  そして、こんな言葉も。 「相手に感情移入しすぎていた自分にも気づいた。一歩引いて、自分を見るのも大事」。    共感(相手に入り込む)と俯瞰(一歩離れて見る)を行き来する力。このように、個々人の共感と俯瞰が鍛えられると、組織の中でのコミュニケーションは、たしかに変わっていくのではないでしょうか。   「1mmだけ動かす」という発想  今回の研修の副題に「1mm」という言葉を入れたのには、理由があります。発信力研修と聞くと、「相手を動かす」というイメージに寄りがちかもしれません。けれどEQの文脈では、その方向に行きすぎないようにしたい、という思いがありました。組織の文化、利害関係、ヒエラルキー、これまでの人間関係。そういった構造は、いきなり大きくは変わらないものではないでしょうか。    だからこそ、「1mmだけずらす」という発想が役に立ちます。沈黙が続いた会議で一つだけ質問を投げてみる。資料を渡すだけでなく一言だけ添えてみる。そうした、一見ささやかな振る舞いが、状況を動かす最小単位になります。誰かが一言を発すると、それにつられて別の人ももう一言、声を出しやすくなる。会議の空気が、少しだけ柔らかくなる。日々のやりとりに、ほんのわずかな余裕が生まれる。そんな小さな連鎖が積み重なって、組織全体のコミュニケーションが、いつのまにか変わっていく。そんなイメージです。    えなりさんが研修の最後に「明日からすぐ、業務やプライベートにも展開できるサイズ感だった」と話してくださったのは、まさにこの「1mm」の感覚を掴んでくれたからではないかと思います。この「1mmずつ関係性を動かす」発想の土台にあるのが、違いを整えて噛み合わせる[組織調律]という考え方です。   次のテーマへ——EQ研修を一過性で終わらせないために  研修の終わり際、リンナさんがこんな言葉をくれました。「自分の中に潜在的に隠れている課題や壁を、どうやって取っ払うか。そんなテーマの研修があったら、自分にとって気づきを得るきっかけになると思う」。ここに、次のテーマの種があるかもしれません。    EQ診断は、一過性のイベントではなく、チームの状況に合わせて互いの理解を少しずつ深めていくのに使っていけるもの。改めて、私自身もそう感じた一日でした。    研修の様子をもっと知りたい方へ  研修当日のえなりさん・リンナさんとの対談はVoicy「コミュニティ思考AtoZ(河原あずさのチャンネル)」と、Voicy「ビル開発女子の働くとオフィスの話(関電不動産開発様のチャンネル)」の両方で配信中です。受講直後の生の声を聴いていただけます。ぜひ聴いてみていただけたら嬉しいです。 また「自分やチームのEQが、いま、どんな状態なのか」が気になった方は、よろしければPotageのEQPI診断もご活用ください。Potage公式LINEから、ご案内をお送りしています。  この研修で起きた変化の背景にあるのが、違いを整えて関係性を調えていく考え方です。その全体像は組織調律とはでご確認いただけます。

2026年8月16日

最終更新日:

