即戦力採用がうまくいかない。オンボーディングで期待のギャップを埋める
【この記事のまとめ】
即戦力として採用した人が思ったように動いてくれない。その原因は本人の力量ではなく、入社前から積み残された期待のギャップにあるのかもしれません。何を、いつまでに、どのレベルで期待しているのか。それが言葉になっていないまま、受け入れ側の期待だけが高くなっている状態です。本記事では、ポッドキャスト「シンクリ」での対話をもとに整理します。

目次
導入
即戦力として採用したはずの人が、言われたことをこなすだけで、思ったように動いてくれない。こう動いてほしいと伝えても、裁量がないから、入社したてで情報が足りないから、とかわされてしまう。だんだん自分のほうにも諦めの気持ちが生まれて、本音を伝えることも減っていく。
期待して迎えた相手だからこそ、うまくいかないときの落差は大きくなります。そして落差が大きいほど、その人との関係のなかにある心理的安全性は下がっていきます。板挟みのなかで消耗しやすい立場でもあります。関連記事「管理職のストレスと限界サイン」もあわせてご覧ください。
この記事のもとになったのは、ポッドキャスト番組「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」の放送です。心理的安全性の専門家である金亨哲氏(きむ・ひょんちょる/株式会社ZENTech)と、EQ(感情知能)の専門家である河原あずさ(Potage株式会社)が、スタートアップで営業部の管理職を務めるリスナーさんから寄せられた「即戦力として採用した方が動いてくれない」というご相談に答えました。
「動いてくれない」は、採用の前から始まっているのかもしれない
ご相談を聞いた金氏がまず口にしたのは、打ち手ではなく、時間をさかのぼる問いでした。相談者は管理職なので、おそらく面接や採用の場にも関わっているはずです。だとすれば、採用の前に「こういうことを期待している」という話が、どこまで伝えられていたのか。そこが気になる、というのが金氏の見立てです。
というのも、スタートアップで採用されるとき、採用された直後が一番モチベーションの高い状態であることが多いからです。その段階で「思ったように動いてくれない」という話になっているのなら、事前の部分に積み残しがあったのではないか。金氏はそう受け取りました。
もうひとつ、金氏は放送の後半でこんな指摘もしています。ご相談には「営業の即戦力として採用した方が」と書かれているけれど、即戦力だと思っていたのは採用した側だけで、採用された方はそう思っていなかった可能性もある。同じ言葉を使いながら、前提が揃っていないまま走り出している。「動いてくれない」という悩みの手前には、そういう状態が置かれているのかもしれません。
即戦力でも、入社の翌日から活躍できるわけではない
金氏は、人がスタイルの違う場所に移ってすぐに活躍するのは、どれだけ実績のある人でも難しいと言います。例に挙げられたのは、プロ野球やプロサッカーの世界でした。
これを受けて河原あずさは、サッカーの移籍を引き合いに出します。移籍してきた選手が、前のチームではあれほど活躍していたのに、新しいチームではどうも動きが悪い、輝かない。やがて試合に出なくなり、ファンの見る目も変わって、一年足らずでまったく違う状況になってしまう。プロスポーツの世界では珍しくないケースです。
けれども、と河原あずさは続けます。選手の側からすれば、まったく違う文化、違う戦術、違うカルチャーを持つ場所に移るわけです。その間に順応するための期間を挟まなければ、即戦力として採ってもその後戦力になることは、たいていない。
金氏も、文化やスタイルがきちんと伝わるように、あるいは組織でのパフォーマンスを出してもらいやすい環境づくりまで仕切ったうえで、戦力になっているかどうかを判断することが多いと語っています。「即戦力かどうか」を判断する前に、迎える側がやるべきことがある、という順番です。
オンボーディングは、即戦力化のためのプログラム
では、具体的に何をするのか。金氏の答えは、きちんとオンボーディングをすることでした。情報が足りないと言われるなら、情報をどう渡せるようにするのか。裁量がないと言われるなら、裁量がある側が強制力のあるオンボーディングとして組み立てていく。相手の言い分を反論として受け取るのではなく、設計すべき項目として受け取り直す発想です。
