「偽の心理的安全性」に要注意!チームの忖度が隠す本当の課題
- 河原あずさ(Potage代表)

- 2月19日
- 読了時間: 6分
更新日:18 時間前

記事の3行要約
心理的安全性が「ある」と即答するチームほど、実は忖度に支配された「偽の心理的安全性」に陥っている可能性があります。
声の大きい人への同調が瞬時に走る組織では、本音の対話が封じられ、マネジメントの課題が見えなくなっていきます。
EQをベースにした自己開示と率直な対話の積み重ねが、偽物を本物の心理的安全性へと変えていく鍵になります。
Potage株式会社代表取締役、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。
EQをベースとしたチームビルディングや組織開発の研修に立つと、いつも気になることがあります。「皆さんのチームには心理的安全性がありますか?」と問いかけたとき、受講生の多くが「うちはあると思います」と答えるのです。
ところが、その研修を依頼してくださった人事部門やマネジメント層の方々からは、「うちの組織は心理的安全性がなくて......」という声が聞こえてくるケースがあります。現場と経営層で、認識がまるで違う.....この不思議な現象に、僕は何度も出会ってきました。
今回は、この「心理的安全性のパラドックス」について、研修やチームビルディングの現場で見えてきたことをもとに、深掘りしてみたいと思います。
心理的安全性が「ある」と答えるチームほど危ない理由
心理的安全性という言葉は、ここ数年で一気に広まりました。人事やマネジメントに関わる方なら、一度は耳にしたことがあるでしょう。メンバーの方々も「心理的安全性がね.....」と口にする場面が増えてきたかもしれません。言葉が浸透すること自体は、とてもいいことだと思います。
ただ、僕がEQを軸にした研修の現場に立って実感するのは、この言葉が広がれば広がるほど、ある種の「誤解」もまた広がっているということです。
研修でグループワークをしていると、こんな場面に遭遇します。「心理的安全性、皆さんのチームにはありますか?」と聞くと、まず声の大きい方が口を開きます。「いやあ、うちはあるよね。僕なんか職場で言いたいこと言ってるもん」。すると、周りのメンバーがすっと空気を読んで、「そうですよね、うちのチームは心理的安全性高いですよね」と同調していくのです。
一見、和やかなやりとりに見えます。でも、僕はこの瞬間にいつも立ち止まるのです。これは本当に心理的安全性が高い状態なのだろうか、と。
忖度が生み出す「偽の心理的安全性」のメカニズム
ここで起きていることを、もう少し解像度を上げて見てみましょう。
声の大きい人が「心理的安全性がある」と宣言する。周囲はそれに対して、瞬時に忖度します。「いや、実は私はそう思わないんですけど」とは、言えないのです。言ったら場の空気が壊れるかもしれないし、その声の大きい人との関係にヒビが入るかもしれない。だから、本音を引っ込めて、表面的に同意してしまいます。
これは、心理的安全性の真逆です。
心理的安全性とは、何を発言しても自分が脅かされない状態のことを言います。つまり、「自分は本音ではこう思う」ということを、安心して口にできる環境です。もし本当に心理的安全性が高いチームであれば、誰かが「うちは心理的安全性がある」と言ったとき、「いや、でも前にこういうことがあって、私はちょっと課題があると思っていたんです」と率直に返せるはずなのです。
つまり、逆説的なのですが、心理的安全性がある種低い組織であればあるほど、「心理的安全性がある」と答える傾向が強いのです。僕はこれを「偽の心理的安全性」と呼んでいます。
そして、この現象は日本の組織において非常に多く見られるのではないかと思っています。心理的安全性という言葉が流行すればするほど、「なんとなくみんなで仲良くすればいい」「波風を立てないほうがいい」という方向に、むしろ引っ張られている組織さえあります。しかしそれは心理的安全性ではなく、単なる「表面的な穏やかさ」にすぎないのです。
マネジメント研修で見えてくる「本音と建前」の溝
僕がこの「偽の心理的安全性」を強く実感するのは、マネジメント研修の場面です。
研修を依頼してくださる人事部門の方々は、たいてい組織の課題をよく見ています。「うちの会社は、表面的にはうまくいっているように見えるけれど、本音で対話できていないんです」「会議では誰も反対意見を言わないんです」。そんな相談を受けてから研修に臨むわけですが、いざ現場の皆さんに聞くと「うちは心理的安全性が高い」と返ってきます。
この認識のギャップこそが、まさに「偽の心理的安全性」が存在していることの証拠なのだと思います。現場の皆さんは、自分たちが忖度をしていることに気づいていません。あるいは、気づいていても「それが普通だ」と思っています。だからこそ、外の視点が入ったときに初めて、その構造が浮かび上がってくるのです。
EQが「偽」を「本物」に変えるアプローチになる
では、この「偽の心理的安全性」をどう解きほぐしていけばいいのか。
僕が研修やチームビルディングの現場で大切にしているのが、EQ(感情知能指数)を使ったアプローチです。EQとは、自分や他者の感情を正しく認識し、それを適切にマネジメントする力のこと。心理的安全性を本当の意味で高めるためには、まず自分自身の感情に気づくことが出発点になります。
たとえば、「うちのチームは心理的安全性がある」と言われたとき、自分の中に小さな違和感がなかったかどうか。「本当はそう思っていないけど、ここで言うのは面倒だな」「反論したら場の空気が悪くなるかも」。そんな感情の揺れに気づけるかどうかが、偽の心理的安全性を見抜く最初のセンサーになります。
EQを軸にしたチームビルディングでは、この「自分の本当のところはどうなの?」という自己開示を丁寧に促していきます。いきなり「本音を言いましょう」と号令をかけても、人は本音を語れません。それこそ心理的安全性がないからです。だからこそ、小さな自己開示の積み重ねから始めます。自分の感情に丁寧に向き合い、それを少しずつ言葉にしていきます。そのプロセスの中で、チームの中に本当の意味での信頼関係が育まれていくのです。
あなたのチームの心理的安全性は「本物」ですか?
心理的安全性という概念は、正しく理解され実践されれば、チームを大きく変える力を持っています。ただ、言葉だけが先行して、中身が伴わないまま「うちは大丈夫」と思い込んでしまうことほど、怖いことはありません。
僕自身も日々のコミュニケーションの中で、無意識に忖度をしてしまうことがあります。「ここは本音を言うべきだったな」と後から振り返って気づく場面は、正直に言えば少なくありません。だからこそ、まずは自分自身の感情に正直になること、そしてEQを通じて客観的に自分の内面と向き合い続けることが、マネジメントの現場でも、日常のチームづくりにおいても大事なのだと感じています。
あなたのチームでは、メンバーが本音で語り合えていますか。誰かの一声に、無意識に空気を合わせてしまっていることはないでしょうか。もしほんの少しでも心当たりがあるなら、それは「偽の心理的安全性」に向き合うための、最初の一歩なのかもしれません。