「発信力」というテーマの裏にあった、本当の課題

関電不動産開発の発信力研修レポート。受講者のエナリさん、リンナさんとPotage河原あずさが、EQを軸に「状況を1mm動かす」関係構築や受講の感想を語り合います。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. 「管理職のストレスが限界」とは?──定義と背景 2. 3つのアプローチの違い|セルフケア・研修・構造の見直し 3. 管理職のストレスが「限界」に近づくとき、何が起きているか 4. 管理職をストレスの限界まで追い詰める5つの原因 5. 「もう限界」のサインを読み取るチェックリスト 6. 管理職本人ができる、限界を超える前の3つの対処 7. 人事・経営者が手を入れるべき、組織構造の3つの見直し 8. EQと心理的安全性の視点|「ストレス対処」ではなく「構造の見直し」へ 9. まとめ|管理職のストレスが限界に達する前に、構造に目を向ける  「もう限界かもしれない」と管理職本人が感じている。あるいは「うちの管理職が潰れてしまうのではないか」と人事・経営者が心配している──このキーワードに辿り着くのは、その両方の方ではないでしょうか。  この記事では、管理職をストレスの限界まで追い詰める原因を整理し、本人と組織それぞれの視点で対処の選択肢をまとめます。「個人の弱さ」ではなく「役割の構造」として見直すヒントをお届けします。 「管理職のストレスが限界」とは?──定義と背景  「管理職のストレスが限界」という状態は、次のように整理できます。  業務量・責任・人間関係のストレスが継続的かつ複合的にかかっている状態 本人の自覚より先に、身体や周囲との関係に変化が表れていることがある 「個人のスキル不足」ではなく「中間管理職という役割の構造」から生じている問題 放置すると休職・離職・チームの機能不全へ進行するリスクが高い  つまり、「管理職のストレスが限界」は、本人の弱さや努力不足の話ではありません。みなさんが見ているのは、いまの日本企業の中間管理職を取り巻く構造的な現象なのです。 3つのアプローチの違い|セルフケア・研修・構造の見直し  管理職のストレスへの打ち手は、大きく3つに分かれます。それぞれの違いを整理しました。  アプローチ 主な手段 効きどころ 限界 ① 個人のセルフケア 瞑想・運動・睡眠・休暇取得  一時的な回復  業務構造が変わらないと再発する ② 管理職研修の強化  レジリエンス研修・1on1研修 スキル・知識の底上げ 個人の負荷の総量は変わらない ③ 構造の見直し  役割設計・心理的安全性・EQ可視化 限界が生まれる手前で「整える」  短期で成果は出にくい  Potageが大切にしているのは、③の「構造の見直し」の視点です。①と②を否定するものではありません。ただ、症状の手前にある構造に目を向けないと、何度同じ研修をしても、限界は繰り返し戻ってきてしまうのではないでしょうか。 管理職のストレスが「限界」に近づくとき、何が起きているか  「管理職のストレスが限界」というキーワードで検索する人には、大きく二つの立場があります。一つは、当事者である管理職本人。「もう続けられないかもしれない」と感じ、答えを探している方です。もう一つは、人事・経営者・チームメンバーの立場で、「あの管理職が潰れてしまわないか」と心配している方です。  この記事は、その両方の方を意識して書いています。なぜなら、管理職のストレスが限界に近づくときに起きていることは、本人だけの問題ではなく、本人と組織の関係性のなかで生じている問題だからです。 自覚があるとは限らない  管理職に昇進する方の多くは、もともと責任感が強く、自分のしんどさを後回しにする傾向があります。だからこそ「自分はまだ大丈夫」と思っているうちに、知らないあいだに限界を超えてしまう。ある日突然、出社できなくなる、というケースが珍しくありません。 限界のサインは、まず周囲に表れることがある  本人より先にサインを察知するのは、たいてい周囲の人たちです。「いつもの返信が遅い」「会議での表情がいつもと違う」「ランチの誘いを丁寧に断り続けている」──そうした微細な変化が、本人の自覚より先に外に出てきます。  つまり、「限界かもしれない」という問いは、本人と周囲の両方が同時に持っておくとよいものなのです。 管理職をストレスの限界まで追い詰める5つの原因  ここからは原因を整理します。ただし、注意していただきたいのは、これから挙げる5つは「管理職個人のスキル不足」ではなく、中間管理職という役割そのものの構造から生まれるものだということです。  Potage代表の河原あずさは、よく整体師の比喩を用います。腕のいい整体師は、腰が痛い人の腰だけを揉まない。足や下半身、首の筋肉が引っ張り合っているから腰が痛い、と説明できます。同じように、管理職のストレスも「症状」だけを見ても解決には届きません。症状の手前にある構造に目を向ける必要があるのです。 ① 業務量と責任が同時に膨らみ続ける(プレイングマネージャー問題)  日本企業の多くで、管理職はプレイヤー業務を抱えたまま昇格します。いわゆる「プレイングマネージャー問題」です。  自分の業務はそのままに、部下の面倒見と、チームの数字の責任が乗ってくる。「忙しい」のではなく、「忙しさの種類が二重三重になる」のが管理職の実態だと言えるでしょう。 ② 上層部と現場の板挟み  経営からは高い成果を求められ、方針転換があれば即対応を迫られます。一方で、部下にはその意図を翻訳して伝え、納得感のある形で動いてもらわなければなりません。