金氏は、ZENTechで実際に行っていることを挙げました。まずMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と呼ばれるものをきちんと言語化し、金氏自身からも事業がどういうものかを伝える。そのうえで、伝えて終わりにせず、本人がどう噛みしめているか、自分なりにどう理解したかをアウトプットしてもらう。業務についても、何をやればいいか、何が分からないかを毎日確認し合う。
そして金氏は、こう言い切っています。オンボーディング自体が、即戦力化のためのプログラムである。即戦力を採用したから立ち上がりが早いのではなく、立ち上がりを早くするための仕組みが用意されているかどうか。順番が入れ替わると、見えてくるものが変わってきます。
「情報が足りない」は、迎える側と入る側の両方の課題
ただし金氏は、オンボーディングは片側だけでは成立しないとも言います。する側とされる側が、同じくらいのマインドセットで臨まないと難しい。
「情報が足りないから」という言葉は、迎える側からは「自分で情報をキャッチアップしに行っていない」とも映ります。だからこそ、できる限り情報にアクセスできる状況を作ったうえで、わからないことをちゃんと聞ける状態に持っていってほしい、というコミュニケーションが事前にあったかどうか。そこが気になる、というのが金氏の見方でした。
河原あずさも、スタートアップに限らず、現業が目まぐるしく忙しい会社ほど、忙しい時間を切り出してすべての情報をきれいに用意して伝えることは現実的に難しいと応じます。だとすれば、入ってくる側にも、自分から「こういう情報が欲しい」と質問したり、誰に聞けばいいかを含めて周りに聞きながら情報を開拓していく働き方をすることが必要かもしれない。
そのうえで金氏は、スポーツの比喩に戻ってこう整理しました。そもそも移籍する当事者である選手自身が活躍したいと思っていなければ、何も起きません。活躍したいという意思はある。けれどギャップがある。そのギャップを埋めるのがオンボーディングだ、ということです。
いつまでに、どのくらい。期待を時間軸で言語化する
ナビゲーターの黄瀬真理は、会社員時代に同じ状況を経験しています。営業メンバーとして初めて、即戦力に近い方を採用したときのことでした。
期待が高いぶん、「自分で情報を取りに行くべきだ」という前提が、組織のなかで無意識のうちに置かれていたといいます。加えて、異なる業界から来た方だったため、動き方や社内の当たり前がわからず、やりにくさもあったと思われます。何より大きな反省点として残ったのは、「即戦力」という言葉の中身でした。即戦力とは、1か月後、2か月後にどういうレベル感を意味しているのか。その言語化したすり合わせが、ご本人とも、受け入れチームともできていなかったことです。
そこで次の採用のときには、1か月後、3か月後にどういう状態を目指すのかを、本人とも、周囲のメンバーとも合意してから始めました。期待を時間軸に置き換えると、「動いてくれない」という漠然とした評価が、「この時期にここまで」という確認可能な話に変わります。そして周囲も応援しやすくなる。
金氏も、即戦力という言葉の期待値調整はとても大事だと応じています。お互いがどういう期待を持っていて、いつまでに、何がどうできるようになってほしいのか。それをどこかですり合わせられるといい、というのが金氏の整理でした。河原あずさは、言葉にすると当たり前のようだけれど、その当たり前をやるのが難しいのだ、と受けています。
こうしたすり合わせを続けていく場として、1on1が使われることもあります。関連記事「1on1の目的と形骸化を防ぐ考え方」も参考にしてみてください。
見落とされがちなのは、周囲の受け入れ方
黄瀬真理が、もうひとつ挙げていたことがあります。即戦力採用では、受け入れる側が「お手並み拝見」になりやすいという点です。
関係者は、上司と本人だけではありません。周囲にも一緒に働く人がいて、そこがしばしば見落とされます。その方がなぜ入ってきて、いつ頃どのくらい活躍することを会社が期待しているのかを、周囲の人も正しく理解していること。それが、安心できる雰囲気をつくることにつながるのではないか、という見方でした。
情報の渡し方についても、工夫が語られています。業務情報は自分でも取りに行ってほしい。けれど、人に関する情報は、こちらからセットで渡しておく。「この人は○○さんです」で終わらせず、たとえば、ちょっとぶっきらぼうな部分もあるけれど、優しい人ですよ、といった人となりを添えておく。そうすると、何かあったときに「変なことを言ってしまったのかな」と受け取らずに済みます。そういう人だから悪気はないのかもしれない、と前提がわかっていたり、フォローする人がいたりすると、本筋と関係のないところでストレスを感じることが減る。
