心理的安全性はぬるま湯ではない。成果に向き合えるチームのつくり方

【この記事のまとめ】
仲は良いのに厳しい議論ができない。いわゆるぬるま湯の状態を抜け出す鍵は、優しさの加減ではないかもしれません。何をもって成果とするのか、どんな行動が推奨されるのか。この二つがチームの共通言語になっていないと、踏み込んだ議論は始まりにくいものです。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。
【目次】
チームの雰囲気は悪くない。メンバー同士の仲も良く、雑談もある。それなのに、成果に向けた厳しい議論や、仕事の進め方への踏み込んだフィードバックがなかなかできない。お願いしたことはやってくれるけれど、自分から考えて提案したり、先回りして動いたりするメンバーが少ない。かといって強く言いすぎると、空気が悪くなりそうで迷ってしまう。
こうした状態は、しばしば「ぬるま湯」と呼ばれます。心理的安全性という言葉を知っている管理職ほど、優しくすることと踏み込むことのあいだで揺れているのではないでしょうか。
この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、ある管理職のリスナーさんから寄せられた「ぬるま湯の安全性から、成果に向き合えるチームへどう変えていけばよいか」というご相談に答えました。ちなみに放送の冒頭では、お風呂のお湯は熱い派かぬるい派かという雑談から始まっています。金氏の答えは「長居したいときはぬるいほうがいいけれど、昔ながらの銭湯の熱いお湯も好き」。組織の話も、どちらか一方を選ぶ話ではないのかもしれません。
「ぬるま湯」は、心理的安全性の誤解から生まれるのかもしれない
金氏によれば、このご相談は心理的安全性の現場で繰り返し出会うものだといいます。心理的安全性という言葉には「安全性」が入っているため、それはぬるま湯をつくることではないか、と言われることがよくあるのだそうです。言葉のまま、とにかく優しくすればいいのかと受け取って、優しくしすぎてしまう職場は少なくない。ぬるま湯は、心理的安全性を目指した結果というより、その言葉の受け取り方から生まれているのかもしれません。
金氏は放送の終わりに、こうも語っています。心理的安全性という言葉を聞くと「厳しくしてはいけないのでしょう」と受け取る方が結構いる。けれども、そもそも成果のためにその組織づくりをしている。厳しくしすぎてパワーハラスメントになるようなことは絶対にいけないけれども、相手に対して愛がある厳しさは、ちゃんと持たなければならないのではないか。ZENTechとして心理的安全性を広げる活動をしているのも、ぬるま湯をつくりたいからではない、という言葉が印象的でした。
つまり出発点は、優しさの量を調整することではなく、何のために安全な場をつくっているのかをチームで共有し直すことにありそうです。踏み込めない管理職ほど、板挟みのなかで消耗しやすくもあります。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。
ぬるま湯を抜け出す鍵は、「成果」を共通言語にすること
では、どこから手をつければよいのでしょうか。金氏がまず挙げたのは、「成果」がチームのなかできちんと共通言語になっているか、という点でした。何をもって成果と考えているのか。それができればチームの成果になりながら、個人にとっても自分の成果として語れる状態になっているのか。そもそも成果が何なのかわからない状態では、激しい議論のしようもない、というのが金氏の見立てです。
これに対して河原あずさは、多くの組織にはミッションもあるし、売上を立てる組織なら数値目標もある、それでも足りないのだろうかと問いかけました。
金氏の答えは、額面上に置いてある言葉と、それを自分のなかで腹落ちさせて自分の言葉として語れる状態のあいだには、大きなギャップがあるというものでした。ミッションの字面どおりでなくてかまわないので、それに近い言葉で「自分がこういうことを達成できれば、このチームはこうなると思います」とメンバー全員が言えているか。そこが分かれ目になります。
河原あずさはこれを、自分の役割が明確になっていて、それをやることがチームの助けになっていると本人に見えている状態、と受け取りました。成果が共通言語になるとは、掲げられた目標を全員が暗唱できることではなく、それぞれが自分の言葉で語り直せている状態のことなのかもしれません。
数字ではなく、行動が変わる目標に置き換える
共通言語がないまま数字だけが置かれると、どうなるか。金氏は営業部門を例に挙げます。数字だけが成果として掲げられていても、それを自分の行動とどう紐づければいいのかにギャップがある。必要なのは、自分の行動の結果としてその数字が達成できる、という形で目標を言葉にできているかどうかです。