両方向に説明責任が発生するのが中間管理職という立ち位置です。上からの要求を下へ翻訳し続けるこの立ち位置こそ、中間管理職特有の板挟みです。その仕組みは[中間管理職の板挟みはなぜ起きるのか]で整理しています。 ③ 部下の働き方改革によるしわ寄せ  部下の残業時間に上限が設けられ、有給取得の推進が進むなかで、削減された業務分はしばしば管理職に戻ってきます。「自分が抱えればいい」という選択が、限界を遠ざけているように見えて、実は近づけているのです。 ④ 部下マネジメントの「答えのなさ」  業務の問題には答えがあります。しかし、人の感情や関係性の問題には、明確な答えがありません。「1on1をやれ」「寄り添え」と言われても、忙しさのなかで身が入らない。結果、部下からは「ちゃんと見てもらえていない」と感じられ、信頼が積み上がっていかない──この徒労感が管理職を消耗させます。 ⑤ 弱音を吐ける場所がない孤立構造  管理職になった瞬間、同じ目線で愚痴を言える相手がいなくなります。上には弱音を吐けず、下にも吐けない。同僚の管理職同士も、互いに忙しさを察し合って遠慮する。「しんどい」という言葉が組織のどこにも置けない状態が、限界を加速させてしまうのです。 「もう限界」のサインを読み取るチェックリスト  ここからは、限界のサインを「本人視点」と「周囲視点」の二つに分けて整理します。 本人が気づくサイン|2つのパターン  管理職本人に表れるサインは、大きく二つのパターンに分かれます。  一つ目は、過剰に動いてしまうパターンです。もともとストレスに繊細なタイプの方に多く見られます。本来は直視したくない疲労や不安があるとき、別の行動でそれをごまかそうとします。新しい案件に手を挙げる、副業を始める、夜のスケジュールを詰める──一見アクティブですが、本質的な負荷は解消されておらず、ある日パタッと燃え尽きるリスクがあります。  二つ目は、感情を麻痺させていくパターンです。ストレス耐性が比較的強いタイプに多く見られます。EQの観点では「平静」という因子が過剰に働いている状態で、感情の入り口にブロックを敷くことで、痛みを感じないようにしています。一見、落ち着いて見えるのですが、生身の人間である以上、疲労は確実に蓄積していきます。  このパターンでは、以下のような変化が表に出てくることがあります。 急に蕁麻疹が出る、頭痛・腹痛が増えるなどの身体的変調 休日に一日中寝ていないと回復しない 親しかった人との距離が増し、自分から遠ざかってしまう 表情に感情が出にくくなる、本音が見えにくいと言われる  いずれも、自分でも理由をうまく説明できない違和感として現れます。 周囲(人事・上司・同僚)が気づくサイン  周囲は、本人が言葉にする前のサインを拾える立場にあります。 返信のテンポやトーンが「いつもと違う」 会議での発言数・表情・姿勢の微細な変化 雑談やランチへの参加が減る、誘いを丁寧に断り続ける 数字の説明が淡白になる、感情の起伏が見えなくなる  「いつもと違う」「普通と違う」を見逃さないこと。これは個人のスキルというより、組織の観察力の問題なのです。 ここまでのポイント 管理職のストレスは「個人の弱さ」ではなく「役割の構造」から生まれている 限界には2つのパターン(過動/麻痺)があり、本人より周囲が先に気づくことが多い 「いつもと違う」を拾える組織と拾えない組織がある。 管理職本人ができる、限界を超える前の3つの対処  ここからは、管理職本人へのメッセージです。「もう限界かもしれない」と感じているなら、辞める・逃げるを決断する前に、試していただきたいことがあります。 ① 自分の感情を「観る」──EQの出発点  EQ(感情知能)とは、感情を押し殺す技術ではありません。感情を情報として読み取る力のことです。  怒り、不安、徒労感を抑え込むのではなく、「いま、自分はこういう感情を持っているな」と気づくこと。それだけで、感情に巻き込まれる時間が短くなります。しんどさを言葉にできるようになると、対処の選択肢も見えてきます。  逆に、感情を麻痺させてしまうと、「何がしんどいのかも分からない」状態に入り、回復の入り口を見失ってしまうのです。 ② 「手放す」という第四の選択肢を持つ  限界を感じたとき、人は「戦う」「逃げる」「話す」のどれかを選ぼうとします。RPGで言えば、戦闘画面のコマンドのようなものです。これに加えて、Potageが大切にしているのが「手放す」という第四の選択肢です。  手放すとは、自分が抱えている行動を棚卸しし、「自分にとって本当に必要ではないもの」を周りに渡していくことです。特に管理職の場合、プレイング業務を意識的にチームメンバーに渡していくことが鍵になります。  全部を渡さなくてもかまいません。定例ミーティングを一つ抜ける、抱えていたプロジェクトを一段下に移すだけで、隙間が生まれます。その隙間こそが、気持ちの余裕につながり、ようやくチームと向き合う土台が「整う」のです。 ③ 弱みを出すことを自分に許可する(バルネラビリティ)  バルネラビリティ(脆弱性)という考え方があります。「困っている」「助けてほしい」と口に出せるかどうか、というシンプルな問いです。  管理職になると、弱みを見せてはいけないと自分に縛りをかけがちです。しかし、完璧な管理職などいません。「いま自分はここに困っている」と表明することは、責任放棄ではなく、チームとしてのパフォーマンスを上げる第一歩なのです。  管理職が弱みを出せると、部下もまた、自分の弱みを出せるようになります。 人事・経営者が手を入れるべき、組織構造の3つの見直し  ここからは、人事・経営者の立場の方へのメッセージです。