新しく入った人が動きやすいかどうかは、本人の適応力だけで決まるわけではなさそうです。
人事異動で来た人には、年間の見通しごと伝える
放送では、派生する問いも扱われました。大企業の人事異動で来た人が、自分から志願したわけではなく受け身の状態で、思ったように動いてくれない場合はどうするか、というものです。
金氏は、スタートアップと大企業の最大の違いはスピード感だと言います。スタートアップは目の前の案件を一件ずつ形にしていく段階で、そのやり方自体を自分たちで作らなければなりません。一方で大企業は、一年のうちどのあたりが忙しく、どのあたりで戦力が欲しいのかが、だいたい決まっている場合が多い。
だとすれば、基本は同じく期待の調整をしたうえで、年間スケジュールのイメージまで含めて伝えるとよい、というのが金氏の提案でした。なぜこのあたりまでに戦力になってほしいのか。なぜこの時期までにこれができるようになってほしいのか。繁忙期という共有された前提があるぶん、期待の伝え方にも具体的な根拠を持たせやすくなります。
金氏は最後に、自身も面接や面談を数多く行いながら失敗もしてきたと語っています。究極的には、一緒に働くまでわからないところは残る。だからこそ、ミスマッチが少なくなるように努力することが大事で、採用前と採用直後にはより意識を向けたい、と。
河原あずさも、なんとなくで採用して、なんとなくで期待して、活躍してもらう。そういう奇跡を待つスタンスではなく、確率を上げるためのアプローチを、手を抜かずに積み重ねていくことが大事だとまとめました。
まとめ
• 「動いてくれない」の原因は本人の力量ではなく、採用前から積み残された期待のギャップにあるかもしれない
• 即戦力でも、文化やスタイルの違う場所で翌日から活躍できることはたいていない。順応の期間を織り込む
• オンボーディングそのものが即戦力化のためのプログラム。裁量や情報が足りないなら、渡せる側が設計する
• オンボーディングは片側では成立しない。情報にアクセスでき、わからないことを聞ける状態を先に作って伝える
• 「即戦力」を、1か月後・3か月後という時間軸に言語化してすり合わせる
• 周囲の人にも、なぜ入ってきて、いつ頃どのくらい活躍すると期待されているのかを共有する
よくある質問(Q&A)
Q1. 即戦力として採用した人が、思ったように動いてくれません。何から見直せばよいですか?
A. 本人の力量のみに期待するよりも先に、採用前のすり合わせを振り返ってみてください。「こういうことを期待している」という話が、どこまで具体的に伝えられていたか。とくにスタートアップでは採用直後が一番モチベーションの高い状態であることが多く、その段階で動いてくれないと感じるなら、入社前の前提が揃っていない可能性があります。即戦力だと思っていたのは採用した側だけ、ということも起こります。
Q2. 即戦力採用のオンボーディングでは、何をすればよいですか?
A. オンボーディングそのものが即戦力化のためのプログラムです。事業やMVVを言語化して伝えるだけでなく、本人が自分なりにどう理解したかをアウトプットしてもらうこと。業務についても、何をやればいいか、何に躓いたかを毎日確認し合うこと。あわせて、情報にアクセスできる状況を作ったうえで「わからないことは聞いてほしい」と先に伝えておくと、入る側と迎える側のマインドセットが揃いやすくなります。
Q3. 「即戦力」の期待値は、どう伝えればすり合いますか?
A. 明日からこのレベル、という漠然とした形ではなく、1か月後・3か月後にどういう状態を目指すのかを言葉にして、本人とも周囲のメンバーとも合意しておくことです。大企業のように年間の繁忙期が決まっている組織なら、年間スケジュールのイメージごと伝えると、なぜこの時期までにこれができてほしいのかが伝わりやすくなります。
▶ この記事のもとになった対話は、以下からお聴きいただけます。
「シンクリ!心理的安全性あふれるチームづくり相談所」は、株式会社ZENTech 金亨哲氏とPotage株式会社 河原あずさがお届けする番組です。心理的安全性に関する知見については、株式会社ZENTechのサイトもご覧ください。
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