金氏はここで、イチロー選手の例え話を紹介しました。イチロー選手は自身のKPIに打率を置いたことがなく、安打数を置いていたという話です。理由は、打率をKPIにしてしまうと、4割を超えているときにフォアボールを選ぼうとする自分が出てしまうと考えたから。安打数であれば、積極的にバットを振らない限り増えません。自分の行動が変わりうる目標値になっているか、という視点です。
そのうえで金氏は、この相談者さんの場合は、「自分から考えて提案してほしい」「先回りして動いてほしい」と、増えてほしい行動をすでに明確に言葉にしていらっしゃる。であれば、その行動が増えるためにはどんな目標があるとよいかを、管理職の側からメンバーと一緒に考えていくことができます。
もうひとつ、金氏はテクニックとしてこんな工夫も挙げました。一緒に考える場を持ちながら、自分のなかに答えらしきものがあっても、最後はできる限りメンバー本人に言わせること。人は自分が思いついたこと、自分が考えたと思えることには強いコミットメントを発揮するからです。打率ではなく安打数だ、という気づきに本人が到達し、本人の言葉で口にする。そこまで設計できると、行動はより能動的になっていくのではないか、というのが金氏の見方です。
強く言いすぎるとティーチングになってしまう。だからチーム全体のコミュニケーションを変えようとする前に、まずは一人ひとりの目標設定を手伝うところから。この文脈では、1on1の設計も同じ役割を担います。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。
チームのコンセプトを言葉にする
個人の目標が整うと、次は場の側です。河原あずさは、その人が何をやったら褒められるのか、何が成果として認められるのかという定義が必要だと述べたうえで、個人の目標設計だけでなく「場の設計」も同じくらい重要だと指摘しました。踏み込んだ意見が、しっかり受け止められる場になっているかどうかです。
これを受けて金氏が挙げたのが、チーム自体のコンセプトを言語化するという提案でした。スポーツを見ていると、このチームはこういうことをやるチームだな、と分かる瞬間があります。野球とサッカーでは、良いプレーとされるものがまったく違う。同じように、どういう行動を取ると褒められて、どういう行動だとそれは違うと言われるのか。それがチームのコンセプトとしてはっきりしていることが大切だといいます。成果そのものの前に、成果につながるかもしれない「こういうことが増えてほしい」を言葉にしていく、という順番です。
コンセプトは業種・業界によっても変わります。個人が売上をつくり続け、その総和がチームの数字になるような組織で、個人へのインセンティブが強く働いているなら、基本的には個人戦になっていく。それで部門の予算が達成できているのなら、チーム戦にこだわらなくてもいいのではないか、と金氏は言います。
今回の相談者さんの場合は、メンバーがもう少し自分から考え、チーム全体で成果をつくっていく、そういうことが求められる業種・業界なのだろうと想像できます。その業界・業種の特徴に合わせて、「こういうチームが理想」というコンセプトをつくれるとよいのではないか、というのが金氏の整理でした。
河原あずさはこれを、「この流れに乗って、こういうふうにやってくれたら成果も上がるし評価もされる。だからここに乗っていったらいいんだよ」という安心感を提示することだと言い換えています。プロスポーツでも、あるチームでは評価される選手が別のチームではそうではない、ということが起こります。コンセプトを理解して、自分にできる行動に落とし込んでいけるかどうか。それは個人の側にとっても、成果を上げるチームにコミットするうえで大事な観点になります。
コンセプトは、上から配られるものである必要はありません。金氏は、どういうチームでありたいかという話を、メンバー全員で話し合える場を持てるといい、と語りました。河原あずさは、前回の放送で出た「チームラーニング」という言葉を引用しながら、このチームで自分が達成したいことは何か、自分たちが向かう方向はどちらかを、わいわい話しながら握っていく。それだけでもずれた行動が減り、成果は上がるのではないか、と応じています。
成果が出なくても「ナイストライ」と言える基準をつくる
コンセプトが言葉になると、フィードバックの基準も決まります。金氏によれば、コンセプトと違う行動を取った場合には、「チームのコンセプトと違うから、今のは違ったよね」というギャップに対するフィードバックはあるべきものです。心理的安全性が高い状態とは、指摘がなくなることではありません。
一方で、チームが推奨する行動を取ったうえで成果に結びつかなかったときは、「ナイストライ」と言える。この対になった基準があると、踏み込むことと安心して挑戦できることが両立します。河原あずさは、トライを重ねればそのうち成果も出る、だからプロセスを見ることが大切なのかもしれない、と重ねました。