管理職のストレスを「個人の問題」として研修で対処しようとしても、限界があります。手を入れるとよいのは、もう一段奥の構造です。 ① 「研修」より先に「役割設計」を見直す  管理職向けのレジリエンス研修やストレスマネジメント研修は、もちろん無駄ではありません。ただし、それだけで解決する問題ではない、というのが現場の実感です。  日本企業では、待遇を上げる方法が「管理職に昇格させること」しかない、という構造的なエラーが残っています。プレイヤーとして優秀な方が、プレイング業務を抱えたまま管理職になり、そこに人の面倒と数字の責任が乗る。この役割設計自体を見直さなければ、研修は対症療法にしかなりません。  「いまの管理職に乗っている業務量・権限・期待値は、本当に一人で背負えるサイズになっているか」を、まず問うことから始めるのが大切ではないでしょうか。 ② 心理的安全性のあるチームをつくる土台を整える  心理的安全性は、研修やワークショップで一度に「インストール」できるものではありません。日々の関係性のなかで、少しずつ醸成される土壌だと考えています。  ここで見落とされやすいのが、心理的安全性は部下のためだけにあるのではなく、管理職自身のためにもあるということです。管理職が「しんどい」を口にできない組織で、部下に「本音を言ってほしい」と言うのは、矛盾しているのではないでしょうか。土壌は、管理職から先に整えていく必要があります。 ③ EQと「得意」の可視化で、チームの役割を組み替える  心理的安全性を構造として支えるには、メンバー一人ひとりの感情の傾向を可視化することが有効です。  Potageが提供している「EQPI」(感情知能を測定するアセスメント)を使うと、感情の使い方の癖、苦手なコミュニケーションのパターンが見えてきます。  感情の癖は、そのまま「人と関わるときの得意・不得意」につながります。共感は強いが踏み込むのが苦手な人、決断は速いが他人の感情の機微を拾いにくい人──そうしたパターンが可視化されると、いまその方に振っている役割が、得意の方向と合っているかが見えてくるのです。  合っていなければ、調整し、合っている部分はしっかり評価する。これを繰り返すと、チーム全体が「得意なことに尖っていく」組織へと変わっていきます。 EQと心理的安全性の視点|「ストレス対処」ではなく「構造の見直し」へ  ここまでの内容を、Potage代表・河原あずさの言葉で改めて整理します。   仮にマネージャーが「もう限界です」と手を挙げたとき、それは「あなたが我慢すればいい」という問題でしょうか。プレイング業務を残されたまま、人を見ろと言われ、数字の責任を背負っている。管理職向けの研修も大事かもしれないけれど、それだけで解決する問題ではない、と私は思っています。   腕のいい整体師は、腰が痛い人の腰を揉まない。足や下半身、首の筋肉が引っ張り合っているから腰が痛い、と説明します。中間管理職のしんどさも同じで、「症状ではなく構造」を見ないと、本当の解決にはたどり着かないのではないでしょうか。 症状ではなく構造を見る  管理職本人へのケアと、組織構造の見直しは、両輪です。片方だけでは持続しません。「管理職を鍛える」のではなく、「役割の構造を整える」。この言葉の置き換えが、Potageのスタンスを最もよく表していると考えています。 EQが個人と組織をつなぐ鍵になる  EQとは、自分や周囲の感情を「情報」として読み取る力です。自分のなかに「いま、限界が近いかもしれない」というサインが立ち上がったとき、それを見逃さずに受け取れる──そういう感度のことだと考えています。  管理職本人がこの感度を持っていれば、限界が「限界」になりきる前に、立ち止まることができます。そして、チームに心理的安全性があれば、「しんどい」と声に出すハードルが下がり、SOSが早く出せる関係になっていきます。  個人と組織の両面に効くのが、EQと心理的安全性のアプローチなのです。 まずは「いま」を可視化する一歩  次の一歩は、難しいものではありません。自分自身、あるいはチームの「いま」の状態を、客観的に見える形にすること。EQPI診断を一人で受けてみる、チームで受けてみる、というのは、その入り口の一つだと言ってよいでしょう。 まとめ|管理職のストレスが限界に達する前に、構造に目を向ける  管理職のストレスは、本人だけの問題ではありません。本人と組織の関係性、そして役割そのものの設計が、いまの状態を生んでいます。  管理職本人の方へ。「もう限界」と感じたとき、戦う・逃げる・話すに加えて、「手放す」という選択肢があることを思い出していただきたいのです。自分の感情を観る、抱えているものを棚卸しする、弱みを表明する。その三つが、限界の手前で立ち止まる力になります。  人事・経営者の方へ。研修で個人を鍛えるだけでなく、同時に役割設計と心理的安全性の土壌を見直してみてください。管理職が「しんどい」と言える組織は、部下も本音を出せる組織です。土壌は、管理職から先に「整える」必要があるのではないでしょうか。 ストレスの根っこをたどると、多くは中間管理職特有の板挟み構造に行き着きます。その仕組みは中間管理職の板挟みはなぜ起きるのかで整理しています。 「いま」を可視化する一歩へ  管理職・チームづくりに悩む方へ。EQと心理的安全性に関する実践情報をお届けしています。また、EQPI診断のLINE限定キャンペーンも時折行っています。よければご登録ください。 あわせて読みたい(日経COMEMO)  このテーマについて、Potage代表・河原あずさが日経COMEMOで、「忙しすぎる中間管理職シリーズ」として詳しく語っています。

2026年8月16日

最終更新日:

「管理職のストレスが限界…」と感じたら|本人と組織で見直す7つの視点

中間管理職のストレスが限界に近づくサインと原因を整理。本人ができる対処と、人事・経営者が見直すべき組織構造の視点まで、EQと心理的安全性の観点から解説します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. 「あずさんが怖い」から始まった社長の悩み相談 2. 心理的安全性の土台は「一人ひとりとの関係性の質」にある 3. フルリモート時代のチームビルディングに必要な「文化祭体験」 4. 自己開示こそがEQを活かしたリーダーシップの出発点    Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、組織の中でそれらを混ぜ合わせることで新しい価値を創出する。そんな想いで日々、コミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」、今回もお届けします。心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと、ナビゲーターのきのせさんと一緒に、リスナーの皆さんからいただいたお悩みに向き合っていく番組です。  今回はちょっと趣向を変えまして、相談者は......なんと僕自身です。副所長が所長に泣きつく回、とでも言いましょうか。  Potageという会社を始めて6期目。業務委託のメンバーも含めると10人ほどの規模になりました。人が増えてくる中で、それまで「僕がやったことのこぼれ球をメンバーが拾う」というスタイルで回していたものが、ちゃんとチームに向き合うマネジメントが求められるフェーズに変わってきた。もともとそういうマネジメントが苦手で会社を飛び出した口ですから、正直「これで大丈夫なのか」という不安がありました。  最近はスタッフから「あずさんってちょっと怖い」と言われることがあって。考え事をしながら話を聞いていると、つい部長面になってしまうらしいのです。外向きには明るいキャラクターで発信しているのに、社内ではそう見られているというギャップに、なかなか悩ましいものがありました。  そんな僕の悩みに、社長歴14年という大先輩であるひょんちょるさんがどう答えてくれたのか。今回はその内容をお届けします。 「あずさんが怖い」から始まった社長の悩み相談  今回相談したかったのは、「組織が大きくなる中で、社長としてのマネジメントをどう変えていけばいいのか」ということです。個人会社の延長でやっていたものが、10人規模になると、チームとしての組織づくりに正面から向き合わなければならない。中間管理職を置くほどの規模ではないけれど、社長が一人で全員を見るには限界があるという悩みです。  僕自身、もともとそういうマネジメントが苦手で会社を辞めて起業した人間です。だからこそ、「このままのやり方でいいのか」という不安があった。かといって、マネジメントを学べば解決するという単純な話でもない。組織文化をどう育てていくかという、もっと根本的な問いに向き合う必要が出てきました。  もう一つの悩みが、「あずさんってちょっと怖い」問題です。「外にいるときの社長は基本めちゃくちゃく頑張っているので、社内や家の中まであのテンションだと思わない方がいい」と、ひょんちょるさんが言いました。外向きには「ビジネス芸人」のようなテンションで場を盛り上げるけれど、本来は根暗なところがあることってありますよね。特に新しいメンバーにとっては、外向きの明るいあずさんしか知らないわけで、社内で真顔になっている姿を見たときに「怖い」と感じてしまうのは無理もないのかもしれません。  年齢を重ねるにつれて、意図せず「権威側」に回ってしまうというリーダーシップの悩みについても語り合いました。自分の中の「らしさ」と、外から求められる役割とのギャップ。EQの観点で言えば、自分の感情の特性を正しく理解し、それを周囲に開示できるかどうかが、リーダーシップの質を左右するのだと、お互いに確認し合えた瞬間でした。 心理的安全性の土台は「一人ひとりとの関係性の質」にある  ひょんちょるさんの最初のアドバイスは、非常にシンプルかつ本質的なものでした。「10人ぐらいの規模であれば、まず一人ひとりとの関係性を深めることをやりきる」。  大手企業でもよくあることだそうですが、「来年から1on1をやらなきゃいけない」という制度先行の形で始まる1on1は、関係性の土台がないまま進むので、メンバーにとっては「何を聞かれるんだろう」という緊張の時間でしかない。形骸化した1on1をいくら回数重ねても、メンバーが本音を引き出せる対話にはなりません。  大事なのは、制度の手前にある関係性の質です。ダニエル・キムさんの「成功の循環」でも語られている通り、関係の質が全ての起点になります。そこを飛ばして、いきなりマネジメントの「型」を入れても、組織文化は育たないのです。  ひょんちょるさんが重視するのは、サシで飲みに行けるか、ランチを一緒に食べられるかという、もっと手前にある関係性の質です。そういう質の関係性ができていると、メンバーは困ったときに自然とDMで「ちょっと困ってるんですけど」と連絡をくれるようになる。すると「怖い」という印象も自然に消えていく。心理的安全性の土台は、制度ではなく、こうした日常の対話の積み重ねの中にあるのです。  ひょんちょるさん自身も、出張先にメンバーがいたらすぐに飲みに誘うのだそうです。最近の大阪出張の際に、メンバーから「飲みに行きましょう」と連絡が来て、互いを知り合うきっかけになったというエピソードも。距離感が近づくと、耳が痛いフィードバックもしてくれるようになるし、社内の状況についてわからないことをちゃんと質問してくれる環境ができる。そうした関わりが自然と生まれるのが、関係性の質を高める大きなメリットです。  だからこそ、自分のキャラクターを忖度なしに知ってもらう時間が必要だと、ひょんちょるさんは指摘してくれました。ランチなどの場を通じて「自分はこんな人間なんだよ」と開示していく。それはまさに、自己開示の実践であり、チームの心理的安全性を高める対話型マネジメントの第一歩なのです。 フルリモート時代のチームビルディングに必要な「文化祭体験」  Potageはフルリモートの会社です。オンラインだとどうしてもアポイントが要件ベースになるし、阿吽の呼吸のようなものが作りづらい。この難しさについても、ひょんちょるさんに率直にぶつけてみました。ひょんちょるさんの会社ZENTechも実はフルリモートで始まった会社で、沖縄をはじめ各地にメンバーがいるそうです。  ひょんちょるさんが指摘したフルリモートの最大の課題は「最後の1割を完成させる瞬間の力強さがないこと」でした。企画やプロジェクトの9割までは一人でも進められるけれど、最後の1割が実は一番重い。その最後の詰めをみんなで一緒にやる体験を意図的に作ることが、組織の一体感を生むのだと。  僕自身、まとめる作業を一人でやってしまいがちなタイプでした。でもそこをあえてみんなのイベントにする。その感性が、最終的にチームの関係の質を高めるのです。  具体的には例えば、合宿やオフィスに集まる日を設けて「この日にみんなで完成させよう」という場をつくる。ひょんちょるさんはこれを「文化祭体験」と表現してくれました。年に1回でもいいから、お客さんに何かが届く瞬間をみんなで見る、みんなで作るという共有体験があると、チームの結束力はまったく違ってくる。ZENTechでは「心理的安全性アワード」というイベントが、まさにその文化祭体験の役割を果たしているそうです。  イベントやコミュニティの仕事を長くやってきた身として、フェイス・トゥ・フェイスの共同作業の熱量に勝るものはない、という原点に改めて立ち戻らされた思いです。特別なツールや大がかりなチームビルディング施策ではなく、「みんなで一つのものを完成させる」というシンプルな体験が、組織文化を育てる種になるのです。 自己開示こそがEQを活かしたリーダーシップの出発点  今回の放送は、僕自身が悩みを打ち明けるという、いつもとは少し違う回になりました。ひょんちょるさんが最後に「今日自体が自己開示の時間になっていますね」と言ってくれたのが印象的です。  ナビゲーターのきのせさんも「どういう場で、どういう感情を共にするかが大事。リアルに場を共有して、仮に知らない一面が出てきてもびっくりしないような関係性をつくること」と、まさに今回のポイントをまとめてくれました。  自分の弱さや悩みを開示すること。それは社長やリーダーにとっては勇気のいることかもしれません。でも、その開示こそが関係の質を高め、心理的安全性の土台をつくる。EQの観点で言えば、自分の感情を正しく認識し、それを適切に表現する力が、共感型のリーダーシップの出発点になるのです。  今回の放送を通じて見えてきたのは、明日からでも始められる3つの実践です。一つ目は、一人ひとりとの関係性を丁寧に深めること。二つ目は、自分のキャラクターを正直に見せること。そして三つ目は、年に一度でもいいから共同体験をつくること。どれも特別な制度やツールが必要なわけではなく、よりよい組織づくりの一歩として、すぐに実行できることばかりです。  「シンクリ!」では、こうした現場のリアルな悩みに対して、ひょんちょるさんの心理的安全性の知見と、私のコミュニティ・EQの知見を掛け合わせて、解決のヒントをお届けしています。  「こんなことで悩んでいるのは自分だけかも」——そう思っている方のモヤモヤこそが、誰かのチームを救うヒントになるかもしれません。ぜひ番組へのお便りもお待ちしています。音声配信という、文字よりも温度の伝わる場所で、皆さんと「つながれる」ことを楽しみにしています。