そして河原あずさは、こんな見立ても添えています。こういうことをやったら褒められて、結果として評価も上がり、給料も上がる。そうなれば、その人の行動は自然とそちらに最適化されていくはずだ、と。金氏も、人は褒められたりポジティブなことがあったりした行動を取り続けるものなので、褒めることが増えるような文化をつくっていくのがよいのではないか、と応じました。
成果を求める組織というと、常に緊張感の漂う空気を想像しがちです。けれども、ここまでに出てきたのは、何を褒めるかを決めて、褒める機会を増やしていくという、意外なほど地道なアプローチでした。河原あずさも、想像とはずいぶん違う印象を受けたと語っています。
言い合う時間と、決めて動く時間を分ける
もうひとつ金氏が挙げたのが、チームのなかの共通ルールを明確にすることでした。紹介されたのは、アマゾンのジェフ・ベゾス氏の言葉として知られる「ディスアグリー・アンド・コミット」という考え方です。反論を言い合うこと自体はとても大事だけれども、物事が決まった後は、自分に反論があってもその決定にきちんとコミットする。金氏によれば、シリコンバレーではこうした文化が共有されているといいます。
どのタイミングなら喧々諤々に意見交換していいのか。決まった後はどうするのか。それがチーム内の共通認識になると、「今は言い合える時間だ」「今はちゃんと固めに行く時間だ」と、全員が同じ前提で場に臨めるようになります。ぬるま湯に見えるチームでは、この切り替えの合図がないまま、言い合う時間そのものが省略されているのかもしれません。
ただ、決めたことを一貫して運用し続けるのは簡単ではありません。ナビゲーターの黄瀬真理は、そこに難しさを感じたと言います。仮に「自分から考えて提案してほしい」とみんなで合意したとしても、待ちきれずに上司が先に口出ししてしまう・・それは子どもに「それ、今やろうと思ってたのに」と言われるように、数時間待てば本人がやってくれたかもしれないことなのに。その塩梅の難しさです。
金氏の答えは、待ちきれない瞬間はやはりあるものだと認めたうえで、このケースでいうと口出しするときに「なぜ」を省かないことでした。なぜ今この短い時間で決めたいのか。今はあなたの意見を待てないので、こちらでこう考えたけれどどうか。そうした理由を一緒に伝えることは、どんなときもおろそかにしない。河原あずさは、理由があってそうしている、合理性に基づいて行動しているということをお互いに伝えられれば、相互の理解につながり、チーム運営のなかのギャップも徐々に解消していくのではないか、とまとめています。
まとめ
• ぬるま湯は、心理的安全性を目指した結果というより、「とにかく優しくすればいい」という言葉の受け取り方から生まれているのかもしれない
• 厳しい議論の前に、何をもって成果とするかがチームの共通言語になっているかを確かめる
• 自分の行動が変わりうる目標を持つ。気づきを本人の言葉で語ってもらう
• どんな行動が褒められ、どんな行動は違うと言われるのか。チームのコンセプトを言葉にする
• コンセプトどおりに動いて成果が出なかったときは「ナイストライ」。プロセスを見て褒める
• 言い合う時間と決めて動く時間を分け、急ぐときも「なぜ」を省かない
よくある質問(Q&A)
Q1. 心理的安全性を高めると、ぬるま湯のチームになりませんか?
A. 心理的安全性は、厳しいことを言わない状態を目指すものではありません。そもそも前提として成果のためにその組織づくりをしています。パワーハラスメントにあたるような厳しさはいけませんが、相手に対して愛のある厳しさは持つべきものです。ぬるま湯になるとしたら、それは「安全性」という言葉を「とにかく優しくすること」と受け取ってしまっている場合かもしれません。
Q2. 仲は良いのに、成果に向けた厳しい議論ができません。何から手をつければよいですか?
A. まず、何をもって成果とするかがチームの共通言語になっているかを確かめてみてください。ミッションや数値目標が掲げられていても、それを自分の言葉で語れる状態になっているとは限りません。「自分がこれを達成できれば、チームはこうなる」とメンバー全員が言える状態を目指すことが出発点になります。成果の定義があいまいなままでは、踏み込んだ議論のしようがありません。
Q3. 強く言うと空気が悪くなりそうで、踏み込んだフィードバックができません。どうすればよいですか?
A. フィードバックの基準を、個人の感覚ではなくチームのコンセプトに置くと伝えやすくなります。どういう行動が推奨され、どういう行動は違うのかをあらかじめ言葉にしておけば、「チームのコンセプトと違ったよね」という形で指摘できます。推奨する行動を取ったうえで成果が出なかったときは「ナイストライ」と伝える。この対の基準があると、踏み込むことと安心して挑戦できることが両立します。
▶ この記事のもとになった対話は、ポッドキャストでお聴きいただけます。
「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。
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