2026年8月16日

最終更新日:

「社長が怖い」と言われたら?心理的安全性とEQで変える組織づくりの第一歩

10人規模の組織で社長が向き合う心理的安全性の課題。自己開示と関係性の質を起点に、フルリモート時代のチームづくりに必要な実践を、EQの視点から3つ紹介します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. 「なんで俺なんだよ」と叫ぶ同僚を行動分析で紐解く 2. EQの視点から感情のトリガーを理解する 3. トップの行動変化が組織全体を動かす 4. 不満を建設的な対話に変えるチームの行動規範づくり  Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「個」の可能性を引き出し、組織の中でそれらを混ぜ合わせることで新しい価値を創出する。そんな想いでコミュニティづくりや組織文化の変革に伴走しています。  心理的安全性の専門家である株式会社ZENTechの金亨哲(きむ・ひょんちょる)さんと一緒にお届けしている音声配信番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」。ナビゲーターのきのせまりさんを交えた3人で、リスナーの皆さんからいただいたお悩みに答えていく番組です。  今回の放送で取り上げたのは、多くの職場で「あるある」と頷かれそうなお悩みでした。チームの心理的安全性を脅かす「困ったちゃん」にどう向き合うか。行動分析とEQという2つの切り口から、チームビルディングの実践的なヒントを探ります。 「なんで俺なんだよ」と叫ぶ同僚を行動分析で紐解く  今回いただいたお便りは、こんな内容でした。 「仕事をアサインすると常に『なんで俺なんだよ』と大声で不満を口にする。常に文句を言いながら仕事をしているチームメンバーがいて、チームの心理的安全性が損なわれているように感じます」  サラリーマン人生がそこそこ長い私としても、なんとも見覚えのある光景です。誰もが一度は心当たりがあるのではないでしょうか。いわゆるチームの中の「困ったちゃん」問題です。  ひょんちょるさんは、こうした相談はクライアント企業でもよく耳にするといいます。ただし、同時に強調していたのは「個人にフォーカスして『この人が困ったちゃんだ』とレッテルを貼ることは避けたい」ということ。一方で、その人の存在によってチーム全体の心理的安全性が下がっているという事実に、マネジメントとしてしっかり向き合う必要があるとも語っていました。本人も悪気があるわけではなく、テンポや言葉の表現がずれているだけで周囲に悪影響を及ぼしてしまっている・・そういうケースが現場では少なくないのだそうです。  そこでひょんちょるさんが提案したのが「行動分析」というアプローチです。これは、人の行動を「きっかけ」「行動」「見返り」という3つの要素に分解して分析するフレームワークです。「なんで俺なんだよ」と言う行動には、必ず「きっかけ」がある。この場合は仕事のアサインですね。そして行動の後には「見返り」がある。周囲が気を遣ってくれたり、話を聞いてくれたりすることが、本人にとっての見返りになっている可能性があるのです。  であれば、その「見返り」の部分をデザインし直すことで、行動そのものを変えていける。不満を声に出しても周りが過剰に反応しない、あるいは別の望ましい行動に対してポジティブな見返りを与えるといった工夫をすることで、行動のパターンを変えていこうというわけです。これはマネジメントにおける非常に実践的なアプローチだと感じました。  この話を聞いていて、私は子育てとの共通点を強く感じました。子どもがかまってほしくてかんしゃくを起こしたとき、そこで過剰に構ってしまうと、子どもは「こうすれば注目してもらえる」と学習してしまいます。かといって完全に放置すると別の問題が生じるので、バランスが難しい。ひょんちょるさんも「見返りが大きすぎると、またやればいいと学習してしまう。これは人間に限った話ではなく、俯瞰してみると動物全般に共通する行動原理です」と話していました。ポイントは、こうした構造を理解して、どのように向き合うか。感情論ではなく、行動の構造を冷静に見つめ直すという視点が、チームビルディングにおいても重要なのです。 EQの視点から感情のトリガーを理解する  EQ(感情知能)の世界でも、似たアプローチがあります。感情が動くときには必ずトリガーがあり、人はその感情の動きをもとに特定の行動をとる。自分の感情の乱れを観察するときは自己分析を、他者の行動を理解するときは他者分析をする。そして、その人がどういう感情の動きをしているのかを観察・類推し、コミュニケーションのやり方を変えていく。ひょんちょるさんの行動分析と、私のEQアプローチは、実は非常に近いところにあるのです。  ひょんちょるさんも「表面に出ている行動と、本人が内側で思っていることは違う可能性がある。だからこそ、まずは行動の部分を是正するアプローチが有効なのでは」と語っていました。「なんで俺なんだよ」と口にする方も、実際には「自分ばかりに負担がかかっている」という不安や不満を抱えているのかもしれない。行動とEQ(感情)、両面から捉えることで、リーダーシップやコーチングの精度が上がり、より立体的な理解が可能になるのだと思います。 トップの行動変化が組織全体を動かす  放送の中で、ひょんちょるさんがとても象徴的なエピソードを共有してくれました。ある会社の役員の方が、部下が持ってきた10ページの提案書のうち、最初の1ページだけ読んで「分かった、こういうことだろう」と結論づけてしまう。残り9ページにはまったく違う内容が書いてあるのに、部下は「はい、そうです」としか言えない状態だったそうです。  行動分析と研修を通じてこの課題に向き合ったところ、その役員の方はなんと自ら「これからは人の話を最後まで聞きます」と宣言。パソコンに「最後まで聞く」と書いたテープを貼り、実際に行動を変えたのだそうです。さらに、数百人規模の部門会議でも「今まで申し訳なかった。これからはちゃんと最後まで聞く」と公言されたとのこと。  面白いのはその連鎖反応です。役員が最後まで聞くようになったことで、今度は部下たちが「10ページ全部読まれるなら、10ページ全部ちゃんと作らないと」と意識が変わった。上から行動が変わることで、組織全体のアウトプットの質が上がっていったというのです。  これは、組織文化の変革における非常に重要な示唆を含んでいます。ボトムアップで頑張っている人はたくさんいるけれど、どこかでトップが変わらないと、やがて疲弊して諦めてしまう人が出てくる。トップの一つの行動変化が組織全体に与えるインパクトは、想像以上に大きいのです。ひょんちょるさんは「トップにどうやって伝えていくか、トップが変わることをどうデザインしていくかは常に意識している」と話していました。ミドルマネジメントやボトムの努力ももちろん大事ですが、トップダウンの変化をいかに仕掛けるかが、組織文化を変えるカギになるということですね。 不満を建設的な対話に変えるチームの行動規範づくり  では、質問者の方のケースに戻りましょう。不満を言い続けるメンバーに対して、周囲のリアクションを変えていくことが第一歩です。ひょんちょるさんによれば、1回で学習は起きないので、1〜2ヶ月ほどその行動に対して、マネージャーや周囲が「違う反応を取り続ける」ことが大切。それでもなお同じ行動を続けるのは相当タフなケースで、多くの場合は周囲の反応が変わることで、本人も変化していくとのことでした。  加えて重要なのが、チームとしての行動規範を明確にすることです。ひょんちょるさんはスポーツの例を挙げていました。たとえばWBCで「スモールベースボール」というコンセプトが掲げられれば、選手たちはどういう行動が求められているかが明確になる。同じように、チームが「うちではこういう行動を大切にしている」「こういう行動を評価する」と明示していれば、メンバーは自然とその方向に向かっていくのです。  そして、不満を言っている当人については、不満の「言い方」も大事です。「なんで俺なんだよ」と叫ぶのではなく、「今、こういうタスクを抱えていて、この時期にこの優先度の仕事が入ると厳しい部分があります」と合理的に伝えられるようになれば、同じ「不満」でも、チームにとって建設的な対話に変わります。ビジネスの場では合理的判断の積み重ねが求められるからこそ、周囲が判断しやすい形で意見を伝える力は、全員が身につけるべきスキルなのだと思います。  今回の放送では、チームの心理的安全性を脅かす「困ったちゃん」問題に対して、行動分析やEQといった切り口から実践的なアプローチを考えました。行動の構造を見つめ直し、チーム全体でリアクションを変えていく。トップから率先して変化し、組織文化を動かす。そしてチームビルディングの一環として行動規範を言語化し、不満を建設的な対話に変えていく。そういった取り組みの積み重ねが、心理的安全性の高いチームづくりにつながるのだと感じました。  「シンクリ!」では、こうした現場のリアルな悩みに対し、ひょんちょるさんの心理的安全性の知見と、私のコミュニティ・EQの知見を掛け合わせて、解決のヒントを探っていきます。「こんなことで悩んでいるのは自分だけじゃないか」と思っているあなたのモヤモヤこそが、誰かのチームを救うヒントになるかもしれません。ぜひ、番組へのお便りもお待ちしています。

2026年8月9日

最終更新日:

チームの心理的安全性を壊す「困ったちゃん」問題の処方箋 行動分析×EQで組織文化を変える

チームの心理的安全性を脅かす「困ったちゃん」にどう向き合うか。行動分析とEQの視点から、不満を建設的な対話に変えるチームづくりのヒントを紹介します。

河原あずさと36.5編集部

【目次】 1. 感情マネジメントとは|感情を「抑える」ことではない 2. なぜ今、管理職に感情マネジメントが求められているのか 3. 感情マネジメントができないと、チームに何が起きるか 4. 感情マネジメントを実践する3つのステップ 5. 管理職が日常で取り入れられる感情マネジメントの習慣 6. チームで実践する感情マネジメント|個人スキルで閉じない 7. まとめ|感情マネジメントは「管理する」より「整える」もの 管理職・チームづくりに悩む方へ、EQと心理的安全性の実践情報をLINEでお届けしています ▶ 登録してみる  職場で、感情に振り回される瞬間はありませんか。  会議中、理不尽な指摘にカッとなりそうになる。部下の態度にモヤモヤしながら、笑顔を保ち続ける。上からの方針と現場の声のはざまで、心がすり減っていく。  「感情マネジメント」という言葉には、こうした場面で「自分を抑え込む」イメージがつきまといます。けれど、本当にそれだけなのでしょうか。  この記事では、感情マネジメントの本当の意味を、「抑える」ではなく「感情を整える」という視点から整理していきます。あわせて、中間管理職のみなさんがつまずきやすい構造的な理由と、明日から試せる3つのステップについてもお伝えします。 この記事でわかること 感情マネジメントの本当の意味(「抑える」ではなく「整える」) 中間管理職が感情マネジメントでつまずく、構造的な理由 感情マネジメントを実践する 「気づく・受け止める・選び直す」 の3ステップ チーム全体で感情マネジメントを機能させる視点 早わかり|感情マネジメントと関連概念の違い 概念 主な焦点 アプローチ 感情マネジメント 感情との付き合い方 気づき、整え、活かす 感情コントロール 感情そのものの抑制 我慢する/感じないようにする アンガーマネジメント 怒りの感情への対処 衝動を鎮めるテクニック EQ(感情知能)とは  本記事で繰り返し登場する EQ(Emotional Intelligence Quotient・感情知能) とは、自分や相手の感情を情報として適切に読み取り、判断や関係づくりに活かす力のことです。感情を押し殺したり、抑え込んだりする技術ではありません。Potageでは、EQを「感情とどう付き合うかを扱う力」として位置づけています。 1. 感情マネジメントとは|感情を「抑える」ことではない 感情マネジメントの定義  感情マネジメントとは、自分や周囲の感情を認識し、理解し、整え、活かす力のことです。  大事なポイントは、感情そのものをなくしたり、無理に変えたりすることではない、という点です。怒りや不安、モヤモヤは、起きないようにするものではなく、起きたときにどう扱うかが問われているスキルだと、Potageは捉えています。  Potageでは、この感情マネジメントのことを「感情を整える」と呼んでいます。 感情コントロールとの違い  よく混同されるのが、「感情コントロール」や「メンタルタフネス」といった言葉です。  コントロールという言葉には、制御する・我慢する・感じないようにする、というニュアンスが含まれます。感情の周りに防波堤のようなブロックを立て、外からの刺激が入らないように自分を鈍感にしていく方向です。  一見、これは強さのように見えるかもしれません。しかし、800名以上のEQ診断を行ってきたPotage代表・河原あずさ(EQPIアナリスト)は、こう語ります。   「機械と一緒で、何かを制御し続けていると、どこかで故障するんですね。EQの考え方はそうではなくて、『故障しない自分』をつくっていくということです」  感情を抑え込み続けると、人との距離が生まれやすくなったり、共感が伝わらず冷たい印象を持たれたり、どこかで反動が来てしまったり・・・といった不都合が起こりがちです。  感情マネジメントが目指すのは、感情の波をなくすことではないのです。感情の波はあっていいものとして、乗りこなす力を育てていく。そんなイメージではないでしょうか。 感情マネジメントの4つの要素  感情マネジメントは、次の4つの力の組み合わせで成り立っていると言われます。 要素 内容 ①識別 今、自分や相手にどんな感情が起きているかに気づく ②理解 その感情がなぜ起きているのか、背景を読み解く ③調整  感情に飲まれず、状況に応じて整える ④活用  感情を判断や行動、関係づくりの力に変える  一般的な解説では、この4つが横並びで紹介されることが多いかもしれません。Potageでは、これらを実際に使える順番に並び替えた「時系列の実践プロセス」として整理しています。詳しくは、後半の「3つのステップ」でお伝えしていきます。 2. なぜ今、管理職に感情マネジメントが求められているのか 板挟みの中で感情がすり減る中間管理職の現実  経営からは「もっと数字を」と言われ、現場からは「もう限界です」と言われる。自分もプレイヤーとして動かざるを得ず、感情を置いていくしかない毎日。  中間管理職のみなさんが感情マネジメントに関心を持つ背景には、こうした板挟みの現実があります。怒りも不安も戸惑いも、感じている余裕がないまま飲み込んで、次の打ち合わせへ向かう。そんな日々を送っている方は、少なくないのではないでしょうか。 関連記事:中間管理職の「板挟み」はなぜ起きるのか。その正体と、抜け出すための視点 「個人のスキル不足」で片付けていいのか  書籍や研修で語られる感情マネジメントは、そのほとんどが「個人のスキル」として解説されています。アンガーマネジメント、リフレーミング、言語化どれも有効な技術ではあります。  ただ、それだけで管理職のしんどさが解消するかというと、毎日を走り抜けているみなさんの実感としては、もう少し複雑なところがあるのではないでしょうか。  「感情的になる自分が悪い」「もっと上手く処理できない自分のせいだ」。こうして自責のループに入ってしまう管理職の方から、Potageでは、これまで多くのご相談を受けてきました。 組織構造が管理職の感情を苦しめている  腰が痛いとき、腕のいい整体師は腰そのものを揉まないと言います。足や下半身、首の筋肉が互いに引っ張り合って腰に負担がかかっている。そう、症状ではなく構造を語れるのがプロの仕事ではないでしょうか。  感情マネジメントも、同じ構造で捉え直すことができます。  河原あずさは、現場で見えてきたことを次のように語ります。  「今の世の中は、本当に複雑じゃないですか。予期せぬことが起きる不確実な状況の中で、敏感な方はそうしたなか、時に感情に流されて間違った判断をする。そういうループに陥りがちなんです」  組織の意思決定が複雑化し、変化のスピードも上がる中で、感情の揺れを一人で抱える管理職の負担は増える一方かもしれません。これは、個人のスキル不足の問題ではなく、組織構造の問題でもあると、Potageは考えています。 3. 感情マネジメントができないと、チームに何が起きるか 部下が本音を言わなくなる  リーダーの感情が不安定なとき、部下はまず「触れない方が安全」と判断します。相談や提案を控え、当たり障りのない報告だけを繰り返す。本音は水面下に沈んでいきます。  感情マネジメントは、リーダー個人の快適さのためだけのスキルではありません。部下の発言の安全度を左右する、チームのインフラのようなものではないでしょうか。 リーダーの感情がチームの空気に影響する  リーダーが朝、どんな顔で席に着くか。会議で苛立ちを見せるか、落ち着いているか。小さな表情の揺れが、チームの空気に少なからず影響を与えていきます。  もちろん、チームの雰囲気がリーダー一人の感情で決まるわけではありません。メンバー同士の関係性や、組織全体の構造も大きく関わっています。ただ、リーダーの感情の揺れが大きいまま放置されると、メンバーが本音を出しにくくなり、率直な意見やアイデアが場に出にくくなる傾向はあると言えそうです。 「忖度の空気」が心理的安全性を奪う  言いたいことが言えない状態が固定化すると、表面的には穏やかでも、実態は「何も言えない職場」になっていきます。これは、Potageが「偽の心理的安全性」と呼んでいる状態です。  関連記事:「偽の心理的安全性」に要注意!チームの忖度が隠す本当の課題と解決策] ここまでのポイント 感情マネジメントは「抑え込む力」ではなく「整える力」である 中間管理職のしんどさは、個人のスキルではなく組織構造の問題でもある リーダーの感情は、チーム全体の発言の安全度にも影響する 感情マネジメントやチームづくりについて、より実践的な情報をLINEでお届けしています  ▶ 登録はこちら 4. 感情マネジメントを実践する3つのステップ  ここからは、感情マネジメントを日々の実践に落とし込むための、Potage独自の3ステップをご紹介します。先に挙げた4要素(識別・理解・調整・活用)を、実際に使える順番で並び替えたものです。  順番は、「気づく → 受け止める → 選び直す」。 ステップ1|気づく:感情に名前をつける  すべてはここから始まります。自分の中に今、どんな感情が起きているか。「イライラしている」「不安を感じている」「本当は悲しい」。名前をつけるだけで、感情の輪郭がはっきりしてきます。  多くの場合、感情は身体のサインとして先に現れます。肩が硬い、胸が詰まる、呼吸が浅い。こうした身体感覚に目を向けることで、気づきの精度が上がっていくのです。  言語化が苦手な方は、「少しモヤっとした」「なんか疲れた」など、ざっくりした言葉から始めて構いません。 ステップ2|受け止める:判断せずに観察する  次に大事なのは、気づいた感情を「良い・悪い」で裁かないことです。  「こんなことで怒る自分はダメだ」「不安を感じるのは弱い証拠だ」。こうした自己判断は、感情を深く埋めるだけで、解決にはつながりません。感情は、今の自分の状態を知らせるサインとして扱うのが基本だと、Potageは捉えています。  少し離れた場所から「なるほど、今、自分はこう感じているんだな」と眺める感覚。メタ認知とも呼ばれる、このワンクッションが感情マネジメントの核になります。 ステップ3|選び直す:行動を意図的に決める  気づいて、受け止めたうえで、ようやく「どう振る舞うか」を選び直す余地が生まれます。  怒りが強いときは6秒数える(アンガーマネジメントの6秒ルール)。出来事の意味づけを変える(リフレーミング)。自分の気持ちを主語にして伝える(DESC法)。使えるテクニックはいくつもあります。  河原あずさは、感情のプラスとマイナスの両方について、こう表現しています。  「マイナスの時には、マイナスに触れている時なりの振る舞いをしながら、感情を作っていく。プラスの時には、その活かし方を知る。結果的に、よりしなやかな感情の乗りこなし方が生まれていくんです」  感情を消すのではなく、その状態から最も適した一歩を選び直す。これが「整える」ということの実像ではないでしょうか。 5. 管理職が日常で取り入れられる感情マネジメントの習慣 感情を言葉にする習慣をつくる  日記やメモ、1on1での自己開示など、感情を言語化する時間を日常に組み込んでいくと、ステップ1「気づく」の解像度が上がります。1行でも構いません。毎日続けることに意味があります。 アンガーマネジメントの「6秒ルール」  怒りの感情は、ピークから6秒ほどで少し落ち着くと言われています。カッとした瞬間にその場で判断せず、6つ数える。ごく単純ですが、言葉を荒らげる前の「間」を確保する習慣として有効です。 身体感覚で感情をキャッチする  感情に気づくのが苦手な方は、頭で考えるより、身体に聞く方が早い場合があります。肩・胸・呼吸・表情。1日3回、身体の状態をスキャンしてみる。それだけでも感情の輪郭が浮かんでくるのです。 信頼できる相手と対話する  感情は、一人で抱えるより、誰かに話すことで整っていくものです。パートナー、同僚、メンター、コーチ。信頼できる相手との定期的な対話の場を持てるかどうかが、長期的な感情マネジメントに大きく影響するのではないでしょうか。 6. チームで実践する感情マネジメント|個人スキルで閉じない  感情マネジメントを、リーダー一人の負担にしてしまうと、どこかで限界が来ます。大事なのは、チーム全体で共有する視点を持つことだと、Potageは考えています。 感情の扱い方を「チームの共通言語」にする  メンバー同士が、感情について話してもいい。「今日はちょっとモヤっとしています」と言える。こうした共通の語彙がチームに育つと、互いの状態が見えやすくなり、連携の質が変わっていきます。  関連記事:[心理的安全性を育むマネジメント&チームビルディング3つの原則](#) EQ(感情知能)は「自分を活かす力」  冒頭でふれたEQ(感情知能)について、河原あずさは次のように語っています。   「EQというのは、『自分を活かす力』なんです。寄り添い傾向の強い日本のビジネスパーソンは、調和を取るのは得意なんだけれど、利害のズレを調整するのが苦手。でも、相手の感情と自分の感情を読んだ上で、こういう言い方なら角が立たない、こう伝えれば伝わる——そういう自分なりの伝え方をマスターすると、感情と感情の間に橋をかけられるようになるんです」  感情マネジメントは「自分を抑える技術」ではなく、「自分と相手を活かす技術」として捉え直すと、見える景色が変わってくるかもしれません。この「自分を活かす力」が現場で実際にどう働いたのかは、[関電不動産開発さまでのEQ活用の記事]でご覧いただけます。 EQPI診断で自分とチームの現在地を知る  自分の感情の「クセ」は、自分では意外と見えにくいものです。寄り添い傾向が強いのか、感情にブロックをかけがちなのか、感情認知の強弱はどうか。こうした特性は、EQPI診断で客観的に捉えることができます。  Potageでは、64タイプの性格分類を取り入れた新しいレポートをご提供しています。自分自身と、チームの現在地を整理したい方は、ぜひ一度試してみてください。 EQPI診断のお申し込みはこちら 7. まとめ|感情マネジメントは「管理する」より「整える」もの  感情マネジメントとは、感情を抑え込む技術ではなく、気づき・受け止め・選び直す力のことです。 - 感情の波はあっていい - 自分のクセを知り、チームの共通言語にしていく - 個人のスキルで閉じず、組織構造とセットで捉える  ここまでお読みくださったみなさんは、すでに最初の「気づく」を一緒に踏み出しています。ここから先は、日常の中で少しずつ「整える」を重ねながら、チームの空気をゆっくり変えていく。そんな歩み方が、一番自然なのかもしれません。  Potageは、そのプロセスに、伴走していきたいと考えています。  こうしたテーマについて、Potage代表・河原あずさが日経COMEMOで詳しく語っています。ご興味ある方はぜひ、以下のバナーからご一読ください。  感情を「整える」EQが、実際の現場でどう働くのか。その具体例は、関電不動産開発さまでのEQ活用の記事でご覧いただけます。

2026年8月9日

最終更新日:

感情マネジメントとは?「抑え込む」から「整える」へ変える3つのステップ

ビジネスの現場で感情に振り回されていませんか。本記事では、管理職のための感情マネジメントの方法を「抑える」ではなく「整える」視点から、3つのステップで解説します。

河原あずさと36.5編集部

bottom of page